ストライクウィッチーズ カザフ戦記   作:mix_cat

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第二十三話 コーカサス戦線再び

「行ってらっしゃい。」

 アクタウ基地の滑走路脇で佐々木が手を振る。今日の哨戒はユーリア・シャーニナ上級軍曹と清末曹長のペアだ。清末は小さく手を振り返すと滑走路を離れて舞い上がる。今日の空の雲は少なく、見通しは良く、哨戒日和と言って良いだろう。まあ、こういう哨戒には条件の良い日に限って空振りだったりするのだが。

 

 出撃を見送ればこれと言ってやることもない。部隊ごとに訓練などのやり方は違うから、手が空いているから基地に残っているモルダグロバと一緒に模擬空戦でもやろうか、というわけにはいかない。日々過酷な訓練が繰り返される普段のアティラウ基地勤務とは別世界で、なんだかのんびりしてくる。上の瞼がじんわりと重くなってきて・・・、いや、待機中だから居眠りをするのはまずい。

 

 突然甲高いサイレンが鳴り渡った。

「手の空いているウィッチは作戦室に集合!」

 叫ぶような調子で伝達しながら、伝令が足音も高らかに廊下を走っていく。これはただ事ではない。廊下に飛び出すとモルダグロバも出てきたところだ。

「ナスチャさん、一体何なんですか?」

 佐々木は問いかけるが、ナスチャも何が起きたのかはわからないようだ。

「わからない、とにかく急ごう。」

 二人は作戦室へと急ぐ。

 

 作戦室に飛び込むと、間髪入れずにドスパノワ上級中尉の命令が迎える。

「全機発進!」

「了解!」

 二人は踵を返すと、飛び込んだその足で格納庫へと飛び出して行く。ドスパノワ上級中尉が格納庫に向かいながら状況を説明する。

「ネウロイの襲撃だ。カスピ海対岸のマハチカラ付近にネウロイが襲撃を仕掛けてきている。505部隊は250㎞ほど西方のブラジカフカス付近に襲撃してきたネウロイの集団を迎撃中で、戻って来るのには時間がかかる。それまで我々が防ぐぞ。」

「はい! 了解しました!」

 ブラジカフカスは、コーカサス山脈を越える街道の、北の入り口を扼する重要な位置にある。一方マハチカラは、カスピ海沿いの低地を守る重要な拠点だ。その両方に同時に攻勢を仕掛けてきたのなら、これは乾坤一擲の大攻勢かもしれない。そんな思いを巡らすうちに、格納庫は目の前だ。次々と格納庫に駆け込んだ後には魔法力の淡い光が灯り、間髪を入れずに魔導エンジンがうなりを上げる。

「続け! 発進!」

 ドスパノワ上級中尉の雄々しい声が格納庫に反響すれば、ウィッチたちは矢のように飛び出して行く。上昇しながら緊密な編隊を組むと、2か国の合同部隊とは思えないような綺麗な隊形のまま西を目指す。

 

 哨戒を途中で打ち切ったシャーニナと清末が合流してくると、戦場は近い。前方に横たわる大陸の一角から黒煙が上がっているのが見える。

「地上部隊も良く防いでいるようだな。」

 ドスパノワ上級中尉がつぶやくように言う。防衛線が突破されてネウロイの侵攻を許せば、それだけ被害を受ける地域が広がって、炎上する町や施設が広範に及ぶことになるから、それだけ黒煙も広範に広がることになる。まだそうなっていないということは、地上部隊がネウロイの侵攻を許していないということだ。

 

「ユーリアとナスチャは地上型ネウロイを狙撃しろ。ハルエとツネコは飛行型ネウロイを撃退しろ。主力が到着するまで戦線を守り切れ。」

 ドスパノワ上級中尉は簡潔に命令すると、それぞれ攻撃態勢を取ろうとする部下たちを尻目に、さっとダイブに入る。飛行型ネウロイからのビームが交錯するが、それをものともせずに降下すると、左右のユニットに装着した爆弾を投下する。2発の爆弾は相次いで炸裂し、それぞれに地上型ネウロイを砕けさせる。ビームの隙間を縫うように戻ってきたドスパノワ上級中尉は、機銃を構えながら憎々しげに言葉を吐く。

「ちっ、これだけ数がいると爆弾じゃあはかがいかないな。」

 爆弾は威力があるので確実にネウロイを破壊できるが、携行できる数はせいぜい2発なので、今回のようにネウロイが多数出てきた場合にはすぐに使い果たしてしまう。後はユーリアとナスチャの狙撃に期待する他はない。

 

 続いて、ユーリアとナスチャが狙撃を始める。今しも陣地に襲い掛かろうとしていた地上型ネウロイが、狙撃に貫通されて片脚を振り上げたままで砕け散る。ビームを放とうとしていた地上型ネウロイが、コアを撃ち砕かれて四散する。脚を撃ち折られたネウロイが横転して盛大に土煙を上げる。ドスパノワ上級中尉の爆撃に続く狙撃の連射で、地上部隊の陣地を踏み破る直前で、地上型ネウロイの一団の侵攻を食い止めた。

 

「佐々木、私たちも行くよ。」

「はい!」

 ぐっと加速して飛び出した清末を追って、佐々木も加速する。

「佐々木。とにかくついてくることを第一優先にして。それから周囲の、特に後方の見張り、その次にわたしが撃ったら佐々木も撃つ。いいか、この優先順位を間違えないようにしろよ。」

「はい! 了解しました!」

 佐々木が答えるや否や、清末が急角度で右旋回に入る。佐々木が追いすがりながら旋回する先を見ると、1機の飛行型ネウロイが一直線に飛んでいる。向かう先は、地上型ネウロイを狙撃しているナスチャだ。これは是が非でも落とさなければならない。飛行型ネウロイにぐんぐん肉薄し、ネウロイを正面の捉えた、と思った瞬間清末の機銃が火を噴く。あっと思った次の瞬間、清末はぐっと体を傾けて左旋回に入る。佐々木は、落とすとか当てるとか以前に、引き金を引く暇もなかったことが衝撃だ。空中戦はまさに一瞬の勝負だ。後ろでネウロイの砕け散る、甲高い音が聞こえた。

 

 マハチカラ上空に至れば多数の飛行型ネウロイが縦横に乱舞している。佐々木は目標を定められずに目をきょろきょろさせているが、さすが清末は慣れたものだ。ネウロイの背後を取り、鼻先を押さえ、死角を捉えて次々とネウロイに銃撃を浴びせかける。後を追う佐々木は悔しいが引き金を引くタイミングをつかめない。個々の運動の狙いがつかめていないため、突然ネウロイが目の前に現れる形となり、狙う暇もなく次の機動へ移らなければならない。このままでは、周囲には目標が溢れているのに、結局戦果ゼロで終わることになりかねない。とにかく先を見て次の動作に備えなければと、佐々木は旋回しながら思い切り首をひねってその先を見る。

「しめた。」

 佐々木は小さく呟きながらほくそ笑む。首をひねって見た先には、ネウロイの2機編隊がいた。これなら、清末が1番気を落としている間に、2番気を攻撃することができる。このチャンスに是非とも戦果を記録したい。

 

 少しでも早くネウロイに照準を合わせられるよう、予め機銃を構えて照準器をのぞき込んでいた、その照準器にネウロイが入った。すかさず引き金を引くと、銃口から飛び出した曳光弾の光の軌跡が、ネウロイに向かって真っすぐに進んだかと思うとすっとそれる。引き金を引くのが早過ぎた。まだ旋回を終わらないうちに引き金を引いたから、機銃弾が流れるのだ。今度こそ、と念じて再び引き金を引く。曳光弾の軌跡がネウロイの上部装甲へと突き刺さる。ぱっ、ぱっ、と装甲の破片が飛び散るのが見える。当たれ! 当たれ! 砕け散れ! そう念じながら引き金を力一杯引き絞る。装甲が砕けた下からコアの赤い光が不気味に光ったかと思うと、続く機銃弾がコアに命中しネウロイは一息に砕け散った。

「やった、初撃墜だ!」

 きらきらと光を反射しながら広がる破片の中を、曳光弾の軌跡が貫いて行く。破壊した後で撃った分は完全に無駄弾だが、何しろ初撃墜なのだからそれは仕方がないだろう。次はもう少しうまくできれば良い。

 

「佐々木! 回避しろ!」

 突然インカムから清末の怒鳴り声が響く。ぎょっとして見回せば、指呼の間にネウロイが迫っている。咄嗟にシールドを展開すれば、直後に強い衝撃とともにビームがシールドを打つ。

「馬鹿、なんでついてこないんだ。」

 佐々木のなじる声が胸に刺さる。目の前のネウロイを撃墜することに夢中になって、清末の後を追うことも、周囲を監視することも、直線的な飛行は最小限に止めることも、全ておろそかになっていた。

 

 ガンッ、とハンマーで殴られたような衝撃を右足に受けて、足が弾き飛ばされた。足が折れるか、千切れるかという程の衝撃で、もう姿勢はめちゃくちゃだ。右のストライカーユニットに被弾したようだ。ぐるぐると振り回されながら落ちていく。火災は・・・、うまく装甲板に当たったようで、ストライカーユニットは火を噴いてはいない。だがもちろん、ユニットは大きくひしゃげて漏れた潤滑油が飛び散り、最早うんともすんとも言わずにただ落ちていくだけだ。高い高度から見れば緑の絨毯のように見えてふわりと受け止めてくれそうにも思えた地表も、落ちてみれば太い枝を広げた木々の連なりだ。バキバキと音を立てて折れる木の枝が次々に体を強打する。最後に一段と強い衝撃を受けて、佐々木は意識を失った。耳元で響いているはずのインカム越しの清末の叫び声が、はるか遠くで鳴っている音のように遠ざかっていく。

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