サーヴァント召喚のために触媒を求めてデュエルする話 作:紅緋
……何で文字数3万超えたかなぁ…(これだけのターン数なのに)
あとソリティア注意。
※①作者としてはギャグとして扱っている部分がアンチと受け取られかねないかもしれないので注意
※②某カードを強制効果だと思っていましたが任意でした。非力な私を許してくれ…
「ぅ…ぁ……ぐっ、ぅ、あぁ――あぁあああぁああああぁああぁぁっ!!!」
カルデアに1人の少年――藤丸立香の慟哭が木霊する。
膝は地に屈し、振り上げた拳をがむしゃらに床へ何度も何度も叩きつけていた。
痛みなど知ったことではないと思えるほど、渾身の力で怒りをぶつける。
掌底は真っ赤に腫れて薄らと血が滲んでおり、常人であればその痛みでこの愚かな行為を止めるだろう。
だが、それでも藤丸立香の拳は止まらない。
1回、2回と叩きつけた時はまだ正気だった。
その時はちょっとイラついただけだと自分に言い聞かせて。
5回、6回と叩きつけた時に焦燥を覚えた。
いい加減に出てくれ、出ろよっ、呟き動悸が激しくなった。
10回でも20回でも繰り返し行った時に狂い始める。
藤丸立香が持てる力全てを、それこそ文字通り尽力した――が、結果は惨敗。
一体幾つの石を割ったのだろうか。
一体幾らの額を突っ込んだろうか。
一体幾つの触媒を用意したろうか。
それでも、勝てなかった。
いや、勝てなかったという言葉は相応しくないだろう。
正しくは――
「何でぇっ!? 何でっ、何で何で何で――何で、マーリンが出ないんだよぉおおおおおおおぉっ!!」
――出なかった、である。
「次こそ…! 次こそ召喚してやるぞマーリン…!」
「先輩、もう止めましょう……流石に家賃分の石を投入して出なかったのですから、今日の召喚は止めるべきです」
「止めるなマシュ!! 次は出る! いや、次で出すんだ! さっきまでの○○○連で出なかったオレの石を無駄にする訳にはいかない! しちゃあいけないんだっ!」
「先輩、ガネーシャ神さんとアルジュナさん、ワルキューレさんやバーサーカーのランスロットさん、ステンノさんにパールヴァティーさんとカーミラさん、ジークフリートさんが8人も来て、限定星5礼装7枚、限定星4礼装18枚、限定星3礼装29枚も出ているから充分ですっ! これ以上は(先輩の私生活が)危険です!! それにもう召喚するための石がありませんっ! 今週末の給料日まで耐えて下さいっ!!」
「イヤだっ! オレは、オレは――負けたくないぃいいいいいいぃっ!! まだ、まだ石を割って召喚するんだっ!」
地下デュエル場でリスペクト精神を放棄し、勝利のみを渇望する人間のように立香は諦めなかった。
格好悪く言えばその場で大の字に寝っ転がって手足をバタつかせ、駄々っ子のように暴れているだけなのだが。
「その召喚のための石がないので無理ですっ! さぁ、早く2019年夏イベの周回に行きますよっ!」
「MA☆TTE!! これは(召喚)事故だっ! 次こそは――」
「待ってもだってもありませんっ! ほら、周回でスタンバイしているアキレウスさんと孔明さんと司馬懿さんと(フレンドの)スカディさんを待たせては失礼です! 無理矢理にでも連れて行きますよっ、先輩!」
「うわ、やめろ、はな、離せ! HA☆NA☆SE!!」
しかし、悲しいかなデミサーヴァントであるマシュの腕力に一般決闘者の立香が敵うハズもなく、首根っこを掴まれてズルズルと召喚ルームから遠ざかっていく。
道中、カルデア中のサーヴァント達からは生暖かいような、可哀想なものを見るような、道端で求婚し恥を晒している同期を見ているような、何とも言えない眼差しを向けられていたことは言うまでもない。
結局、立香はこの日マーリンを召喚することはできず、水着ピックアップ1どころかピックアップ2用に取っておいた石まで無惨に溶かしてしまった。
召喚ルームには触媒として用意しておいたであろう、某ファイナルでファンタジーなゲームシリーズ7作目、某イレギュラーをハントするロックでマンなシリーズ8作目、某デジタルなテントウムシのモンスターが出ているアニメDVD、某魔界の王を決める胸熱王道少年漫画、大正時代の剣士が異形の鬼と戦う漫画の単行本でマーリン声の剣士が表紙になっている5巻と、多くの物が散乱したままだった――。
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「フレンドのスカディさんはアキレウスに【原初のルーン】、孔明先生は【軍師の忠言】と【軍師の指揮】。アキレウスは【彗星走法】使用後に宝具。
次、アキレウスは【宙駆ける星の穂先】、孔明先生はアキレウスに【鑑識眼】使ってから〈オーダーチェンジ〉で控えの司馬懿師匠と交代。司馬懿師匠はそのまま【軍師の忠言】。アキレウス、宝具撃って。
次。司馬懿師匠はアキレウスに【宣帝の指揮】、フレンドのスカディさんは【凍える吹雪】で敵を弱体化後、アキレウスに【大神の叡智】。アキレウス、宝具ぶっぱ」
――10分後。
そこには無表情で黄金色の林檎を齧りながら、淡々とサーヴァントに命令する立香の姿があった。
今、彼とそのサーヴァントが居るのは『ファラオカジノ』。
術エネミーのみ出現するクエストで、ドロップアイテムは『ドリームチップ』と『ミラクルトランプ』。
1、2wave目は幸運なことにエネミー3体配置。3wave目は基本2体で時折3体。
この敵の布陣、ドロップアイテムを確認するなり、立香はボソリと呟いた。
『――アキレウスカディ孔明司馬懿システムの出番だな』
※そんなシステムはない。
スケルトン? カモだ、轢け。
スフィンクス? うるせぇ、轢き潰せ。
ミドキャスさん? 術秘石落とせオラァ!!
ヒャッハー、と半ば某世紀末系モヒカンよろしくピラミッド内を嬉々として3頭引きの戦車で駆ける韋駄天小僧ことアキレウス。
春頃(2019年3月~2019年5月)に孔明と司馬懿がカルデアに来たお陰で、フレンドのスカディのお力込という条件はあるものの、幣カルデアのアキレウスは宝具3連射が可能となった。
1年前までは『虚数魔術』、もしくはNP50%チャージ系礼装を装備し、フレンドの孔明やスカディ頼りに運が良ければ2連射が限界だったのだ。
それがなんということでしょう。孔明、司馬懿という名軍師2人に加え、スカディ(フレンド)が付与するNPは合計で驚愕の130%。偶然手に入れた『カレイドスコープ』との相性もバッチリであり、お陰様で宝具3連射ができるようになったではありませんか。
アキレウスはこの3連射が相当嬉しいのか立香が『周回だよー』と誘うと、まるで大型犬のようにハシャぎ回るというのだから微笑ましい。
なお、このアキレウス、冬木で召喚して以来、フランスにもローマにもオケアノスにも、アサシンばかりのロンドンや、アメリカ、意外とアサシンの多かったキャメロット、バビロニアでもお世話になった最古参のサーヴァントである。
新宿はもちろん、アガルタではエルドラドのバーサーカーに追いかけ回され、下総国では武蔵ちゃんを横目に剣豪勝負、セイレムでも何やかんや連れ回し。
ロシア異聞帯では象さんとのライダー対決、2018年ハロウィンイベ前に駆け込んだ北欧異聞帯ではスカディ様の見た目とスキルに惚れて爆死した敗北者となりつつ、中国異聞帯では虎戦車とのサーヴァント&パンツァー、インド異聞帯では医者とケイローン先生談義で盛り上がった。
そんな最初期の彼との付き合いも1年と3ヶ月。
今では立派に育ち、レベルは100マックス!
スキルは全てレベル10マックス!
金フォウくんによるステータスマックス!
宝具レベルはマックス! ――の一歩手前の4。
絆もついさっきレベル11になった――あっ、石30個ありがとう。
アキレウスは間違いなく、弊カルデアのエースである――チクショウ、またマーリン出ねぇ!
「まっ、マスター……今出ているミッションは全部クリアしたから充分ではないか?」
「そっ、そうだぞ我が弟子っ! もう林檎を齧ってまで周回する必要はないと思うのだが!」
クエストの合間にガチャを回しては苛立つ立香に三国志系軍師のイギリス人義兄妹が恐る恐る声をかける。
既に30回以上ピラミッドを訪れては、韋駄天小僧にチャージ&バフをかけ続ける苦行が幾度も続けば流石に疲労が溜まるというもの。
現に義兄上は依代が貧弱過ぎた反動か、義妹に肩を借りている始末。
何が悲しくてラスベガスまで来て、ピラミッド内を爆走する戦車を支援しなければならないのか――本音を言えば、孔明は純粋にゲームを楽しみたいし、司馬懿はカジノで有り金全て溶かし尽くした孔明の姿を観て愉しみたいだけなのだが。
「何言ってんだよお二人さん。せっかく宝物庫周回面子のままイベントで暴れられるんだ。もっともっと暴れてやろうぜ! なぁマスターっ!?」
「うん、(この後引く予定の)マーリンのためにピラミッドで少しでもQPと術秘石を稼いでおきたいから、もう林檎1個分周回しよっか」
「「「ひぇ…!」」」
しかし、バトルジャンキーなギリシャの大英雄様とマーリンガチャ爆死の大敗北者は引かぬ媚びぬ帰らないの精神でピラミッド滞在延長を決定。
軍師2人に加え、もう30回以上戦車に轢き殺されているケモミミと豊かな胸部が大変けしから素晴らしいミドラーシュのキャスターは揃って小さい悲鳴を上げる。
「はい、じゃあさっきのパターンもう1回。あと3周だけ頑張ってこー」
来週の日曜日のマーリンのために少しでもQPと素材を稼がなくてはいけないのだ、と爆死しかけている大敗北者(マスター)は焦点の定まっていない目で淡々とアキレウスにピラミッド内爆走を命じた。
なお、あと3周だけと言いつつ、『20APもったいないと思ったんでな、よかれと思って追い林檎入れておいたぞ!(CV:ナポレオン)』と通りすがりの平行世界のフレンドが気を利かせ、追加でさらに4周させられた孔明と司馬懿は涙目だったと、礼装要員でクエストに同行していたマシュは語る。
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「こ、これが周回過労か……中々に堪えるじゃないか義兄上…」
「こんなものはまだ序の口だ……君はまだ魔神柱(バルバドス)150本伐採を経験していないだろう? マスターの端末がアンド○イドだったからあの本数で済んで良かったものの、機種変したら200本は伐採していた…」
『一区切りついたから』と、三国志系軍師のイギリス人義兄妹が仕事を終えた(解放された)のは深夜2時半。
今までは日がな宝物庫でNPチャージャー要員、たまに高難易度で活躍する程度だった司馬懿にとって、終わりの見えない周回は初めてだった。
それ故、つい義兄上に愚痴を零すが、彼女よりも2ヶ月ほど早く召喚された孔明にとっては疲労困憊も慣れた――つもりだが、やはり辛いものは辛い。つらみ。
思えばロンドンでの魔神柱伐採からマスターはおかしくなった。
当時は別世界線のマスターに『魔神柱なんぞ、Wマーリン&黒聖杯三蔵ちゃんでワンパンよ――もっと寄越せバルバドスぅ…!』と助言を受けてから、圧倒的パワーとスピードに拘るようになったのだ。一時期のガブリアス氾濫のような。
魔神柱伐採では三蔵&シトナイにマーリン(フレンド)と共にNPを配り、宝具2連打ァ! していたが、相手から何かしらの攻撃力低下を受けると倒しきれないことが多々あった。
それでもマスターはワンターンキゥ…に拘り、最終的に三蔵&マルタ&孔明withマーリン(フレンド)という、全体弱体化解除と単体防御力低下、NPチャージにバフ、宝具1発目『石兵八陣』でさらに防御力を下げ、宝具2発目にオーバーチャージした『愛知らぬ哀しき竜よ』でもっと防御力を下げ、宝具3発目で『五行山・釈迦如来掌』による強引なワンターンキゥ…を達成した。余計に時間が掛かっているのでは?
あれから某サテライト民のように攻撃力とレアリティとレベルに執着するようになった立香は『マーリンかスカディが来たら回す。それまで召喚(ガチャ)は我慢』と、事あるごとに呟くようになった。
確かにマーリンのサポートによる火力向上があれば、より戦闘(周回)は効率的にこなせる。
実際、立香が召喚したサーヴァントの主力はバスター宝具とクイック宝具に2極化しており、ヴェルズデッキを触媒としたエースのアキレウス、≪青眼の白龍≫を触媒にシグルド、≪超銀河眼の光子龍≫を触媒に福袋から出てきた天草四朗、気付いたら3人――今回のすり抜けで5人になったワルキューレ、冒涜的TRPGのルールブックが触媒となったBB(水着)、クリスマスにお馴染みのモビルスーツ、ケンプファーのガンプラを触媒としたブラダマンテ――等々、随分な偏りだ。
ちなみにアーツ宝具は平行世界の先輩マスターのゴッドハンドにより降臨した姉を名乗る不審者(水着ジャンヌ)と、『カレイドスコープ』とセットで来た酒呑童子、初単発呼符、そして数多のすり抜けで『よき引きです』と言いながら4回もの召喚に応じたケイローンしかいない。
なお、立香の掌は天元突破するドリルにでもなっているのか、ついこの間も『アルジュナ・オルタぁああああああぁぁっ!!』と叫んでは、身銭を削って
インドの渋谷凛(3代目シンデレラガール)こと、アシュヴァッターマン5人付きで。
お陰様(その所為)で弊カルデアでは急激なバスター宝具サーヴァントの増加に伴い、立香は余計にマーリンを欲するようになった。
そんな著しく頭が悪く自制の効かない立香だが、それでもサーヴァントを重用し、今も別世界線の先輩マスター、後輩騎空士、先輩プロデューサー、後輩提督、先輩・同級生・後輩決闘者達と共に人理修復やら異聞帯切除に精を出している。
彼の負担を――正しくは孔明自身の負担を減らせるように、何かマーリンの
一番は触媒となるものが良いだろう。
孔明も依代自身が過去に征服王本人の聖遺物を用いて召喚に成功したことがある。
なればマーリン本人が身に着けているもの――杖でもぶんどってしまえば良いのではと考えた。
今回の特異点では何かしらマーリンが出てくる。
つまりこのラスベガスにあのロクデナシ魔術師が滞在しているのだ。
しかし、協力してくれるゲストサーヴァント達とは異なり、常に立香の近くに居る訳ではない。
ならば何とかしてひっ捕らえて、杖でも髪の毛でも衣服でも、あのくそったれ魔術師が裸になるまでひん剥いてしまえば良いのでは? そう孔明は灰色の脳細胞で考える。
問題はどうやってあのクソ野郎を捕まえるかだ。
生憎、触媒のことや次の周回のことで頭がオーバーフロー気味になり、中々に良い案が思い浮かばない。
あーでもない、こーでもないと眉間に深く皺を寄せ、ぶつぶつと呟く孔明。
「ふむ……どうやら依代殿は物事を複雑に考え過ぎでは?」
「複雑? いや、私は最善を考えているだけだライネ――いや、今は司馬懿殿か」
そんな孔明を見かねてか、さらっと依代の少女と
何気に人格2つを交代して周回で適度に休息できることが羨ましいと思いつつ、孔明は司馬懿の言に耳を傾ける。
「依代殿、ここはラスベガスだ。別に海を渡れ、山を登れ、国を超えろという話ではない――あくまでも1つの街に過ぎないことは理解しているだろう?」
「それはそうだが……だが、街というよりも都市だ。無礼を承知で言うが、司馬懿殿が居た時代よりも建造物も人も多い。その中から、あの頭お花畑魔術師を探すのは至難の業だ…」
「確かにそうだ。しかし、別に依代殿1人で探せと言っている訳ではない。ただ当たり前のように陣を敷き、当たり前のように策を弄する――依代殿にはこの言葉だけで充分だと思うが?」
「簡単に言ってくれるな。無論、私とて1人で捜索するつもりは毛頭ない。だが、協力してくれる者がそう簡単に居るか――むっ、待てよ……そうか、そういうことか司馬懿殿!!」
ガタっ、孔明は背を預けていたソファーから飛び起きる。
その表情は周回明けだというのに、妙に晴れ晴れしい。
そんな孔明の顔を見て、司馬懿も不敵に笑みを浮かべる。
司馬懿が言わんとすること。
孔明が持つ力とその手立て。
それら全てが’’歪んだ’’パズルのピースのようにピタリと合致したのだ。
気分が高揚しないハズがない。
「よし、そうと決まれば善は急げだっ! 私は彼に協力を仰ぐ! 司馬懿殿は――」
「無論、わかっているさ。なに、これも俺とこの依代のライネス嬢のため。多少の無茶なら働くさ」
「感謝するっ!!」
笹食ってる場合じゃねぇ、と飛び跳ねるパンダのように孔明は脱兎の如く周回待機部屋から目的の人物の元へ駆け出した。
孔明のそんな様子に肩を竦めながら、司馬懿はやれやれと別途の協力者の下へと歩を進める。
当たり前の布陣。
当たり前の策謀。
当たり前の人員。
条件は全て整えられる。
あとは実行するだけ――我ながら、完璧な策だ、と司馬懿は内心自分が恐ろしくさえ感じた。
――尤も、その作戦を目にした者の大半は『これ本当に三国の名軍師と言われた司馬懿と孔明の策?』と首を傾げるのだが。
何はともあれ、こうしてカルデアのNPチャージャー2人は、さらなる周回面子にグランドロクデナシ頭お花畑クソ野郎魔術師のマーリンを
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「いやぁ、ベガスは楽しいね」
中天。幣カルデア周回メンバーから散々に罵られたマーリンだったが、当人は『カジノ・キャメロット』に居ない間は呑気にラスベガスを満喫していた。
街中を闊歩しては露店の食べ物に舌鼓を打ち。
ふらりとカジノに寄っては適度に賭博を打ち。
立香達が打倒水着剣豪に軍資金の調達や鍛錬をしている間、このくそったれ魔術師は優雅にのほほんと日々を過ごしていた。
「さぁて次はどこに――ん?」
いざ次へ、と歩を進めようとしたマーリンの足が止まる。
何か――違和感のようなもの、具体的に言えば何かに見られているような感覚があったのだ。
ふと辺りをキョロキョロと見回してみるが、昨日までのラスベガスの街並みと何ら変わりはない。
強いて言えば、気持ち少しだけ人が多くなった程度だろう。
だが、この違和感をただの違和感で終わらせないのが冠位級魔術師たるマーリンだ。
即座に【千里眼】を使い、今より数時間、ないしは数分後の未来を視る。
逃げ惑う人々。
響き渡る悲鳴。
飛び交う怒号。
荒れ狂う街並み。
そしてその元凶、および周囲の人物を視るなり――
「うん、これは逃げるが勝ちかな」
――マーリンは駆け出した。
ダバダバダバダバー、とコメディ漫画のようなノリかつ、すたこらさっさと軽やかな足取りで根城にしているホテルへと向かう。
無辜の人々が巻き添えを食らわないよう、人通りの少ない道を選んでは疾風の如く駆け――
「……あれっ?」
「――居たぞぉ! マーリンだぁ!! 王に知らせよぉおおおおっ!!」
――偶然、路地裏を歩いていた1人のサーヴァントに見つかってしまう。
これはマズイとすぐに踵を返し、即座に別ルートに変更。
無論、先ほどのサーヴァントが自分を追って来られないよう、スタント映画よろしくゴミ箱を投げつけた上、魔術で不可視の壁を張るなど抜かりはない。
「うーん、妙に街中に殺気だった空気があったと思ったらこれかぁ」
何故追われるか理由は不明だが、それでも目的は自分であるとマーリンは千里眼ですぐに察することができた。
水着剣豪の刺客か、それとも円卓縁の者か。はたまた新たな勢力の者だろうかと、逃げながら思考するマーリン。
「こっちだっ! 追えっ!!」
「ライダークラスの奴は先回りしろ! 相性有利を活かすんだ!」
「アサシンクラスは無理せず監視っ! 相性不利を考慮しろよ!」
しかし、どうにも追ってくるサーヴァントには全て見覚えがない。
この世界の唯一のマスターたる立香と契約しているサーヴァントでもなければ、彼が時折平行世界のマスターから借り受けるフレンドのサーヴァントでもないのだ。
力量こそはまばらだが、たまに我らが騎士王に匹敵するほどの力を持ったサーヴァントにまで遭遇するのでたまったものではない。
とりあえずはあの手この手でのらりくらりと避け、何とか逃走は続けられる――
「――いや、本当に数が多いねっ!?」
――が、追手の数は減るどころか増えるばかり。
既に立香と契約しているサーヴァントの数はゆうに超え、何百どころか何千、下手をすれば何万というサーヴァントが自分を追っているのではないかとマーリンは焦燥。
こんなサーヴァント(実装されて)居たかなぁと不思議に思いながら角を曲がろうとし――
「――AAAALaLaLaLaLaie!!」
「危なぁっ!?」
――征服王に轢き殺されかけた。
キャスターらしからぬ華麗なバックステップでマーリンは何とか轢☆殺を緊急回避。
相性有利の特攻なし全体宝具威力1位は流石に洒落にならない。
しかも最近強化されて名称も変わった【制圧軍略】もしっかりと発動済みだ。
「おっと、仕留め損ねてしまったわ」
「いきなりの挨拶だね征服王…」
涼しい顔して何言ってんだこの略奪王、と内心で思いつつ、マーリンは現状をある程度理解した。
自分を追ってきたサーヴァント達はこの征服王イスカンダルの宝具≪王の軍勢≫によって連続召喚されたものだろう。
本来は固有結界というトンデモ宝具だが、夏の特異点、そして水着剣豪七色勝負という、ちょっぴり通常とは異なる状況なので、少し変わった使い方ができたことも頷ける。
「しかし何でまた私を? それに些か乱暴じゃないかな? これが征服王のやり方なのかな?」
「うむっ! そこな魔術師よ、身包みを剥がされてゆけい!」
「言葉のキャッチボールをしようじゃないか! まるで意味がわからないよ!?」
再度何言ってんだこの略奪王、とマーリンは声を荒げた。
別に『伝説って?』、『ああ!』というほど意味不明な質問でもないのに、こいつは何を言っているのだとなってしまう。いや本当に何言ってんだ。
「むぅ、話すと長くなるのだがなぁ……それでも良いか?」
「いいとも。私もよく王の話をしているからね」
「中国の軍師殿が『マーリンの身に着けてる物を触媒にするから、≪王の軍勢≫で人海戦術して、マーリンの何かを持ってきたらアキレウスの戦車に乗せてくれる』と口利きをしてくれたのだ」
「1文っ!? 別に長くともなんともないじゃあないか!!」
ホント何言ってんだこの王様は、と驚愕と失望と蔑みといとしさとせつなさとその他諸々を含めた表情になるマーリン。
しかも中国の軍師が征服王に頼み込んだということは、周回で自分を巻き込むつもりなのだろうということも手に取るようにわかる。
それは嫌だ。平行世界の自分は既にここのマスターのフレンド達にスキルマックス! させられた挙句、種火・宝物庫周回はもちろん、高難易度やストーリー、さらには素材集めにまで駆り出されてしまう。
そんなマスター出身国の下種くてブラックな労働環境で働きたくはない。
むしろそんな未来がわかっているからこそ、あの○○○連の召喚にも応じなかったのだ。
「征服王、君には悪いけど拒否するよ」
「ならん! 余がアキレウスの戦車に乗るため、杖の1つか髪の一房、もしくは衣服の一部でも強引に譲ってもらうぞ!」
「この略奪王ゥ! ちょ、ちょっと待ってくれ! 君たちのマスターは私を召喚したいから触媒が欲しい、君はアキレウスの戦車に乗りたい! それは合ってるかな!?」
「うむっ! 概ね合っている!」
「じゃあこうしようじゃないか! 今から君たちのマスターを呼んできてくれ。そして私が戦闘以外の方法で勝負する。君たちが勝てば、私は杖だって服だって何だって望む触媒を譲るし、私からもかの最速の英雄に君を戦車に乗せてもらうよう頼む。私が勝てば触媒は渡さない――それでどうだろうか征服王?」
「乗った!! よし、誰かマスターと軍師殿を呼んできてくれ! マイルームで英気を養っているハズだ!」
よし、思ったよりも単純で助かった、とマーリンはホッと胸を撫で下ろす。
周回メンバーの中国軍師2人はどうかわからないが、少なくともこれで乱暴なことはされないだろうと安堵した。暴力反対。
問題は自分から提案した戦闘以外の勝負だが、これには勝算があるから故の提案だ。
マスターが日本に居た時の趣味を何となく目を通したらハマったが、自分の冠位級魔術師としての力があれば負けることは万が一にもない。
何たって自分は魔術師、それも冠位級のだ。
例えマスター相手であっても負ける気など毛頭ない。
そんな考えを浮かべながら下品で厭らしい笑みを浮かべるマーリン。
それをたまたま通りかかった水着の聖女(拳)と純潔の狩人(別側面)と鞍馬の山の天狗とリヴァイアサンの4人から同時に『そんなんだからみんなに嫌われているんですよ』と内心で思われていたことは言うまでもない。
― ― ― ― ― ― ― ―
「見つけたぞグランドクソ野郎っ!!」
「ははっ、随分な挨拶じゃないかカルデアのマスター」
呼ばれて飛び出てジャンジャジャ~ン(CV:ナポレオン)、とジル元帥もかくやというほどに目玉がギョロりと浮き出ている立香が現れたのは、先のマーリンの提案から30秒後のことだった。
先日の周回を終え、泣きながら『別のガチャ』を回して召喚したサーヴァントに沢山お食べ、と種火をもりもり食べさせていた真っ最中の立香だったが、イスカンダルの臣下の報告を聞くや否や令呪でアキレウスを呼び出し、戦車に乗って最速で最短でまっすぐに一直線に現場へ急行。
マーリンの姿を見るなり、薄い本(ブックス!)のモブおじさんのように下卑た笑みを浮かべながらそろりそろりとマーリンへと近づいていく立香――
「ぐへへ、さぁマーリン、イベント時空からオレの居るカルデアに来てもらおうか…! 今ならセイバーのアルトリアとヒロインXXが居るから、騎士王も沢山居るぞぉ…」
「いや少ないな君のところ!? 13人中2人じゃないか!」
「黙れ(イケボ)。いいからオレに召喚されろ! 来い! 来て下さい、ホント。いや、マジでお願いします…」
「いきなり低姿勢になられても反応に困るんだけど…」
――だったが、押してダメなら引いてみろの精神で即座に土下座。マーリンは引いている。
「まぁとりあえず顔を上げなよ。君を呼び出したのには話があるからさ」
「王の話? いつもフレンドのマーリンにはお世話になっています」
「違うよ……あと正しくは話じゃなくて提案かな? 今、君のサーヴァントの過労死同盟が1人の軍師様の計で、征服王が宝具を使ってまで私の身包みを剥がそうとしていたことは知ってるね?」
「知らん、そんなことはオレの管轄外だ」
「わぁお、完全に独断だったのかこの策――策? まぁいいや。いやね、流石に華のベガスでこんなにも血気盛んな征服王の臣下達が血眼になって私を探すのはいささか場違いだと思わないかい?」
「何っ!? ロアナプラの神だってベガスに来るんだから、ベガスでは暴力刀傷決闘沙汰など日常茶飯事ではないのか!?」
「ブラックでラグーンな町のことは置いて。というかベガスを何だと思っているんだい!? 君の勝手なイメージを押し付けないでくれ!」
話が進んでいるんだか進んでいないのだか。これだから決闘者という人種は人の話を聞かない。ついでに王の話も聞かない、と愚痴るマーリン。
コホン、と改めて咳払いしてから気持ちを落ち着かせた上で口を開く。
「もう率直に言おう。カルデアのマスター、君と私でデュエルだ。君が勝てば、私の杖なり髪なり明日穿く予定のパンツなり、好きなものを触媒として持って行って構わない。私が勝てば、最低でも石を600個割らないと召喚には応じない。それでどうだろうか?」
「小太郎君っ!! オレのデュエルディスク持って来て!」
「はっ、ここに!」
「判断が早い」
デュエルと言った途端にこの態度、そして準備の早さである。
あまりの早さに遠巻きから見学していた人類史最速の英雄でさえ『恐ろしく早い返事と準備……オレでなきゃ見逃しちゃうね』などと、次回予告で『○○○死す』と言われた側の声帯で呟いていた。
そしてデュエルディスク(ダヴィンチちゃん製)をしっかりと左腕に着け、愛用の60枚デッキと15枚のエクストラデッキを各ホルダーに差し込む立香。
グポーン、とジオニック社製モノアイ駆動音と共にデュエルディスクは問題なく起動。
カードの貴公子にしてオカルトを科学で超越しかねないシグルドの声帯を持った社長のように不敵な笑みを浮かべる立香。
その表情には確かな自信と自身の勝利の絶対的な信頼が表れていた。
「ふぅん……このオレにデュエルを挑んだこと、後悔させてやるぞマーリン! 日々カルデアでシグルド(青眼)と土方さん(レッド・デーモンズ)、天草(銀河眼)にケイローン先生(ヴァレット)、フレンドのカルナさん(真紅眼)やフレンドのオジマンディアス(アルカナ)と日々研鑽しているんだ!」
「多い。というかその時間を魔術なり訓練の時間に充てなよ」
「そんなオレも英霊に負けず劣らずのドロー力、プレイングを手に入れたんだ……マーリン、この勝負――勝たせてもらう!」
「やだこのマスターやっぱり人の話聞いてない」
言葉は不要か、と装甲車にロケランぶっ放してくる神父、もしくは聖杯の泥とは違うナニカの粒子を撒き散らすナニカに乗ったオンドゥルルラギッタ人物のような声が聞こえつつも、マーリンもデュエルディスク(杖)を構える。
神造兵装もかくやとばかりに、マーリンのデュエルディスク(杖)はブッピガァンッ!! と重量感のある効果音と共に変形・展開を繰り返した後に腕へ装着。
いつの間にか出現したメイン、エクストラデッキを含めた75枚ものカードが桜吹雪のように舞い、それら全てがマーリンのデュエルディスク(杖)に収納される。
立香とマーリン。
対峙する2人の周りをイスカンダルの宝具で召喚した臣下達がギャラリーとして取り囲み。
その剣呑な空気に固唾を飲んで見守る
一瞬のような、永遠のような――不可思議な間の中、2人は示し合わせた訳でもなく、同時に声を張り上げた――
「「デュエルっ!!」」
――決闘の始まりである。
「えっと……な、なァみんな、水着剣豪は良いのカイ?」
――水着北斎は泣いていい。
― ― ― ― ― ― ― ―
「私の先攻だ。先ずはこのカード――≪ドラコネット≫を右端のモンスターゾーンに召喚。このカードが召喚に成功した時、手札・デッキからレベル2以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。私はデッキからレベル2の≪ビットロン≫右から2番目のモンスターゾーンに特殊召喚」
「何っ、【サイバース】だと!? マーリンなら【聖騎士】か【X-セイバー】デッキではないのか!?」
レベルとランクとリンクの違いに困惑するデュエリストのような表情で初っ端から立香は驚愕した。
マーリンと言えば円卓。
円卓と言えば、モチーフになっている【聖騎士】、または【X-セイバー】。
立香はそれら2種のどちらかだろうと思っていたのだが、目の前のグランドロクデナシくそったれ頭お花畑魔術師が扱うデッキはまさかの【サイバース】。
アニメシリーズ第6作で主人公が使うシリーズ放送中は強化が約束されたデッキだ。
手札・デッキ・墓地からの特殊召喚手段の豊富さ、連続リンク召喚からの先攻制圧、もしくは後攻1ショットキルを得意としているであろうファンデッカーキラーのファンデッキ。
まさかマーリンが円卓を裏切るなんて、と原典の縁よりも声帯の縁を取ったマーリンに立香は失望した。
「ハハっ、何を言っているんだいカルデアのマスター? 私は冠位魔術師なんだ――ならば、魔術師らしく、
「や、やれるもんならやってみろよ…(震え声)」
「じゃあ遠慮なく。私は手札からフィールド魔法≪召喚制限-エクストラネット≫と永続魔法≪王家の神殿≫を発動。さらにカードを1枚セットするよ」
「……えっ…?」
何だそのカード? と立香の目が点になる。
≪召喚制限-エクストラネット≫はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚したら、
【堕天使】や【巨神竜】といったメインデッキのみで戦えるデッキならば牽制という意味で使われなくもないが、エクストラデッキからのリンク召喚を主体とする【サイバース】では絶望的なまでに相性が悪いハズだと立香は記憶していた。
加えて伏せたターンに罠カードを1度だけ使用することができる≪王家の神殿≫を使ったことも不思議でならない。
通常の【サイバース】デッキはおろか、普通のデッキでも’’特定のコンボ’’を決める時以外に使わることはないカードを何故わざわざ、と疑問は深まるばかりだ。
「それじゃあ先ずは起点から――私は通常モンスターの≪ビットロン≫をリンクマーカーにセット。リンク1の≪リンク・スパイダー≫を左のエクストラモンスターゾーンにリンク召喚。さ、≪エクストラネット≫の効果で1枚ドローしなよ、カルデアのマスター」
「……1枚ドロー」
「うんうん、ドローフェイズ以外でドローしたね――ということで、私は永続罠≪便乗≫を発動することができた。これで私は君がドローフェイズ以外でカードをドローする度にデッキからカードを2枚ドローすることができるようになった訳だ」
「………ゑ?…」
立香の脳が理解を拒んだ。
いや、正しくは理解したくなかった。
自分にドローさせているのはマーリンのカード効果で、その効果でマーリン自身は2枚ドローなどマッチポンプ極まりないコンボだが、それを星5サーヴァントのレベルマックス! に必要な種火より特殊召喚手段が多いと噂の【サイバース】で使う行為、外道にも程があるとさえ感じる。
「まぁまだ発動ができるだけ、効果の適用は次からだけどね。では続けて≪リンク・スパイダー≫の効果発動。1ターンに1度、自身のリンク先にレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚できる。私はレベル1の≪プロトロン≫を特殊召喚」
「あ、あわわわわ…」
「そしてレベル1の≪プロトロン≫でリンク1の≪リンクリボー≫をリンク召喚。君は≪エクストラネット≫の効果で1枚ドロー、私は≪便乗≫の効果で2枚ドロー」
しかし、そんな立香の軽蔑と恐怖を余所にマーリンは淡々とプレイングを続行。
一瞬だけ0枚になった手札はすぐに自身のマッチポンプドローコンボで2枚に増やし、次のリンク召喚の準備を整えていく。
「次。【サイバース】族の≪リンクリボー≫と≪ドラコネット≫でリンク2の≪コード・トーカー・インヴァート≫をリンク召喚。君は1枚ドロー、私は2枚ドロー。同時に≪インヴァート≫の効果発動。リンク召喚に成功した時、手札から【サイバース】族1体を自身のリンク先に特殊召喚できる。私は≪コード・ジェネレーター≫を特殊召喚」
ヤバい。立香は素直にそう思った。
≪エクストラネット≫の効果で自分の手札は順調に増えているが、マーリンはその倍の枚数をドローして手札を増やしていくのだ。
強化解除不可の相手を目の前に嬉々として天草を連れて行ってしまった時のような、通常バフは消せる分だけまだマシな、やらかした訳でもない何とも言い難い表情になる立香。
「おっと、これは良いカードを引いた。永続魔法≪サイバネット・コーデック≫を発動。私が【コード・トーカー】のリンク召喚に成功した時、そのモンスターと同属性の【サイバース】族1体をデッキから手札に加えることができる。同一ターンに同属性はサーチできないけどね。じゃあ続けて効果モンスターの≪リンク・スパイダー≫と≪ジェネレーター≫で、リンク2・闇属性の≪コード・トーカー≫を左のエクストラモンスターゾーンにリンク召喚。≪コーデック≫の効果で闇属性≪マイクロ・コーダー≫をサーチして、≪ジェネレーター≫の効果で≪サイバース・コンバーター≫をサーチして、1枚ドローさせて、2枚ドローするよ」
「1人でやってるよぉ…」
立香涙目。
無理もない、多少の1人回し(ソリティア)であれば、その過程を楽しめる立香だが、これはマーリンがリンク召喚を止めない限り――それこそ、エクストラデッキからモンスターが尽きない限り続く終わりの見えないコンボ。
下手すれば【エクゾディア】でも仕込んでいるんじゃないだろうかとさえ不安に陥る。
「手札の≪マイクロ・コーダー≫は【コード・トーカー】リンクモンスターのリンク素材にする場合、手札からその素材にすることができる。私は効果モンスターである手札の≪マイクロ・コーダー≫と場の≪インヴァート≫でリンク3・地属性の≪トランスコード・トーカー≫をリンク召喚。≪コーデック≫の効果で地属性の≪ウィジェット・キッド≫をサーチして、≪マイクロ・コーダー≫の効果で永続魔法≪サイバネット・オプティマイズ≫をサーチして、1枚ドローさせて、2枚ドロー」
なんなのだこれは、と言いたくなる立香。
まだ途中だが≪エクストラネット≫の効果で自身の手札は10枚に増えた。
だがマーリンの手札も≪便乗≫、≪サイバネット・コーデック≫の効果で7枚に増えている。
いくら何でも数の暴力が過ぎる。
「≪トランスコード・トーカー≫の効果発動。1ターンに1度、このカードのリンク先に墓地から【コード・トーカー】モンスター1体を特殊召喚できる。≪インヴァート≫を蘇生。続けて永続魔法≪サイバネット・オプティマイズ≫を発動。このターン、もう1度だけ【サイバース】族を召喚できる。≪サイバース・ガジェット≫を召喚。このカードが召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスター1体を効果無効にして守備表示で特殊召喚できる。≪ビットロン≫を蘇生」
「ひえっ」
次から次へと減っては増えるモンスター。
召喚権も使ったハズだが、無ければ増やせば良いとばかりにさらに展開するマーリン。
まだモンスターが増えてしまうのかと、生憎と未だに≪エフェクト・ヴェーラー≫や≪灰流うらら≫が引けていない立香は焦燥するばかり。
「お次はこのリンクモンスター、私は≪インヴァート≫、≪サイバース・ガジェット≫、≪ビットロン≫をリンクマーカーにセット。リンク3、炎属性の≪パワーコード・トーカー≫をリンク召喚! ≪コーデック≫の効果、≪サイバース・ガジェット≫の効果が発動し、チェーンして速攻魔法≪サモン・チェーン≫を発動。私はあと3回通常召喚できる。そしてそれぞれの効果で炎属性の≪デグレネード・バスター≫をサーチ、≪ガジェット・トークン≫を特殊召喚、1枚ドローさせて、2枚ドロー」
今度はモンスターゾーン中央に左右にマーカーを持ったリンクモンスターの登場。
一体どれだけモンスターをリンク召喚すれば気が済むのか。
――もしくは、以前夢見た光景が見られるのかと、立香は不安と期待が入り混じった、複雑な気持ちでマーリンのプレイングを静観する。
「うんうん、ドローカードも良い調子だね。よし、じゃあ今度は【サイバース】族、リンク2の≪コード・トーカー≫と≪ガジェット・トークン≫をリンクマーカーにセット。リンク3、風属性の≪エクスコード・トーカー≫をリンク召喚。≪コーデック≫の効果で風属性の≪コード・エクスポーター≫をサーチし、1枚ドローさせて、2枚ドロー」
左のエクストラモンスターゾーンに居た≪コード・トーカー≫が素材となり、これでマーリンのメインモンスターゾーンに3体のリンク3【コード・トーカー】モンスターが全てマーカーで繋がっている。
残りで使えるモンスターゾーンは2箇所――しかし、何気に速攻魔法≪サモン・チェーン≫のお陰であと2回の通常召喚が可能となっているので問題なないのだろう。
「私は手札から≪ウィジェット・キッド≫を召喚。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、手札から【サイバース】族1体を守備表示で特殊召喚できる。私は≪レディ・デバッガー≫を特殊召喚。特殊召喚に成功した≪レディ≫の効果発動。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の【サイバース】族1体をサーチ。私はデッキから≪バックアップ・セクレタリー≫をサーチ」
「…………」
固唾を飲んで静観。
場も手札も潤沢の状態――ここから夢想した光景に繋がるのかと期待が高まる立香。
なお、度重なるドローで13枚になった彼のには未だに手札誘発系のカードが1枚も来ていない。
60枚デッキにした所為でこんなことになるのだ。
「今度はここかな? 私は【サイバース】族の≪キッド≫、≪レディ≫、手札の≪エクスポーター≫も≪マイクロ・コーダー≫と同じ効果持っているので、そのままリンクマーカーにセット。水属性、リンク3の≪シューティングコード・トーカー≫を右のエクストラモンスターゾーンにリンク召喚。≪コーデック≫の効果でデッキから水属性の≪コード・ラジエーター≫をサーチ、≪エクスポーター≫の効果で墓地の≪ガジェット≫を回収、1枚ドローさせて、2枚ドロー」
右側のエクストラモンスターゾーンが埋まった。
しかも下方向にマーカーが向いている上、その真下に居る≪エクスコード・トーカー≫は上向きのマーカーを持っているので右のエクストラモンスターゾーンから、メインモンスターゾーン全てがマーカーで繋がっている。
「手札から≪サイバース・コンバーター≫と≪バックアップ・セクレタリー≫を特殊召喚。この2体は場に【サイバース】族が居る時、手札から特殊召喚できる。私は【サイバース】族の≪コンバーター≫と≪セクレタリー≫、手札の≪ラジエーター≫も≪マイクロ・コーダー≫と同じ効果を持っているので、そのままリンクマーカーにセット。左のエクストラモンスターゾーンに光属性、リンク3の≪エンコード・トーカー≫をリンク召喚。はい、これでエクストラリンクの完成だね。あ、あと≪コーデック≫の効果で光属性の≪バランサー・ロード≫をデッキからサーチ、1枚ドローさせて、2枚ドローするよ」
「簡単にやってくれるなぁ、このグランドクソ野郎」
エクストラ、メインモンスターゾーン全てがマーカーで繋がった相互リンク状態。普通のデュエルでは滅多に見られない光景――エクストラリンクをさも当然のように形成するマーリン。
流石は冠位級キャスターと褒めるべきところなのだろうが、本人が『ね、簡単でしょ?』とでも言うような表情のため凄さが全く分からない。
「えっ、まさか君のところのカルデアは誰もできないのかい? よくそんなレベルで人理修復(1部クリア)できたね」
「ナチュラルに煽るなよ! こちとら石割って進めてきたんだ! てかエクストラリンクでそんなにドヤるなよ! いつも狙って失敗しているケイローン先生の気持ち考えたことあるのか!?」
「マスター、このイベントが終わったら熊を1頭伏せることができるまで指導しましょうか?」
「ごめんなさい。やめてください。しんでしまいます」
いつから観戦していたのか、背後から聞こえた声にすぐに頭を下げる立香。
おのれマーリン、と責任転嫁しつつ改めて場の状況を確認する。
左のエクストラモンスターゾーンに≪エンコード・トーカー≫。
その真下、モンスターゾーン左側に≪トランスコード・トーカー≫。
その右側、モンスターゾーン中央に≪パワーコード・トーカー≫。
その右側、モンスターゾーン右側に≪エクスコード・トーカー≫。
右のエクストラモンスターゾーンに≪シューティングコード・トーカー≫。
計5体の【コード・トーカー】によるエクストラリンクによる布陣。
この光景を見ることができただけでも立香としては感動モノだが、同時に未だ不安はある。
まだマーリンの手札は≪便乗≫によるドローで13枚。そう、13枚もの手札があるのだ。
【サイバース】族であればあの手札からまだ展開はできる。と言っても既にエクストラリンクを完成させた現状ではさほど意味はない。
しかも相手側にリンクマーカーが向いているので、立香としてもエクストラデッキからの召喚を妨害された訳でもないし、永続魔法・罠が並んでいるので妨害用のカウンターとなるカードもセットできないのが現状だ。
余分なカードを墓地に捨てるのが関の山だろうと立香は思った――
「最後の召喚権を使って回収した≪サイバース・ガジェット≫を左端に召喚。効果で墓地から≪ビットロン≫を右端に蘇生。≪ビットロン≫とリンク3の≪トランスコード・トーカー≫をリンクマーカーにセット。左のモンスターゾーンにリンク4の≪ファイアウォール・ドラゴン≫をリンク召喚。1枚ドローさせて、2枚ドロー。レベル4以下の【サイバース】族である≪サイバース・ガジェット≫をリンクマーカーにセットし、リンク1の≪リンク・ディサイプル≫をリンク召喚。1枚ドローさせて、2枚ドロー。≪ファイアウォール・ドラゴン≫のリンク先の≪サイバース・ガジェット≫が場から離れたことで、≪ファイアウォール・ドラゴン≫の効果発動。手札からモンスター1体を特殊召喚できる。私は手札から≪ドット・スケーパー≫を特殊召喚。【サイバース】族の≪スケーパー≫と≪ディサイプル≫をリンクマーカーにセット。リンク2の≪セキュリティ・ドラゴン≫を右端にリンク召喚。1枚ドローさせて、2枚ドロー。≪スケーパー≫の効果発動。デュエル中に1度、墓地に送られた場合自身を特殊召喚。≪スケーパー≫と≪セキュリティ≫をリンクマーカーにセット。リンク2の≪プロキシー・ドラゴン≫を右端にリンク召喚。1枚ドローさせて、2枚ドロー。≪ファイアウォール・ドラゴン≫のリンク先の≪スケーパー≫が場から離れたことで手札から≪デグレネード・バスター≫を≪ファイアウォール・ドラゴン≫のリンク先である左端に特殊召喚」
「……ゑ?」
――そう、思っていた。
しかしエクストラリンクだけでマーリンは止まらず、次から次へと連続リンク召喚。
その中には『鉄壁の
『馬鹿なッ! そのカードは2018年1月1日に禁止されたハズだッ!!』と叫んでジャッジを呼ぶところだが、このデュエルではジャッジが居らず、ごく自然にプレイングを続けているので口の挟みようもなく、マーリンのデュエルディスク(杖)からの警告やエラーもないので有効であると判断されてしまっていた。
「ふふ、まさか私がただのリンク召喚で終わるハズがないだろう、カルデアのマスター? さて続けようか。私は≪デグレネード・バスター≫と≪プロキシ―・ドラゴン≫をリンクマーカーにセット。リンク2の≪レストレーション・ポイントガード≫を右端にリンク召喚。1枚ドローさせて、2枚ドロー。≪ファイアウォール・ドラゴン≫の効果で自身のリンク先に手札から≪フォーマッド・スキッパー≫を特殊召喚。≪スキッパー≫とリンク2の≪ポイントガード≫でリンク3の≪デコード・トーカー≫を右端にリンク召喚。1枚ドローさせて、2枚ドロー。≪スキッパー≫は自身が墓地に送られた場合、デッキからレベル5以上の【サイバース】族1体をサーチできる。私はデッキから≪SIMMタブラス≫をサーチ。≪ファイアウォール・ドラゴン≫のリンク先からモンスターが離れたことで手札から≪RAMクラウダー≫を特殊召喚。≪RAMクラウダー≫の効果発動。自分場の【サイバース】族1体をリリースし、墓地から【サイバース】族1体を蘇生。≪RAMクラウダー≫自身をリリースし、墓地から≪トランスコード・トーカー≫を左端に特殊召喚。あと邪魔だから魔法カード≪闇の誘惑≫で2枚ドローして、闇属性の≪SIMMタブラス≫を除外」
「なん…だと…?」
つい驚愕顔で呟いてしまった立香だったが、実際マーリンの場は(先攻1ターン目にしては)少々おかしい。
左側のモンスターゾーンには≪トランスコード・トーカー≫に代わり、脱獄してきた≪ファイアウォール・ドラゴン≫。
右端には劇中最も熱いアクションと胸熱間違いなしのフィニッシャーたる≪デコード・トーカー≫まで現れた。≪デコード・トーカー≫は自身の効果が一切使えない可哀想な位置に居るが、それでも隣の≪エクスコード・トーカー≫の効果で攻撃力は500アップの2800、さらにカード効果で破壊されない耐性も付与されている。
問題は極悪犯罪者たる≪ファイアウォール・ドラゴン≫の位置だ。
真上は≪エンコード・トーカー≫と相互リンク。
右側は≪パワーコード・トーカー≫と相互リンク。
左側は≪トランスコード・トーカー≫と相互リンク。
先ほどの、自身のリンク先のモンスターが場から離れた時に手札からモンスターを特殊召喚するという1ターンに1度の制限がない頭のおかしい効果もそうだが、場に居る時に1度だけ限定で、自身と相互リンクしているモンスターの数まで、場・墓地のモンスターを手札に戻す効果もある。
相手の場のモンスターを手札に戻して妨害するも良し、相手の墓地のモンスターを戻して蘇生や回収の妨害をするのも良し。自分の場のモンスターを手札に戻して1ターンに1度の効果を再利用するも良し、自分の墓地のモンスターを回収して再利用するのも良し。
相互リンク3体という現状では、最大3体の妨害・回収が可能となっている。
巷では4代目満足龍と名高い≪ファイアウォール・ドラゴン≫だけあって、その効果は極悪非道と言っても差支えはないだろう。流石伝説のVRAINS主人公エースだ。
オマケのように手札も度重なる連続リンク召喚による≪エクストラネット≫と≪便乗≫のマッチポンプコンボでいつの間にかマーリンの手札は20枚。おかしい。
「よし、これでモンスターゾーンはOKだね。次は魔法・罠カードだ。私は自分場の≪王家の神殿≫、≪便乗≫、≪サイバネット・コーデック≫、≪サイバネット・オプティマイズ≫を墓地に送り、速攻魔法≪非常食≫を発動。墓地に送った魔法・罠カードの数×1000ポイントのLPを回復。よってLP4000回復だ。続けてカードを4枚セット、2枚目の≪非常食≫で全部墓地に送ってLP4000回復。もう1度カードを4枚セット、3枚目の≪非常食≫で全部墓地に送ってLP4000回復。残った手札で永続魔法≪地盤沈下≫を発動。エクストラモンスターゾーンに居る≪エンコード・トーカー≫と≪シューティングコード・トーカー≫から君に向いているリンク先のモンスターゾーンを使用不可能にするよ。最後にカウンター罠を――おっと、カードを4枚セットしてターンエンドだ」
「………ゑ?」
本日3度目の『ゑ?』を発する立香。
グランドクソ野郎ことマーリンが何をしたのか分からない、といった表情で呆けてしまう。
正しくはやったことはわかる。
だが何でこんなことになったのか理解できない。
相手の場にはエクストラリンク含め、7体ものモンスター。
中でも稀代の超極悪犯罪者≪ファイアウォール・ドラゴン≫に至っては≪トランスコード・トーカー≫によって攻撃力が500アップしカード効果の対象にならない耐性を付与され、≪エンコード・トーカー≫によって1度だけ戦闘ダメージを0にし戦闘破壊されず、相手モンスターの攻撃力分攻撃力をアップする防御態勢。まさに『鉄壁(に守られることに定評のある)の守護竜』。硬い。
魔法・罠カードはモンスターゾーンを2箇所潰された永続魔法≪地盤沈下≫。さらに煽りだと思われるが、わざわざカウンター罠と宣言したカードを4枚もセットしてきた妨害尽力具合。
フィールド魔法も含め、13枚ものカードを全て埋め尽くし、さらに15枚のエクストラデッキを全て消費したプレイングには圧巻と言う他ない。
しかも手札は未だ4枚もあり、LPに至っては20000の大台。
流石は
その見事なまでの盤面に立香はフッと小さく微笑み――
(――この手札でどうやって戦えば良いんだ…!)
――絶望した。
立香が今回使おうとしたデッキは【ギミック・パペット】。
フォウくんならぬⅣくんとして『悔しいでしょうねぇ』と煽りながらデュエルする気満々だったのだが、エクストラデッキからの召喚を潰された現状ではただの高レベル低ステータスデッキ。
しかも展開力を重視して構築したため、魔法・罠カードの除去や相手の妨害対策といったカードは必要最低限しか入っていない。その中でマーリンが伏せた4枚のカウンター罠を回避、ないしは全て踏み抜きつつ、展開することは現状の手札ではほぼほぼ不可能。
ここまでか、と終章でも諦めなかった立香だったが、現状では何もできない。
オレはマーリンの触媒を手にすることができないのか、と完全に諦めていた――
「――これは一体何の騒ぎでしょうか?」
― ― ― ― ― ― ― ―
――そんな時である。
静かな、それでいて凛と透き通るような声が周囲に響いたのは。
ざわざわと立香とマーリンのデュエルを見守っていたギャラリーは一斉に声を殺し、発声源へと視線を向ける。
先ず目につくのは――純白の兎耳。
次いで視界に収まるは黄金の長髪。
さらに視線を下へ下げれば北半球。
全体像を視認できるようになると、蠱惑的なバニースーツに身を包んだ、『カジノ・キャメロット』のオーナーにして、常勝無敗のディーラー――水着獅子王こと、アルトリア・ルーラーその人だと分かる。
「………アルトリア……ルーラー…」
立香は力なく、か細い声で呟く。
対して周囲は『何故ここに水着獅子王が?』、『昼間なのに何でここに来たんだ?』、『カジノの運営はどうしたんだ?』といった疑問の声が相次いで上がる。
しかし、そんな周囲の声など雑音と同義とでも言うように、アルトリア・ルーラーはカツカツとヒールを鳴らしてデュエル中の2人――より正確に言えば、立香の方へと歩を進めていく。
もしこの場に夏の暑さとマスターの趣向により、若干霊基が捻じれているシグルドか天草でも居ようものなら『デュエルの邪魔をするなッ!!』と激昂していたが、幸か不幸かこの決闘者系マスターの大一番を前に不在。
立ち塞がる者が居ない中、優雅に立香の方へと近づくアルトリア・ルーラー。
「これは一体何の騒ぎでしょうか、
「……マーリン(の触媒)を賭けてのデュエル。まだ先攻1ターン目が終わったところ」
「ほぅ…デュエル、ですか」
ふむふむ、といった風にアルトリア・ルーラーは立香の状況、次いでマーリンのフィールド、手札枚数、中空に表示されているLPを一見。
ほんの数秒の間に得心したかのように頷き、改めてマスターの方へと目を向ける。
「なるほど、事情と経緯と状況は理解できました。マスター、よろしければこの私が代わりましょうか?」
「なっ――水着獅子王さんが代わりを!?」
今まで戦闘ではなくデュエルだったため、全く口を挟むことができなかったマシュ。
何せ、さっきのマーリンのプレイング何かは『何か1人でやってる』程度にしか思えない、ごく一般デミサーヴァントなのだ。口を挟める方が凄い。
しかし、マシュが声を荒げたことにも理由がある。
先ほどの群衆同様、何故『カジノ・キャメロット』のオーナーである水着獅子王がこの場に参上し、さらにはカルデアのマスターである立香の代役を申し出たのか。
少なくとも、この特異点は水着剣豪の1人にして倒すべき相手。
そんな人物が何故自分のマスターである立香に助力を申し出たのか――
「――これは一体何の騒ぎでしょうか?」
「……あれ?」
「んん?」
「おや、もう1人の私」
――そう疑問に思っていた矢先、
姿かたちは瓜二つ。
オルタナティブ化といった別側面でもない上、ギャラリーに新宿のアサシンが居る以上、彼の能力による変装でもない。
では何で2人が――と思ったところでマシュはハッと気づく。
急ぎ自分の端末でカルデアにある残りの聖晶石の個数を確認すると――僅かに増えていた。
先日は16個だった聖晶石が、76個に増えている。
そしてふと種火やピース、モニュメント、魔石類の類も合わせて確認すると――激減していたのだ。
これらから考えられることはただ一つ――ホームズでさえあまりの容易さから匙を投げ捨てるほどの、たった一つのシンプルな答え。
「ま、まさか先輩……もしかして…!」
「…………ごめんマシュ。オレは乙女座じゃないけど、我慢弱くて落ち着きのない男なんだ――出るまで
「先輩(浪費癖が)最低です!!」
そう――このマスター、聖晶石をリチャージしたのだ…!
あと数日で2回目のマーリン再戦という日を前に、突如(予想されていた)水着剣豪の後半ピックアップ…!
水着獅子王にしてディーラー、カードを扱い、さらに戦闘開始はあの凛としつつも澄んだ美声で『デュエルスタートっ』と喋るのだ…! しかもバニー…!!(強調)
引かない訳がない…! 決闘者なら、引くだろうッ…! このサーヴァントは…!!
気づいた時にマスターは聖晶石をリチャージし、マーリン用に残していたスキル上げ用素材まで惜しみなく投入してアルトリア・ルーラーを速攻で鍛え上げた。
90/10/10/10/1の速攻オールスキルマ。今回のイベントがQP稼ぎで本当に良かったと立香は涙を流した(歓びとスキル上げ素材の消費の悲しさで)。
そんなマスター立香を見てマシュは侮蔑の表情を。
マーリンは『ハッピーエンドで良かったねぇ』と立香の召喚成功にどこかズレた価値観で。
周囲の英霊達は『なんだいつものことか』と特に気にしていなかった。
「もう1人の私、これはあくまでも私的な決闘ですし、あと数十分もしない内に終わりますので問題ありません」
「……群衆を巻き込んだ上で私的な決闘というのは看過し難い事態ですが…まぁ、すぐに終わるのであれば私からも特に無理強いはしません。ただ、終わったらすぐに解散するのですよ?」
「もちろんです。このアルトリア・ルーラー、カードに誓いましょう」
「よろしい。では、つつがなくお願いしますね」
何だ同一人物が会話しているカルデアのいつもの光景か、と群衆は2人のアルトリアのやり取りを微笑ましく見届ける。
何やかんや異常事態になればこうして現場に急行し不安を取り除こうとする辺り、水着獅子王は人心を分かっているのだろうとほっこり。
とりあえずそこまで目立った事態でもないだろうと、水着獅子王(特異点側)はそのまま立ち去っていった。
そして何気に幣カルデアのサーヴァントでもアキレウス、孔明以来の3人目となるオールスキルマサーヴァントのアルトリア・ルーラー出現に恐怖と朔望の眼差しが向けられる。
『そんなにデュエルが好きか』、『私にも始められるかな?』、『先ずは声帯を手に入れなければ』、と意気込むサーヴァントがチラホラ。
「ではマスター、続きは私が」
「……良いの? 今正直、すっごい厳しいんだけど……それにマーリンが了承するかどうか…」
「マーリン、私がマスターの状況とデッキをそのまま引き継いでデュエルします。よろしいですね?」
「うーん、まぁデッキ引き継ぎなら別に良いかな? それに霊基が違うとは言えアルトリアの頼みだしね、いいとも! 魔術師は寛容だからね!」
「ありがとうございます。ではマスター、手札とデュエルディスクを」
周囲の目を気にせず、アルトリア・ルーラーはそのまま立香から手札(20枚)とデュエルディスクを受け取り、自身の腕に装着。
手札を一瞥し、一瞬だけ真顔になるも、すぐにかつての激戦へ身を投じた騎士王の毅然とした表情になる。
「行きますよマーリン――それでは、デュエルスタートですっ!」
― ― ― ― ― ― ― ―
「私のターン、ドロー。速攻魔法≪リロード≫を発動。手札を全てデッキに戻し、その枚数分ドローします――何かカウンターしますか、マーリン?」
「いや、そんなカードには何もしないさ。引き直すと良いよ」
「では遠慮なく。私は20枚デッキに戻し、20枚ドローします」
「――ん?」
アルトリア・ルーラーがデッキトップのカードをドローしてカードを発動した瞬間、すぐ後ろで王様、ないしは浮遊霊のように立っていた立香は頭に疑問符を浮かべた。
≪リロード≫なんてデッキに入れた覚えはない。
何故入れた覚えのないカードをアルトリア・ルーラーが引いたのか。
ドロー時に右手が神々しいまでに眩い光を発していたことも気になる。
まぁ、何かの拍子にデッキに入ったのだろうし、アルトリア・ルーラーほどカードに精通している者ならばドロー時に手が光るのも儘あることなのだろうと無理矢理納得――
「では――最強決闘者のデュエルは全て必然ッ! カードさえも決闘者が創造するッ! シャイニング・ドローッ!!(20枚)」
「え、ちょ――オレのファンサービスデッキぃいいいいいいぃぃっ!?」
「大丈夫ですマスター! デュエルが終われば戻ります!」
――しようとしたが、無理だった。
普通にチートだった。4作目主人公の必殺技だった。
しかも何気にデュエルディスクが初代仕様だった所為で手動シャッフル。
その際に手札からデッキに戻したカードも全て光輝いていたので、書き換えられた可能性が高い。
デュエル中にカードを書き換えるなんて、何てチートだ。5作目主人公が1話でやったことだった。
「――これで戦えます。私は手札から魔法カード≪ナイト・ショット≫を発動。マーリンのメインデッキ側のセットされた魔法・罠カード1枚を破壊します。このカードの発動に、対象にされたセットカードは発動できません」
「でも対象にされていないセットカードは発動できるよ。私はエクストラデッキ側のセットカード、カウンター罠≪魔宮の賄賂≫を発動。相手が発動した魔法・罠カードの発動と効果を無効にして破壊。その後、相手は1枚ドローする」
「……ノーコストで相手のセットカードを使わせたので良しとしましょう。では、シャイニング・ドロー」
「待って、そんな呼吸するみたいにごく自然にオレのデッキを書き換えないで」
何連発してんだ、と愚痴りたくなる立香。
デュエル後に元に戻ると言っても、愛用しているファンサービスデッキが元とあまりにかけ離れていると何か別の、何とも言い難い気持ちになってしまう。
この王は人の心がわからない。
「2枚目の≪ナイト・ショット≫を発動します。狙いはメインデッキ側のセットカードです」
「しつこいねアルトリア…! 私はエクストラデッキ側から2番目にセットされたカウンター罠≪神の宣告≫を発動! LPを半分の10000支払い、相手のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚、魔法・罠カードの発動のいずれかを無効にして破壊する!」
「どうですマスター? カード1枚の消費で相手LPを半分削りましたよ?」
「アルトリア・ルーラー、考え方ポジティブ過ぎない?」
フンス、と少ない消費で相手のLPを大幅に削ったことにその巨大な北半球を揺らして胸を張るアルトリア・ルーラー。
決闘者故についその豊満な胸部に目が奪われた立香だったが、カウンター罠を食らっておいて、LP半分削りましたと言える感性はやはり騎士王――人の心がわからない。
「では3枚目です。≪ナイト・ショット≫。狙いはメインデッキ側のセットカード」
「……破壊されるよ」
「おや? メインデッキ側から2番目のカードでカウンターしないのですね――それとも、カウンターできないのでしょうか? まぁ良いでしょう。続けて私は手札を1枚捨て、速攻魔法≪ツインツイスター≫を発動。相手の魔法・罠カードを2枚破壊します。私は残りのセットカードと≪地盤沈下≫を破壊します」
「……破壊される…!」
「何かオレのデッキ外道ビートみたいになってる。てかセットカード≪神の警告≫と≪神の通告≫って、マーリンガチ過ぎない?」
魔法・罠カード除去を立て続けに4枚。
流石にこれだけ集中して狙われ続けば限界があるというもの。
だが、その甲斐あって食らったら嫌なカードランキングで常に名を連ねているカウンター罠を手札5枚消費、しかも内1回は妨害こそあったもののLP半減という嬉しいボーナス付き。
さらに厄介な永続魔法≪地盤沈下≫も除去できたので、これで心置きなくエクストラデッキのモンスターも使用可能になった。
いくら最初が手札20枚からのスタートとは言え、冷静で的確な処理を淡々とこなすアルトリア・ルーラーに立香は胸がトゥンクとときめく。
「これで安全にカードを使えますね。私は手札から罠カード≪夢幻泡影≫を発動。このカードは自分フィールドにカードが存在しない時、手札から発動できます。相手モンスター1体の効果を無効に。≪エクスコード・トーカー≫の効果を無効にします」
「……妨害はできない…」
「やだアルトリア・ルーラーがさんも使用カードガッチガチですやん…」
ノリの良い決闘者であればここで『手札から罠だとォ!?』の相槌があったかもしれないが、いかんせん対峙者2人は真剣そのもの。
片やブラック企業勤め拒否のために尽力。
片や新参者の自分の為にQPと各種素材を惜しみなく使ってくれたマスターの期待に応えるという忠義のために尽力。
闇と光。まるで相反する互いの存在を賭けた戦い――のように思えなくもないが、別にそこまで崇高な戦いではないことを周囲の英霊達は知っている。
「では次はこれですね――永続魔法≪禁止令≫を3枚発動します。何かありますか?」
「……私は≪ファイアウォール・ドラゴン≫の効果を発動。このカードと相互リンクしているモンスターの数まで、場・墓地のカードを選択して手札に戻す。私は墓地の≪マイクロ・コーダー≫、≪コード・ジェネレーター≫、≪コード・ラジエーター≫の3枚を手札に」
「わかりました。≪禁止令≫で宣言するカードは次の3枚です。≪エフェクト・ヴェーラー≫、≪灰流うらら≫、≪幽鬼うさぎ≫」
「い、いいとも…」
(多分3枚とも手札にあったんだろうなぁ…)
容赦なく手札誘発で食らいたくないカード3種を禁止宣言するアルトリア・ルーラー。
一方のマーリンはピクピクと若干こめかみに血管が浮き出ている。
情け容赦ないアルトリア・ルーラーのプレイング、そしてそれを食らうマーリンに少しばかり同情――しかけるが、マーリンもマーリンで先攻1ターン目にエクストラリンクにモンスター7体、4伏せとえげつないことをやっていたので別に同情する余地はないかと高速で掌を返す立香。
「それではここから展開と行きましょう。私は手札から≪H・C強襲のハルベルト≫を特殊召喚。このカードは相手にのみモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できます。続けて≪H・Cサウザンド・ブレード≫を召喚。そして効果発動。1ターンに1度、手札から【ヒロイック】カード1枚捨てて、デッキから【ヒロイック】モンスターを特殊召喚し、自身を守備表示にします。私は手札から≪H・Cダブル・ランス≫を捨て、デッキから≪H・Cエクストラ・ソード≫を特殊召喚。さらに≪サウザンド・ブレード≫は守備表示になります――が、ここで速攻魔法≪地獄の暴走召喚≫を発動。攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚に成功した時、発動可能。同名モンスターを手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚します。マーリンも表側表示のモンスターで同名モンスターを可能な限り呼べますが――全部リンクモンスターですし、モンスターゾーンも埋まっているので特殊召喚できませんね。では私は残り2体の≪エクストラ・ソード≫をデッキから特殊召喚」
「ぐぬぬ」
「あっ…」
マーリンは苦虫を潰したような顔を。
立香は純粋にこの展開から呼び出されるモンスターに覚えがあり、しかも考えられる限り最上の状態で召喚されることに全てを察する。
「では――私は戦士族・レベル4モンスターの≪ハルベルト≫、≪サウザンド・ブレード≫、3体の≪エクストラ・ソード≫の5体でオーバーレイ・ネットワークを構築ッ!! 最果てより光を放て――其は空を裂き、地を繋ぐ嵐の錨ッ!! エクシーズ召喚ッ!! 現れよ、ランク4ッ!! ≪No.86 H-Cロンゴミアント≫ォ!!」
「それランサーの方じゃないか!!」
「やったー! パーフェクト≪ロンゴミアント≫だッ! カッコ良いーッ!!」
純白の鎧に身を包み、手には巨大な金色の聖槍。
左腿に刻印された『86』の数字が妖しく輝き、異様な存在感を放つ。
――OCGオリジナル、巷では【六武衆】で出すと専ら強いと噂の≪No.86 H-Cロンゴミアント≫の颯爽エントリー!
何気にマーリンはちゃっかり≪エクストラネット≫の効果で1枚ドロー。
「何を言っているのですマーリン? 元はランサーの私が使っていたものが現世にこのように形を変えただけで、ルーラーの私が使っても問題ないでしょう。それとマスター、ありがとうございます」
「いやいやいやッ! だからってこれは酷い! 君は【水晶乙女】とかが良いんじゃあないかな!? 声帯の縁的に!!」
「……? だったらマーリンは【@イグニスター】を使うべきでは?」
「まだOCG化していないんだよォ!!」
「2019年10月には出るから良いでしょう。あぁ、それと≪エクストラ・ソード≫の効果を付与された≪ロンゴミアント≫は自身の効果で攻撃力6000となり、戦闘では破壊されず、自身以外のカード効果を一切受け付けず、相手はモンスターを召喚・特殊召喚できず、1ターンに1度相手フィールドのカードを全て破壊できるのでお忘れなく」
「クッッッッソ強いなぁチクショォオオオオオォッ!!」
マーリンの悲しい叫びがベガスに響く。
本来ならばAIBOが使ったカードよりも自身が使ったカードをデッキにしたかったことは事実。
しかし――2019年8月末日現在、OCG化されていないためベガスに間に合わず…!
うわぁあああぁっ!! と最弱にして最強の赤い銃使い仮面ライダ○のような情けない声が響くが、アルトリア・ルーラーはジト目で流した。
「続けますよ? 私は魔法カード≪二重召喚≫を発動。このターン、私は通常召喚を2回行えます。手札から2枚目の≪H・Cダブル・ランス≫を召喚し、効果発動。召喚成功時、墓地の同名モンスターを守備表示で特殊召喚します。≪サウザンド・ブレード≫の効果で捨てた≪ダブル・ランス≫を蘇生――私は戦士族・レベル4の≪ダブル・ランス≫2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!! 束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流――エクシーズ召喚ッ!! 現れよ、ランク4ッ!! ≪H-C エクスカリバー≫!!」
「そっちはセイバーの方じゃないか!!」
「やったー! 聖槍と聖剣揃い踏みぃッ!!」
片や憤慨。
片や歓喜。
アルトリアを象徴する2つの宝具の名を冠したモンスター2体が並び立つ姿は壮観と言えるだろう。
なお、マーリンはまたしてもちゃっかり≪エクストラネット≫で1枚ドロー。
「これで良いでしょう。次に≪エクスカリバー≫の効果を発動、オーバーレイ・ユニットを全て取り除き、自身の攻撃力を元々の2倍――4000にします。そして≪ロンゴミアント≫の効果。1ターンに1度、相手フィールドのカードを全て破壊します――放てッ!! 【最果てにて輝ける槍】!!」
「くっ、うぉおおおおおぉぉっ!?」
カード効果に対象があっても、対象を取らなければ良い。
効果の破壊に耐性があっても、無効にしてしまえば良い。
一切合財を灰燼と化すべく、アルトリア・ルーラーの≪ロンゴミアント(闇属性)≫が聖槍から光が奔流となってマーリンのフィールドを襲う。
カード効果の対象耐性を付与する≪トランスコード・トーカー≫も。
効果の破壊による耐性を付与する≪エクスコード・トーカー≫も。
そして数多のカードを冤罪で刑務所送りにしてきた重罪人≪ファイアウォール・ドラゴン≫さえも。
モンスターはもちろんのこと、唯一残っていた≪召喚制限-エクストラネット≫も光に飲み込まれていった。
冷や汗をかくマーリンの残り手札は6枚。
内1枚は相手モンスター1体の効果を無効にする≪エフェクト・ヴェーラー≫。
内1枚は相手がデッキに干渉した効果を無効にする≪灰流うらら≫。
内1枚は相手の場のカードが効果を発動した時に破壊する≪幽鬼うさぎ≫。
内1枚は相手モンスターの直接攻撃宣言時、自身を特殊召喚してバトルフェイズを終了させる≪バトルフェーダー≫。
内1枚は相手モンスターの直接攻撃宣言時、自身を捨てて攻撃を無効、バトルフェイズを終了させる≪速攻のかかし≫。
内1枚は相手から受ける戦闘ダメージを、1度だけ自身を捨てることでダメージを0にする≪クリボー≫。
上3枚は≪禁止令≫の所為で使えない。
≪バトルフェーダー≫は≪ロンゴミアント≫の効果の所為で特殊召喚できない。
だが、下記2枚は効果を使える。
≪速攻のかかし≫は攻撃をカード効果を一切受け付けない≪ロンゴミアント≫相手には使えないが、≪エクスカリバー≫の直接攻撃宣言時に使えば止められる。
≪クリボー≫は相手モンスターに干渉しないため、問題なく使える。
マーリン自身の残りLPは10000――少なくとも、次のターンまで生き残ることができる。
自身のデッキはリンク召喚を多用するため、≪貪欲な壺≫や≪貪欲な瓶≫といったカード回収・ドロー系のカードを多く積んでいるのだ。
まだ勝機はある、このまま諦めてなるものか。
そう、マーリンが思っていた時――
「――あぁ、そう言えばマーリンは禁止カードの≪ファイアウォール・ドラゴン≫を使っていたので、私も1枚だけ禁止カードを使いますね。魔法カード≪ハリケーン≫発動。互いの魔法・罠カードを全て戻します。≪禁止令≫3枚を戻しますね。そして3枚発動」
「そ、そのタイミングで手札の≪エフェクト・ヴェーラー≫自身を捨てて効果発動ッ! ≪エクスカリバー≫の効果を無効に――」
「速攻魔法≪墓穴の指名者≫を発動。今墓地に捨てた≪エフェクト・ヴェーラー≫をゲームから除外し、その同名カードの効果を全て無効にします。ありがとうございます、マーリン。お陰で1つ宣言しなくて済みました。私は≪禁止令≫で≪速攻のかかし≫、≪クリボー≫、≪アルカナフォースXIV-TEMPERANCE≫を宣言します」
「(絶句)」
(うわぁ…)
――生き延びる手段を潰された。
しかも戦闘ダメージを0にするカードにて≪禁止令≫で他のカード名を宣言する余裕まで与えてしまう始末。
生殺与奪の権を完全に握らされた状態である。
これには流石に立香もちょっと同情。
「ではバトルへ。私は攻撃力6000の≪ロンゴミアント≫と攻撃力4000の≪エクスカリバー≫でマーリンに直接攻撃します――放て、【最果てにて輝く槍】ッ!! 【約束された勝利の剣】ッ!!」
「ひっ――うわぁああああああぁぁァッ!!」
だがそこは人心掌握に全くと言って良いほど不得手な騎士王様。
情けや容赦など一切かけるつもりはなく、自身の配下たる2体のモンスターへ攻撃命令を下す。
聖槍と聖剣。二振りの宝具が放つ光の奔流は容赦なくマーリンへ向かう。
身体全体で踏ん張ろうとするも、本来の担い手であるアルトリアが使う宝具の威力は並の決闘者と比較することすらおこがましい。
マーリンは耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて――ふわりと体が宙に浮く。
宝具から放たれた光線の勢いは到底人が耐えられるものではなく、夢魔との混血であるマーリンとて例外ではない。
その力の圧で自慢の長髪は暴風雨に遭ったかのように後ろへ激しく靡き。
その光の閃で目を開けらないハズだが、それを暴力的なまでの風圧で強制的に開かされる。
さらには尋常ではない魔力の放出により、マーリンの顔はその圧で頬が揺れ、瞼はガクガクと震えて、顔の中心部から後方へ変形してしまうのではないかとさえ錯覚。
そして水平に飛ばされ、既に避難した、ギャラリーが居たであろう後方へと体が弾ける。
数十メートル――いや、下手をすれば数百メートルはマーリンが宙に浮いた。
次いで落ちる。
転げる。
転げる
受け身を取る――失敗する。
転げる。
後転。
側転。
前転。
途中で電柱にぶつかる――痛い。
アスファルトと熱烈な接吻を時折交わしつつ、最終的には路上でうつ伏せの状態で倒れていた。
左手はだらんと腰の脇の辺りに。
両足は力なく伸びたまま。
そしてカードを持った右手は前方へ投げ出されている。
その右手には、最後に≪禁止令≫さえなければ使うことができた≪クリボー≫のカード。
最後まで抵抗を諦めない。
決して、決して――止まろうとしなかった、決闘者の最後の足掻きだ。
そんなマーリンを見て誰が笑えようか。
先攻1ターン目でエクストラリンクを交えた、リンクモンスター7体展開。
さらにバックも万全にカウンター罠4枚に、手札誘発6枚。
彼は最後まで決闘者として十全に戦った。
そんな彼を笑う者など――
(ヤバい――マーリンが闇マリクや、遊馬先生並に顔芸晒して吹っ飛んだのツボに入った…! ダメだ、笑うな…! 堪えろ…!!)
――極度のデュエル脳患者の決闘者だけだった。
― ― ― ― ― ― ― ―
「……こんにちは、カルデアの決闘者君。私はマーリン。人呼んで花の魔術師。気さくにマーリンさんと呼んでくれ。堅苦しいのは苦手なんだ…」
「あぁ…! やっとウチにマーリンが……!!」
「やっと……やっと召喚できましたね先輩…!」
後日、そこには全身を包帯に巻かれながらも召喚に応じたマーリンの姿。
そして石を240個割って感涙に咽び泣くマスターこと、決闘者藤丸立香、そのデミサーヴァントであるマシュの姿があった。
240個割る間にエルドラドの女王や9人目のジークフリート、『よき引きです――では先ず熊を1頭伏せてターンエンドできる修行から始めましょうか』と言いながら来た5人目のケイローン先生など、期待・不安の未来に怯えた甲斐があったというもの。
わぁいと小躍りしている2人を横目に、ハァとため息をつくマーリン。
思い出されるのは、平行世界に居る自分。
周回と高難易度で幾度も出撃し、さらにはフレンド要員として借り出されて激務に追われる日々。
自分もそんな過労死同盟の仲間入りかぁ、と愚痴りたくもなる――
「よし、じゃあ早速レベル・スキル上げしよっかマーリン!! マーリンのために今回のイベントで種火の交換は全部残してから大丈夫ッ!」
「うーん、私としては大丈夫じゃないかな。早く他の子に使って、私はゆっくりじっくり熟成肉のように育ててくれて良いんだよ?」
「いやいや、次の高難易度が小太郎君らしいし、キャスターでマーリン必要なんだ。三蔵ちゃんをがっつりサポートしてあげてね!」
「おっとぉ、初っ端からハードな仕事が来そうだぞ」
――しかし、たまには忙しなく動くのも良いかもしれない。
そんなことを思いながら、マーリンは決闘者藤丸立香と共に、イベントのアイテム交換所であるアルトリア・ルーラーの下へと向かった。
「種火? お忘れですか、カルデアのマスター。金種火も銀種火も、カルデアで召喚したもう1人の私に全部与えていましたよ」
「やっべ忘れてた」
(おっ、これはすぐには働かないパターンかな?)
「じゃあ特別再臨しよっか」
「えっ、まだ使ってなかったの。でもそれだと私のレベルは80止まりに――」
「関係ねぇよッ!! レベル90のフレンドマーリンと一緒に地獄に付き合ってもらうッ!!」
「実家(アヴァロン)に帰して!!」
水着獅子王は出来心だったんです(言い訳)
あとこの話書き終える前にマーリン来ました(2019/8/25)
累計で石900個とかたまげたなぁ…(バニ上は90個で来たのに)