ストライクウィッチーズ カザフ戦記   作:mix_cat

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第二十二話 アクタウ派遣再び

「オラーシャ軍からアクタウ基地への応援要請が来ています。そこで再度アクタウ基地への派遣を行います。」

 そう説明する安藤大尉の視線が、清末と佐々木に向く。

「前回は児玉さんと中野さんに行ってもらいましたから、今回は清末さんと佐々木さんにお願いします。」

「了解しました。」

 佐々木は謹直そうな表情を作って答えるが、内心ではガッツポーズを固めている。先日初戦果を記録して以来、次の戦果を望む気持ちが大きく膨らんでいるのだ。中野の話ではアクタウ派遣の際には激しい戦いに巻き込まれたというから、戦果を挙げるチャンスには事欠かないだろう。しかし浮かれたところを見せたら清末にどやしつけられることは確実なので、重大な任務に緊張している風を装わなければならない。

 

「発進!」

 砂塵を蹴立てて滑走路を離れれば、すぐにカスピ海上空に出る。そういえばここに来てから、ずっと陸地上空ばかりを飛行していた。訓練では洋上飛行をみっちりとやらされていたことが思い出される。やはり海軍航空隊は洋上飛行が本業だ。水面に立つ波の様子から、風向、風力を読み取る訓練を繰り返した頃が懐かしい。今日のカスピ海は穏やかだ。南南西の風、風力2といったところか。

「佐々木、周囲の警戒を怠るなよ。」

 清末に言われてはっと気付く。南下すれば飛行型ネウロイの出没空域に入ってくる。これまで飛行型ネウロイはほぼ出現したことのない空域を飛んでいたので、ともすれば空への警戒がおざなりになっていなかったか。佐々木は気を引き締め直して、周囲の空に警戒の目を送る。

 

 幸いネウロイが出現することもなく、アクタウ基地の滑走路に滑り込んだ。ドスパノワ上級中尉がにこやかな表情で歩み寄ってくる。

「やあ、アクタウ基地にようこそ。歓迎するよ。長距離の飛行で疲れただろう。まずはゆっくりしてくれ。」

 そう言って二人を基地内に招じ入れる。

「わたしなんかでも歓迎してもらえるんですね。」

 佐々木は謙遜気味にそう言うが、人数の少ない小部隊としては当然だろう。

「そりゃそうだよ。ここは3人しかいないから、哨戒に出るのは1人が通常だし、ローテーション組むのも大変だからね。ほとんど休養日なんてないんじゃないかな。」

「あ、そうか。周囲を警戒する人が付いて来てくれるだけでも安心ですもんね。」

 まだまだ未熟な自分でも役に立つと思えば、佐々木も気分が良い。

 

「まずは腹ごしらえでもしてくれ。」

 ドスパノワ上級中尉は二人を食堂に案内する。二人が席に着くとすぐに料理が運ばれる。

「あ、ご飯だ。」

 嬉しそうに声を上げた佐々木の前には、赤く色付けされた肉や野菜の炒め物がご飯にかけられた料理が出されている。

「そう、扶桑人は米料理が好みと聞いたんでね。これはガンファンと言って、ピーマンや羊肉を炒めてトマト味に仕上げたものを米にかけたものだ。」

 ドスパノワ上級中尉の料理の説明に、清末が尋ねる。

「カザフではよくお米を食べるんですか?」

「いや、小麦が主だ。これも、小麦の麺に同じものをかけたラグマンという料理の方が一般的だな。でも米も普通に食べるぞ。代表的な米料理には肉やニンジンと油を入れた炊き込みご飯のプロフがある。」

 米料理が一般的とは親近感がわく。ガンファンという料理の名前が、なんとなく『ごはん』に似ているのも良い。それだけではなく、普通にお米を食べているのなら、お米を提供してもらうことも可能なのではないか。まあ、見たところお米とはいっても扶桑で一般的な単粒種ではないようなので、扶桑式に炊いて食べるのにはあまり向いていないかもしれないが。

 

 食事の後、一息ついたら明日からの打ち合わせで、ユーリアとナスチャも同席する。ユーリアとは清末と佐々木は初対面なのであいさつを交わす。中野から聞いてはいたが、はっとするほど綺麗な子だと、佐々木はつい見とれてしまう。しかし、見とれている場合ではない。

「我々の任務はカスピ海上空を哨戒して、カスピ海を航行する船舶を護衛することだ。扶桑隊には一緒に飛んで哨戒の手助けをしてもらうことと、狙撃中の隊員を護衛してもらうことをお願いしたい。」

 佐々木でも務まりそうな任務だ。一方であくまでオラーシャ隊の隊員が任務の中心で、扶桑隊はサポート役を担うことから、戦果を挙げることはあまり期待できない。

「明日はナスチャが出てくれ。」

「それじゃあこちらは佐々木軍曹を出しますね。」

 ドスパノワ上級中尉と清末との簡単な話し合いで明日のメンバーが決まっていく。いざ自分が指名されてみると、務まりそうな任務だとは思っていても、佐々木は緊張を禁じ得ない。

 

 

 そして翌日、ナスチャ・モルダグロバ軍曹と、佐々木津祢子軍曹の軍曹ペアの出撃だ。同じ階級同士でお互いに気が楽だ。しかもモルダグロバがアティラウに派遣されたとき、モルダグロバと佐々木は一緒に出撃したことがあるからなおさらだ。敵さえ出なければ、気楽な哨戒任務になることだろう。周囲を見回しながら、佐々木が尋ねる。

「モルダグロバさんは、隠れているネウロイも発見できるって、前にアティラウに来た時に言ってたけど、やっぱりその能力でネウロイを発見するの?」

「ううん、空には隠れる所がないから、特に役に立たないわ。そうね、雲の中にいるのが見えることがある程度かしら。」

「ああそうなんだ。でもそれって見逃しにくいってことだよね。」

「うん、まあそうなんだけど・・・。でも私は陸地の任務の方が良いな。」

「そう? なんかこう、空中戦ってスマートって言うか、格好いい感じがする。」

「そうかなあ、空中戦って外したり、逃がしたりしやすいから、あんまり好きじゃないわよ。地上型は確実に仕留められるから、そっちの方が良いよ。」

 戦いの難易度を意識するモルダグロバと、見た目の雰囲気にとらわれる佐々木。やっぱり佐々木はまだまだ勉強が必要だ。

 

「あっ、ネウロイ!」

 自信はないが、確かに空中を何かが動いている。こんなところに出現するのはネウロイに決まっている。そう思った佐々木にモルダグロバも同意する。

「うん、ネウロイだね。」

 モルダグロバは対装甲ライフルを構えつつ、ネウロイの方角に向かう。近付くにつれてネウロイの様子がよく見えてくる。凡そ前後に長い三角形のような形状だが、各辺が曲線を描く三角形だ。先の尖った爪のような形、といった例えが近いだろうか。それが海上を東に向かって飛んでくる。恐らく輸送船を狙っているのだろう。そうはさせられない。モルダグロバがガチャリと音を立てて槓桿を引いた。モルダグロバが射撃に意識を取られている今が一番危ないタイミングだと、佐々木は周囲をくまなく見回す。幸い他に敵は見当たらない。モルダグロバが引き金を引く。発砲音を響かせて飛び出した銃弾は、鋭く空間を切り裂いて飛翔すると、ネウロイの装甲を突き破って反対側まで貫通する。次の瞬間、甲高い音を立ててネウロイは砕け散り、きらきらと輝く小片を辺りにまき散らす。輝く小片は広がりながら海面に向かって尾を引くように落ちていく。なんだか柳の枝が風に揺れているようだ。

「ナスチャさん、お見事ですね。」

 嬉しさのあまり、無意識に名前呼びになっている。

「ううん、そんな自慢するほどのものじゃないわ。」

 モルダグロバは謙遜するが、佐々木からすれば眩しい思いだ。そして、仲間が撃墜するのを見ているのは、それはそれで心躍る思いのするものだ。その一方で、モルダグロバの撃墜シーンを見て、改めて思う、自分も早く撃墜したいと。果たしてそのチャンスは、そう遠くないうちに佐々木に巡ってくるのだろうか。


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