【未完・移行予定】 紅魔の崩壊記 〜the Oldest sister of Scarlet Devil   作:平熱クラブ

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3週間近くも空けてしまいました、ごめんなさい……

今回は遂に、あの人の登場です





第17話 無賃乗船

 反逆の罪で魔界から追放された吸血鬼は、人間界の各地に拠点を置いた。その中でも、西洋の島国に追いやられた吸血鬼の多くが先の反乱に於いて大罪を犯した者達だ。

 その吸血鬼達が棲みつく島国の南方の港では、海賊による略奪が横行してしていた。

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 島国の玄関とも呼べる南方の港町──ポート・ドア。

 漁業が盛んだったこの町は警察組織がロクに機能せず、海賊の天下となっていた。ガタイの良い漁夫達がこぞって肩を並べていた酒場は、血気盛んな海賊達の溜まり場と化していた。

 金が一切払われることはなく、店の商売道具たる酒がただ飲み干されるばかりで、店の経営は既に破綻寸前だった。彼らは金を払う代わりに「店主の安全の保証」を提供しているつもりなのだろうが、要は店主自身に危害が無いだけで無銭飲食であることに変わりはない。

 その安全とやらだけで経営を支えることは出来ないのだ。

 

「今日もまた来るのか………」

 

 店主は溜息をつきながら、店の用意をしていた。

 いくら嘆いたところで、何か解決法が見つかるわけでもない。下手に抵抗すれば最悪殺される。この町では「早死にするか飢え死にするか」の選択だけが許されており、人々の多くは後者を選ぶ。

 

 この男もまた、そのタイプだった。

 

 突発的に死を選ぶよりも、ズルズルと死を先延ばしにして1日でも長く生き延びようとする。

 そんな人間だった。

 

 

「い、いらっしゃいま………って、ありゃ?」

 

 

 ドアの開く音が響いたかと思うと、入って来たのは全身を茶色のローブに包んだ1人の子供だった。例の客(・・・)が来たと予想していた店主は、呆気に取られたような表情を浮かべる。

 顔はよく見えない。

 そのローブの下に何か背負っているのか、やけに背の辺りに膨らみが出来ていた。

 

「おいおい、ここはお前みたいなガキが来るとこじゃねぇんだよ。ウチはしょっぺえ酒しか無え店だ。あと10年くらい経ってから此処に来な」

 

 店主はあからさまに悪態をつきながら話しかけた。そして語尾に「店が残ってるかは分からんが」と皮肉混じりに付け加える。

 一方で、その子供は何も言わないままカウンターの前の椅子に座り、店主と向かい合わせになった。

 

「おい、話聞いてんのか?」

「…………」

 

 店主は返事のないその子供に腹を立て始める。

 しかし、このまま怒鳴りつけて外に放り出してやろうという思考を打ち切ったのは、フードの下から覗く透き通った緑の目だった。

 その目に神秘的な何かを感じるのと同時に、何とも言えない妖しさがそこに感じられる。

 店主は思わず押し黙り、無意識に半歩ほど後ろに退く。

 

「………水くらいは出してやるよ。そいつを飲んだら、サッサと出ていきな」

 

 店主はそう言うと、水を注いだグラスをその子供の前に置いた。

 

「…………」

「なんだ、水が気に入らないか?」

「……いや」

 

 その子供はしばらく黙っていたが、そのグラスを静かに手に取り、一度にそれを飲み干す。水が喉を完全に通り切ると、グラスをソッとカウンターに置き、店主に話しかけた。

 彼がその子供の声をハッキリと聞いたのは、この瞬間が初めてだった。

 

「今日は交渉に来た」

「………はぁ?」

 

 思わず、素っ頓狂な声を上げる。

 いま、交渉と言ったか………? 

 ほんの僅かな間に自問自答を繰り返していると、再び声を掛けられた。

 

「聞こえなかったか? 私は交渉に来たと言っている」

 

 声からして………この子供は少女だろうか? 

 交渉………

 何処かの店の遣いでも頼まれたのだろうか? 

 

 

「なぁ、嬢ちゃん………アンタ一体、何処の店の遣いなんだ?」

「…………」

 

 

「知りたいか?」

 その少女が呟いた瞬間、酒場のドアが勢いよく蹴り開けられた。派手な音と共に、何かが壊れたような音がしたのを店主の耳は拾う。

 

 ──来やがったか………

 

 恐れにも似た険しい表情を浮かべる彼の視線の先には、熊のように濃い体毛に覆われた筋肉が剥き出しになった男達がいた。

 

 

「よお………上等の酒は用意してるか?」

「は……はい、お待ちしておりました」

 

 

 先程までとは180°変わった態度で店主が出迎えた。

 

 例の客(・・・)が来たのだ。

 

 彼らは紅龍(こうりゅう)──現地の言葉で紅龍(ホンロン)と呼ばれる東洋の海賊達だ。

 遥か東の地から、この西洋の島国まで彼らはやってきた。世界各国を荒らし回る野蛮な海賊として世界中の海から恐れられる猛者達が現在(いま)、このポート・ドアを襲撃しているのだ。

 その連中に目をつけられてしまったこの酒場も不運極まりない。一度狙われたら、搾取されるしかないのだから。

 男達はゾロゾロと店の中に入り始める。

 さん名全員がボロボロの布を頭に巻き、何の獣か分からない毛皮を身につけていた。その毛皮なのか、それともその男達が浴びてきた血の臭いか分からないが、異様な空気が広がり始める。店主に至っては、既に吐き気を堪えるようにさり気無く口元を押さえていた。

 

「あ、あの……」

「なんだぁ?」

 

 店主は怯えたように、おずおずと手を上げて声を掛けた。

 

「せ………せめて今日だけでも、代金を支払って頂けないでしょうか……」

「へッ………なんだ、そういうことかい」

 

 先頭に立っていた男は店主の言葉を受けると、スタスタと店内の端にあった丸テーブルの元まで歩み寄った。そのまま握り拳を作って振り上げると、それを一瞬で叩きつける。

 バキッ……と板の割れる音が響き、次の瞬間には丸太のように太い腕がテーブルにのめり込んだ。そのテーブルは大きく割れ、木の破片が辺りに散らばった。

 木材の一部が粉砕され、粉状になったおが屑が煙のように宙に舞う。

 

「どうだ? ウチは拳が金の代わりなんだが、コレでよければ払ってやるぜ」

「とっ……!! ととととんでもございません!! タダで結構です!!」

「へッ……! 分かりゃいいんだよ」

 

 怯えるような返事をする店主の姿に、海賊の男達はゲラゲラと下品な笑い声を上げた。

 あんな拳で殴られたら、間違いなく五臓六腑は弾け飛ぶ。そうなりたくなければ、持っている物は大人しく差し出すしかないのである。

 このままでは、あの子供も危ない。

 彼等の目につかないように裏口からコッソリ逃してやらねば………そう考えた店主がカウンターに目を向けるが、彼女の姿が無い。

 

 ──あれ……? さっきまで此処に……

 

 慌てて視線を右往左往させると、ローブを纏った少女は男達と向かい合っていた。

 互いに睨み合っている状況だった。

 

 

「バ、バカ!! 早く戻って来い!!」

 

 

 店主が慌てて呼びかけるが、彼女が応じる様子は無い。あの特有の無言の態度が、既に彼らの怒りに火をつけ始めていた。

 

 

「なんだ、俺達に何か用でもあるのか? このチンチクリンよ!」

「…………」

「大人には敬意を払えと習わなかったか? いまここで俺が教えてやってもいいんだぜ?」

 

 

 男は拳をゴキゴキと鳴らして、少女に近寄っていく。そして、その極太の腕が彼女の肩に置かれた時だった。

 

 

「私が先客だ」

 

 

 

 パキッ

 

 

 

 彼女が何か呟くのと同時に乾いた音が鳴り、男の顔は真顔になる。その音が鳴った箇所に目を向けると、その顔は急速に青くなり、やがて堪らず悲鳴を上げた。

 

「ぎあああああぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 彼は断末魔のような絶叫を上げながら彼女の肩に置いた右腕を押さえて、床を転げ回っていた。男が転げ回る度にその跡を辿るように血痕が床に染み付いていく。

 その様子を、ローブを纏った少女は全く表情を変えることなく眺めていた。その瞳に映るのは、関節が一つ増えた男の腕。血がこびり付いた白い骨が皮膚を突き破って、飛び出ていた。

 

「いでぇよぉぉ!!! 腕が、腕がぁぁぁぁ!!」

 

 少女は悲鳴を上げて転がり回る男に近づくと、側頭部を踏み付けた。最初は軽く力を掛けていたが、少しずつ脚の力を強めていく。

 

「あがッ………ぐ…おぉぁああ…」

 

 踏み付ける力に比例するように男の声音も強くなり始め、ミシミシと頭蓋が軋む音が鳴り始める。踏みつける脚の力に反発するように頭蓋からも抵抗する力が働いていたが、やがて限界を迎えた。

 破壊応力を超えた頭蓋骨がこれまでと違った音を立てると、果実が潰れるようにグシャリと潰れる。ザクロの実の中身が弾け散ったかのように、床は紅一色で塗り潰された。

 

「ひッ……ひぃぃぃ!!」

 

 その光景を目にした店主は女のような悲鳴を上げて、腰を抜かしてバタバタと手足を動かしながら後ずさった。

 

「このクソガキッ!!」

 

 流石の海賊達もその光景にしばらく息を呑んでいたが、その内の1人が怒りに身を任せて飛び出してきた。

 男が腰から抜いた曲刀を大きく振り下ろす。少女はその場から微動だにせず、振り下ろされた刃に向かって指を突き出した。

 

「ぐッ………!?」

 

 肉厚の曲刀はたった二本の指で受け止められ、どれだけ力を込めても全く動かなかった。彼女が右の手首を軽く回すと、それに釣られるように曲刀ごと男の身体も回転する。

 その勢いを残したまま床に背を叩きつけられ、呻き声を上げる。その瞬間を少女は見逃さなかった。指で挟んでいた曲刀を宙に軽く投げて柄の部分をキャッチすると、空かさずその刃先で胸部を刺し貫いた。

 

「がふッ……」

 

 僅かに血を吐き出すと、その男は動かなくなった。

 

「野郎………」

 

 残り一人。

 最後に残った男が腰から抜き取った鉄砲を構え、銃口を向ける。その光景に一瞬驚愕の表情を浮かべた少女だったが、その直後の行動は早かった。

 ワキにあった椅子を素早く蹴り飛ばし、発砲音が響いた時には既に銃口は天井に向かって火を噴いていた。蹴り飛ばした椅子が男の腕にぶつかっていたのだ。

 

「グッ……!」

 

 椅子がぶつかった腕を押さえていると、後頭部を何かに掴まれる感触が彼を襲った。それを認知した時にはもう遅く、顔面が潰れる勢いで床に叩きつけられていたのだ。

 床の木材が割れる音が周囲に響く。

 同時に、高所から落下した果実のように真っ赤な中身をぶち撒けていた。

 

「これで最後か………」

 

 三人の海賊が命を落とすまで、僅か30秒。いや、もしかしたらもっと短かったかもしれない。

 真紅の絨毯をしばらく眺めていた彼女は、サッと店主の方を振り返った。

 

「さあ、交渉の続きだ………」

「あ、あんた一体何者だ………」

 

 すっかり立ち上がることも出来なくなった店主が、声を震わせながら少女に尋ねる。

 

「……………」

 

 彼女は、その問いの答えを示すように全身に纏っていたローブを脱ぎ払う。その背からは、純白の翼が覗いていた。

 

 

 

 

 

「紅魔館当主、フィルシア・スカーレット………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、紅魔館だと……!? あの悪魔の館の!」

「そうだ……」

 

 

 目の前の人間はすっかり怯えきっている。

 腰抜けめ。

 それにしても、この港町にまで紅魔館の名が知れ渡っていたとは……

 一応、心当たりはある。父が命を落とした街での出来事──私が大量の人間を虐殺したことが、原因ではないだろうか。いや、そもそも父の代から知れ渡っていたのかもしれない。

 彼自身も多くの人間を手に掛けていた記録を見たことがある。

 

「安心しろ、交渉に来ただけだ。何か目に余ることさえしなければ危害は加えん」

「そ……それは、交渉なのか……?」

「あぁ、交渉だ。拒否権を与えないだけだ」

 

 先ず私は、彼に要求の内容を話すことにした。

 

「連中の船に忍び込む。それに協力しろ」

「し、忍び込む……? どうやって……」

「お前が連中に差し出す貨物の中に、私が紛れる。樽でもあれば、それも容易だろう」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 彼はその後、「それだけ強いのに何故、力づくで船に乗り込まないのか」と聞いてきた。コレにもちゃんと理由がある。

 私の狙いは海賊の略奪を止めることと、連中が溜め込んだ財宝の奪取だ。その財宝の在り処を突き止めるには、コッソリ同船するしか方法が浮かばなかった。

 拷問で在り処を吐かせる方法も思いついたが、生憎私は相手が死なない程度に加減出来る自信がない。死なせてしまったら何も情報は得られないし、仮に上手く加減出来てもその情報を持っているとは限らない。

 財宝の在り処は一部の者にしか知らされていない可能性もあり、仮に在処を知る者を引っ捕らえても、前述の通り加減出来ずに殺してしまうかもしれない。

 そもそも拷問自体上手くいく保証が無く、多分な時間を浪費してしまう可能性が高い。何より、私もそんなチキンレースに気長に付き合ってやるほど気も長くはない。

 

 よって、拷問は得策ではないと考えた。

 

 そして、店主に協力を求めたのにも理由がある。

 一度、単身で船に忍び込もうとしたことがあるが船上の監視の目が厳しく、別の方法を考えねばならなかった。

 そこで目をつけたのが、彼らの溜まり場になっているこの酒屋だった。ここの店主はいつも酒や金などの資材を搾取されており、この潜入作戦を実行するには格好の場所だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 

「け、けどよ、あんた……コレは一体どうしてくれるんだ……」

 

 

 店主が視線を向けた先には、私が始末した海賊達の亡骸が転がっていた。

 

「こんなの他の連中に見られたら、お…俺は殺されちまう………そうなったら、あんたの作戦も台無しだぞ………」

「ッ………」

 

 私は小さく舌打ちをした。

 本音を言えば自分が助かりたいだけなのに、その為に一々私の不利益を強調する彼の態度に苛ついたからだ。

 しかし、店主の言うこともまた事実。

 彼が殺されてしまうのは正直、不都合だ。

 私は床に転がる死体を一通り見渡すと、親指と中指を弾いて音を立てた。すると、その死体が鮮やかな黄緑色の火に包まれ、燃え始めた。

 

「一体何を……」

「死体が残らなければ何もバレないだろう。アレは生き物しか燃やせない火だ。店には燃え移らんから心配するな」

 

 私の魔力を反映した色の炎がパチパチと音を立てる。

 この手の技を使う度に思うのだが、何故私の魔力の色は緑なのだろうか? スカーレット家の者ならレミリアや両親のように紅いものとなるはずなのだが………

 瞳の色もそうだ。

 私のは血のような紅ではなく、森林のような緑だ。この悪魔らしくない見た目の他にも、私は他の者とは異なる特徴を持っている。

 

 何か理由があるのだろうか……? 

 

 そんな考えにふけっていると、私は意識を現実に引き戻された。

 

 

「ひ、一つ聞いていいか……? 連中もクズだったとはいえ、なんであんな躊躇なく………惨たらしく殺せたんだ……」

 

 

 やけに質問の多い男だ。

 だが、今回は私が聞かれて最も嬉しい質問だった。

 

 

 

「悪魔だからさ」

 

 

 

 私は短く、そう答えた。

 

「そうか………天使は……神の遣いはいなかったんだな……」

「……………」

 

 

 

 

 

 

 海賊という共通の敵がなければ、私はこの男を殺していたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、本当にいいんだな?」

「何度も言わすな、早くやれ」

 

 

 私は直径1mほどの大きな樽の底に蹲るようにして身を潜めていた。私の上に蓋を置き、その蓋の上にさらに資材を詰め込んだ布袋を乗せることで、1度樽の上蓋を開けただけでは分からないようにカモフラージュを施すつもりだ。

 所謂、二重底構造の仕掛けを用意していた。

 

 

「よし、それじゃあ乗せるぞ。最後にもう一度聞くが、本当に約束は守るんだろうな………?」

「………いい加減にしつこいぞ。悪魔は約束を破ろうと思っても破れないんだ。この町を守りたければ、黙って言う通りにしろ」

 

 

 私は店主に二つの条件を提示した。

 一つ目は、この町に常駐する海賊を皆殺しにすること。

 そして二つ目は、スカーレット家はこの町を襲わないこと。この町の人間にとって、この二つの条件はかなり都合が良いはずだ。

 ここまで譲歩すれば作戦に協力するだろうというのが私の狙いだったが、彼は半信半疑ながらにその条件を受け入れた。

 

「………分かった」

 

 店主は樽の中に円形の蓋をグッと押し込んだ。それによって光が遮られ、視界は真っ暗になる。かと思えば、次の瞬間にはズシリとした資材の重さが身体にのし掛かってきた。

 最後に樽の上蓋を閉じる音が聞こえ、私はこの樽が船に運ばれるのをただ待つだけになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 せわしなく身体を揺られ続ける感覚に身を浸していると、ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。

 そろそろ港に着いた頃だろうか。

 夜ということもあってか、皆気分が異様に向上しているようだった。夜の月は人を狂わすと聞いたことがあるが、月のせいだろうか。

 

「運べ運べ!! 今日は宴だァ!!」

 

 荒々しく血気に満ちた海賊達の野太い声が辺りに響く。

 その声に耳をすましていると、私が入った樽を担ぐ男の足音が変わった。少し重々しくも、地から軽く反発を受けるような足音。

 恐らく、木製の床………つまり、船に乗った後か。

 

「オラ!! サッサとコイツを持っていけ、用心棒!!」

 

 その声が聞こえた瞬間、私の身体は一瞬の浮遊感に襲われた。

 

 ──樽を投げた……? 

 

 そう勘付いた瞬間には、暗闇の中で視界が上下に揺れた。それに釣られるように身体の重心も上下する。

 恐らくだが、この投げられた樽を誰かがキャッチしたのだろう。こんな巨大な樽を軽く投げ合うほどの力があれば、確かに普通の人間では歯が立たないかもしれない。

 

「おっと……!! そんな急に投げられたら、折角の中身がぶち撒けられちゃいますよ!」

「なぁに、お前なら朝飯前だろ」

 

 

 

 

 ──女………? 

 

 野太い声が響き渡る中、他に比べて異質な声が聴こえてきた。妙に声が高かったのだ。

 

 ──あの野蛮な海賊に女がいたとはな………

 

 意外な事実に多少驚いたが、私のやることは変わらない。しばらくこのまま身を潜め、先ずは船内の財宝を探す。他に見つからなければ、この船が宝の在り処に向かうまで船内に身を潜めておく。

 近辺の孤島にアジトがあるはずだ。

 そして財宝の在り処が分かった瞬間に、連中の息の根を止めて奪い去る。

 私がそうして財宝を奪う手順を頭の中で繰り返している時だった。

 

「まあ折角ですから、この樽の中身をぶち撒けちゃいましょうか」

「は?」

 

 私の身体はまたしても一瞬の浮遊感に襲われた。しかし、その直後に身体が上下に揺さぶられる感覚は来ない。その代わり、樽の木材が粉々に砕ける音と凄まじい衝撃が私を襲った。

 

「うぐッ………」

 

 少し強めに頭を打ってしまい、痛みが走る箇所を押さえながらヨロヨロと立ち上がる。

 違和感に気付いたのはその時だった。

 

 ──樽が……! 

 

 視界に映ったのは、大きく凹んだ壁と粉々に砕け散った木片。

 ………ということは

 

 

「おや、お客さんのようね。こんなコソコソ乗り込んで………まさか無賃乗船かしら」

「貴様………どうやって気付いた」

 

 

 樽が投げ壊され、その中に潜んでいた私の姿は完全にバレてしまっていま。目の前には呆気に取られた顔をする無精髭の男と、華人服と呼ばれる東洋の服に身を纏う女。

 淡い緑を主体とした帽子と服装に、それとアクセントを目立たせるような長く紅い髪。その両の顳顬(こめかみ)には三つ編みを垂らしていた。

 

「さあ、どうしてでしょうねぇ」

 

 恐らく、私が入った樽を投げたのはこの女だろう。見た目に似合わない怪力を持っていたものだ。

 

「し、侵入者だ!! ソイツを捕らえろ!!」

 

 私とその女が睨み合っている間に、周囲が騒がしくなってきた。これでもう、潜入作戦は完全に失敗だろう。

 辺りを見渡すと、銃や弓矢を構えた海賊達に包囲されていた。周囲に気を配って警戒していると、「天使」という言葉がヒソヒソと聴こえてくる。

 

「……………」

 

 元々そのつもりだったが、これで「皆殺しにしてやろう」という意志はさらに強くなった。

 

「それにしても、あれだけ強い衝撃を受けてピンピンしてるなんてね。 天使のお嬢さん………さては貴女、ただ者ではないのでしょう?」

「おい………」

 

 ピキリと自らの顳顬(こめかみ)の辺りに青筋が立ったのが、自分でも分かった。

 

「私は吸血鬼だ。二度とその名で呼ぶんじゃない」

「吸血鬼……! その見た目で………でも、そりゃ頑丈なわけよね、うん」

「…………」

「噂には悪魔と聞いてたけど、実は全く逆だったのね」

 

 ひたすら腹が立つ女だ。

 ここは少し痛い目に遭ってもらおう。

 

「口の利き方に気を付けろ。お前が一命を取り止められるか保証は出来ないぞ」

「まあ、威勢のいいこと………そうだ!」

 

 その女は、何か思いついたように手を叩くと、周囲の海賊達に向かって叫び掛けた。

 

「この子は私に任せてもらえませんか! 少し……"手合わせ"をしたくなったので」

「は………?」

 

 その女の声を受け、海賊達はザワザワとざわめき出す。ほんの数秒間、その状態が続いたが、1人の海賊の声が返ってきた。

 

「この船の『護衛』はお前だ。好きにしろ」

「よし……!」

 

 その声を聴いた彼女は、嬉しそうに拳を握った。

 それが合図であったかのように、武器を構えていた者達はそれを下ろす。

 

「どうです……? このままだと、どうせ戦闘になってたわけだし……先ずは私と軽く手合わせをしてみないかしら?」

「"手合わせ"だと……?」

 

 どうやら、相当にナメられているらしい。

 そんな輩には、スカーレット家の者として、吸血鬼として力を示さなければならない。

 

「……いいだろう。その代わり、私がお前を跪かせた時は………」

「その時は……?」

「幾つか要求をのんでもらう」

 

 私の返答に彼女は少し考える素ぶりを見せたが、すぐに向き直った。

 

「いいでしょう。武人の誇りにかけて約束するわ」

「武人………?」

 

 

 

 

 

 ──『その海賊の中にやたら強い奴がいるみたい。武術……だったかしら』

 

 ふと、頭をよぎったのはレミリアの言葉。それを思い出した時、私はあることを確信した。

 

 

 

 

 

「そうか、お前が………」

 

 

 相手は既に構えを取っていた。

 左手の平をこちらに向け、腰に据えるように右手で握り拳を作るという重心を低くした東洋特有のものと思われる構え。

 

 

「申し遅れました、私は武術を修めし者………美鈴(めいりん)と申します。失礼ながら、貴女は?」

「紅魔館当主………フィルシア・スカーレット」

 

 

 そう言いながら、私は右脚を前方に出した半身(はんみ)の体勢のまま左手で握り拳を作り、右手で形作った手刀を水平に構えていた。

 

 

 ──この船には財宝が隠されているかもしれない。派手な弾幕の類は使わない方がいいか………

 

 

 私はそう考えながらも、頭の中に勝算はあった。相手からは、特に大きな力は感じられない。これなら、弾幕や魔法の類を使わずとも素手のままで十分だろう。

 

 

私はそう考えていた。

 

 

この程度の力量なら、大した脅威にはならない。

 

 

 

私はそう考えていた。

 

 

 

 

 





やっと美鈴出せた………(原作キャラ3人目を出すのに17話も掛かったなんて………)


Twitterの方にて、スズカ澪様(@Suzuka30Mio)から頂きました!
素敵なイラストをありがとうございます!!



【挿絵表示】



実は、御自身からフィルシアを描きたいと申し出てくださったのです……!
こんな素敵なイラストを……!
本当に、本当にありがとうございます!!






※個人の勝手な都合で大変申し訳ございませんが、しばらく休載させて頂きます。ですが、必ず戻って来ますので、その時までどうかお待ち頂ければと思います………!
詳細は、こちらをご覧下さい。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=243766&uid=241065




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