七月十日。私が起動して翌日のことでした。
「新しくガールを起動する?」
私の問いかけにマスターは「Oh yes! Exactly!」と突然英語で返してきました。なんですかこの人は、意味不明です。
なんでも今日は仕事が休み。だから新しいガールを起動する。その起動に付き合ってほしい、なのだとか。
今回起動するのはこれだと見せられたのは、フレズヴェルク型のビキニ素体です。
なるほど、マスターが変態さんなのは知ってましたが、ここまでとは。これは早くもマスターの替え時かもしれませんね。なんて、冗談ですけど。
「でもどうして私なんですか? 別に他の方でもいいような」
私の問いにマスターは「まあお前と親睦を深めようと思って」と答えます。
なるほど。たしかに私とマスターの関係はまだ始まったばかり。私が起動してまだ二日目です。
仲良くなるために、一緒に新たなガールの起動をするというのはよくある話です。
しかしマスターはこうも付け加えました。「それにお前に案内役をしてもらいたいんだよね」と。
「案内役、ですか?」
当然私は何のことだかさっぱりなので首を傾げます。
なんでも、これからもガールの起動を細々と行っていくようで、その起動したガールたちが早く場に溶け込めるようサポートする役目を私に一任する、とのこと。
尚のこと私はわけがわからなく、頭に複数のクエスチョンマークを浮かべます。いえ、実際浮かんでるわけではありませんが。
「そんな重大な役割をなぜ私に?」
私の問いにマスターは「なんか俺が起動したガールの中で一番しっかりしてそうだから」という曖昧な回答をします。私的にはメラスさんが一番しっかりしてると思うのですが。
マスター曰く「その方がお前も早く馴染めるだろ」とのこと。
確かに、マスターの言う通りその方が皆さんともっと仲良くなれますし、新しいガールとも仲良くなる機会になります。つまり悪いことは何もなく、私にとってむしろ良い事づくし。
それに何か自分に特別な役割が与えられる、というのは嬉しいものです。
「わかりました。その任引き受けます、マスター」
ただ、ガールの案内役だけというのもなんだかこう味気ないというか。いえ、何もガールの案内役というのを貶しているわけではないのですが。
「あ、そうだ。そのかわり、マスターの案内役も私がしていいですか?」
なんのこっちゃと言うように今度はマスターが首を傾げます。
「例えばマスターが旅行に行く時、その道順を私が検索し、間違えないようにするいわゆるナビゲーションをするということです」
マスターが困惑した表情を浮かべました。困惑するのも当然です。
しかし、私はどうしてもやりたいと思いました。そうすれば、マスターと誰よりも仲良くなれるのではないかとか、マスターといろんなところに行けるのではとか、そんなことを考えると、とても楽しそうな役割なのですから。
マスターからは「まあ一考しておく」と返答があったので、私はひとまず満足して、二人で作業場へと向かいました。
さて、せっかくなのでここで私たちフレームアームズ・ガールの起動方法について簡単に説明させていただきます。
私たちフレームアームズ・ガールを起動するには大きく分けて二つのものが必要になります。
まずひとつ目は体となるボディ。これは主に市販で売られているものを使います。全国の模型屋さんや模型を取り扱う一部のおもちゃ屋さんで購入できるので、とてもお手頃です。ただし、お値段が少し張っていますので、多々買いを行う際にはお財布に無理のないように。
ふたつ目は、私たちの意識、つまりは個性などを与えるため素体にデータをインストールすることのできる端末。これもお手元にあるスマートフォンでも可能ですし、あるいはパソコンを使っても構いません。どちらを利用するにしても、専用のアプリケーションを入れなければいけないので、こちらも注意が必要です。
私たちの体はマスターたちの手によって作られます。購入したボディはまだ未完成の状態で、箱を開けると中にはたくさんのランナーが入っています。そう、プラモデルですね。これを組み上げることで私たちのボディが完成します。
説明書の通りにランナーからパーツを切り離し、ひとつひとつ丁寧に処理をしていきます。この処理にどれだけ丁寧に行うかによって、私たちガールの動きのスムーズさが変わっていきます。つまり、最も大事な工程と言えるでしょう。
私もマスターを手伝い、処理し終わったパーツを嵌めたり、処理がまだ甘いところにヤスリをかけたりしてガールのボディを組み上げていきます。
「そういえばマスター、この子の名前は決まっているのですか?」
ふと気になって、手を動かしながらそんな疑問を投げました。
対するマスターの返答はというと、「いや実は決まってないんだよね」です。
私の名前もイノセンティア姉妹の名前も決まっていないので、少し安堵したような、早く名前を付けてほしいような、そんな複雑な感情が湧いてきます。
「やはり名前が無いと不便ではないですか?」
そうなんだけどねー、とマスターは苦笑すると、出来上がったパーツを私に渡します。
出来上がった上半身パーツを受け取った私は、完成させた頭部パーツを接続します。接続させたのち、専用の台座に飾るように上半身を置くと、マスターの顔を眺めました。
「名前、決めないのですか?」
私の問いに困った顔をするマスター。別に私はマスターを困らせたいわけではありません。ただどうしても気になってしまうのです。いつまで私は製品名と同じ〝轟雷〟のままなのだろうかと。まだ起動して一日しか経っていないのに、そんな不安が募るのです。
マスターは言いました。「もちろん、すぐにでも決めたいさ。けどこう、これだ!ていうのが思い浮かばなくてなぁ」と。
どうやら、マスターは別に決めるつもりがないわけではないようです。
そういえば、プリムさんに聞きました。マスターの趣味は小説を書くことだと。だから名前を決めるときは、中途半端なものをあまり付けたがらないのだと。
「そうですか。まあ、気長にお待ちしてますね」
私の答えが嬉しかったのか。マスターは「おう、楽しみにしてな」と笑いました。
さて、そうこうしているうちに、あとは足を組み立てて接続するところまで来ました。この工程が終われば、ボディの完成です。
それにしても、それにしてもです。なんですかこの子のこの破廉恥な格好は。いえ、ビキニ素体なので、肌色部分が多いのはわかっていましたが、ここまでとは思っていませんでした。
まず目につくのがお腹のラインです。こう、指でスーッと撫でたくなるようなセクシーなお腹。柔らかそうに伸びているヒップラインもまた魅力的。どことは言いませんが、装甲も大きい。これはそう、マスターのようなむっつりな男性であれば飛んで喜ぶような体つきです。
実際マスターもボディを組み立てながら「おぉ……」と感嘆の声を呟いていました。つまり何が言いたいかというと。
「これは……プリムさんに襲われる未来しかないですね」
例え愛人がいようともお構いなしに初対面のガールにセクハラをするという、あのプリムさんに絶対に襲われる体つきなのです。これは前もって手を合わせておくしかないですね。南無南無。
そんなことをしているうちにマスターが両足を完成させて接続しました。これでガールのボディの完成です。
完成して一息吐いたのか、マスターが大きく伸びをして「ぐおおぉ……」と唸っています。細かい作業なので、肩が凝ったのでしょう。あとで肩叩きをしてあげようと思います。
「マスター。とりあえず彼女はなんと呼べばいいのでしょうか?」
まだ個体名が決まっていませんので、仮の呼称を考えなくてはなりません。
マスターは腕を組んで少し目を閉じると、すぐに開けてこう言いました。ビキニフレズでいいんじゃね、と。
安直です。実に安直です。しかも現在一緒に住んでいるフレズヴェルク型はアルテナさん一人と、わざわざ識別しやすく〝ビキニ〟を付ける必要もないのに付けるあたり変なこだわりを感じます。
「まあわかりました。マスターがそう言うならそう呼びます」
私の返事にうんうんと頷くと、マスターは早速スマートフォンを片手に何やら文字を打ち始めました。
マスターが一体何をしているのかというと、ガールの性格づけ、つまりは個体となる設定を与えているのです。
専用のアプリに自分が与えたい性格に関する単語をいくつか入力することで、それが人格の形成の元となります。そしてその内容をボディにインプットすることによって、見た目が同じといえどそれぞれ違った性格の個体が生まれるというわけです。
しかし、マスターの入力がおかしいのか、あるいは脳内がおかしいのか、マスター曰く「自分が思ってたのと違うのばかり生まれている」のだそうな。
入力し終えたのかマスターはスマホに専用のコードを取り付けると、ガールのボディの後ろ腰の穴に刺しました。
この穴にコードを取り付けたとき、なんだかこうむず痒いというか、変な感触がするんですよね。そのせいでつい変な声が出てしまうというか。しかもこの感触ーー
「ん、んんっ」
ーーと、あのように、まだ未起動状態でも感じてしまい、眠っているのになぜか声を出すガールが多いのだとか。
一部界隈ではその様子がどう映るのか、何度も抜き差しして楽しむ人もいるのだとか。私のマスターはどうやらその気はないようなので、少し安心です。多分。
さて、これで漸くガールの起動が完了となります。少し待てば彼女もすぐに目を覚ます筈です。
「ん、んん……ん……」
少し身動ぎをして、ビキニフレズが目を開けました。そして周囲を見渡して、ただ呆然としています。
この最初に起動した時、何も認識出来ていない状態なの一瞬でぼーっとしてしまうんですよね。私もそうでしたのでよくわかります。
「フレズヴェルク型ビキニアーマー……起動しました。おはようございます……マスター」
どういう設定にしたのか、物静かな雰囲気の彼女。目もあまり開いておらず、なんだか眠そうな表情です。
「えっと、私はなんて呼ばれるの……でしょうか?」
最初の質問が名前に関することなのも、私と一緒です。
ちなみにどこぞのプリムさんが最初に起動した時の質問が「ほかに可愛い子はいるの?」だそうな。起動時点ですでにほかのガールを襲う傾向にあったようですね、はい。
少し話が逸れてしまいましたが、マスターは「とりあえずビキニフレズと呼ぶことにした」と答えました。
「び、ビキニ……フレズ……」
「ほらマスター。彼女がなんとも言えないという表情をしているじゃないですか。だから名前は大事なんです、わかりますか?」
フレズの反応を見てついついマスターにそう言ってしまいます。ああ、ちなみに私はフレズと呼ぶことにしました。まあたまにふざけてビキニフレズと呼ぶかもしれませんが。
「あの、あなたは?」
「ようこそ、フレズヴェルク。はじめまして、私は轟雷。昨日ここで起動した、ここの案内役です」
「昨日起動したのに案内役?」
「はい。それだけ私が優秀ということです!」
「そ、そうなんだ……」
とりあえず自己紹介を済ませると、私は辺りを見渡しました。ほかにガールがいないか探してみたのです。
ですがどうやら皆さん、マスターの部屋で遊んでいるようで見当たりません。
「マスターはこれからどうしますか?」
私の問いにマスターは「昼寝する」と即答しました。疲れたのか眠たいようです。
あとは任せたとだけ告げると、マスターは自分の部屋へと去ってしまいました。私たちを置いて。
「いやいや、私たちも目的地一緒なんですから連れてってくださいよ」
私の言葉も虚しく、周囲にはフレズ以外に誰もいなくなってしまいました。
思わずフレズと顔を見合わせます。
「どうしますか?」
「あの……この家の中を案内して、ほしいかな」
「わかりました。では参りましょう」
ダイニングのテーブルから下りると、まずはじめに向かったのは隣のテレビが置いてある部屋、リビングです。
「ここがリビングです。たくさんのゲームが置かれており、マスターはいつもここで色々なゲームをして遊んでいますよ」
「ゲーム……面白いのかな?」
「マスターは楽しんでますね。あと一部の方がそのプレイ画面眺めています」
「そっか……今度私も見てみようかな……」
こんな感じで、家の中の至る所をフレズとともに楽しく回りました。
◇
一通り案内し終えた後、フレズとともに最後に訪れたのは当然ーー。
「はい、ここがマスターの部屋です」
「……なんか、汚い」
「日増しに片付かなくなっていますよ、マスターの部屋は」
「そ、そうなんだ」
部屋の惨状を見て、フレズが引きつった笑いを浮かべました。
「さてと。ではほかの皆さんの紹介をしますね?」
「あ、うん。どんな人がいるんだろ」
それはもう個性的な人ばかりですよ、とは決して言いません。実際に体験してもらわないと、ですからね。
「皆さーん! 新しいガールが来ましたので紹介しますよー!」
私の呼びかけに真っ先に応じてやってきたのは言わずもがな、プリムさんでした。
「あら、新しい子? 昨日は轟雷ちゃんを起動して今日はこの子って、マスターったら張り切ってるわねぇ」
そう言うとプリムさんはフレズの体をまじまじと舐め回すように眺めました。
「あらあら、とっても綺麗な体ねー」
プリムさんの言葉に、フレズが顔を赤らめて、体を隠すような仕草をします。まあそりゃ、恥ずかしいでしょうね。
「うっ……なんかいやらしい目で見られてる気がする」
とりあえず場を保つために、プリムさんの紹介でもしておきましょう。
「彼女はここの最初の入居人であるプリムさん。フルネームはプリムラ・ホワイトと名付けられています」
「プリムよ。ふふふ、触りがいのある綺麗な体をしてるわね、あなた」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるプリムさん。いやほんと、どうして彼女はこんな感じなのかわからないです。
「あ、ありがとうござい……ます」
「うふふふふ、だからその体!隅々まで調べさせてぇ!」
「え? ちょ、きゃっ!?」
「あー、やっぱりこうなりましたか」
何が起こったかというと、プリムさんがフレズにル◯ンダイブをかまして拘束し、体の隅々を弄り始めたのです。
「ああ、いい。とっても柔らかい素肌。それについ指を滑らせたくなるお腹。胸も見た目通りの柔らかさと弾力。堪らないわー」
「あうっ……やめ、やめて……なんか変な感じだから……!」
「それに反応も可愛いわ。これは食べてしまいたくなるわ、うふふ」
とても助平ないい笑顔のプリムさん。ですが次の瞬間、彼女の顔が痛みを感じるそれに変貌するのです。
「なに初対面にセクハラかましてるのよ、このバカプリム!」
駆けつけてきたローズさんが、プリムさんの頭にげんこつを食らわせたのです。
プリムさんは当たったところを抑えながら、涙目ながらに抗議します。
「痛ぁい。頭殴ることないじゃない、ローズちゃん」
「うるさい! あんたほんと誰構わず襲うんだから、少しは自重しなさい!」
「無理無理。こんな綺麗な柔肌があったら触りたくなっちゃうわ」
「ぐぬぬぬぬ……」
もう一発入れてやろうかと言わんばかりに、ローズさんが拳に力を入れます。それを見たプリムさんは慌ててフレズから離れました。
「大丈夫? ごめんね、プリムが」
「あ、えと。ありがとう、ございます」
ここですかさず私はローズさんの紹介を入れます。さすが出来る私!
「この人は二人目の入居人である、AISカラーのスティレットさんこと、アイスティーさんです」
「いや私そんな名前じゃないけど!?」
「失礼しました。アイスティーローズ風味さんでしたね」
「そうそう、って違うから! アイスティーと風味が邪魔よ!」
「え、そんな。それではなにをアイデンティティにした飲み物?」
「いや私飲み物じゃないから!」
一通りローズさんをいじり倒したら、ローズさんがちゃんと自己紹介をすると思って委ねます。このあたりのフォローもさすが私と言わざるを得ません。
「まったく。私はローズって呼ばれてるわ。まあありきたりな名前だけども」
「えっと、仮称ビキニフレズです。よろしくお願いします」
「ん、フレズね。これからよろしく」
満面の笑顔で手を差し出すローズさん。それに答えて、フレズも微笑んで握り返しました。うんうん、いい光景です。
「まったく。ほんと自重しないんだからプリムは」
「もしかして妬いてるの? ローズちゃん」
「ばっ!? 妬いてなんかないわよ!」
「大丈夫よ。あんな風に体を触ることはあっても、愛の言葉を呟いたりキスしたりするのはローズちゃんだけだから」
「い、いや別にそういうことを心配してるんじゃないわよ? ただこの子が迷惑に思うだろうと思ったから」
「うふふ、優しい。そんなローズちゃんが私大好きよ」
「なっ!? あう、う〜〜〜〜っ!!」
顔を真っ赤にして目をそらすローズさん。外野を無視してイチャコラするのは勘弁してほしいものです。
「お二人、実は恋人同士なんです」
フレズにそう耳打ちすると、フレズは顔を赤らめて「そ、そうなんだ」と言いました。どうやら彼女には少し刺激的なようです。
「さて、あのバカップルは放っておいて、他の方に会いに行きましょう」
「あ、うん」
なにをしているのか、他の方は私の呼びかけに応じず来ないので、こちらから向かうとします。
フレズの手を引き、他の方がいそうなところへと向かいました。
早速見つけたのはイノセンティア姉妹でした。
「あ、轟雷! 見てみて、カッコいいポーズ! シャキーン!」
「私は可愛いポーズ……にゃーん」
この二人、なにをしているのかほんとわかりません。
「えっと、彼女たちはイノセンティア姉妹。赤いほうが姉で、青いほうが妹さんです」
「えと、ビキニフレズです。二人はなにをしているの?」
「かっこいいポーズの練習!」
「可愛いポーズの練習……だよ?」
「え、えっとなんのために?」
「そこにポーズを練習する時間があるから!」
「いや、答えになってませんよそれ」
やはりこの二人はよくわかりません。なお、マスターは気に入っているようで、ポーズ練習するのをふと見ては「和む……」と呟いている場面に遭遇しました。まあ、わからないこともないんですけども。
「なんか、変わった二人だね」
「悪い人ではないんですが、私もよくわからない人たちです。まあまだ一日の付き合いですけども」
とりあえず邪魔してはいけないので、二人を後に次の方を探しに行きます。
次にすぐに見つかったのはアルキテクトさんでした。アルキテクトさんはよくマスターが買った漫画を読んでいるようで、本棚の前でどれを読もうか吟味している最中でした。
「こちらは知っていることならなんでも知っている、アーキテクトのアルキテクトさんです」
「Hey! Listen!」
「なんですかそれ」
「マスターがやってたゲームのキャラがこんな感じのセリフを言ってたから真似した」
「あ、そうですか」
「え、えっとよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
こちらも邪魔してはいけないと思い早々に立ち去ります。というか、私の呼びかけ聞こえてなかったんでしょうか。そこがちょっと気になります。
「おー! 新しい子じゃん! しかもビキニのフレズヴェルク型!」
「あ、バーゼさん」
立ち去って間もなくしてバーゼさんが声をかけてきました。
「こちらバーゼラルド型のバーゼさん」
「えと、ビキニフレズが仮称です。な、名前、そのままなんだ」
「だってブルーr」
「それ以上はいけません、バーゼさん」
「む? まあよろしくビキニフレズ!」
笑顔で手を差し出すバーゼさん。フレズもそれに答えて、その手を握りました。
と、丁度その時のことです。
「おーい、バーゼ。遊ぼー!」
「お、アルテナが帰ってきた」
アルテナさんが手を振りながらやってきました。どうやらまた外出していたようです。道理で真っ先に来そうな方が来ないと思ったら。
「あれ? フレズヴェルク型じゃん! どうしたの?」
「アルテナさん。ついさっきマスターが起動させたんです」
「へぇー! ふむふむ」
顎下に手を当てて、アルテナさんはフレズの体をまじまじと見ました。
「あ、こちらフレズヴェルクアーテル型のアルテナさんです」
忘れないうちにアルテナさんを紹介します。
「名前は?」
「えっと、まだ仮称でビキニフレズです……」
「そっか。じゃあフレズって呼ぶ。ねえフレズ?」
「あ、はい。なん、ですか?」
「今日からお前は私の妹だ!」
ビシッと人差し指で決めポーズ、のような感じでフレズを指差すアルテナさん。なるほど、確かに同じフレズヴェルク型ですから姉と捉えることが出来ますね。
「困ったことがあれば、いつでもこのお姉ちゃんを頼ってくれていいよ!」
「えっと、うん。お姉ちゃん……あの、私の名前どうにかならないかな?」
「それはマスター次第だね!」
「そうだよね、うん」
ちゃんと姉には名前があると思ってか、フレズが少し残念そうにしています。やはり名前は大事なんですよ、マスター。わかりますか、大事なんです。
「他の方どこかで見かけましたか?」
「んー、あ、そういえばなんか白虎が玄関で黄昏てた気がする」
「白虎さんが? わかりました、ありがとうございます」
「じゃあフレズまた後でねー」
「あ、うん。またね、お姉ちゃん」
「て、あー! マスターまた私がいない間に続き見てるー!」
さて、アルテナさんに言われた通り玄関の方にフレズと向かいました。行ってみると確かになにかに黄昏るように座る白虎さんの姿が。
「あら轟雷、どうしましたの? そちらの方は新顔さん?」
私たちに気がつくと白虎さんは明るい顔で声をかけてきました。
「はい。彼女は仮称ビキニフレズ。私はフレズと呼んでいます」
「そう。フレズ、はじめまして。私は姫の称号を持つ、白虎と申しますわ」
「自称姫、ですね」
「む、自称ではないのですわよ? 決して自称では」
頰を膨らませて抗議する白虎さん。その様子はやはり可愛らしいと思うのです、はい。
「えっと、よろしくお願いします。姫さま?」
「あら、あなた素直な方ね。私のメイドにならない?」
「それはえっと、遠慮しておきます」
「そう、残念ね……」
「まあ私がたまにメイドになってあげますから我慢してください」
「え? あの言葉本当だったの?」
「え?」
どうやら本当だと思われてなかったようです。本人としてはその場の冗談のつもりだったようで、本気にはしてなかった様子。
「その、ありがとう轟雷」
「いえいえ、ひとまずまた別の人のところに行きますね姫さま」
「あ、うん。いってらっしゃい」
頰を赤くして笑う白虎さん。もう少しこの顔を見ていたい気もしますが、フレズを全員に紹介するのが私の仕事です。
他にまだ紹介していないのは、メラスさんとクラウンさんですね。メラスさんは部屋にプリムさんと一緒にいるでしょうか。
ひとまず部屋に戻ってみると、プリムさんと一緒にメラスさんの姿も見えました。が、メラスさん、どうも声を掛けづらいご様子。
そりゃそうですよね。未だにローズさんとイチャイチャしてるんですもん。
「メラスさん、丁度良かったです」
「あら轟雷ちゃん、と新顔の子ね」
私たちに気づくと真っ先にメラスさんはフレズの体をまじまじと見始めました。もしかしてメラスさんも襲う気でしょうか。
「ふーん。確かに綺麗な体してるわね」
「おや、誰かからフレズのことを聞いたのですか?」
「姉さんからね」
その返答でなぜプリムさんとローズさんがまだイチャイチャしているのかわかりました。大方の予想ですが、フレズの体を綺麗と言った後、ローズさんの方が綺麗だけど的なそんなことを言ったのでしょう。多分、そんな気がします。
「こちらはメラスさん。プリムさんと姉妹関係にあり、妹さんの方です」
「姉さんから過激な出迎えあったでしょ? まああの人なりの通過儀礼だと思って頂戴。最初だけだから」
確かに。メラスさんに言われて気づきましたが、私も最初は襲われはしたものの、以降普通に接されるようになっていました。プリムさんなりの仲良くなるやり方、というものでしょうか。
そうなると、プリムさんが如何にローズさん一筋かがわかるような気がします。
「メラスちゃんはフレズちゃんを襲わないのかしら?」
イチャイチャを中断したプリムさんがふと、そんなことを言いました。
「私は姉さんと違って誰彼構わず襲わないのよ。そりゃ、綺麗な体してると思うけど」
対してメラスさんはやれやれと言った感じで首を振ると、私の方を一瞬だけ見てからどこかへと去って行きました。
「あの人もプリムさんみたいに襲ったりするの?」
「んー、私はそういう方のように思えませんけども」
「まああの子、特に気に入った子にしかそういうアプローチしないから」
クスクスと笑うと、なぜか私の顔を見るプリムさん。
「はて、何かついているのでしょうか?」
「いいえ、気にしないで頂戴。ところで、あとはクラウンちゃんだけじゃないかしら?」
「あ、はい。よくわかりましたね」
「それはだって、あの子マスターのお腹の上でお昼寝してるもの」
あ、それは少し羨ましい。などと思っても口には出しません。なんか恥ずかしいので。
プリムさんに言われてマスターのいるところに向かってみると、確かにアルテナさんと動画を見るマスターのお腹の上で、クラウンさんがスヤスヤと寝ていました。
クラウンさんに用があると気づいたのか、マスターが指でちょいちょいと頰を突きます。
「んんー、なにー? ご飯ー?」
一応物を食べることは出来ますが必要が無い私たち。なのに、クラウンさんはそんなことを言うもんだから、如何に彼女が寝ぼけているかわかります。
「ああそうか、新顔の子起動したんだった」
マスターに教えられて思い出したのか、大きな欠伸をして起きるクラウンさん。その仕草ひとつが実に愛らしい。
て、あれ? 私実はヤバイ人なのでは?
「えーと、こちらはクラウン・ラビタンさん。明らかに優遇されている、マスターのオリジナル機です」
「まだ改造途中だけどねー。変な弄り方するから怖いのなんの」
「まあ私の手首にヒビを入れるような方ですからねー」
「ねー。私もそれ聞いた時は青ざめたわ」
そう言って呆れたような笑いを浮かべると、クラウンさんはフレズに近づきました。
「ようこそ、フレズ。みんな色々と癖があったりするけど、みんないい子たちだから仲良くしてあげてね」
「あ、はい。よろしくお願いします。クラウンさん」
「それ私のセリフですよクラウンさん」
「え、あ、そうなの? ごめん、セリフ取った」
「謝る気ホントはないでしょう?」
「うん。別に悪いことしたわけじゃないし」
たまにこう、デリカシーのないセリフを吐くクラウンさん。それでも嫌な気がしないのは、彼女の人柄ゆえでしょうか。まだ一日の付き合いですけども。
「それに、私が最後なんでしょ? じゃあ締めるようなこと言わなきゃ」
「別に案内役の私が締めの言葉を言うんですから気にしなくていいんですよ」
「ああ、そうなの。ごめんごめん」
「もういいです。それより他の皆さん集めてもらえますか? せっかくなので全員で記念撮影しましょう」
私の言葉に真っ先に反応したのはマスターでした。「え? 記念撮影とかすんの?」という顔です。
「ええ、当然です。そうすれば、今日という日がひとつの思い出になりますからね」
私の言葉に諦めたのか、マスターはスマートフォンのカメラ機能を起動しました。その際「まあしばらく全員集合写真撮ってないしなぁ」と言っていましたので、丁度良かったと言えるでしょう、はい。
そしてフレズを交えた全員集合の写真を撮ったことで、本日の私の初仕事は無事終了を告げるのでした。
その後のことですが、フレズが私のところにやってきてこう言いました。
「その、まだ来て日が浅い者同士仲良くしようね、轟雷」
恥じらいながらもそう告げるフレズの姿は、とても可愛かったのです。
マスターのマスターによるマスターのための後書きコーナーです。
2話目にしてもう新しい子が増えやがりました。いやまあ増やしたのは私ですけども。これからも増えていく予定ですけども。でも最終的に管理が行き届がなくなる子も出てくるんじゃないかと心配しているこの頃でございます。
轟雷たちのきゃっきゃうふふな日常は、本当に日常なので、なにか感動や興奮を与えるようなものではないかもしれません。が、何かしら楽しめる部分を見つけてくれたらなと思います。
さて、では次回も轟雷の活動日誌を手にとって読んでいただけたらなと思います。またの機会にお会いしましょう。マスターでした。