【未完・移行予定】 紅魔の崩壊記 〜the Oldest sister of Scarlet Devil   作:平熱クラブ

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10日ぶりです………
何とか更新頻度を上げていきたいところですね…

因みに、本作のフランちゃんは「反則探偵」のような冷静なキャラで書けたらなぁと思います。





第12話 父を追って

 

 

 

 

 

「参ったな………」

 

 立ち塞がる真っ赤なガラスのような結界を前にして、私は立ち尽くしていた。

 この結界は私やレミリア、フランが地上階へ上がるのを防ぐ為に張られたものだ。恐らく、過去に私が伯父と接触したことが原因だと思われるが、地下への監禁を決めた両親の真意は未だに分からない。

 

 そもそも伯父と両親の間に何があったのだろうか……? 

 

 最後に彼と会ってから、10年以上の月日が経っても答えは出ない。だが、少なくとも現状のままでは地下(ここ)から出られないことは分かっている。

 数時間前、父は姿を消した。

 曰く、人間が紅魔館(ここ)を攻める前に街を陥落させて来るとのこと。

 しかし、私はその言葉を信用していなかった。

 

『人間が悪魔を破ることもあると……?』

 

 いつだったか、私が人間の街の歴史書を読んだ時に零した感想。父の言葉を受け、真っ先に浮かんだのは「人間側にも悪魔を簡単に葬り去る程の力を持った者がいる」ということだ。

 

 悪魔の力は絶対ではない。

 

 彼を信用しなかった理由はそこにある。

 自分の力が及ばない人間がいることを知り、紅魔館に残った私達をエサにして自分だけ逃げたのだと私は睨んでいた。

 強大な力を誇った吸血鬼として名を馳せた彼に匹敵する人間がいるとは考えにくいところだが、今の彼に現役の頃のような力が残っていないとしたら、その可能性もゼロではなくなる。

 私自身、今の彼に全盛期の頃の力があるとは思えない。

 フランの力を恐れ、母上諸共殺そうとした男のことだ。今更彼の言葉を信用することなど、出来なかった。

 先ずは、彼を追わねば。

 その為には、目の前の結界を壊さねばならないのだが──

 

「…………」

 

 この結界には、あまり良い思い出がない。

 興味本位で触れたことがあったのだが、2日ほどは腕が使い物にならなくなり、1週間は(しび)れが残った。

 その時のお返しの意味も込めてこの結界を壊してやりたいところだが、それが出来る保証はない。仮に壊せたとしても、重傷を負ってしまうのは免れないだろう。

 その状態で外に出て、無事でいられるとは思えない。

 しかし、このままボーッとしてるわけにもいかない。自力で壊すしかないのだ。

 

「………やるしかないか」

 

 スーっと息を吸って、覚悟を決めたように呼吸を止める。

 右手に魔力を集中し、緑の輝きを放つその光を剣の形に練り上げた。半身(はんみ)の体勢で左手を前方に(かざ)し、右手に持った剣の切っ先を結界に向けたまま、腕を後方に引く。

 右脚に体重を掛け、その膝のバネに溜まった力を利用し、前方に突進を仕掛けようとした時だった。

 

「ハイ、ストップ」

 

 背後から聴こえてきた声に、私は動きを止めた。振り返ると、其処にはフランドールの姿があった。

 

「こんなところで騒音なんか出されたら、クレームが来ちゃうわね。出すのは私だけど。結界(アレ)を壊すおつもりで?」

「………さっき話した通りだ」

 

 こちらをからかうような口調で話し掛けながら、サイドテールに束ねた髪を揺らして近づいて来る。それに合わせるように、背中の羽の宝石も左右に揺れた。

 薄暗い通路でギラギラとした光を放つソレが、実に不気味だった。

 

「ふーん、外に出たいんだ」

 

 そうぼやきながら、私の側を通り過ぎていく。私は少し警戒するように、彼女の姿を目で追いかける。

 

「けど、自分の意志で出ることは叶わない。差し詰め、フィル姉さまは囚われの鳥ってとこね………」

 

 フランは、結界に向かって静かに右手を伸ばした。そして、開いた手の平から魔力でも放つのかと思えば、ソッと音もなく拳を握った。

 

「なッ………!?」

 

 ガラスが粉々に砕け散る音が辺りに響いたのは、その時だった。フランが拳を握った瞬間に、目の前の結界は跡形も無く崩壊したのだ。

 一瞬でバラバラになったガラスのような結界は、無数の破片へと姿を変えて宙を舞い、光の粒子へと消えていく。

 最初は何が起きたのか、分からなかった。

 だが、砕け散った結界の破片が宙に舞う中、静かに口角を吊り上げる彼女を見て確信した。

 この現象は、フランが引き起こしたのだ。

 

「い、一体何を………」

 

 驚きのあまり、私は声を震わせた。

 すると、フランは得意気な笑みを浮かべながら、ソッと手の平をこちらに向けてきた。

 

「………!」

 

 その光景に、私は反射的に後退る。

 喉元に凶器を突き立てられたかのような恐怖が、悪寒となって背筋を走った。

 一瞬のうちに、身体中を大量の冷や汗が流れていく。

 

「きゅっとして──」

 

 先程、木っ端微塵に散った結界の光景が脳裏をよぎる。それに自分の姿を重ね合わせてしまい、私は壁に背をついたまま動けなくなった。

 迫る恐怖に耐えるように顔を背け、私が強く目を瞑った時だった。

 

「ドカーン」

 

 その言葉が合図であったかのように、耳のすぐ(そば)で布が破裂したかのような音が響いた。

 

「…………?」

 

 自分の安全を確認するように、ゆっくりと目を開く。視界には、未だに唇の端を吊り上げたフランの姿が映る。

 特に痛み等は感じない。

 いまの音は何だったのだろうか? 

 そう思っていると、ナイトキャップの被り具合に違和感を覚えた。咄嗟に頭から外してみると、帽子の大部分の布が自ら弾け飛んだかのように破れていた。

 

「コレは………」

「どう? コレで分かった?」

 

 クスクスと笑いながら、フランは私の方を見上げていた。

 

「思わずビビっちゃうお姉さまは、かわいいわね」

「………… 一体、何をやったんだ?」

 

 少しずつ湧き立ってきた苛立ちを隠さずに、改めて問い質した。それでも、からかうような笑みを止めることなくフランは私の質問に答えてみせた。

 

「簡単よ。物体の1番弱いところを潰してやった。こう……きゅっとして、ドカーンとね」

「…………」

 

 拳を握るような動作を付けて説明したが、やっぱり分からない。

 いや、フランの言動が理解出来ないのは普段からか。

 彼女の一つ一つの発言の意図が読み辛く、その真意を掴めたことがない。尤も、そうやって困惑する私の姿を、彼女は楽しんでいるようにも思えるのだが………

 

「私はね……居心地が良いと感じてるから地下(ここ)にいるのであって、決して外部の意思によるものじゃない」

「…………」

「ま、私はカゴから出られない鳥とは違うって言いたかっただけ。それより、早く行かなくていいの? 見た感じ、急いでるようだったけど」

「あ、あぁ………そうだったな」

 

 私はしばらく、当初の目的を忘れてしまっていた。

 もし、自力で結界を壊そうとしていたら、あとどれだけの時間を必要としただろうか……? ここでフランが作ってくれた時間のアドバンテージを無駄にするわけにはいかない。

 いまならまだ、父に追い付けるかもしれない。

 そう考えて、脚を踏み出そうとした瞬間にあることを思い出した。

 フランに忠告をしなければ。

 

「この帽子は置いていくが………他人に損害を与えた場合はどうするべきだと、私は教えた?」

「さあ、どうだっけ?」

 

 シラを切るように、フランは目を背けた。

 やはり、私をからかうのが大好きなようだ。いずれ、姉としてお灸を据えてやらねばならないだろう。

 そう考えていた時に、別の声が聴こえてきた。

 

「その損害を与えた者が補償を行う………覚えておきなさい、フラン」

「あ、さっきからコッチ覗いてた人だ」

 

 廊下の曲がり角からスッと姿を現したのは、レミリアだった。

 

「気付いてたのね」

「うん、私にビビってただけかと思ってたけど」

「あら? そろそろ、お姉さまの機嫌が悪くなってることに1番びびってるのは貴女じゃなくて?」

「………そうね、ごめんなさい」

「よく出来ました」

 

 レミリアはそう言うと、フランの眉間を指で弾いた。

「あいた」と声を上げる彼女の様子に、レミリアは穏やかな笑みがこぼれていた。

 フランも一応、私の機嫌が悪くなってることには気付いていたようだ。そう思うと、何故だか怒る気もなくなる。

 一方で、フランのペースに呑まれることなく巻き返してみせたレミリアに少し驚いていた。

 

「止めたって、どうせ行くのでしょう?」

「あぁ、そのつもりだ………」

 

 私に向き直った途端に、レミリアは真剣な表情に切り替えた。

 

「なら、紅魔館(ここ)の防衛は任せて。大丈夫、危ない時は2人で逃げるから」

「分かった。私もそこまで深追いはしないつもりだ。お互い、無理はないようにしよう」

 

 ジッと、相手の眼差しを見つめ合う。

 お互いに、嘘は吐いていないことを確認する為だ。しばしの沈黙が続いた後、レミリアは安心したように声を漏らした。

 

「そうね、それが一番いいわ。ついでに、この帽子は私が縫い合わせておくから。どうせ、フランには出来ないし」

「壊すのは得意なんだけどね」

「創るのも得意になれば、色々と便利よ」

 

 レミリアのアドバイスに、フランは拗ねたように頰を膨らませる。その様子に、レミリアはまた穏やかな笑みを零すのだった。

 

「じゃあ………気をつけてね」

「………行ってくる」

 

 そう言って、私は紅魔館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 満月の光が雲を射抜き、地上に降り注ぐ頃。

 私は紅魔館から最も近いところにある人間の街に向かって、空を飛んでいた。

 

 南方に位置する、トールガーデンという名の街。

 

 表向きは人間の市場が広がるという何の変哲も無い街だが、裏では国王への反逆を企てる魔導師団の組織が支配しているという噂のある街だ。

 父の言う、「紅魔館への襲撃を企てる街」はトールガーデンである可能性が高い。魔法を扱える人間なら、吸血鬼を殺すことは十二分に可能だからだ。

 その街に潜む「魔導師団」とやらは、その類の人間の集団であると考えていいだろう。その組織の総力が相手となるなら、こちらもタダでは済まない。

 

「………こんなに離れた街だったのか?」

 

 独り言を呟いてみるも、実際にその街に行ったことがあるわけではないので事実は分からない。

 そして、父を追うという名目でその街に向かっている私だが、実際は何処にもいるのかも分からない。そこに父がいる可能性があるという理由で向かっているだけだ。

 仮に、私達を人間のエサにして自分だけ逃げたとすれば、トールガーデンに父がいるとは考えにくい。逃げることが目的なのに、わざわざ追っ手の本拠地に向かうだろうか? 

 

 しかし、その可能性はゼロではない。

 

 自分の娘達を人間側に売る為に、交渉に行っている可能性もあるからだ。自らの保身と引き換えにエサを差し出すのであれば、自分だけ逃げるという目的においては、ある意味確実な方法だ。

 

 

 そして、コレは最も可能性の低い理由だが、父の言うことが本当であった場合──

 

 紅魔館が攻められる前に人間の街を陥落させるという狙いを実行しているかどうかの確認を取るという意味でも、私はトールガーデンに向かっているのだ。

 

 しかし──

 

「コレは………」

 

 しばらく飛んでいるうちに、霧が段々と濃くなってきていた。上空からの視界はかなり悪く、このままでは目的地を見過ごして通り過ぎてしまう可能性が高い。

 

「仕方ない……」

 

 私は地上から街に向かうことにした。

 先ずは、魔力を調整して高度を下げる。下方向からの風を強く受け、地上を広く映していた視界が徐々に狭まっていく。髪が上に(なび)く中、右脚の爪先を伸ばして着地の体勢をとる。

 ストンッと重さが身体にのし掛かる感覚を覚え、地上に降り立ったことを実感する。

 右、左と辺りを見渡してみるが、辺り一面霧が広がっていた。それでも、木の影などは辛うじて見える。上空から見下ろして探すよりは幾分か、マシかと思われた。

 

「…………」

 

 私は無言のまま、霧に包まれた広大な草原の中を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

 歩いている間、何も見かけることはなかった。しかし1時間と経たないうちに、目の前にあるものを捉えていた。

 

「ここか………」

 

 2〜3mほどの高さの柱が二つ立っており、その間に架かるようにアーチ状の看板が待ち構えていた。

 

【Welcome to TALL GARDEN】

 "トールガーデンへ、ようこそ "

 

 ここは街へと続く門なのだろう。

 しかし、不可解なことに立ち入り検査を行う役人などの姿は見当たらなかった。何処の街にも、外敵を追い払う為の門番の役割を担う人間が配置されているものと思っていたのだが。

 

「誰もいないのか……?」

 

 更に、門の奥へと続く道にも人影は一切見られない。門兵がいないのは兎も角、一般の人間が1人もいないというのは不自然に思える。

 夜には(あやかし)の類が跋扈することを警戒して、表に姿を現さないだけなのかもしれないが、気配すらも一切感じられないということがあるだろうか? 

 道の周囲に並ぶレンガ造りの建物からは、一筋も明かりが漏れていない。言うなれば、廃墟の街がそこに広がっていた。

 

「…………」

 

 本当に、父の言う街はここなのだろうか? 

 そもそも、彼はここにいるのだろうか? 

 

 しばらく立ち尽くしたまま考え込んでいたが、調べてみなければ分からないと結論を立て、薄暗い霧に包まれた街の中に脚を踏み入れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所々(こけ)()したレンガで舗装された道を歩いていくが、人影は全く見当たらない。

 壁に巨大なヒビが入り、老朽化した建物。

 割れたガラスの破片が飛び散る、木造の民家。

 まるで、街そのものの時間が止まってしまったかのような空間が広がっていた。

 人間どころか、虫1匹の気配すら感じられない。

 辺りに立ち込める静けさと霧が、不気味さを一層醸し出していた。複雑に入り組んだ迷路のような道も、それに拍車をかける。

 

 ──そもそも此処は、ホントにトールガーデンなのか……? 

 

 トールガーデンは、各地の商人が集まる豊かな市場を持った街だと聞いていた。そんな街が、一切の生き物の気配が感じ取れない程に静まり返っているとは到底考えにくい。

 父が先に街を陥落させた可能性も考えた。

 だが、戦いの爪跡を全く残さずにそんなことが果たせるだろうか?

 人間の死体は勿論、街が破壊されたような痕跡は何処にも見当たらない。

 

 ──コレは何か、裏がありそうだな………

 

 考え事をしているうちに、私は広場のような場所に着いていた。円形のスペースが大きく広がり、その中心に一本の柱が立っていた。

 そのスペースを囲むように、レンガ造りの建物が幾つも並ぶ。

 相変わらず、人間の気配は感じ取れない。

 私は何か目的があったわけでもなく、広場の中央にそびえ立つ柱にフラフラと歩み寄っていた。

 広場の端から中心までは数十メートルもの距離があったが、特に気にすることなく距離を縮めていく。

 その一本の柱には、何かの文字が刻まれていた。

 

(なんじ)、罪を犯す時………?」

 

 聖書か何かの一文の引用だろうか? 

 何かに注意するわけでもなく、柱にソッと触れた時だった。

 

「ッ………!!」

 

 耳をつんざくような鐘の音が鳴り響き、思わず両耳を手で押さえる。それでも尚、頭の中にまで響く鐘の音は脳を揺らし続けた。

 鳴り止む様子は一切無い。

 

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 ゴォォォン……

 

 

 どれだけの時間が経ったかは分からない。

 あまりにも耳障りなこの音を消す為、鐘そのものを破壊しようと視界を左右に往復させていると、私はあることに気付いた。

 

 ──月が………

 

 いや、月だけではない。宵闇の空が、血を塗りたくったかのような紅に染まっていた。どす黒い雲が空に浮かび、そのコントラストを大きく目立たせる。

 私が空に気を取られているうちに、鐘の音は鳴り止んでいた。しかし、今度は別の音がそこら中から響いてくる。

 何かを引きずっているような──

 石と鉄が擦れ合っているような音が、其処彼処から耳に届く。

 

「…………」

 

 私が周囲を警戒して見渡していると、広場からあらゆる方向に伸びる路上に幾多もの影が佇んでいるのが見えた。

 右、左、前、後ろ……

 広場から伸びる全ての路上が、大量の影で埋め尽くされていた。

 そのシルエットが遠近感覚上、少しずつ大きくなっていくうちに、その姿を露わにし始めた。

 

 ──アレは………

 

 人間………それとは少し違う。

 漆黒のローブに包まれた2メートルほどの巨大な体躯。己の背丈を上回る大きさの血濡れた斧。

 そして、頭部がなかった。

 首の断面からは湧き水のように血が溢れ出し、その血が地面を濡らして、その脚が辿った軌跡を(えが)き出す。

 本来頭部があった場所には、赤茶色の血と錆で汚れた十字架が首の断面に突き刺さっている。

 気付けば、私はその怪物に包囲されていた。

 まだ距離はあるものの、全ての方向が怪物の壁で塞がれている。

 

「やるしかないか…………」

 

 顳顬(こめかみ)を冷たい汗が流れていくのを肌で感じ取りながら、私は魔力で生成した剣を構えていた。

 

 

 

 

 

 




『みかてー』様から頂きました!


【挿絵表示】


素敵なイラストをありがとうございます!
前回がお正月フランだったので、今回はお正月レミリアを載せさせて頂きました。
姉妹揃って、お正月姿は似合いますね。
こちらも去年のお正月に頂いたイラストだったと思います。


あとちょっとで、第1章は終わりです……


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