【未完・移行予定】 紅魔の崩壊記 〜the Oldest sister of Scarlet Devil   作:平熱クラブ

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三件も感想を頂いたのに、ちょっと間を空けてしまいました……申し訳ありません!



第16話 吸血鬼講座 ※

 

 

 縁がぼやけた月の浮かぶ夜空に、何処からか獣の遠吠えが鳴り響く頃。風でざわめく木々の不気味な音は、街にも届いていた。

 

「準備はいいな?」

 

 そう尋ねる私に、レミリアとフランの二人は静かに頷く。それを確認した私は、いま立っている屋根から眼下に見える人間をターゲットに定めた。

 こちらに気付く気配はなく、スタスタと歩いている。

 

「…………」

 

 後ろ髪の長さからして、成人女性だろうか。

 だとすれば、その血は吸血鬼にとって御馳走とも言えよう。

 

 ──今だ………

 

 丁度私達の真下を通り掛かったあたりで、私は屋根から路地に飛び降りた。音を立てないように着地する寸前で宙に浮かび、背後から左腕を素早く首に回して軽く締め上げる。

 

「ヒッ………!」

 

 その女が今にも悲鳴を上げそうなほど喉を震わせたので、私は締め付ける腕の力を少し強くする。

 喉元に強い力が加わったことで、その女は抵抗するのをやめた。ここで叫べば、すぐにでも殺されてしまうと考えたのだろう。

 

 賢明な判断だ。

 

 私は腕の力を緩めないまま、その女の耳元で囁くように呟いた。

 

「………そう狼狽(うろたえ)るな。少しばかり血を頂くだけだ」

「え…………」

 

 その疑問の声に答えることなく、私は彼女の首に牙を食い込ませた。一瞬だけ身体がビクッと震え、その直後の小刻みに震える様子が伝わってくる。

 牙の先端を少しずつ埋め込んでいき、首に回していた手を肩に回す。

 そして、破れた皮膚から染み出る血を上手く吸ってやる。口内に染み渡っていく鉄分の味が、私に充足感をもたらしていく。

 

「あッ…あッ………」

 

 吸血鬼に血を吸われた人間は性的な快楽を覚えると言われるが、その女も例に漏れず少しばかり官能的な声をか細く上げる。

 私は特に気にすることなく、吸血を続けた。

 そして徐々に身体から力が抜けていき、私がそれを支える形になる。そろそろ意識を失った頃だろうか。

 私はこの辺りで牙を首から離し、気を失った彼女を民家の壁にもたれかけさせる。

 手の甲で口元を拭ってみると、僅かに血痕が付着していた。完璧には吸い切れてなかったらしい。だが、吸血の仕方としては大方合格のラインではあるだろう。

 上を見上げると、レミリアとフランの二人がこちらを見下ろしていた。

 私は、二人の為に吸血鬼としての血の吸い方を実践していたのだ。幾ら戦う為の力を身に付けたとしても、気品が保たれていなければ吸血鬼失格だ。

 吸血もまた、乱雑に行われていいものではなかった。

 人間をも魅了する快楽と共に、新鮮な生き血を気品良く味わうこと。それが吸血行為における吸血鬼のマナーだった。

 食事の時に食べ物を食い散らかしてはいけないのと同じで、大量の血飛沫が舞うような吸血行為は褒められたものではない。

 そしてこの際、吸血の量を加減して人間を殺さないようにすることが望ましい。

 敢えて人間を生かしておくことで、獲物の数が減るのを防げるからである。

 戦いとあれば、人間だろうが容赦なく相手を殺さなければならない。しかし、コチラが一方的に吸血を行う際は殺さないでおかねばならないのである。

 いまの私のやり方を見ていた二人なら、ちゃんと吸血の仕方も覚えられただろう。

 いまの私のやり方が、彼女らにとって良い手本になったことを祈りつつ、私は2人のいる屋根に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「う〜ん………血が上手く吸えないわね」

「………不合格」

 

 どうやら、私の手本はあまり役に立たなかったらしい。レミリアが吸血に挑戦したところ、口の両端から垂れた鮮血が胸元のスカーフや布地を染めてしまっている。

 おまけに他の人間にも見つかってしまった。

 ターゲットに選んだ人間に襲い掛かっところでゴタゴタしてしまい、その物音に気付いた人間に姿を見られてしまったようだ。

 一先ず、私がその人間の首を手刀で叩いて気絶させることで騒ぎを静めたが、増援を呼ばれでもしたら厄介なことになるところだった………。

 結局、『少々荒々しい吸血』と『血が上手く吸えてないこと』によりレミリアは不合格とした。

 

「レミリア姉さま、今度私が食事のマナーを教えてあげる」

 

 血で汚れたレミリアを馬鹿にするようにフランが笑い掛けた。当然、レミリアはストレートな反応を示す。

 

「結構よ。それに、貴女が私に教えられるほど吸血が上手いとも思えないけど?」

「少なくとも、レミリア姉さまよりマシよ」

 

 互いに額をくっつけ、こめかみに青筋を浮かべたまま二人は笑みを浮かべながら煽り合戦を繰り広げ出した。

 

「待て待て。ここでまた騒ぎを起こすんじゃない」

 

 だが、私はすかさず仲裁に入る。

 二人を力づくで引き離し、喧嘩を強制的に終了させる。エサを横取りされた犬のように牙を剥き出しにして唸るレミリアと、それを嘲るような笑みを浮かべるフラン。

 本当に不仲というわけではないのだろうが、この二人がお互いを気遣い合う光景が私には浮かばなかった。

 

 

「………さて、次はフランの番だ」

「ちょいと血を吸えばいいんだよね?」

「そう簡単にいくとも思わんが………」

 

 少し不安を含めた声で私が言うと、フランはいつもの悪い笑みを浮かべた。

 

「大丈夫よ。いざというときは ” 握って “ あげればいいんだし」

「…………」

「じゃあ、行ってくるね」

 

 そう言って、フランは私達の元から飛び立った。この時から、私は何か嫌な予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に響き渡ったのは、悲鳴と重なった壮絶な断末魔。直後にフランが忍び込んだ部屋の全ての窓ガラスが粉々に砕け散り、そこから紫がかった黒い霧のようなものが噴き出した。

 向かいの家の屋根で見守っていた私とレミリアは、すぐさまその部屋に飛び込んだ。

 

 

「まさか、こうなるとは………」

 

 

 目の前に広がるのは、元が人間だったのかすら分からないほどにバラバラになった肉塊と血の絵画が描き出された壁や床。そして、部屋に闇のような渦を作り出すコウモリの大群。

 そのコウモリの渦の中心には薄っすらとシルエットが浮かんでおり、真っ赤な目が不気味に光っていた。同時に、その強大な魔力が漆黒の炎のようなオーラとなって身体を包み込む。

 

 ──狂気の暴走

 

 かつて私が命を落としかけた最悪の事態が、いま目の前で起きていた。元々フランは紅魔館に拾われる前に、ただ拷問が繰り返される日々を過ごしていた。

 

 幼少時から強いストレスや不安に襲われた吸血鬼はどうなるか。

 

 本能的な自己防衛反応が暴走し、『狂気』が発現する。その『狂気』とは精神的な病の一種で、攻撃的な人格が宿った状態とも言える。

 要は、悪魔としての危険な暴走本能が覚醒した状態だ。

 この『狂気』は疾患者がトラウマを刺激された時や自らに生命の危機が迫った時に呼び起こすと言われているが、正確な原因は分からない。

 

 突発的に呼び起こしてしまうことだってある。

 

 そもそもフランは母上が命と引き換えにすることで「精神の安定」を手に入れた。それにより、狂気が “ 滅多に ”発現することはなくなった。

 しかし、完全になくなったわけではなかったのだ。

 

「………やるしかないってことか」

「フィル姉さま、ちょっと下がってて」

 

 背後からレミリアが声をかけてくる。

 その声に気づくのに2秒ほどの時差が生じたが、私は指示通りに後方に退く。

 

 ──今度も上手くいくだろうか………

 

 自分はかつて、自身の失態で身内を亡くしている。その記憶が、いまの私にブレーキを掛けているようだった。

 

「フィル姉さま」

 

 レミリアが再び私を呼ぶ。

 そして子を励ます母親のように、レミリアは私の頬に静かに手を添えた。

 

「大丈夫よ。私達ならあの子を救える。自信を持って」

「…あ、あぁ………」

 

 そう言ってレミリアは一歩を前に踏み出した。その背を見た私は、たまらず彼女を呼び止める。

 

「レミリア……!」

「……ん?」

 

 不思議そうにこちらを振り返る彼女に、私は口を開いた。

 

「無理は……するんじゃないぞ………」

「…………」

 

 レミリアは何も言わず、ただ静かに笑みを浮かべた。

 そして前方に向き直ると、レミリアは両手の平をフランに突き出す。

 

「さあ、大人しくしなさいフラン」

 

 火薬に火が付いたような音と共に、その手の平から放たれた幾筋もの紅い光の線がフランに絡みつくように纏わり付き始める。

 その瞬間にレミリアが拳を固く握ると、紅い線が光の粒子のベールを脱ぐようにして真紅の鎖が露わになり、フランを縛り上げた。

 

「グッ……!!」

「今よ!! お姉さま!!」

 

 レミリアの叫びを合図に、私は一気にフランとの距離を詰める。レミリアの技も狂気に呑まれたフラン相手には長く持たない。一刻も早く、私が決着をつけねばならないのだ。

 真っ赤な目を敵意を込めて光らせるフランの首に、ソッと右手を掛ける。軽く掴むだけで締めはしない。

 

「大丈夫だ、フラン。私達が側にいる」

「グッ……グゥ…」

 

 こめかみに冷や汗が流れるのを自覚しつつも、私はフランの首を掴み続けた

 

 ──早く……! 早く効いてくれ……! 

 

 時間の経過に比例して、私の心拍数はどんどん高くなる。ここで失敗すれば、その時は私もレミリアも命は無い。

 その最悪のifの想像が私から成功のイメージを奪っていく。

 

 ──頼む……! 早く…! 早く!! 

 

 

 レミリアの鎖が軋む音が各所から響いてくる。その度に、私の背を流れる汗の量が増え続けた。

 

「グッ…ク…ォォォアア……!!」

 

 獣のように唸るフランの声が更に恐怖を引き立てる。その恐怖が、彼女に喉を食い破られた時の記憶を鮮明に呼び起こす。

 手汗がジワジワと噴き出す中、ここでようやくフランが変化を見せた。

 

「うッ………」

 

 身体に纏わりついていたドス黒い炎のようなオーラが消え、目に宿っていた不気味な光も消えた。

 部屋中を飛び交っていたコウモリの大群も姿を消し、辺り一帯に静寂が訪れる。

 不気味なまでに静まり返った空間の中、私は無言で立っていた。

 

「あ……れ…私……」

 

 フランは全身の力が抜けたように倒れ掛かった。咄嗟にその身体を支えた私は、安堵と未だに残る恐怖から息をつく。

 どうやら、今回は命があったらしい。

 

「フィル姉さま!」

 

 後方から駆け寄ってくるレミリアの足音が聴こえてくるが、最早振り返る気力はなかった。フランを支えたままガクリと膝をついた私に、視線を合わせるようにレミリアは少し膝を屈めた。

 

「……無事で良かった」

「あぁ……」

 

 恐らく30秒にも満たない短い間だったのだろうが、私は呼吸を乱していた。私は何か激しく動いたわけでもない。それだけ精神的な疲労が大きかったということだろう。

 

「フランは………無事?」

「……気を失ってるだけだ。しばらく寝かせておけば回復する」

 

 私はフランをソッと抱き抱えると、ゆっくり立ち上がった。

 周囲を見渡してみると、吸血鬼である私でさえ改めてゾッとする光景が視界に映る。一歩間違えれば、この壁の血が私達の血で塗りつぶされていたかもしれない。

 

 ほんの数十秒の出来事を振り返ってみる。

 

 私は自身の力を使ってフランの狂気を解除した。私の力は、自身に掛かった制限を振り払うことが出来るといった代物だ。この力に目覚めたのは、父が亡くなった時のことである。

 

 ──『可能を不可能にする程度の能力』

 

 私は自身の力をそう名付けた。

 制限を振り払う──例えば何かしらの術で身体の動きを止められた際、私は「動きを止めることを不可能にする」ことが出来る。

 父が死に、人間に捕らえられていた私が手枷に掛かっていた術の制限を突破出来たのは、この力のお陰だった。

 

 先程フランの暴走を抑えたのは、コレを応用したものだ。

 

 私は他人に直接触れることで、その他人に同じ作用をもたらすことが出来る。私はフランに触れ、「狂気が呑み込むことを不可能にした」。

 もし、私がもっと早くこの力を使えていれば両親は死なずに済んだのだろうか。

 救えたはずの二人を、「救うことを不可能にしてしまった」私のことだ。

 

 

『可能を不可能にする』

 

 

 

 

 何とも私にお似合いの力だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 フランを抱え、空を飛んで帰路についている時だった。レミリアが謝罪の言葉を口にした。

 

「何故、謝る………?」

「お姉さまに、危険な役を担ってもらったから……」

 

 私はそこで、ピタリと動きを止めた。レミリアもそれに合わせるようにして、私と並列の位置で止まった。

 

「それは私の方も同じだ。お前の力がなかったら、きっとフランを止めることは出来なかった」

「…………」

「もし、フランがまた狂気に呑まれた時は頼めるか……?」

 

 レミリアは一瞬、意外そうな表情を浮かべたが、コクリと頷いた。その様子に私は表情を和らげ、再び飛び始めた。

 私はやはり、レミリアに感謝しなければならない。彼女の力が無ければフランを救うばかりか、私の命さえなかっただろう。私の力では、狂気に呑まれたフランにはとても敵わない。

 そこまで考えていた時だった。

 

「お姉さま、最近街で流れてる噂を知ってる?」

「……いや。どんな噂だ?」

 

 レミリアが興味深い話を持ってきた。

 今度は動きを止めることなく、飛んだまま話を進めていく。

 

「えーと、ずっと南に行った所にある街のことらしいんだけど」

「港町のことか?」

「えぇ」

 

 私やレミリア、フランも未だに訪れたことな無い街だ。故に、「海」を見たことがなかった。

 

「その街にはよく海賊が出没してるらしくて………名前がちょっと変だったのよね。紅龍(こうりゅう)………紅龍(ホンロン)海賊団だったかしら?」

「ほう………」

「それで、その連中が暴れてるせいで他国からの貴商品がこの辺りの街にも届いていないんだってさ。まあ、魔法使いとかそんな特殊な力を持ってる奴はいないみたいだけどね」

「………そういうことか」

 

 私もそのことに、少し心当たりがあった。

 紅魔館を攻める計画を立てている噂のあった街は先に陥落させているのだが、そのついでに貴商品や武器の略奪を行なっている。我々に抵抗する術を潰す為だ。

 しかし、最近ではその類の物があまり見かけられなかったのだ。ここで先程の話と繋がってくる。その海賊の連中のせいで、貴商品や武器が各街に行き渡っていないのだろう。

 紅魔館の経営はそうした略奪品の一部で成り立っている面もあるため、当主としてはこの事態を無視すること出来ない。

 

「カチコミに行くか………」

「ん、何か言った?」

「いや、何も」

 

 今回は私1人で行こう。そう心に決めていた。

 

「あ、特殊な力を使うわけではないらしいけど、その海賊の中にやたら強い奴がいるみたい。武術……だったかしら。まぁ、人間の生み出した(すべ)じゃあ私達には敵わないだろうけど」

「…………」

 

 この時、私はレミリアの言葉を特に気に留めてはいなかった。

 その海賊とどう交渉するか。

 やはり力づくの交渉にはなるだろうが、何か特殊な力を持った人間がいることも無い海賊なら特に問題はないだろう。私1人で十分に制圧出来るレベルだ。

 

 

 近いうちに、接触を図ろうと私は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




第2章スタート記念に(ちょっと遅れちゃったけど)、久しぶりに自分でフィルシア・スカーレットを描いてみました。


【挿絵表示】


以前より改善出来てればいいのですが……


【挿絵表示】



絵描きにしても物書きにしても、これからもっと精進して参りますのでどうぞ宜しくです……!!



さて、次回は………
誰が出るんでしょう?


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