混血の艦隊   作:corin7121

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この小説で登場するカタカナ表記の聞きなれない人物は深海棲艦と思ってください。






ようこそパラオへ その3

清霜が目を覚ました場所は知らない場所だった。

 

外は夕暮れなのか窓からは紅い陽光が差し込んできている。

 

「お、気が付いたか?」

 

窓とは反対側の方向からどこかくぐもった様な声が聞こえた。振り向くとそこにいたのは

 

「二日も意識が戻らなかったようだからな。心配したぞ?」

 

「ぎゃあああああああミイラああああああああぁぁぁああ!」

 

顔を包帯でグルグル巻きにされた得体の知れないミイラ女だった。

 

「ミイラではない。磯風だ。訳あって顔が腫れていてこの様だ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

腫れた原因は旗艦をブチ切れさせたのが原因なのだが磯風はあえてしゃべらなかった。

 

「あの、ここは何処なんですか?それと艦隊のみんなは無事なんですか?」

 

清霜の最期の記憶は海戦中に被雷、艦隊から落伍してしまったところまで。底から先の記憶はすっぱりと抜け落ちていた。隣に艦娘がいるということは何処かの鎮守府か泊地の艦隊に救助されたと思われるが、大破した自分以外の皆の行方も気になった。

 

その問いに対して磯風は少しの沈黙の後にこう言った。

 

「知らん」

 

「えええええええ!?」

 

「ああ、少し言葉が足らなかったな。ここはパラオ泊地そしてあなたが言う艦隊の行方だが私も気を失っていたので知らないだけだ」

 

「そ、そうですか」

 

そう言うと清霜は俯いてしまった。パラオの艦隊に救助されたはいいが、肝心の皆の行方が判らない。全滅してしまったのか、それとも大破した私を置いて先に進んだのか。

 

「あまり気に病むな。もう少し寝ていろ」

 

寝てろと言われてもそう簡単に寝つける問題ではない。しばらく布団に包まっていた清霜だが睡魔は一向にやって来ず、気付けば窓の外は夜の帳が下りていた。

 

 

 

 

 

 

清霜が医務室で磯風と話をしていた一方で提督は霞と共にある人物の下を訪ねていた。目的は清霜が属していたトラックの調査依頼。

 

彼女が居座る工廠の資料室。その内部は薄暗いが部屋のあちこちに山の様に積み重なった書類やどこから持ってきたのかわからない鉄屑に至るまで散らかり放題になっている。

 

「シュウさんいる?少しは部屋の中を掃除しなさい?足の踏み場もないじゃない」

 

「う~ん?まだ床が見えているから散らかってないよ?」

 

とんでもない理屈をこねながら部屋の奥からシュウさんが顔を出した。この惨状で散らかっていないとはとてもじゃないがそうは見えない。

 

「調べてもらいたいことがあったんだけれど、まずは部屋の片づけから始めましょうか」

 

「えーメンドk「片付け」はい・・・」

 

この泊地には逆らってはいけない存在がいる。シュウさんは渋々といった表情をしていたが、とりあえず足元に散らばっていた紙を拾い始めた。

 

 

 

 

 

資料室の掃除を始めて凡そ一時間が経過したところで一区切りついたので赤座は話を切り出した。

 

「捨て艦?」

 

「可能性の話だけど、あそこで戦闘が起きたのは間違いない。そして彼女は置き去りにされていた。艦隊が殲滅して一人だけ生き残った可能性もあるけど」

 

捨て艦戦法というものがある。駆逐艦などの耐久力が低く替えが効く艦娘を盾に主力の被害を抑える戦法だ。

しかし戦法といえば聞こえはいいが、主力となる戦艦や空母が無事であれば駆逐艦などどうなってもいいということ。

 

かつて戦争初期にはこの戦法によって敵陣深くまで切り込み深海側を総崩れにした記録がある。この戦果により大本営は捨て艦戦法を推奨した。

 

いや――――

 

 

 

 

 

―――――推奨してしまった。

 

その結果僅か一年足らずのうちに沈んだ戦艦や空母は十にも満たない数だったのに対し駆逐艦は百人以上が沈んだといわれている。

 

前線を押し返しシーレーンの奪取に成功した現在では捨て艦は外道と呼ばれているものの、各地の鎮守府や泊地の戦果争いに捨て艦戦法が使用されることもある。

 

「捨て艦戦法なんざ前時代の戦い方だ。今は一人でも多く帰還させることを第一に考えるべき時。戦って華々しく命を散らす美学なんざ本来は唾棄すべきもんなんだがな」

 

一人の軍人として戦場で死ぬのは本望なのかもしれない。だが、その死に意味がなければただの犬死にと変わりない。

 

「それで?私は何を調べれば?」

 

「シュウさんには清霜が所属していたトラック泊地の裏を調べてもらいたい」

 

「OK。それじゃあ一週間ぐらい時間をもらうよ。連中の裏の裏まで徹底的に探ってあげるから報酬はよろしくねー」

 

軽く手を振ったシュウさんは早速作業に取り掛かると言ってくれた。一週間もあれば彼女の腕ならトラックに所属している艦娘の練度はもちろんのこと、その裏に潜んでいるパイプも見つけ出してくれるだろう。

 

「さて、トラックがクロでないことを願いたいところだけれど」

 

「・・・本音は?」

 

「クロ、だろうな。霞も見ただろ?艤装の損傷具合。ろくに整備がされていなかった。トラックが南太平洋の重要拠点であることを考えてももっと真面な整備をされていないとおかしい」

 

シンガポールが東南アジアの西の要所だとすればトラックは東の要所。施設は本土に比べれば見劣りするかもしれないが、それでもちゃんとした設備が整っているはずだ。それなのに艦娘にとっては命と同義である艤装の整備がされていないとなれば、だ。

 

「確かに怪しいわね。それよりも私は清霜を襲った深海棲艦の方が気になるの」

 

「タ級だったか」

 

「ええ。この辺りには出没しない艦種だったから何か引っかかってね」

 

「シュウさんについでに調べてもらうか?」

 

「・・・いえ、深海棲艦側は全滅していたわ。調べようにももう水底深くに沈んでいるわ。残念だけどもう手掛かりになりそうなのはあの娘ぐらいよ」

 

「そうか」

 

とりあえずシュウさんに丸投げしておけば何かしらの情報は出てくるだろう。清霜を尋問するのも一つの手かもしれないが時期尚早だろう。

 

「呉と同じことになっていなけりゃいいんだがな」

 

パラオへ亡命する前、まだ大本営に従っていたころに起こした事件。あの時は――――

 

「やめましょう、あの頃の話は。あの地獄は貴方と扶桑、それに春雨とあたしの四人だけの秘密でしょ?」

 

「正確には祖母さん含めての五人だけだけれどな」

 

当時、上司でもあった祖母には事の顛末は伝えていた。本当なら止めてほしかったというのもあった。しかし返ってきた返事は「思うようにやりな。責任は私がとる」といった後押しの言葉だった。そのけっか四人でここまで流れてきた経緯がある。

 

風の噂じゃ罷免も已む無しだったそうだが、降格だけで済んだそうだ。今でも裏のルートを使って文通をしているが文面を見る限り後悔はしていないようで安心している。

 

「祖母さんにはいつものルートで連絡はする。あの時みたいに早まった行動はしないから心配するな」

 

「誰も心配なんかしていないわよ」

 

霞は鼻先で笑ってみせた。どうやら赤座が思っていたよりも気にしていない様子で赤座は軽くため息をついた。

 

「さて、そろそろあの娘が目を覚ましてくれていると助かるんだk「いいいいいいいいいやあああああああぁぁぁぁぁぁああ!!!!」・・・目を覚ましてくれたみたいだな」

 

「気を失っていなければいいんだけれど。幽霊でも見たのかしら」

 

よくよく考えればここには深海棲艦が普通に生活している。事情を知らない者たちが見れば発狂してもおかしくはないかもしれない。厄介なことになる前に二人は医務室へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

「あああああああああしあしあしががががが!」

 

「おおおおおおちつつちいいてええ!」

 

「二人とも静かにしろ。ここは医務室だぞ」

 

「「みいいいいいいらあああああああああああああ!!」」

 

「それはもうやった!」

 

赤座と霞が医務室に到着するとそこは阿鼻叫喚の世界だった。日が暮れて時間も浅く、周囲は海とジャングルぐらいだから他所様から騒音の苦情は来ないだろうが、仮に此処が横須賀や呉であったらどれだけ迷惑をかけていたことか。

 

それにここには一人、まだ意識が戻っていない重傷者がいる。騒いで体に障ったとなれば今後の予定にも響いてくる。

 

そんな乱痴気騒ぎを起こしている彼女たちだが、そろそろ静まらないといけない。隣にいる総締めがそろそろガマンの限界か小刻みに震えだしている。

 

「・・・・・・・・あんた達」

 

あ、もう手遅れだ。そう感じた赤座は一人耳をふさいだ。

 

「全員正座ー!!!」

 

 

 

 

霞が説教を始めて一時間。まだ怒りは収まっていないのかガミガミと医務室で騒いでいた三人を叱っているが、特に清霜は病み上がり。無理をさせてはまた倒れるかもしれない。そろそろ切り上げて事情を聴きたいところなのだが。

 

「あのー、お食事の用意ができましたけど・・・」

 

医務室の扉の陰から駆逐棲姫のコサメが覗いていた。どうやら晩御飯の準備が整ったようだが、室内の状況にとまどっているみたいだ。

 

「わかった。霞。言いたいことはまだまだあるとは思うが、ここらで一区切りにして飯にs「深海棲艦だあああああああ!」・・・もうちょっと待っていてもらうか」

 

「は・・はい」

 

これは夕飯の前にパラオの事を説明しておかないとまた一悶着起きそうであった。

 

「さて、改めてようこそパラオ泊地へ。俺がここの責任者の赤座だ。ここはまあ色々あってな。艦娘も深海棲艦も居るがみんな仲間で家族だ。施設の事でわからないことがあったら秘書艦の霞に聞くといい」

 

「パラオ泊地総旗艦及び秘書艦の朝潮型十番艦の霞よ。よろしく」

 

「え、えと。トラック基地所属!夕雲型十九番艦の清霜です!よろしくお願いします!!」

 

ちょっと緊張しているのか声が上ずっているが、しっかりと敬礼をしている。

 

「そこまで固くならなくてもっとリラックスしなさい。艤装の修理が終わればトラックまで護送しよう」

 

「そ、それには及びません!ひ一人で帰還できます!」

 

「?」

 

清霜のこの態度。ただ緊張のし過ぎにしては不自然すぎた。何かに焦っているように見えるが正体はまだ見えない。ただ清霜の装備は随分と破損していた。そう簡単に直せる代物じゃなかった。

 

「工廠班の話じゃ一週間はかかるそうよ。それまで養生しておきなさい」

 

「あ、あの今すぐトラックに戻らなければいけないんですけど!」

 

「先方にはこちらから連絡を入れておく。今また無理に海に出れば間違いなく沈むぞ?」

 

連絡をするつもりはさらさら無かったが、こうでも言わないと此処に留まろうとはしないだろう。何か隠し事をしているのは明らかだが、シュウさんの探りが入れば表に出てくるはずだ。

 

「ぁぅ・・・」

 

「あの、質問してもいいですか?」

 

清霜が答えを出せずに逡巡していると隣で正座をさせられていた春雨が清霜に声をかけた。ちなみにこの春雨も扶桑と同じく元ブラック鎮守府に在籍していた。その時脱走を企てた咎で両足を切断されてしまっている。今はココアが作ったフロートのようなもの、丁度駆逐棲姫が乗っているアレで泊地内を移動している。

 

「何故そこまでしてトラックに還ろうとしているのですか?」

 

「・・・・・・・みんなが。みんなが清霜たちの帰りを待っているからです!」

 

清霜たち。

 

おそらく真実は彼女にとってとても残酷なことなのかもしれない。ただ今は情報が少なすぎる。余計な情報を与えて不安がらせることは避けるべきだ。

 

「それならなおの事、ボロボロの姿で帰るよりちゃんとした身形で還る方が皆さん安心すると思います」

 

「春雨の言う通りよ。急いては事を仕損じるって言葉もあるわ。焦る必要なんか何処にもないんだから」

 

「・・・・・わかりました。しばらくの間ですがお世話になります」

 

悩みに悩んだ末に海に出ることは留まってくれたみたいだ。

 

(さて、これから忙しくなりそうだが。賽の目はどう出るか・・・)

 

 

 

 

 

 

その後、食堂に向かった清霜は偶然出くわしたココアこと重巡棲姫と集積地棲姫のシュウさんの姿を見て卒倒した。

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