キャラ崩壊ですアインズさま   作:みつむら

2 / 3
元ネタが分からない人のためにTwitterに参考資料を貼っておきました。


第2話 シャルティア復活、ただし特撮的に

 シャルティアは復活させる。それは決定事項だが、金貨5億枚は痛い。

 

 アインズは手にしたアイテムを見つめて考える。このアイテムを使えば、金貨を消費せずにシャルティアを復活させることができるのだ。その名も“悪の復活の杖”。カルマ値がマイナスのNPCを復活させることができる消費アイテムである。

 

 ユグドラシルがゆるやかに衰退して、たっち・みーも去った後、特撮ヒーローものとのコラボイベントがあったときの期間限定アイテムだ。ひょっとしたらたっち・みーが帰ってくるのではないか、もし帰ってきたらこれを見て喜んでくれるのではないか、そんな思いを抱きつつ様々な限定アイテムを集めた中の一つである。

 

 もちろんデメリットもある。この杖で復活させた場合、死亡前の状態を完全に復元できる確率は10%しかないのだ。そして深刻なレベルダウンが起きる確率が20%ある。特撮ヒーローものにおいて、復活した怪人たちが束になって主人公に襲いかかり、割とあっさりとまとめて返り討ちにされるという展開がしばしばあるが、そのノリを忠実に再現しているのである。

 

 まあ、レベルならまた上げればいいのだ。問題は残りの70%である。復活前より強くなるのは間違いないのだが、しかし――。

 

 アインズは決断した。やはり金貨5億枚は痛すぎる。

 

 

 

 

 

 シャルティアは復活した。ただし巨大化もした。特撮で復活と言えば巨大化である。

 

 とりあえずシャルティアにはシモベたちの連携訓練の敵役として頑張ってもらった。アインズに刃向った罰として遠慮なく全力で半殺しにする守護者たちと、これを受け入れつつ戦闘自体には手を抜かないシャルティア。おかげで訓練は緊張感を保ちつつ非常にはかどり、アインズは大いに満足した。

 

 そこまではよかったのだが、巨大なままでは不便なので、やはりサイズは戻したい。特撮っぽいことをすると貯まる“特撮あるあるポイント”が一定数集まれば元のサイズに戻せるらしいのだが、守護者たちとの戦闘では、あまりポイントが貯まらなかったのである。

 

 アインズは上を見上げる。すると空に渋い顔の本郷猛(注1)の半透明の姿が大きく浮かびあがる。空に姿が浮かぶのは昭和特撮にはよくあるパターンである。渋い顔はポイントが貯まっていないことを表しており、貯まっていくにつれて笑顔になる。

 

 

(注1)本郷猛……言わずと知れた藤×弘、(読点まで入れて正式な芸名)が演じる仮面ライダー1号の変身前。知能指数600という設定だが、その設定自体から頭の悪そうな感じがしてしまうのはどうにかならないものだろうか。

 

 

 魔法を使った戦闘なんて、かなり特撮っぽいはずなのだが、なぜポイントが貯まらなかったのか。アルベドもデミウルゴスも、特撮を知らないので今回は頼りにならない。アインズはいくら考えてもさっぱり分からなかったので、最後の望みを託して、特撮に詳しいかもしれないNPCを呼び寄せた。

 

 

 

 

 

「そんなことでポイントが貯まるはずがございません!!」

 

 セバスが北斗の拳の次回予告(最終回付近)のテンションで絶叫した。NPCは製作者の性格を受け継ぐ。セバスは特撮への情熱を、たっち・みーから間違いなく継承していた。

 

「巨大な敵を、等身大のままで倒すというケースも確かにあります。静弦太郎(注2)の雄姿を否定する気はございません。しかし特撮の王道としては、巨大な敵に対してはこちらも巨大化するか、巨大ロボに乗り込むかして戦わねばなりません。もちろん乗り込まないタイプの巨大ロボも存在するのは事実で、たとえば『大鉄人17』(注3)という作品においては――」

 

 要するに、シャルティアが巨大な敵と戦えば特撮あるあるポイントが貯まると言いたいらしい。予想以上に情熱的なオタクと化したセバスをなだめつつ、アインズは逃げるようにエ・ランテルへと向かった。

 

 

(注2)静弦太郎……『アイアンキング』の主人公。生身の人間であるにもかかわらずムチ一本で巨大ロボをしばき倒した。超能力を持たない一般地球人としては特撮史上最強の一人。

 

(注3)大鉄人17……子供向け番組でありながら割と濃い目にミリタリー要素を入れてくるという斬新な作風だったが、裏番組の少女漫画原作アニメ『キャンディ・キャンディ』に苦戦、途中テコ入れでギャグ色を強めるなど迷走してしまった。初期の作風で最後までやってほしかった。

 

 

 冒険者モモンとして特殊な薬草を採取する仕事を請け負い、アウラやハムスケと共にトブの大森林を探索していたアインズは、ピニスンと名乗る森精霊(ドライアード)に出会った。話によると、ザイトルクワエという世界を滅ぼす強大な魔樹の目覚めが近いのだそうだ。森の中のこの一帯だけが枯れているのも、ザイトルクワエに生命力を吸収されているからだという。

 

「モンスターなんていないじゃないか」

 

「本当だよ! 信じておくれよ!」

 

 ピニスンがそう言った途端、上空の本郷猛が穏やかな顔になった。しかしアインズには訳が分からない。仕方ないのでセバスを呼び出して尋ねる。

 

 話を聞いたセバスは即答した。

 

「怪獣を目撃したのに信じてもらえない。実に美しい特撮あるあるでございます!」

 

「そう……なのか……」

 

「あああああっ!? ちょうどいい具合に辺り一面の木が枯れて!? これはまさしくウルトラ広場(注4)!! アインズ様!! すぐにシャルティア様をお呼びください!! ここでそのザイトルクワエと戦えばポイントget間違いなしでございます!!」

 

 パンドラ以上のテンションでまくしたてるセバスに、アインズは言われるがままシャルティアを呼び出した。

 

 

(注4)ウルトラ広場……ウルトラマンと怪獣が、森林やビル街の中になぜか存在する広々とした空き地で戦うことがあり、ファンの間でこう呼ばれている。少年時代の終わりは、ミニチュアは高いのでそうやたらには壊せないという大人の事情を許して愛せるようになったときに訪れる。

 

 

 そんなこんなでザイトルクワエは目を覚ました。体に薬草が生えていたのでさっさと採取したのち、巨大シャルティアとザイトルクワエの戦いが始まった。

 

「がんばれー!」

 

 ピニスンが叫ぶと、本郷猛の頬が緩んだ。なるほど応援すればいいのかと、アインズも同じように言ってみる。

 

「がんばれー!」

 

 しかし本郷猛に変化はない。

 

「アインズ様! 無力な一般人の応援だからこそ特撮あるあるなのです!!」

 

「ううむ、なかなか判定がシビアだな……」

 

 シャルティアはフル装備を整えると、スポイトランスを振りかざし一気に方をつけようと突進した。巨大化して以降、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)を相手に憂さを晴らすこともできず、酒をがぶ飲みするのも量的に気が引けるのでできず、かなりストレスがたまっていたのでやつあたりのようなものである。言うまでもないが、このままではザイトルクワエは一撃で死んでしまうだろう。

 

「シャルティア様、いけませんっ!!」

 

 セバスは素早く真の姿に変身すると、不意打ちのカウンターでシャルティアを吹き飛ばした。シャルティアは深刻なダメージを受けて倒れた。本郷猛に代わって現れたハヤタ隊員がにこやかな笑顔でカレー(注5)を食べた。

 

 

(注5)カレー……初代ウルトラマンこと科学特捜隊のハヤタ隊員は、変身アイテムのベーターカプセルと間違えて、さっきまでカレーを食べるのに使っていたスプーンを構えたことがある。

 

 

「セバス! これはどういうことだ?」

 

「ああっ、仮面ライダー1号の本郷猛から初代ウルトラマンのハヤタ隊員へのリレーとは、なんと豪華な……」

 

「セバス……どこが特撮あるあるだったんだ?」

 

「いきなり必殺技を出したときは逆にいったんやられるのが鉄則でございます。そのまま勝負がついたら放送時間が余ってしまいますので」

 

「ザイトルクワエでなくお前にやられているんだが……けっこう判定がゆるいのか……?」

 

 起き上がったシャルティアは不承不承セバスの指示に従い、触手や種による攻撃を防ぎつつ、パンチとキックで小刻みにダメージを与えていく。まずは小競り合いからという基本を守った戦い方に、一文字隼人(注6)もご満悦である。そして触手を次々に切り落としていくシャルティア。とどめを刺す前に部位破壊という正統派のスタイルに、モロボシ・ダン(注7)もサムズアップで応える。

 

 

(注6)一文字隼人……仮面ライダー2号の変身前。1号の人がリアルに骨折入院してしまったので、強引すぎる脚本で急遽登場して悪と戦うことになった。あんなに強引なのになぜ面白いのか謎である。

 

(注7)モロボシ・ダン……ウルトラセブンの仮の姿。それにしてもエレキングの切り口から内臓的なものがこぼれるところはものすごくグロテスクだが、放映当時にあれがOKだったのは、一般家庭でも魚や鶏をしめてさばくのが当たり前の時代だったからだろうか。

 

 

 満を持してついに繰り出されたスポイトランスが、ザイトルクワエを貫いた。振り返って勝利のポーズを決めるシャルティアの後ろで、身をよじりながら倒れたザイトルクワエが盛大に爆発した。セバスのアドバイスに従い、アインズが時間を停止して絶好のタイミングで爆発するように仕込んだからである。

 

 ついにライダーに変身した本郷猛が立ち上がって拍手した。するとアインズの目の前に何か小さなものが現れた。よく見ると腐った芋ようかん(注8)だった。

 

 

(注8)腐った芋ようかん……『激走戦隊カーレンジャー』のラスボスの暴走皇帝エグゾスは、戦隊シリーズ史上最強説もあるほどの強大な敵だった。しかし腐った芋ようかんを食べた腹痛のせいで巨大化が解除されてしまい、片手で腹を抑えつつもう片方の手で火炎弾を撃つなどして抵抗したもののカーレンジャーに倒された。信じられないかもしれないが本当である。

 

 

 かくしてザイトルクワエは倒され、シャルティアは腹痛と共に元のサイズに戻り、アインズは薬草を入手し、ピニスンはナザリックの一員となった。夕日に染まる大空に浮かんだ本郷猛は、いつまでも手を振り続けていた。自分たちがあまり役に立っていないと感じたアウラとハムスケは、とりあえずセバスと一緒に大きく手を振り返した。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。