今更ですが、白虎さんの読みは「しらとら」となっております。今更ですが。
あとタイトルに前編とあるように、次回も第四夜となりますのでよろしくお願いしますね。
それでは私と白虎さんのちょっとした日常をどうぞ。
7月21日。時刻は7時。
マスターは朝早くから仕事に出掛けていません。マスターが仕事でいない時は、半日以上がガールだけの日常になります。
この日の朝、起床してすぐ私がしたことは服を着ることです。
着るのはそう、メイド服。
たまにメイド服を着て、一日メイドでいる。そう約束しましたので、今日はその日にしようと思った次第。
着終えた私が向かったのは、その約束をした相手のところ、そうまだ寝ている白虎さんがいるところです。
とりあえずよくあるアニメみたいに、カーテンを開いて太陽の日差しを当てて起こすという、如何にもメイドっぽい起こし方をしようと思いましたが、そもそも白虎さんの部屋に日の刺すカーテンなどありません。
むむむ。ほかに何かメイドっぽい起こし方はないですかね。
腕を組んで方法を考えてみますが、全く思いつきません。残念ながらこれはもう、体を揺すって起こすしかないようです。
「白虎さん。姫さま、起きてください」
体を揺すると、その感覚に触発されたのか白虎さんの瞼が開きました。
起き上がると、白虎さんはお口に手を当てて小さく欠伸をします。この欠伸ひとつだけでも上品さを出そうとしているのがよくわかりますね。
そして眠たそうな表情で、呆然と私の顔を伺います。
「轟雷……?」
どうやら私がメイド服を着ていることにも気がついていないご様子。きっと意識が覚醒したら、驚くことでしょう。
「おはようございます、姫さま。起床のお時間ですよ」
「おはよう……起こしに来て、どうしましたの?」
白虎さんの問いに、ここは優雅に答えようと、私はメイド服の裾を持ちながら礼をします。
どうですこれ、素敵じゃないですか? え、見えない。そうですよねー。
「今日一日、姫さまのメイドを務めさせていただきます。本日は何なりと私にお申し付けくださいませ」
よし言えた! 如何にもメイドっぽいセリフ! メイド好きのマスターから借りた資料で少しだけ勉強したんです。もう使いこなせる私は天才なのでは!?
「メイド……? て、え? あなたその服、え? あの……え?」
状況が飲み込めないのか、それとも驚くあまりに続ける言葉が思い浮かばないのか、白虎さんは口をパクパクさせています。まるで餌に群がる金魚……いえ失礼、この例えは優雅ではありませんね。
「どうしましたか?」
「あの、その、いいの?」
「はて? 私はあなたにそうすると約束したと思ってたのですが。以前もすると言いましたし。それともご不満でしたか?」
「ううん、違う違うの! その、嬉しくて」
白虎さんが紅潮したまま視線を逸らします。
なんですかその可愛い反応は。ちょっと抱きしめたくなってしまうのですが。
あれ、もしかして私プリムさんのことを言える立場の人ではないのでは?
でもまあ仕方ないですよね。可愛いんですから。可愛いは正義。そうは思いません?
「あの……それじゃあ今日はよろしく」
「はい! 今日一日よろしくお願いします」
私と白虎さんは笑い合います。
「ではまず今日は何を致しますか?」
「その……なんでも聞いてくれるのよね?」
「はい、なんでも」
ん? なんでも?
まさかプリムさんとローズさんみたいなことをしてほしいとか、そんなことないですよね?
それは困ります。嫌ではないですけど困ります。
「その……朝の散歩に付き合ってほしいの」
「散歩、ですか?」
はて、白虎さんが毎朝散歩しているとの情報は無いのですけれども。
「私ずっと外を歩いてみたくて。でも一人だと、心細いから……」
まあ確かに。私たちガールは人より何倍も小さいので、外を出歩くのはそれ相応の危険が伴いますからね。散歩する猫に襲われたり、散歩する犬に襲われたり、登校時の自転車に轢かれそうになったりといったことが起こる可能性もありますし。
まあここで暮らすガールの一部には普通に出歩いている方もいますけど。アルテナさんに至っては空飛び回ったりもしてますし。
でも普通は心細いですよね。
それにしてもなるほど。だから白虎さんはよく外を眺めては黄昏ていたんですね。言ってくれればすぐにでもお付き合いしたんですけれども、迷惑になると思って言いづらかったのでしょう。
「なるほど、わかりました。本当は念のためマスターにも同行してもらいたいですが、いないので仕方ありません。家の周りを少しだけでもいいのであれば、参りましょうか」
「ええ、それでいいですわ。その、ありがとう轟雷」
「姫さまの要望であればなんでもお受けいたしますよ?」
なんか少し楽しくなってきましたよ。
マスターの部屋を出て、私と白虎さんは玄関へと向かいました。
マスターの家はちょっと変わっていて、玄関口の横に郵便受けがあります。その郵便受けは、ハガキなど投函されるものが落ちないようにするためか靴を収納する棚の上あたりにあります。大きさは丁度私たちが四つん這いになって通れるくらいです。
流石に玄関の鍵を開けるわけにもいかないので、ほかのガールの方たちもそこから外出しているようです。
「よいしょっと。姫さま、どうぞ手を」
郵便受けに登り、白虎さんに手を差し伸べます。
白虎さんはまだ状況に慣れないのか、少し戸惑いながらも差し伸べた手を握ってくれます。
「それじゃあ引き上げますよ。せーの!」
「んん……っしょ」
白虎さんを引き上げると、郵便受けの中へと入ります。
なんだかトンネルを潜るみたいでワクワクしますね、これ。
「先に下りますので、後から来てくださいね」
「ええ、わかりましたわ」
郵便受けから地面までそれなりの高さがあります。ちょっと怖い気もしますが、大丈夫。着地をミスしなければ問題ありません。
「とうっ!」
意を決して、郵便受けから飛び降ります。そして着地はシュタッとヒーロー着地。これちょっとやってみたかったんですよね。メイド服だとやり難かったですけど。
「白虎さん、いいですよー!」
「えっと、それじゃあ、えいっ」
えいっ、ですって。可愛いですね。
と、そんなこと考えている場合じゃないですね。
落下してきた白虎さんの体をキャッチしなければ。
「オーラーイ、オーラーイ、はいキャッチ!」
難無く白虎さんの体をキャッチします。これもメイドの仕事ですね。やはり私、メイドの才能があるのでは?
「ありがとう、轟雷」
「姫さまのためですから」
「ええ。でもちょっとこの格好、恥ずかしいかもしれませんわね……」
「へい?」
この格好と言うと、お姫様抱っこの状態のことでしょうか。たまたまキャッチしたらこの格好になっただけなんですが、恥ずかしいですかね。私は別になんともないですが。
「そうですかね?」
「なんだかその……いえ! なんでもありませんわ! 早く行きますわよ!」
そそくさと降りると、白虎さんは階段を下りて歩道へと向かいます。
一瞬だったのでわかりませんが、なんか白虎さんの顔が真っ赤だったような。気のせいでしょうかね。
私も階段を下りると、待っていた白虎さんがふと手を差し出してきました。
「あの……手を繋いでくださる?」
あ、気のせいじゃなかったです。白虎さん今すごく顔が真っ赤です。
先程も心細いと言っていましたし、気弱なところを見せて恥ずかしいのでしょう。
「はい、かしこまりました姫さま」
私はそっと白虎さんの手を握ります。すると白虎さんがより一層強く握ってきました。離れ離れになると危険だから、でしょうか。
私は安心させるために、優しく微笑みかけます。ここでしっかりとフォローするあたり、やはり私は完璧なメイドですね! 素晴らしい。
「どちらに参りますか?」
「えっと、そうですわね。そっちの小道を往復で、どうでしょう?」
「わかりました。では参りましょう」
お淑やかに答えると、白虎さんの手を少し引きつつ左へと曲がります。
マスターの家と左隣さんの家との間には、細い脇道があります。この道は地面に石がゴロゴロと転がっており、人が歩くとジャリジャリ言います。私たちは小さいので言いませんけど。
その脇道を、私と白虎さんは手を繋ぎ横に並んで歩きます。まさにお散歩という感じです。
この道であれば自転車も通りませんし、それなりの安全は確保されているでしょう。
「その、ありがとう轟雷。私のわがままに付き合ってくれて」
「いいですよ。そういう約束ですから」
「本当は分かってるの。私はお姫様じゃないって」
おや、急にしおらしい話をし始めましたねこの人は。ここは何か慰めの言葉でも言うべきでしょうか。
「憧れているんですよね? お姫様に」
「えっ?」
「ふふふ、隠さなくてもわかりますよ。だって朝から姫さま、口調が定まってないじゃないですか」
私に言われて気がついたのか、白虎さんは思わず口に手を当てます。
いつもどんな時でもお嬢様のような口調をしている白虎さんですが、今朝は時折素の話し方に戻っていました。おそらくあれが本当の話し方で、普段のお嬢様口調は演技のようなもの、なのでしょう。
「どうして姫さまがお姫様に憧れているかはわかりませんが、私は別にそういうのがあってもいいと思いますよ? 私たちは人ではないですけど、人と同じように心があるんですから」
お? 我ながら今私、いいこと言いませんでした? これは名言間違いなしですね!
きっと何々大賞を受賞するほどの名言です。サインを要求するなら今のうちですよ?
「そう、よね。ううん、そうですわよね」
「だから今日はうんとお姫様気分を味わってください」
「感謝しますわ、轟雷」
白虎さんがにっこりと笑います。うんうん、実に可愛い笑顔ですね。守りたいこの笑顔とはこのことを言うのでしょうか。
さて、しばらくして漸く私たち脇道の端にたどり着きました。ここでUターンして家に戻れば、散歩は終了です。
「では帰りましょうか、姫さま」
「ええ。あまり遠出して迷子になると危ないですものね」
そう言って踵を返したときでした。
「あれ、なんか白いモフモフが道のとこに……」
「にゃあ。猫ちゃんですわね」
私たちの視線の先に、白い毛の猫がいました。
「これ、ちょっとマズイのでは?」
「マズイですわね」
確か猫って小さくて動くものに反応しやすいんでしたよね。となると私たちって格好の獲物では?
しかもめっちゃこっち見てるんですけど。これめちゃくちゃピンチですよ。ワーニングワーニング。頭の上にビックリマークが出て敵襲だと叫びたいくらいの。
動かなければ大丈夫でしょうか?
でもそれが却って猫が近づくきっかけにならないとも限りませんし、咥えられてご近所さんにこんにちはなんてしようものなら大変なことですし。
「ど、どうしましょう姫さま」
「どうしようも、動くわけにも行きませんわよこれ」
「ですよねー。動いたら追ってきそうですし」
二人して困り果てていた時でした。
「やっほー、猫さん。今日も遊ぼー」
突然飛行ユニットを装備したアルテナさんが、白い猫の前に下りてきたのです。
「あ、アルテナさん!? 危ないですよ!」
思わず私は声をあげてしまいます。
「あれ、どうしたの轟雷? それに白虎も一緒じゃん。なになに? デート?」
「で、デートじゃないですわ! メイドとの、そうメイドとのお散歩をしていましたのよ!」
「いやそれよりアルテナさん! 危ないですって!」
「危ないってなにが?」
「その白い猫ですよ、猫! 襲われたらどうするんですか!」
アルテナさんは小首を傾げると、飛んで猫の頭の上に乗りました。
「大丈夫だよー。この子私とよく遊んでるから。ねー?」
「ねー? って、大丈夫なのかしら、あれ本当に」
「わ、わかりません。確かに大人しくしていますけども」
猫の頭を撫でるアルテナさんを見て、私たちは顔を引きつります。アルテナさん恐るべし。
「ほら、二人もこっち来なよー」
「い、いえ私たちは遠慮しておきますわ」
「え、ええ。確かに可愛いと思いますけど、ちょっとスケールが……」
「えー、こんなに可愛いのに。もしかして怖いの?」
アルテナさんの問いに、私と白虎さんはぶんぶんと頭を縦に振ります。
いやだって怖いでしょう普通に。
例え人間でも超巨大な猫が出たらパニックになること間違いなしですよ。中には可愛いって言って写真をSNSに投稿する人もいるでしょうけど。
「しょうがないなぁ。じゃあ道から離れてもらうからちょっと待っててー」
そう言うと、アルテナさんはゆらゆらと猫の目の前で飛行し始めました。
それに釣られて猫も、アルテナさんの動きを追って頭を動かしています。
そして突然バッと跳びかかりました。
「危ない!」「危ないですわ!」
思わず二人同時に声を上げてしまいますが、一方のアルテナさんはそれを涼しい顔でヒラリと躱しました。
「ほらほらー、こっちだよー」
そしてまたゆらゆらと飛んで、猫が跳びかかって、躱してはまたゆらゆらと飛んで、猫が跳びかかってを繰り返しました。
気がつけば脇道に猫の姿もアルテナさんの姿も消えてしまいました。
思わず唖然と立ち尽くす私達でしたが、顔を見合わせるとなぜか堪らず吹き出してしまいました。
「アルテナさんってば、凄いですね!」
「本当ですわね。今のうちに帰りましょうか」
程なくして、私たちは無事にマスターの家へと帰ってきました。
そして二人また顔を見合わせて笑います。
まだまだ一日が始まったばかり。これは楽しい一日になりそうです。
どうも。いつも通り、マスターのマスターによる、マスターのための後書きコーナーです。
たまに家のベランダに白い猫が座ってることがあるんですが、なるほど、アルテナが遊んでたから来るようになってたんですね。なるほど。いい子じゃないか、あとで撫でてあげよう。
完全なるうちの子の日常な感じのこの作品を見てくださってる方がいてくれているので、うちの轟雷も喜んで続きを書いています。皆さま、どうもありがとうございます。
さてさて、今回は1日メイドの朝起きてからの話でしたが、次回はどのような事をしていたのか気になりますねぇ。私も書き終わってからじゃないと分からないので、気になります。
それではここまでにして、次回でまたお会いしましょう。