混血の艦隊   作:corin7121

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パラオの旗艦

艦砲が唸り声をあげる。目の前にいる敵を殺せと雄叫びを上げる。

 

海は未だ大荒れ。発達した低気圧の影響で風もさることながら人を飲み込まんとするほどの巨大な波が一面を覆っていた。

 

まさに地獄ともいえる海域で霞はたった一人、深海棲艦の大艦隊を相手取っていた。

 

(あのバカ一人でどれだけ持つか・・・。さっさと片付けたいところなんだけれど)

 

深海棲艦へと堕ちた姉と対峙した磯風は一対一で勝負がしたいと言い出した。相手の実力は未知数でできれば自分が相手をしたいところだったが、磯風の決意に水をさすわけにもいかなかった。

 

霞は悩んだ末に一騎打ちを許可した。

 

「死ぬ気で姉を超えてみせなさい。じゃないと死ぬわよ」

 

「姉さんを救うためだ。死線ぐらい幾らでも超えてやる」

 

磯風の覚悟を再確認した霞は右に舵を切った。それに合わせて磯風も左に移動し始める。二人の動きに釣られてか磯風の姉を除いた深海棲艦達は霞へ群がった。

 

釣れたのを確認した霞は一気に船速を一杯にして引き離しにかかった。敵に背中を見せる危険な行為ではあったがこの嵐の中であれば被弾せずに逃げ切れる自信があった。

 

(・・・負けたりなんかするんじゃないわよ、磯風)

 

口には出さなかったが霞は磯風を信頼していた。だからこそ、この分が悪い賭けを選んだ。

 

磯風をやらせはしない。それどころか単騎での艦隊決戦に挑む自分自身も死ぬつもりはない。

 

勝って。

 

生きてパラオへと還る。

 

それぐらい出来なければパラオ総旗艦を名乗る資格すらない。

 

何よりあの人の隣に立つ権利すらない。

 

(霞ちゃん・・・あの人を・・・指揮官さんをよろしく頼むのです)

 

かつての今は亡き親友と交わした約束を果たすまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ル級は今の状況に心底辟易していた。仲間と思われるものからの援軍要請を受信し合流してみれば、相手はたった二人。それも吹けば飛ぶような駆逐艦が相手だ。

 

そして救援信号を出したと思われる深海棲艦は長く深海棲艦として各地を転戦していた彼女にも見覚えのない人物。識別番号すら持っていない得体の知れない者だった。

 

極めつけがこの悪天候。とてもじゃないがこの荒れ狂う海ではまともに照準を合わせることすら困難極まりなく、艦載機すら飛ばせないため着弾観測すらできない。

 

相手が不服なら戦場も不服。

 

適当に流してせめて嵐が過ぎ去ってから一気呵成に攻め立てる腹積もりでいた。

 

目の前の大波の陰からこちら目掛けて突っ込んでくる駆逐艦を視認するまでは。

 

 

 

 

 

 

 

豪雨と暴風に曝されまともに狙う打つことができないと判断した霞は接近戦による戦法を取った。近づくということは相手の射程に自ら突っ込む危険な行為ではあるが、この唸り狂う海上であれば波を利用し接近することは容易かった。なにこよりこの程度の天候でまともな航行ができないような軟弱者はパラオには例外を除けば存在しない。

 

「獲ったあ!」

 

まずは完全に油断しきっていたル級に的を絞った霞は大波を利用して一息に接近、ほとんど密着に近い状態から顔面に向けて発砲した。

 

防御する暇すら与えずに霞は戦艦の頭を吹き飛ばした。倒れゆくル級を見ながら霞は次の獲物を仕留めに動く。

 

開始早々に旗艦を失い指揮系統が混乱しているうちに霞はできるだけ数を減らしておきたかった。討ち取るだけ討ち取り一刻でも早く磯風の援軍に向かいたかった。

 

敵に増援はあってもこちらには無い。長引けば長引くだけ不利になる。

 

すれ違いざまにリ級のドテッ腹に魚雷を叩き込みながら霞は考えていた。

 

(想像以上に数が多い。下手に長引かせたくはないんだけれど、やるしかないか)

 

まだ余裕はある。鬼型姫型の連中が到着する前にある程度は片付けておきたい。

 

そう思った時だった。こめかみに嫌な気配がした。反射的に体を沈めた瞬間に16インチ砲弾が頭の数センチ上空を通り過ぎて行った。

 

偶然流れ弾が飛んできたのか?いや、違う。今のは狙って撃たれた。前方を見ても闇夜と豪雨で視界が確保できないが、此方に向けている殺意でわかる。いる。

 

戦艦。それもおそらく姫級の大物が。

 

(タイミング悪いったら!)

 

姫級の装甲は通常の深海棲艦よりも頑丈であり、耐久力も呆れ返るほどに高い。駆逐艦の装備ではかすり傷でさえ致命傷になるほどの火力も備えているともなればまともに戦っても勝ち目はない。

 

通常であれば。

 

姫級が出てきたとあれば想像していた最悪の事態ではある。が霞は絶望していなかった。

 

戦艦棲姫ならば呉にて第一艦隊に所属していた時から何度も砲火を交わしている。長年最前線にて戦ってきた経験値の高さだけで言えば、歴戦の猛者揃いのパラオ艦隊の中でも霞は群を抜いている。

 

「さて、そろそろ本気出しましょうか」

 

そう言うと霞は懐から徐に煙草を取り出した。嵐の中では火をつけることはできないが、問題ない。銜えタバコが彼女が本気を出すためのルーティンなのだから。

 

「かかってきなさい、このクズが!」

 

 

 

 

 

 

 

霞が戦艦棲姫に向けて突撃を開始し始めた頃、トラックの沖合を航行する二つの白い影があった。

 

「いやー楽しかったね、ヨーロッパ!」

 

「そうね。次は一人で行きたいものね」

 

「ちょっと!それはどういう意味よ!」

 

「行く先々で雨に降られたんじゃ楽しみも半減ってものよ」

 

「私雨女じゃないよ!?」

 

「いや、雨女でしょ?現に今!この大雨!お土産をワ急便で送っていなかったら今頃びしゃびしゃに濡れまくっていたわ!」

 

「それとこれとは話が別でしょ!?それよりも!」

 

「そうねぇ。嵐に紛れて変なのも紛れ込んじゃったんじゃない?」

 

「最近は静かに暮らしているのに誰よ。もう!」

 

世間話に花を咲かせながら戦場に向かう二人。一人は頬を膨らませてご立腹な装甲空母鬼。そしてその隣に居るのは――――

 

 

 

 

 

 

「シズミナサイ!」

 

「それはこっちのセリフよ!」

 

霞と戦艦棲姫の戦いは一進一退の攻防が繰り広げられていた。被弾すれば一撃轟沈の可能性もある霞は回避に専念しながらも砲撃で牽制しながら魚雷を叩き込むチャンスを窺っていた。

 

対する戦艦棲姫も高い装甲と体力で被弾しても怯まずに砲門を開く。付かず離れずを繰り返す霞にイラつき始めたのか攻撃は開戦時に比べると大分雑になってきていたが、有利なのは依然戦艦棲姫だ。

 

「ナゼ・・・当タラナイ!」

 

霞の動きを予測して打ち込んでいるはずなのに、被弾どころか至近弾すら発生していない。

 

互いに決め手を欠いたまま長期戦になるかと思えた矢先、戦艦棲姫の放った一撃。戦艦棲姫は直感でわかった。

 

(獲ッタ!)

 

砲弾は無常にも霞の頭部を真正面から捉えていた。対する霞は大波に足を取られ回避ができなかった。

 

何百と繰り返した中で訪れた奇跡。

 

戦場で偶然は起きない。

 

あるのは必然。

 

彼我の実力差。

 

埋めようのない実力差。

 

それだけだ。

 

「シズミナサイ・・・!」

 

 

 

 

 

 

(拙い!被弾する!)

 

波に一瞬気を取られたのが仇となった。文字通り致命的なミス。

 

躱そうと思えば躱せるだろう。ただし直撃はしないだけ。上手く捌けても相手は16インチ砲弾。掠っただけでも大ダメージは必至。無理に回避しようにも体勢が崩れた直後に次が来る。二発目は避けることすらかなわないだろう。

 

絶体絶命かと思われた。その直後。

 

目の前の砲弾が爆ぜた。

 

爆風に吹き飛ばされそうになった霞だが、何が起きたのか思考を巡らしていると思わぬ人物が目の前に立ち塞がっていた。

 

 

 

「ウチの霞ママに何してやがるんじゃクソBBA!!」

 

「アン!?」

 

霞の前に立つ深海棲艦。しかしてその正体はパラオにて偶然建造され赤座をパパと呼び、霞をママと慕う空母棲姫のアンであった。

 

「何であんたが此処に居るのよ!?」

 

霞の記憶ではまだヨーロッパ旅行の真っ最中だったと思っていたのだが。

 

「シュウ姉からメールが来ていてさ。トラックの辺りがきな臭いから帰ってくるときは気を付けてって連絡がきていたからクウちゃんを送っていたらママが危ない目に遭っているじゃん?これは助けないとって思って急いで艦爆を発艦させて砲弾を爆撃したんだけど・・・」

 

「砲弾に爆撃ってそんな無茶な芸当よくできたわね」

 

「これぐらい造作もないって。そんなことより、あいつら何?」

 

「敵」

 

「潰して?」

 

「OK」

 

霞からのゴーサインを確認したアンは一瞬深海棲艦としての、本来の空母棲姫としての獰猛なまでの黒い笑みを浮かべていた。

 

「ところで一緒に帰ってきたクウは何処に?」

 

「あそこで()()()()()()()している」

 

アンが指した方向を見ると装甲空母鬼のクウがロ級に乗っかって縦横無尽に暴れ回っていた。

 

「テメェら人の縄張りで何好き勝手してやがるんじゃ!」

 

旅行に行って住処を空けていたら知らない奴らが自分ちの庭で暴れていたらそれは怒って当然だろう。

 

「何モノダ!?」

 

「ならず者に名乗る名前なんざ持ち合わせて無ぇんだよ、ボケナス共がぁ!!」

 

「ギャアア!!?」

 

(あっちの雑魚はクウに任せて良さそうね)

 

となると残る問題は今対峙している戦艦棲姫だが。

 

「アン」

 

「わかってるよ。あいつを倒せばいいんでしょ?任せて」

 

アンの実力ならばあの戦艦棲姫とも互角以上に渡り合えるだろう。この嵐の中でもあろうと彼女は艦載機を発艦することができるのはさっき見せた通り。

 

「それじゃああいつは任せるわ。私は磯風の応援に行く」

 

「え、磯風もいるの?なんで?」

 

「後で教えてあげるわ。今は目の前のあいつに集中しなさい」

 

今はとにかく時間が惜しい。霞は説明を後回しにして磯風の救援に向かいたかった。

 

アンもそのことは理解しているのだろう。深追いせず戦艦棲姫を沈めることに集中することにした。

 

「そういうことならわかった。早く行ってあげて」

 

「頼むわよ、アン」

 

アンの背中を軽く叩いた霞は一人で戦い続けている磯風のもとへと急いだ。

 

残されたアンは直立不動のまま戦艦棲姫と対峙していた。

 

「あれ?逃げる背を撃つんじゃないかと思っていたんだけれど、撃たないの?」

 

「無駄弾ハ嫌イ」

 

「あっそ。それじゃあ一つ良いこと教えてあげる」

 

アンが右手を高く空に向かって掲げた。

 

「チェックメイト」

 

「・・・・!」

 

戦艦棲姫がアンの意図したことに気づいた時にはもはや手遅れだった。

 

アンが手を振り下ろしたと同時に戦艦棲姫目掛けて大量の急降下爆撃機が殺到した。

 

「敵機直上、急降下!!」




次回はいよいよ磯風姉妹の決闘となります。
元特殊部隊の二人の戦いはどうなるのか?

お楽しみに。
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