『今日は宙を見ようよ』
さらりと星が流れる。
まるでカレンダーのように爽やかに過ぎていった、夏の日。
僕たちは、天体観測部として、そして三年生として、過ぎ去り行く高校生活を噛みしめるように楽しんでいた。
当たり前のように、なにげなくいつも校庭に出て。
カメラを設置して、使いもしない雰囲気だけの望遠鏡を置いて。
「んーっ、さいこぉー!」
「今日は雲が晴れてるからね」
澄んだ空気が、星の光を僕らに届ける。
映し出された瞬く光が、空を明るく染め上げた。
「あ、流れたね」
「え、嘘見逃した」
僕の呟きに、
なんて、いつも良くあることなんだけど。
「……ぷっ、あはははは!」
美宙は堪え切れないといったように笑った。
「え、どうしたの」
「なんだろう!なんか、おかしくてさ」
そうして美宙は、溢れる笑顔を夜の
『今日は宙を見ようよ!』
美宙の指が、流れ星を指した。
星の跡をなぞるように動く美宙の指。
「ねえ
「ん?どうしたの」
「私ね、この景色、ずっと忘れないよ」
僕らはもう少しで卒業する。
小さい頃からずっと、この土地で過ごして、この星を見てきた。
僕は海外へ行く。美宙は東京で天文学者になる。華澄は大学に行く。
ずっと心細かったけど、その言葉で強くなれる気がした。
優しい風が、雲を運んで僕らを包む。
作り出された雲のステージで、星々は踊っていた。
「何年先も、笑ってられる魔法だね!」
「美宙ちゃんは星が好きだもんね」
「華澄は好きじゃないの?」
「好きだよ。好きだから……こんなにも惹かれているんだ」
美宙が明日を見上げ、僕らもそれにならう。
夏の終わりが、来た。
◇
なんでもない一瞬というのは、本当に一瞬だと思う。
過ぎ去った時間は戻らない。手が届かない。
まるで空や雲や星のようだとも思ってしまう。
「こんなに沢山あるとさ、手を伸ばし続ければ意外と届きそうだね。流れ星でも来ないかなー」
でも美宙はそんなこと思わなかったようで。
未だ輝く星に手を伸ばす。
そんな彼女の願いを聞き届けたのか。
「あっ」
「「「流れたね」」」
って。
「えへ、流れ星来ても届かなかった!」
「今から宇宙飛行士にでもなれば届くんじゃないかな」
「え、じゃあ私大学やめてナサ行くー」
「「華澄はせっかく受かったんだから大学行ってよ!」」
声が揃ったことをキッカケに笑いあったこの一瞬は、なんでもない日常だけど、なんでもない一瞬ではない。
ずっと、ずっと、永遠の思い出になるんだ。
『私、天文学者になる』
『『え……』』
『3人で宇宙飛行士になるなんて言って今まで頑張ってきたけどさ。みんなも、やりたいことあったんでしょ?』
『…………』
『え、私ないんだけど』
『いつのまにかさ。宇宙飛行士なんて、だれも目指してなかった』
『まー確かに、美宙ちゃんの言葉も一理あるなー』
『でしょ、華澄。……私はさ、星が見たいんだ。キラキラ光るあの星を眺めるのが、何よりの楽しみ』
『だから、天文学者』
『……じゃあ、僕は海外に行く』
『海外?』
『NASA云々じゃなくて、純粋に行きたいんだ、海の向こう。宇宙飛行士も、悪くなかったけどね』
『『……で、華澄は?』』
『えーと……宇宙飛行士やめるんなら、大学いこっかなー?』
いつか、それぞれの道に進む日が来ても。
「ね、快斗、華澄」
「なに?」
「なんじゃい」
「その日が来るまで、私たち、みんな一緒だよ」
それまでみんなといられたらそれでいい。
「……その日が来ても、一緒じゃないかな」
「同じ空の下だしね」
「……一本、とられたかなぁ」
そんな風に、明日を見上げる。
◇
忘れ物した。
あの後帰って、腕につけるあのアレを部室に忘れたことに気づいた。
学校まで走る。
校門をくぐって部室に続く校庭を通ろうとしたところで、歌声に気づいた。
「今日は、宙を見ようよ」
……美宙?
「星の跡なぞるように」
泣いてる?
「校庭で見たこの景色きっと忘れないよ」
……ああ、やっばり離れたくないんじゃないか。
「永遠のような気がしてた」
それは……みんな同じ気持ちだというのに。
「夏の終わり───」
泣きながら歌う彼女の後ろで、僕は鞄の中から箱を取り出して放り投げ、逃げ出した。
「オルゴール……?」
曲のタイトルは、『明日を見上げた夏の終わり』。
何年先も忘れない。
この星が、瞬く限り。