混血の艦隊   作:corin7121

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始動!トラック強襲作戦

「さてと、シュウさんの話じゃそろそろ嵐が来るそうだ。夜中まで待つつもりだったがこれ以上海が荒れると航行できそうにない。出るぞ、お前ら」

 

シュウさんからの連絡でトラックの周辺に大型の低気圧が発生したそうだ。台風とまではいかなくとも規模はそこそこ大きいらしく、人一人は余裕で飲み込めそうなほど大きな波が発生し始めていた。

 

「わかったが、提督。その、本当なのか?さっきの話は」

 

「さっきって何のことだ?」

 

「恍けないでくれ!提督が罪人とはどういうことなんだ!?」

 

赤座の訓練の標的になることが多い磯風だが、彼の優しさは十分すぎるほど知っている。だからこそ罪を犯したことがあるというのが信じ切れずにいた。

 

「昔の話だ。そんなことよりも今はトラックにどう上陸するかだが・・・」

 

「嵐に紛れて堂々と正面から突っ込みましょう」

 

「待て待て待て!私や霞は多少強行してもいけるだろうが、提督はどうする?ここに残していくのか?」

 

霞の曳航でここまで来たと思っていた磯風は提督が一人この島に取り残されることを憂慮していたがその心配はない。

 

「俺も同伴する」

 

「どうやって?」

 

「一応半分は人間の血だけど、少しは艦娘の血が混ざっているせいか少しの間なら水上でも行動できる。そんなに速くは走れないがな」

 

「そんな、まさか・・・」

 

「本当よ。この人、艦娘のクォーターだから」

 

霞からの補足によると、大本営に居る初代艦娘の三笠中将が祖母に当たるらしい。そういえば先程の話題の時もそのようなことを言っていたのを磯風は思い出した。

 

「そういうことだ。さあ、行くぞ!」

 

刀を担いだ赤座は意気揚々と海面を走っていく。それに追従するように二人も海上へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラックに近づくにつれて上空の雲は厚さを増し、波は行く手を阻むかのようにうねりを上げる。まるでトラックに来るなと拒絶されているように思えるほど。

 

「・・・?前方に誰かいるわね。トラックから逃げ出した娘かしら」

 

霞が遠くに誰かがいるのに気づいた。波のせいで視認しづらいが確かに誰かいる。小柄な少女だがこの距離では艦娘とも深海棲艦とも判断できないが。

 

「深海棲艦だな。それも姫級かそれ以上の感がする」

 

赤座は気配だけで相手を深海棲艦と判断した。鯉口を切りいつでも抜刀できる体勢を整える。

 

霞もいつ砲撃を受けても回避できるように神経を尖らせていたが、磯風だけは戦闘態勢にすら入っていなかった。いや、入ることが出来なかった。

 

「そんな、まさか・・・」

 

死んだものだと思っていた。

 

それだけじゃない。磯風にとっては憎むべき敵側に居ること自体が信じきれずにいた。

 

「なんで・・・。なんでそこにいるんだ!?

 

 

 

 

 

姉さん!!」

 

「姉!?あんたの姉ってたしか」

 

そう。磯風の姉は既に死んでいるはずだった。それも彼女の目の前で。

 

「見間違い、というわけでもなさそうだな」

 

眼前に迫る未確認の深海棲艦も全身を覆う包帯の奥に動揺が見て取れた。両手で頭を抱えかぶりを振っている。

 

まるで頭の奥にある何かを振り払いたいかのように。

 

「しかしこいつはチャンスだ。この隙に泊地に上陸する!」

 

「・・・サセルカァ!」

 

「!」

 

わきをすり抜けようと船速を上げたところで赤座を狙った砲弾が飛んできた。とっさに体を捻って回避するも、これでは上陸は難しくなりそうだ。

 

「島ニハ・・・近ヅケサセナイ!」

 

得体の知れない深海棲艦が懐から出した笛のようなものを吹くと海面下からぞろぞろとイ級やヌ級をはじめとした深海棲艦が浮上しあっという間に赤座たちを包囲してしまった。

 

「さて、絶体絶命のピンチなわけだけど?提督はどうするの?」

 

絶体絶命と言っておきながら霞はまだ余裕の表情をしていた。冷や汗の一つもかいていないところから見るとこの程度ではまだピンチとは言えないのだろう。それだけの自信が彼女にはあった。

 

「背中は任せてもいいか?」

 

「さっさと片付けてやるわ。磯風は提督の護衛をしてあげて」

 

傍から見れば無謀もいいところ。たった一人では時間稼ぎにもなりはしないだろうに。しかし、彼女の実力ならば。パラオ最強の名を縦にする彼女の戦闘力であれば。

 

「よし。久々の海上での縮地だ。磯風はしっかり捕まっていろ。一息に駆け抜ける」

 

赤座はまだ幼き頃から、武道の達人であった父と母から戦闘の手解きを受けていた。霞をもってしてもパラオ最速の天津風でさえ捉えることのできない文字通りの神速の縮地であれば、まだ包囲が完了していない今なら強引に突破することができる。

 

「・・・いや、私もここに残る」

 

「はあ!?あんた何言って・・・」

 

「姉さんの魂は私が眠らせる。それが妹である私の責務だ!」

 

磯風は真剣な眼差しで宣言した。

 

姉を倒す(救う)と。

 

「・・・わかった。霞」

 

「わかっているわよ。提督はさっさと上陸しなさい」

 

「ああ。・・・それじゃあここは頼んだ!」

 

皆まで言わなくても理解してくれる霞は本当に頼もしい存在だった。

 

ドン!と大きな音がしたと思えばもうそこには赤座の姿はなく、偶然彼の進路上に居たヲ級が叫び声を上げながらまた水底へと還っていった。

 

「まったく、律義に一匹潰していかなくても問題ないのに」

 

「え、は、え?」

 

あまりにも一瞬の出来事に磯風は面食らっていた。

 

「ほら、シャキッとしなさい。周りの雑魚は私が引き受ける。姉妹喧嘩に水をさすことはしないから安心してぶん殴ってあげなさい」

 

「あ、ああ。頼む」

 

「本当は気になる相手ではあったのよね、あんたの姉さん。呉に居た頃何度も噂を聞いていたから」

 

昔は血の気が多かった霞は大本営で死神と呼ばれている駆逐艦と手合わせしたいと何度か思っていたそうだ。結局それは叶わなかったのだが、その相手が目の前にいるのだ。

 

「さて、お喋りはここまでよ。どうして深海化したのか、どうして仇敵と一緒に居るのか。聞きたいことは山ほどあるでしょうが―――」

 

「わかっている。姉さんの真意を問い質すには今は戦うしかないことぐらい・・・!」

 

既に磯風は覚悟を決めていた。かつて慕っていた姉に砲口を向けることに最早躊躇いはなかった。

 

「さすがは元特殊部隊様ね」

 

磯風を心配する必要が無くなった霞はざっと周りを見渡した。死神を除けば凡そ30といったところか。

 

「駆逐艦二人に対して随分と手厚い歓迎をするのね」

 

駆逐艦が多数を占めるとはいえヲ級もいればル級もいるしタ級もいた。到底二人だけでは生き残れるものじゃない。

 

普通の駆逐艦であればの話だが。

 

「グゥウ・・・クルナ・・・・タチ・・サレ!!」

 

「残念だけど、私たちは帰れと言われて大人しく帰るような良い娘じゃなくてね。

 

 

 

 

 

 

パラオ総旗艦・霞」

 

「僚艦・磯風」

 

「「参る!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイクロンによる波浪の影響があったものの赤座はなんとかトラック泊地に上陸することはできた。しかし、上陸してすぐに違和感を感じた。

 

風雨の音に交じって砲撃の音も聞こえている。おそらく霞たちが交戦を開始したのだろうと予想した。しかし、だ。

 

(静か過ぎる)

 

近海に深海棲艦が出現したのに迎撃に向かう様子がない。嵐のために出撃ができないとも考えられるが、それでも戦艦クラスの主砲の音が聞こえているのだ。艦砲射撃でこの泊地が攻撃されているとは思わないのだろうか。

 

「シュウさんに無線繋がるかね・・・」

 

この荒模様だ。1900kmも離れているとなるとまともに通じるかどうか。

 

『ハイハイ提督。ちゃんと繋がっていますよ』

 

良かった。流石はココア製作の深海無線。

 

「奴らの現在位置はわかるか?」

 

『バッチリ確認済み。トラックの提督は執務室。松戸の奴は工廠にいるみたいだ』

 

事前に調べていた地図では執務室があるのは本館と思われる建物の二階。現在赤座が雨宿りをしているこの建物のはずなのだが。

 

「それよりシュウさん。一つ聞きたいんだけど此処に所属している艦娘は今どうしている?」

 

沖合で戦闘が起きているのだ。工廠などで出撃の準備をしているとなると、松戸を倒しずらくなるのだが。

 

『・・・・・・・。いないよ。監視カメラをハッキングして泊地内を覗き見したけど、どこにも見当たらなかった』

 

「はあ!?艦娘がいない!?そんなことって・・・まさか」

 

赤座には一つ思い当たる節があった。もしそうであれば事態は最悪なところまできている。

 

「野郎・・・入っちゃいけねぇところまで遂に行きやがったか!」

 

早急に事態を治める必要がある。そう判断した赤座は背後にあった窓ガラスを叩き割って強引に本館へ侵入した。

 

本館内は風と雨の音を除けば異様なほどに静かで人の気配はまるでしなかった。

 

「シュウさん。もう一度確認するけど、提督は執務室に居るんだな?」

 

『うん。間違いないよ。ただ、清霜の話じゃ贋者の可能性がある。気を付けて』

 

「はいよ!」

 

贋者という言葉が引っ掛かったが今は詮索している暇はない。一息に階段を駆け上ると、そのままの勢いで赤座は提督室に乱入した。

 

「御用改めだ!お前がここの指揮官か!?」

 

「・・・・・・」

 

「?」

 

赤座が力任せに執務室のドアをぶち抜いたというのに、目の前に鎮座するトラックの提督は眉一つ動かさずずっと机の上の紙に何かを書き続けていた。明らかに様子がおかしい。

 

不審に思い赤座は彼に近づいたがそこでとんでもないものを見てしまった。

 

「こいつ・・・まさか・・・!」

 

『どうかしたの?提督』

 

無線の向こうからシュウさんが心配そうな声で訊ねてきた。

 

「マズいな。薬か何かを打たれている。催眠のようなものに陥っていやがるな、こいつは」

 

赤座が見たもの。それは白紙の上をインクの切れたペンでずっと何かを書き続けている生気の抜けた変わり果てたトラックの提督の姿だった。目に光はなく、何かをぶつぶつと呟いているものの最早魂の抜けた人の形としか言いようのないものだ。

 

「シュウさん。松戸はまだ工廠に居るな?」

 

『うん。ばっちり視ているよ。松戸は今工廠の第一ドッグに居る!』

 

「そうか。それなら此処に要は無い。直ぐに工廠へ」

「その必要はありません」

 

『「!?」』

 

赤座が声のした方へ振り向くとそこには白衣を着た眼鏡の男がいた。

 

こいつがすべての元凶―――

 

「松戸・・・!」

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