この錬金術師、何かおかしい。   作:有限世界

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混沌の足跡

 混沌の世代、それは冒険者学校で勇者達の3期先の世代で、勇者達は直接の面識はない。一部身内の者もいるが、混沌達が冒険者学校で何をやらかしたかまでは知らない。

 しかし混沌の2期前後までの先輩後輩や当時の先生方という犠牲者はよく知っている。自分達を非常識だと思わない当人達よりも、被害を被り続けた方が知っていることもある。そういう事もあって、勇者一向は母校の先生方に協力を仰ぐ事にした。

「かくかくじかじか、という訳です」

「成る程のう」

 勇者の報告に白髭お爺さんな学校長はこめかみを押さえた。

(なんで『かくかくじかじか』で通じるんだろ?)

 ソーマは疑問に思ったが言わないでおく。代わりに、

「何で通じんだよ?」

 ハゲ頭のマッチョ用務員のシドが口に出した。何故か分厚い本を抱えているが。

「とりあえず、勇者一向が旅立ち早々に母校に帰る理由といえば、混沌に出逢ったわけだな。で、自分が呼ばれたとなれば、勇者の兄のケイについて説明すればいいんだな。比較的良く知っているせいで」

 シドさん頭キレ過ぎです。輝いています。ひょっとしたら『かくかくじかじか』を理解したのではなかろうかとソーマは邪推した。邪推でしかないが。

「ワシには非常識なもんを作る生徒としか知らんからの」

 それは身に染みています。むしろ、もっと早く知っていたかった。冒険者学校入学前はそこまで極端な物を作っていなかった。せいぜい荷台ゴーレムとか連射式ボウガンとかぐらいだ。勇者のユウ、話題に上がった錬金術師の弟はだいぶ不条理に侵食されていた。

「例えば、携帯電話とかな。今は学校と一部の大国の中枢くるいにしか広まっていないが」

 ケイの発明の代表的な物をシドは口にした。そういえばそんな異世界っぽく無いものに驚いたなぁと、地球からやってきた異世界人は当時を思い出した。交換を通す辺り、技術が古いのか新しいのか判断に迷うが。

「シドさん、もしかして教えました?」

 それならソーマにも納得できる。

「いや、他の生徒から録音機の原理を聞いて、それを改良してたら出来上がったそうだ。実際は電波を用いていないから電話という括りで良いのか疑問だし、電波を妨害する仕組みでも防げない。通信魔法でもないから通信魔法対策も素通りする。あと、最初から有線では無かった」

 ちぐはぐな技術にソーマは頭を悩ますが、この世界のマジックアイテムを駆使したら糸なし糸電話が完成したというのが真相だったりする。

「入学式当日に録音機の原理を聞いて、その日の内に完成してた。何故か録音機も当時のより遥かに高品質だったな」

 シド用務員にとっては混沌で1番変えが効かないのはケイだと考えている。他の混沌に百年に1人くらいの傑物は大勢いるだろうが、あれは千年に1人くらいの逸材だろう。

「はっきり言って、奴は物作りに特化した天才なんだろう。他にもカラー写真やカラーコピー機も奴の発明品だ」

 ファンタジーってなんだろう。ソーマが技術チートしようにも重要で簡単な原理のものは抑えられていた。実際には魔法で代用している部分もあるため開発できる部分はある。

 まあ実際、ケイ・クロムウェルという男は技術チートに対する天敵ではある。見て真似て量産されれば技術チートの価値は消え、ケイの方は更なる工夫をして進化した別の物を作る。

 ただし、この件については日本人に何かを言われたくはないだろう。大和民族は全く新しい発明を作る事こそ苦手にしているが、猿真似から始まった技術を極めて改造し、元の物とは比べ物にならない物を作るのは得意な民族である。戦国時代の火縄銃は代表的な物だろうし、実は幕末に蒸気船も真似ている。魔法や特殊能力を抜きにして。

「混沌の異常さが広まる前に、コイツに地球の知識を教えたらヤバいと後悔したぞ」

 過去を思い出しながらシド用務員は本気で後悔していた。

「銃とかですか?」

 同等の知識があるであろうソーマが聞く。

「そいつに関しては軍師の方が見る目があったな。幾ら性能が良くとも、個人が所有する分について銃は脅威にならん。攻撃魔法を使えるお前等の方が格上だ。少なくともケイはそういう認識だった」

 銃は戦闘能力の無いものを簡単に、しかも大量に1人前の戦力にするから恐ろしいのであって、個人が1人前以上の戦力に1丁の銃で対抗できない。だから銃を大量に用意して商人や農家に運用させる奇兵隊を結成した混沌の軍師の頭が凄いだけであって。織田信長とか高杉晋作の運用と同じだといえば軍師の凄さがわかるだろうか。

「後になれば何一つ教えるべきではなかったと思うんだが、あいつが刀を改良し物を作ったのを見たのが切っ掛けだ」

「これですか?」

 勇者のユウが兄から譲られた武器を見せる。

「それはこの世界で極限を目指したもの。それはそれで天才の域に入っていると思ったが、言えばできる奴はいるだろう。まあ言って作ろうとした生徒はケイしかいなかったが」

 そもそも聞きにきた生徒も2・3人程度しかいなかったし。そして態々創意工夫を以って質の低い金属で複雑な武器を作るくらいなら、最初から高品質な単一鋼で単純な武器を作ればよくね、となる。銃にしても魔法で代用できる。言われた物をそのまま作る程度では役に立たない。

「研究を重ねればそれを越えれる武器はできるじゃろうて。まあ一年か十年かはわからんがの」

 難しいができないわけではない。そこで終わっていれば、優秀な錬金術師で終わっただろう。

「ソーマ、知らない人に刀と他の片刃の剣との違いを説明するとなると、お前ならどう説明する?」

「刀は違う性質の複数の金属を重ね合わせた武器、ですかね?」

 シドのいきなりの質問にソーマは答えた。なお、その説明はケイがしたものだったりする。

「そうだな。自分もそう説明した。じゃあその説明で違う物を想像できるか?ケイは刀の原理から改造した全く別の物を持ってきた」

「…………えーっと…………すみません、わかりません」

 今度は出てこなかった。

「複合装甲」

 その答えにソーマは頬を痙攣させた。それ防具やないかーい。

「ベクトルが違い過ぎませんか?」

「自分ら凡人にはそうなんだろうが、ケイには似たような物らしい。軽はずみで言ったら、トンでも発想で何ができるかわかったものじゃない」

 これは下手するとトンでもない物を作りかねない。

「実際に、複合装甲を作る過程でリアクティブアーマーや空間装甲、ハニカム構造まで出来上がって、それをクラスメートの防具に利用していた」

 もはや刀とは全く別物である。そしてソーマは冷や汗をかく。それ、現代の戦車の装甲と遜色ないなと。少なくとも防御力は。

「これだけでも相当ヤバいが、刀から派生したもっとヤバいものもある」

 まだあるのか。ソーマは冷や汗を流した。

「これはこの世界の人の方が詳しいか。一つの物質に対して複数の魔術を付与するのは効率が悪い」

「常識だろ」

 今まで置いてきぼりで話を理解できなかった戦士のミーヤでさえ知っている。

「でだ、さっき刀の説明で複数の金属って説明したよな?」

 その武器は反則だろ。誰もが思ってしまった。

「パーツ頃に適切な魔術を付与して、刀という外見の高性能魔導兵器になりあがりました、と。流石に強度不足で満足いくものはできなかったそうだが」

 ここまで違法な事は何一つしていない。しかし常識から外れ過ぎて色々と頭が痛い。

「昔からそういった研究はされているそうですけど、異なる魔法を付与された部分が反発すると伺ったのですが」

「それは間に別の物を噛ませて強引に解決した。何故誰も気がつかなかったのか疑問だが」

 技術の進化の過程で希にこのような事がおこる。物の配置を入れ換えただけで性能が大きく変わる事に誰も気がつかないとか。

「そこまでならまだマシだぞ。槍とかも金属片を重ねて似たような事をしたから、混沌の装備は戦闘員以外も軒並み非常識だがな。

 防具も複合装甲にそれぞれ魔術を付与しているから、並大抵の攻撃は防ぎ切る」

 端的に説明するなら、神話に喧嘩売ってるような、或いは凌駕した高性能な武具をホイホイとモブに渡していて、装備ゴリ押しのヤバい集団になったという。英雄王の財宝を軍勢が装備したようなもんかとソーマは納得してたが、此方も十分現実逃避していた。

「集団戦闘の演習で混沌のネクロマンサーと組んで、リビングデッドの群れに高級装備を装備させるという、こいつらが魔王軍じゃねぇのかと本気で疑ったな。リビングデッドに単純な命令しかできなくとも、銃を射つのはできるわけだし」

 大概の攻撃を受け付けない防御力と、大概の防御を意に介さない攻撃力を持つ消耗を気にしなくてよい集団。あかん。

「1番ヤバかったのは、武器としての強度を犠牲にして一撃の威力に全降りした銃。攻城戦で城塞ごと吹き飛んだ」

 あかん。色々な意味であかん。錬金術師ってそんなに厄介な職種だったのかと弟は慄いてる。

「けど錬金術師としての才能は中の下程度なんだよ」

「「「はい?」」」

 理解できない言葉を聞いて勇者達の思考が止まった。

「戦闘タイプの錬金術師って、のは砂を操ったり、武器に瞬間的な付与を与えたり、相手の防具を劣化させたり。どれもこれも、才能が必要でケイの苦手分野だぞ。逆に時間を掛けて物を錬成するのに、大した才能は必要ない。錬金術師でなくてもできる奴はいるし、その手のステータスやスキルならソーマの方が優秀まである」

 作った物がアレなだけで、錬金術師としての能力はそうでもないらしい。逆にステータスがあってもソーマには戦車をどうやって作ればいいか検討もつかないが。

「逆に言えばスキルなんて奴にとっては道具にすぎない。無ければ無ければで結局は物を作ってただろうな。ケイの強さは思考の柔軟さと物作りへの情熱だ」

 それがケイ・クロムウェルの凄さだ。

「それとこれを渡そう」

 シド用務員は抱えていた本を勇者に渡した。

「これは?」

「禁書指定していた混沌の新聞や活動日誌に卒業文集を纏めた物だ。ぶっちゃけ、思い出したくないから、他の混沌については自分で調べてくれ」

 その時のシド用務員の顔は憔悴していた。

 




ケイのモデル

『ドラゴンクエストビルダーズ2』の主人公
 はかぶさの剣を作って自身が装備しつつも村人に配って戦ったり、防衛用の城と共に兵器なんかを作ったり、航空兵器を作ったり、他にも言いたい事はあるが『コイツの方が破壊神じゃねえの?』と疑問に思える人。必要に応じて世界観を破壊した物でさえ作ってしまう。個人的に1番ヤバいと感じる場所は少しずれてるが。
 セリフ等はないものの、子供の頃からビルダーに憧れた物作り大好きなお人である。作者が知る物作りキャラの中で1番凄いと思うキャラでもある。



 銃は脅威にならない
 日本の戦国時代なら長弓の方が威力が高い。ただし訓練期間が違い過ぎるので農民上がりの足軽なんかに使わせるなら銃の方が使える。 

 玉鋼で作った刀=試作品の刀

 タングステンとかカーボンナノチューブとかそういった技術を駆使して作った刀=勇者の

 付与魔法を大量に使って破壊力を極限まで上げた刀=刀の形をした魔法の杖
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