混血の艦隊   作:corin7121

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だいぶと間が空きましたが、ようやく完成しました。

また次回も遅くなりそうです。構想すら練れてねえ。



これちゃんと完結まで持っていけるか心配です。。。


トラックの終焉

先程までこの海域全体を覆っていた嵐はいつの間にか過ぎ去っていた。満天の星空の下、霞は一人磯風のもとへ急行していた。

 

(戦闘の音が聞こえない!あんな大見得切ったんだから死んでいたりなんかするんじゃないわよ!)

 

しかし霞が磯風のいた戦場に戻った時そこにはあの深海棲艦の姿はなく、磯風が一人佇んでいるだけであった。

 

「・・・勝った?」

 

「ああ・・・多分、な」

 

心ここに在らずといった様子で磯風は水平線の彼方を見つめていた。あの方角にはたしか。

 

「そう。それじゃあ私たちも司令と合流するとしましょう」

 

「そう・・・だな」

 

いつもの勝気な磯風とは違い意気消沈している痛々しい姿に霞は肩を貸しながらゆっくりとトラックに向けて進路を取った。

 

「流石はパラオの旗艦だな。あの大群相手に無傷で勝つとは」

 

「そんなことないわよ。アン達の援軍がなかったらもっと大ケガしていたわ」

 

アンが間一髪のところで助けに来たから助かったものの、もし数刻でも遅れていれば大破していても不思議ではなかった。

 

「アンが?あいつが何でいる?」

 

「色々あったのよ。それよりも、よく勝てたじゃない。たった一人でよく戦ったわね」

 

「・・・・・・」

 

「もう少ししっかりしなさい。そんな為体じゃあの世でお姉さんに笑われるわよ?」

 

「・・・なあ、総旗艦」

 

先程までの激しい戦闘の後ということもあるのだろうか、ポツリと磯風は言葉を漏らしていた。

 

「私たちが戦う意味って何なのだろうな・・・」

 

 

 

 

 

「観念しろ松戸!逃げ場はもうない!」

 

工廠の扉を強引に蹴り壊した赤座は刀を片手に突入した。

 

しかし、辺りを見回しても松戸の姿はない。ただただ赤座の声が響くのみであった。

 

「シュウさん!松戸の居場所は!?」

 

『隠し通路を使って逃走しているよ!場所は―――』

 

「あそこか!」

 

見渡すと一か所。不自然に並んだ工具棚があった。床をよくよく見てみればつい最近動かしたような跡も残っている。

 

力任せに棚をどけると棚の後ろからいかにも怪しげな扉が姿を現した。

 

通路は僅かに人一人が通れるほどの幅しかなく、明かりも所々に設置された裸電球がぶら下がっているのみで非常に薄暗い。罠が設置されている可能性もあるが躊躇していては松戸に逃げられてしまう。

 

「そう簡単に逃がしてたまるか!」

 

足止めを喰らっている場合ではない。赤座は危険を承知の上で通路をひた走った。

 

幸いにも地雷や落とし穴といったトラップは無く、通路を抜けた先には広い空間があった。切り立った崖に囲まれた入江にボートが一隻。松戸はその上で出航の準備をしていた。

 

「ちっ!もう追いついたか。しかし、外洋へと出ればいかに貴様でも追いつくことはできまい!」

 

赤座が海上を走ることができることを知らない松戸は既に勝った気でいた。そこに―――

 

「唯今・・・戻り・・・ました」

 

全身をボロボロにしたあの深海棲艦が船の前方に来ていた。

 

体中を覆っていた包帯は黒く焼け焦げ、その奥にある深海棲艦特有の真っ白い肌をのぞかせていた。

 

まさかあの二人を倒して戻ってくるとは思っていなかった赤座は冷や汗をかいていた。満身創痍な相手ではあるものの手負いの獣ほど危険な相手はいない。

 

深海棲艦は連装砲を震える腕で必死に上げながら赤座を狙っていた。

 

この距離であれば発射のタイミングさえ見切れれば再装填までに接近することはできる。しかし、赤座はどこか違和感を感じていた。

 

彼女からの殺気が感じ取れなかった。己が主を殺そうとしている相手に対して形だけ応対しているような、そんな違和感だった。

 

「何をしている!さっさとあいつを撃て!」

 

「了解・・・しました」

 

連装砲のトリガーにかかった指に力が入ったのを視認した赤座はすぐに縮地に入れるように身構えた。しかし―――

 

ドン!

 

「なっ!?ど、どこを狙っている!」

 

着弾地点は赤座ではなくボートのすぐ横。至近弾を受けたボートは大きく揺れ、乗っていた松戸を振り落とそうとした。

 

ドン!ドン!

 

二発。三発と立て続けに発砲するもその全てがボートを狙っていた。脱出をしようにも着弾による衝撃でボートに立つことができない松戸はなんとか発砲を止めさせようとするが彼女の手は止まることはなく、ついにボートは松戸を放り出して横転した。

 

「ぷはっ!くそ!わたしに何をするのだ!お前が殺すべき相手は

 

「貴様だ・・・松戸」

 

「なっ・・・!」

 

海面に浮上した松戸は深海棲艦に赤座を殺すように再度命令しようとした。しかし深海棲艦は言った。殺すのはお前だと。

 

「私が貴様を恨んでいないと思っていたのか?望まぬ深海棲艦へと改造を施した貴様を!」

 

命を長らえるためではない。ただただ己の探求心から深海棲艦へとされた彼女の怨みは計り知れないほど深いものだった。

 

「待て!待て!!待ってくれ!私はお前を助けるためにあの手術をしたのだ!」

 

「言い訳は聞きたくない。知っていただろう?元々わたしがお前の悪事を暴くために送られたスパイだということに」

 

「・・・っ!だ、誰か!誰かいないのか!誰でもいい!私を助けろ!!」

 

「虫のいいことだな。ここの提督は廃人。艦娘は全員お前が手をかけた。お前を助けてくれる奴はお前が一人残らず消したんじゃないか」

 

抜き身の刀を携えながら赤座が一歩前に進み出た。たったそれだけで松戸は声にならない悲鳴を上げた。松戸の前には赤座、後方には深海棲艦。逃げ場はもう何処にも残されてなんかいなかった。

 

「お前に残された選択肢は二つ。俺に頸を斬られるか、それともあいつに頭を吹き飛ばされるか。どっちにしろ此処がお前の墓だ、松戸」

 

「ひぃっ・・・!」

 

間近に死が迫っているのを感じた松戸は恐慌状態に陥っていた。とにかく岸に上がらなくてはと思ってもパニックになった現状では上手く水をかくことができずバシャバシャと水飛沫を上げるだけ。

 

そんな松戸の後頭部に何か硬いものが当てられた。松戸が振り返るとそこには連装砲を構えた深海棲艦がいた。

 

「ぅあ・・・止め―――

 

「・・・・・・」

 

深海棲艦は表情一つ変えずに連装砲の引き金を引いた。

 

小型とはいえ至近距離で連装砲が直撃すれば人間の頭なぞ簡単に消し飛ぶ。

 

避けることも命乞いも出来ずに松戸は頭を吹き飛ばされてあっけなく沈んでいった。

 

「終わったな」

 

刀を鞘に収めながら赤座は呟いた。元凶である松戸は死に、泊地を壊滅するまで放置した提督も憲兵隊に処罰されるだろう。ただ薬の影響を考えると情状酌量の余地は残されているかもしれないが。

 

そしてこの深海棲艦の処遇だが、松戸に対する復讐が大部分を占めていたのだろう。松戸をその手にかけた今、危険度は比較的低いと赤座は判断した。

 

「いえ、未だ終わっていません」

 

「?」

 

洞窟を後にしようとしていた赤座は深海棲艦の不意の一言に立ち止まった。不審に思い振り返ると、深海棲艦は自分の頭に銃口を突き付けていた。

 

「お前何するつもりだ?」

 

「今回の事件。誰かがケジメを、責任を取らないといけません」

 

深海棲艦はトラックで起きた全ての事に責任を感じていた。

 

提督を廃人にした。

 

艦娘を実験材料にした。

 

トラック泊地を壊滅に追い込んだ。

 

その全ての罪を。

 

「私は生きることに疲れました。提督さん、妹のことを。磯風のことをよろしくお願いします」

 

「ばっ――――」

 

赤座は縮地で距離を詰めようとした。しかし距離が離れすぎていた。間に合わない。自殺を止めようと必死に手を伸ばすもそれでも届かず。

 

ガン!と一発の砲音と少し遅れてバシャッと水飛沫が上がる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、見てらんないわよ」

 

「・・・霞?」

 

入江の入り口にいた二つの影。その片方の霞が右手に構えた連装砲から煙が立ち上っているところを見ると、あの距離から深海棲艦の主砲を打ち抜いたのだろう。

 

「なぜ邪魔をするのです!あなたには関係ないでしょう!」

 

深海棲艦が霞に怒りをぶつけた。死んで全てを償うつもりでいたというのに。

 

「いくつか勘違いをしているわよ、あんたは」

 

「勘違い?」

 

「死ぬことで責任は取れないわよ。ただの自己満足」

 

かつて霞の親友も罪の意識に耐えられずに死んでいた。だからこそ知っている。たとえ死んでもそれは罪滅ぼしにはならないということを。

 

だからこそ霞は言わなくてはいけなかった。

 

「本気で罪を償いたかったらそれは死ぬことじゃない。生きて生きて生き抜くしか償えない」

 

「・・・・・・」

 

「それに、だ。いまこの島にいる奴でお前に死んでほしいと思っているのは一人もいないぞ」

 

「そういうことだ、姉さん」

 

「磯風・・・」

 

まだ先程の死闘の痕も生々しい磯風が深海棲艦に近づいた。

 

「もう全部終わったんだ。もうこれ以上誰かが血を流す必要はない。・・・ぐっ!?」

 

「磯風!?」

 

無理をして体を動かしたからだろうか、磯風は前後不覚になり倒れそうになった。深海棲艦がとっさに手を伸ばしていなければそのまま海面に頭から突っこんでいたところだった。

 

「昔からあなたは無茶をし過ぎです」

 

「姉さんを正気に戻すためだったからな。その為なら無茶もする」

 

「・・・ふふっ」

 

笑った。深海棲艦は口元を綻ばせて笑っていた。

 

「久しぶりに見た気がするな、姉さんが笑っているところ」

 

「そうですか?半年は会っていないからでしょう」

 

「いや・・・。それよりも前から、そう。佐世保に着任した辺りからだな」

 

あの頃の姉さんは表目は笑っていてもその裏目では泣いていたことを磯風は知っていた。大本営から何か無理難題を押し付けられているとは薄々感じていた。自分の与り知らぬところで何かをしていることを磯風は知っていた。

 

しかし言えなかった。特殊部隊出が仇となった。機密情報を下手に突っつけばそれはいずれ自分を危険な目に遭うことになる。

 

「私にもう少しだけでも勇気が持てていれば、こんな事態にはならなかったのだろうな」

 

「いえ、そんなことはありません。反省しなければいけないのは私の方です」

 

それからしばらくは磯風たちは自分が悪かったと言い合っていた。そんな光景を赤座は離れた場所から眺めていた。

 

「さて、そろそろ時間切れになるな」

 

「時間切れ?」

 

「ああ。おそらくそろそろ大本営の監査部の奴らが到着するだろう。見つかったら色々と面倒だ」

 

予めトラックの状況を信頼できる人物に話していた赤座はその人物からトラックに派遣される部隊の詳細の情報を掴んでいた。

 

嵐が過ぎ去った今、あまりのんびりしていると脱出時に鉢合わせる可能性があった。本国で指名手配をされている赤座にとってこのタイミングで大本営に見つかると、今回松戸が起こした数々の悪行の濡れ衣を被ることになりかねない。

 

もっとも赤座が起こした事件に比べれば松戸の起こした事件などかわいいものではあるが。

 

「話したい事はたくさんあるだろうが、それは帰ってからにしよう」

 

「ですが、私は・・・」

 

「深海棲艦だから?そんなの気にしなくていいわよ。パラオには何人もいるから今さら一人ぐらい増えたところで誰も文句なんか言わないわよ」

 

ばつが悪そうに俯く深海棲艦に対して霞はあっけらかんとした口調で言った。

 

「さて、帰ったらしばらくは大人しくしていないとな」

 

パラオに帰還すれば色々とやることが山積みだ。まずは現在トラックの唯一の生き残りである清霜の処遇をどうするかだが。

 

「どうするつもり?うちで匿う?」

 

「それも一つの案だが、最終的な決定権は俺には無い。あの娘が決めるべきことだ」

 

トラックの再興を夢見た彼女には申し訳ない結果となってしまったが、これからどう行動するかは赤座や霞が決めることではない。

 

「あ、それと帰る途中でアンを拾っていかないと」

 

「アン?なんで彼女がここに?」

 

「旅行帰りのクウの付き添いみたい。なんにせよあの娘のおかげで助かったから後でお礼を言わないとね」

 

「そうか。それじゃあアンと合流次第パラオに帰還する!」

 

「はっ!」

 

洞窟に響く赤座の号令に霞と磯風は返礼した。

 

 

 

 

 

 

「さて、トラック泊地は壊滅状態。提督も薬の影響で廃人同然。すべて終わったわけだけれど、これから君はどうするつもりだい?清霜君?」

 

「・・・・・」

 

ところ変わってパラオの一室。薄暗いシユウさんの部屋でこの戦いの一部始終を清霜はずっと見ていた。

 

復興を願った場所は、清霜が帰りたかった場所はもう何処にもなかった。

 

優しい提督も。共に笑った仲間も。すべて失ってしまった。

 

「こう言うのは酷かもしれないけれど、君たちの行動が遅かったからこうなった。もっと早くに行動していればこの事態は防げたのかもしれない」

 

「それは・・・」

 

「でも、最悪の事態だけは防げた」

 

「え?」

 

「これが最悪じゃないのかって顔をしているけど、もし君たちが行動に移さないでずっとトラックに閉じこもっていたらどうなっていたと思う?」

 

それはもう地獄のような場所になっていたかもしれない。狂った科学者の実験動物にされた艦娘・深海棲艦が跋扈する得体のしれない場所に。

 

「そういう意味では君たちの行動は決して無駄なんかじゃない。今は後悔しているかもしれないけど、君のおかげでトラックは救えた。だからさ」

 

「・・・」

 

「もう泣いても大丈夫だから。よくがんばったね」

 

「うっ・・・うわああああああああああああああん!!!!」

 

今までずっと我慢していた反動からだろうか、清霜は大粒の涙を流して慟哭した。その背中をシユウは清霜が泣き止むまでずっと撫で続けていた。

 

 

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