【未完・移行予定】 紅魔の崩壊記 〜the Oldest sister of Scarlet Devil   作:平熱クラブ

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1ヶ月も空きました、ごめんなさい!!(土下座)
頑張ってペースを上げていくつもりですし、例え、どれだけ期間が空こうと失踪だけは致しませんので気長にお待ち頂けると幸いです


第4話 白昼の不可思議

 

 

 

 

 眼前に広がるは、灰色の世界。

 どんよりとした鈍い鉛色の空気が、地の果てから天上まで行き渡る。膝の辺りまで伸びた紅い花が一面を覆い尽くし、草原に血を垂らしたような真紅の絨毯が広がっていた。辺りにはうっすらとした霧が立ち込める。

 風が吹きつけ、宙に舞う花びらにつれて後ろ髪がそれになびく。身体で受け止める空気の流れが心地よいあまり、目を瞑りながら両手を広げ、身体一杯に風を浴びることで、その感覚をしばらく堪能する。自らも風に溶け込むような心地良さが身体中に広がっていくのを味わっていた。

 

 

 風が肌寒く感じるほどになった頃……ゆっくりと瞼を開く。少しぼやけた視界の隅で、空に青白い光が走ったかと思えば、直後に雷鳴が大気を震わせる。雷の柱が空と大地を結び、チカチカと眩い光を放っているのが遠くに見えた。

 ……ここは一体どこなのか。先ずは、周囲を散策しようと決めた。

 花を脚で踏み分けるようにしながら徒歩で移動する。一歩踏み込む度に、ブーツの底面に柔らかく反発する力の感覚を覚えた。柔軟な地面ほど、花が育ちやすかったりするのだろうか。真っ赤に染まる草原を眺めつつ、そんなことを考えながら歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

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 あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 見覚えのないこの景色だが、いくら歩いても全く変わる気配がないことだけは分かった。同じ風景がどこまでも続く。まるで、同じ空間の中を無限にループしているように……

 そう考え始めた頃に、ようやく景色に変化が現れていた。

 先程よりも、霧が濃くなってきている……

 歩を進めるごとに、霧が一段と……また一段と濃くなってきていた。霧が立ち込めていたこと自体は、今に始まった話ではない。私がこの草原に立っていることを認識したときから既に霧は周囲を覆い尽くしていた。だが、その時はまだ視界に何の支障もきたさなかった。

 いまはどうだろうか。明らかに視界が悪くなってきている。先程まで地平線を見渡せるほどハッキリとしていた視界はいつしか、ほんの数歩先まで見据えるのが困難になっていた。

 

「…………」

 

 視えるのは、視界を阻む霧とそれに浮かぶ花々の影のみ。それでも、しばらく進み続けていると今度は霧が少しずつ晴れていく。先程とは対照的に、歩を進めるごとに霧の濃さが薄れていく。

 一段と……また一段と……

 数歩先すら見渡せなかった視界は、次第に晴れていき、鉛色の空を仰ぎ見ることが出来るほどになっていた。そんな中、前方に一つの影がゆらりと浮かび上がる。

 私は足をピタリと止め、しばらく様子を伺った。

 

「…………」

 

 形からして、その影の正体は人だと分かった。

 ここまで、人はおろか虫1匹見かけることはなかった。生き物は一切存在しない、そんな不可思議な草原というワケでもないのだろうか。

 

 –––––人間を間近で見るのは初めてか……? 

 そもそも、何故こんなところに……? 

 

 悪魔は人間から忌避される存在であり、それ故に人は聖なる存在へと(すが)り、悪魔の撲滅を祈る。

 これまでに幾度となく争いは繰り返されてきた。人々を蹂躙する悪魔、剣を手に戦う人間達。どれほどの時が流れようと、互いに相容れない存在である両者が平和に共存する世界など、未来永劫訪れることはない。

 私が生まれ持った姿は数奇なことに、人間達の崇めるそれだった。だが、この身体に流れるは紛うことなき悪魔の血。人間側にとって、私が敵の立場にあるのは変わらない……

 

 

 この姿で吸血鬼を名乗っても、説得力は無いだろうが……

 

 

 警戒しながら少しずつ距離を詰めていく。霧が薄くなると同時にシルエットが段々と解けていく。

 その様子を視認した瞬間から、何処からか風が吹き荒れる。かなりの強風だった。

 

「ッ……!」

 

 油断すれば、身体をもっていかれそうなほどの強さだった。思わず顔を守るように腕で覆い、目を瞑る。先程、ゆったりと風を浴びていたような心地良さはなかった。

 次に瞼を開いたときには、完全に霧が消えていた。そして目の前には、こちらに背を向けたまま立っている少女が。漆黒の髪、それとコントラストを目立たせる純白のドレス。

 背の丈は、私と同じくらいだろうか。

 未だに吹き付ける風に、腰まで届きそうなほどに長い髪がなびいていた。

 

「………誰だ?」

 

 私はそう問いかけた。

 しかし、彼女は何も答えず黙ったまま………

 ゆっくりと振り返る–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日からだ。

 レミリアの前で、涙が零れたあの日から。

 私の夢の中に、あの少女が現れるようになったのは……

 純白のドレスに、漆黒の髪。そして、自然という概念を体現してみせたかのような透き通った緑の目。

 

 

 

 彼女は一体何者なのか……

 

 

 

 時刻は、太陽が天辺に昇る頃。本来なら吸血鬼は眠る時間だが、私は起きていた。1人、館の中を歩きながら、あの夢のことを振り返る。

 全く見覚えのない草原に1人立ち、霧の中を歩いていく。その先にあの少女が背を向けて立っており、彼女が振り向いた瞬間に、毎度の如く目が覚めてしまう。その振り向き際に見える顔は、いつも泣いていた。

 その光景を見る度に、レミリアの前で涙が零れた日のことを思い出す。

 

 

 

 

 強がりでも比喩でもない。

 あの時、本当に私の意志とは無関係に涙が零れたのだ。その日から、あの黒髪の少女の夢を見るようになった。

 彼女がどことなく………私と似ているように思えたのは気のせいだろうか。

 

 

 いま、私は壁に組み込まれた巨大な鏡の前に立っていた。

 

 –––––精霊鏡(せいれいきょう)

 

 それは、不可視のはずの霊魂や精霊を映し出す冥界の鏡。

 精霊魔法などの儀式で使われることが多く、その鏡を通して冥界への干渉、使い魔の召喚を可能にする。

 本来であれば、肉体と魂の結びつきが弱い我々吸血鬼の実像が鏡に映ることはない。だが、不可視の存在を映し出す鏡は、その実像すら捉えてみせる。

 目の前の鏡に映っているのは、悪魔という呼び名が最も相応しくない悪魔。純白の翼が、如何に悪魔として出来損ないかをハッキリと自覚させる。

 鏡は嘘をつかない。残酷なまでに、ありのままの現実を映し出し、その目に突きつけてくる。

 そして、心臓に針を刺したかのような痛みを胸に走らせる。その痛みが鏡を砕き割りたくなる衝動へと駆らせるが、壊したところで自分の醜い姿は変わらないという不条理が、更なる苦しみへ(いざな)う。

 

「…………」

 

 普段なら、鏡の前に立つことすら拷問のように感じる私だが、今はある一点を見つめていた。

 

 –––––この目だ…………

 

 透き通った緑を水面のように反射する目。あの少女が私と似ているように感じたのは、この目が理由だ。私と同じ瞳を彼女は持っていた。

 

 

 ここで私は何らかの関連性を見出す為に、点と点を線で繋げようと頭を働かせる。

 

 

 レミリアの前で私が無意識に涙を流したこと……

 その日から、あの夢を見るようになったこと……

 私と同じ目の少女が、その夢の最後で涙を流していたこと…………

 

 

 あの少女とは、目の他に1つ、共通点があった。それは、どちらも涙を流していたことだ。

 私はレミリアの前で涙を零し、彼女は私の前で涙を零していた。この一連の事柄が相互に無関係とは思えない。私の意志と無関係に流れた涙とあの少女の涙に、何か繋がりがあるのだろうか……? 

 

 

 だが、彼女が何者なのか分からない…………

 

 

 

 

 あの涙は、何を伝えたかったのだろうか……? 

 

 

 

 

 

 

「時間だ」

 

 

 

 

 不意にかけられた言葉で思考を打ち切られる。振り返ると、そこには私の伯父が立っていた。

 

「……分かった」

 

 私は短く返事をし、彼のあとを追った。

 私がこの真昼間から起きていたのは、彼に会うためだった。この時間帯であれば、彼が私の親と接触する可能性は低い。吸血鬼が眠りにつく刻に、彼と会う約束をしていた。

 

 

 ……そもそも何故、伯父は私の親に会おうとしないのだろうか? 今更ながら疑問に思う。

 いつだったか……その理由を問い質したことがある。

 

「………私はあの戦いで死んだ。今更向けられる顔など無い」

 

 彼はそう答えた。そして、それ以上は何も言わなかった。

 当然、死人が現世に存在する筈がないので言葉通りの意味ではないのだろう。大方、生死不明だったのが、生存の希望も薄かった為に死亡したものと見なされたところか。

 あの戦い……(おう)に反旗を翻した大罪として多くの吸血鬼が流刑の名のもとに、この世界へ追放されるキッカケとなったあの戦いのことだろうか。

 何か矛盾が思い浮かぶワケではない。

 その反乱はスカーレット家が中心となって起こしたものであり、その戦いに父上の弟である彼が加わっていたとしても不思議ではない。

 だが、私は親の口から伯父の存在が語られたのを聞いたことがなかった。

 

 –––––私はあの戦いで死んだ。

 

 この言葉の意味が私の予想通りであるならば……

 身内が死んだと思い込んでいる父上達は、過去を思い出したくなかったのかもしれない。

 だが、尚更疑問に思う。もし、自分が死んだことになっていると知っているなら何故、伯父は私の親と会おうとしないのか。身内の者が死んだように思っているのなら、先ずは会って、生きていたことを明かすのが自然ではないだろうか? 

 それとも、会うことが許されない理由でもあるのだろうか……

 

 

 

 

 初めて伯父に会ったのは、幼少の頃。親がいないときを見計らった客人が私を虐げていたとき、彼が現れた。

 客人を力づくで追い返した彼は、礼を言おうとする私に、「いま見たこと、自分がここに来たことは誰にも言うな」と念を押して去っていった。

 そこから、彼はしばしば私の前にだけ姿を現わすようになり、いつだったか自身が私の伯父であることを明かした。

 

「自分のことは決して誰にも話すな」

 

 伯父の言いつけを守っていた為、彼がこの館を訪れていたこと、いや、彼の存在自体を知る者は私の他にはいない。

 

 

 

 

 

 

 伯父がいたことを口にしない両親、その両親に会おうとしない伯父……

 

 ……何か、私の知らない事実があるように思えてならなかった。

 

「…………」

 

 そこまで考えると、肩の力を抜いて鼻で笑った。今日は何かと謎が深まる日だ。あの夢の少女のこと、伯父が両親に会おうとしない理由…………

 現状では、どれだけ考えても答えは出ないだろう。いや、そもそも答えなどないのかもしれない。あの夢の少女のことは単に私が考えすぎなだけで、伯父に関しては、私の知らないところで両親と会っている可能性も大いにあり得る。

 

 コツ、コツ、コツ………

 

 廊下に響き渡る音が思考を遮り、意識を現実に引き戻す。

 私と伯父は紅魔館の地下へと続く階段を降りていく。昼間でも薄暗いこの階段は、少しばかり不気味さを醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ4話とはいえ、いい加減、物語を進展させたいですねぇ……。
今はまだ下準備段階ということで……


『rick@吸血鬼好き』様から頂きました!




【挿絵表示】


素敵なイラストをありがとうございます!
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