秋刀魚漁が始まりましたが、何でイワシしか獲れないんでしょうね?
足を怪我した翌日、清霜はパラオに所属する艦娘たちが演習をするというので見学させてもらうことにした。のだが演習場に着いて早々異様な光景を見て隣にいる赤座に尋ねた。
「えっと。これはイジメですか?」
「いや、これがウチの演習だよ」
清霜が不思議がるのも無理はない。何故なら――
「先日の借りを返すとしようか」
「借りがあるのはあんただけでしょうが!」
「私が何をしたというのですかー!?」
「ぎゃーぎゃー騒がないの!これはこの間の罰でもあるんだから!」
霞を筆頭に磯風・天津風・照月がスタンバイしている対面には――
「一人で出撃するは御法度。致し方無し」
「総旗艦が罰ゲームなんざ珍しいこともあるもんだ!」
「勝てば予算勝てば予算勝てば予算・・・・・・」
「皆さんやる気十分みたいですね」
空母ヲ級に戦艦レ級。更には重巡棲姫に装甲空母の大鳳ととんでもないメンツが揃っていた。
そしてその後方から二人の影が見えた。フラフラと覚束ない足取りを扶桑はコサメに曳航されながら所定の位置に向かっていた。
「すみません、久々の演習で遅れました」
「扶桑さんも出撃ですか!?」
扶桑はブラック鎮守府に居た頃に失明しており本来なら海に出ることすら難しいはずである。
「ああ。それに関しては特訓しているから問題はない。言っておくが扶桑は普通の戦い方じゃない。誰にも真似できないやり方だ」
真似できないとはどういうことか。
「清霜はGPSの原理は知っているか?」
「GPSですか?」
地球の大気圏外にある人工衛星から情報を得ている程度の知識しかない清霜はそれでどう戦うのか見当がつかなかった。
「GPSは複数の衛星からの電波を受信して自分の位置を特定する。扶桑も同じやり方をしているんだ」
「つまり・・・・・・どういうことですか?」
「これを見ればわかるかね」
そう言って清霜に見せたのは扶桑の装備の一覧だった。
「え、これって」
そこに載っていたのは主砲一門に残りは電探というあまりにも偏った装備だった。
「見えなくても当たるのはこういう訳だ。三つの電探からのデータを元に相手の位置を特定しているんだよ。その気になれば砲弾を撃ち落とすこともできるぞ」
手数は劣るがどこにいても確実に当ててくるのは脅威の一言だろう。電探の範囲内に入れば逃れる術はないのだから。
「さて、後は矢矧の水雷戦隊待ちか」
「え゛!?」
四対六、それも駆逐艦四人に対して戦艦に空母だけでも過剰戦力かと思ったのにこれに水雷戦隊を加えるとか明らかにやり過ぎだ。
たった四人の駆逐艦で連合艦隊を相手に戦うなど正気の沙汰ではない。
「罰ゲームだからな。本当なら俺も出撃してやるところだったんだが流石に止められた」
「当たり前ですよ!?」
指揮官が直接演習に参加するなんて聞いたことがない。せいぜい安全なところから艦隊に指揮を飛ばすぐらいだ。
「まあこれで三:七ぐらいの勝率だからな。あいつらも強くなったもんだよ」
「・・・・・・清霜がおかしいわけじゃないんですよね?」
「そうだな。あいつらはイレギュラー中のイレギュラーだからな」
赤座の言葉を聞いて清霜は心底ホッとした。四人で連合艦隊から勝利をもぎ取るなんてまともな連中ではないのだから。
それから数分後ロ級やナ級を引き連れた矢矧が合流し準備は整った。
というわけで改めてそれぞれの陣容を見てみると
赤組
霞
照月
磯風
天津風
白組第一艦隊
扶桑
大鳳
レックス(レ級)
ヲリバー(ヲ級)
ココア(重巡棲姫)
コサメ(駆逐棲姫)
白組第二艦隊
矢矧
野分
ロックス(ロ級)
ロバート(ロ級)
ナンナ(ナ級)
ナイト(ナ級)
「艦娘と深海棲艦の合同艦隊にも驚きだけど、これって・・・・・」
「そうだな、扶桑は戦艦棲姫、大鳳は空母棲姫。矢矧と野分はそれぞれツ級とPTと考えれば解りやすいか」
清霜は思った。一体何処の特別海域の最深部だよと。でもこれに支援なし航空隊なしで勝率三割とかバケモノかよと。
「それじゃあ演習開始!」
赤座の号令によって在りえない戦力差の演習が始まった。
「一番槍は譲れません!攻撃隊発艦!」
「彗星発艦開始します。目標は先頭の磯風!」
「ぃよっしゃ!続け続けー!」
ヲリバーの艦攻隊が飛び出したのに続き大鳳の艦爆隊とレックスの水爆隊も発艦を開始。相手に空母はいないから戦闘機無しの攻撃全振り。空を埋め尽くす数の艦爆艦攻の群れ。真正面から数で押し潰す作戦だ。
そんな中だというのに赤組旗艦の霞は平然としていた。
「照月。数は何機ぐらい?」
「おおよそ400です」
「それじゃああれは照月に任せるわ。磯風」
「承知」
二言三言言葉を交わすと霞と天津風は二人から距離を取った。照月と磯風を囮に敵陣に肉薄するつもりらしい。
「さて、準備はいいか?照」
「いつでも!」
砲を構えるわけでもなく照月の前に陣取った磯風はそっと海面に拳を打ち付けた。もうすぐそこまで艦爆隊が迫ってきているというのにまるで気にしていない。
「敵艦上空!これより爆撃を開始!我に続けーーーー!」
「魚雷投下!目標前方の磯風!」
屍肉に群がるハゲタカの如く空からは爆撃機が、角を振り翳し爆走する牡牛の如く前方からは魚雷が。最早磯風に逃げ場はない。撃ち落とそうにも数が多すぎる。そして遅すぎる。
「磯風さん!逃げてー!」
岸から清霜が声の限り叫ぶが届きはしない。爆弾と魚雷の飽和攻撃に為す術なく吹き飛ばされる。そう思った直後だった。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!
遠目からでもわかる巨大な水柱が発生した。
「な、なんだなんだ!?何が起きた!?」
「衝撃波で機体コントロールできません!」
突如として現れた水の壁に混乱する艦爆隊。下から吹き上がる強烈な爆風をもろに浴び機体の制御ができなくなっている。そこに――――
ガガガガガガガガガガガガガ
壁の向こうから唸りを上げる機銃の炸裂音が鳴り響く。後方に控えていた照月が対空砲火を始めたのだ。
「被弾した!退避する!」
「恐れるな!突っ込めぇ!!」
対空射撃に臆することなく弾幕の雨を躱しきる。しかし抜けた先にいるはずの人物は忽然と姿を消していた。
「も、目標ロスト!?「ガン!」くそっ!被弾!被弾!」
「畜生!何処に消えやがった!まさか・・・」
ありえないと思いながらも操縦席にいた妖精さんは後ろを、上空を見た。その視線の先、照月の対空砲に曝され数を減らした艦爆隊の最後方に――――――いた。
水柱を発生させた衝撃で自分諸共上空に吹き飛んでいたのだ。数十メートルも空に飛ばされているにも関わらず磯風はしっかりと前を飛ぶ標的に向いていた。
「艦爆は任せる。私はレックスの水爆を狩るぞ」
「了解!長10cm砲ちゃんドンドン行くよ!!」
「ちょっとウソでしょ!?何やっているのあの娘は!」
「命知らず。恐ろしいまでの胆力が為す業だな」
大鳳が驚きの声を上げている横でヲリバーは冷静に分析をしていた。
「ヲリバーはなんでそんなに冷静なのよ!?あんな危なっかしいこと止めないと演習とはいえ大ケガするわ!」
「あー大鳳は磯風が暴れるところ見たことなかったか。あいつ、元特殊部隊出身らしいからな。あれぐらい日常茶飯事でやっていたそうだぞ?」
自身が発艦させた水爆隊に指示を送りながらレックスが大鳳に答えた。
「特殊部隊!?聞いたことない話なんだけど」
「噂じゃ暗殺だ破壊工作だ色々修練されていたらしい。毒料理もその一環」
「いやあれは素だって。前に言ってた」
そうだとしたら天職であろう。なにせブルーベリージャムで毒ガスを生成してしまうレベルなのだから。
「それよりも大鳳は後ろに下がってなよ。艦爆隊が全滅したんじゃ」
「ただの案山子ですなw」
「うぐっ・・・」
磯風の奇襲に加え照月の集中砲火をまともに浴びた艦爆隊はほとんどが被弾。数機は戻ってこれたが再出撃は不可能。残念ながらヲスカーの言う通り案山子と相成った。
その一方でヲスカーも被害は大きかった。魚雷を投下したものの磯風の衝撃波を受けて全弾早発。退却時にも照月が追撃を行ったせいで半数以上が撃墜判定されていた。第二次攻撃は不可能ではないが、攻撃に移るには時間を要する。これが普通の相手だったならば問題はない。
しかし、今回は分が悪かった。なぜなら相手方にはパラオ最速を誇る駆逐艦がいたからだ。
「牽制は私がするから、天津風は最大船速で突っ込みなさい!」
「了解!!」
磯風たちが奮戦している正面から大きく迂回して、霞を天津風が第一艦隊の横腹に食って掛かった。本来ならば前方には矢矧率いる水雷戦隊が布陣しており、まずはここを抜ける必要があったのだがそれを二人は完全に無視した。
「乱戦に持ち込めれば天津風の回避能力に分があるわ。陣形なんて無視して思う存分かき乱してやりなさい」
演習前のブリーフィングにて霞は天津風の特攻を許可していた。本土に居た頃はそのスピードと回避能力から「つむじ風」や「韋駄天」と恐れられた高速航法は今でも健在だった。現にココアとコサメの十字砲火に曝されているのに一発も被弾していない。
「本隊に奇襲!?やってくれるわね」
後方にいるココア達の砲撃が始まったことから矢矧は後ろを取られたことに唇をかんでいた。今すぐにでも救援に向かい天津風を包囲しないといけないのだが、そうもいっていられない。
「姐さん、あっしら援軍にむかいますか!?」
「バカ!正面から目をそらすな!」
「え・・・・・・・パガッ!?」
意見を具申にきたロバートの顔面にベッタリとペイント弾が着弾していた。
「・・・ビューティフォー」
撃ち込んだのは誰か。
後ろで暴れ回っている天津風でも霞でもない。
上空でレックスの艦載機と格闘をしている磯風でもない。と、なれば。
残るはそう。
照月のみ。
「弾着確認した。ロバート大破判定だ」
「もう一発いきます!」
上空で水爆隊を捌きながら磯風が照月に観測結果を伝える。長距離狙撃を成功させた照月は間髪入れず第二射を発砲した。今度もナンナの顔面をきれいに捉えていた。
「このままじゃ照月一人で第二が全滅されるわね」
矢矧の頬を冷たい汗が流れ落ちる。たった一人に艦隊を壊滅されたとあってはたまったもんじゃない。
しかし不運ばかりというわけでもなかった。照月が遠距離のスペシャリストだとすればこちらには接近戦のスペシャリストがいる。
「野分が仕留めます。矢矧さんは照月と磯風の牽制をお願いします」
手袋をはめ直しながら野分が言った。装備は何故かナイフ一本だけだが、それが野分の戦闘スタイルだ。
艦娘にはあるまじき至近距離での戦闘が彼女の持ち味。
伊達に
「接近するまで何分必要?」
「八分あれば」
「そう。一分で仕留めな!!」
「バカ言っていないで援護お願いします」
「あ、はい」
ミニコントを終えた野分はわき目も振らず一直線に照月へと突っ込んだ。そんなことをすれば照月にとっては格好の的なのだが野分相手にそれは通じない。
「シィッ!」
最小限の動きで弾幕の中を突っ走る。躱せないと判断した弾はナイフで弾くなり切り落とすなりして直撃弾は一つもない。
照月は後退しながら野分を狙い撃つもスピードは野分に分がある。徐々に距離を詰められこのままいけば仕留められる。さらに照月の退避を妨害するように至近弾が数発。
矢矧の牽制もありなかなか思うように照月は動けなかった。
「その頸置いてけ!」
どこかの薩摩人のようなことを叫びながら野分は照月に肉薄した。逆手に持ったナイフが照月へと迫る。その直前、野分に覆いかぶさるように影が―――
「私を忘れてもらっては困るな!」
「ちっ!」
磯風が野分を上空から奇襲した。寸でのところで躱されたが照月を落とされるよりはまだマシだった。
「レックスの水爆隊は?」
「粗方壊してきた。演習後にココアさんにどやされるかもしれないがな」
艦娘・深海問わず双方の艤装の修理が出来るココアは勿論のことながらレックスの水爆機の監修も行っている。演習であったとしても派手に壊したとあれば怒られるのは道理だろう。
「とりあえず二対二には持ち込んだが、相手は矢矧さんと野分か」
「うん。ちょっと分が悪いかな」
接近戦のプロである野分と軽巡の矢矧が相手だ。序にいうと矢矧も接近戦が得意な方である。張り付かれると照月の狙撃も磯風の奇襲も効果が薄まる。
「どうする?」
「迂回しながら霞たちと合流しよう。相性が悪すぎる」
「仕方ないか。それじゃあ弾幕を張るから準備は?」
「いつでも!」
「させませ『白組旗艦・扶桑の脱落を確認。演習そこまで!』あらら」
これから合流をしようとしていたのにいつの間にか赤組の旗艦殿は白組の旗艦を落としていたようだ。扶桑もそれなりの手練れなのだがこの短時間でどうやって倒せたのか。
「終わっちゃいましたね」
「ああ。野分もお疲れ」
演習終了のアナウンスを受けて野分が近づいてきた。さっきまでの殺気はどこへやらなさわやかな笑顔をしていた。
「お疲れ様。さあお風呂に行って反省会ね」
矢矧も汗をぬぐいながらやってきた。多少暴れ足りていなかったのか顔をしかめてはいたが。
『それじゃあ白組のメンバー変更後第二ラウンド始めるぞー。今から三十分後に再開する。燃料・弾薬・艦載機の補充を忘れるな』
・・・・・・・
「・・・・・・終わりじゃないの?」
「そのようですね。野分は次のオーダーには入っていませんでしたが」
「急いで補給に行ってきなさい。疲れているだろうけれど、まだまだ続くから気を付けなさい」
「・・・・・・まだまだ?」
「提督からの話だと9セットするみたいよ?」
「私たち交代も何も聞かされていないんですけれど」
「赤組は四人固定ですよ?大変ですね」
「骨が残っていればソ級たちが拾ってくれるから、お墓の心配はいらないわよ?」
誰もそっちの心配はしてねーよとツッコミを入れたかったがボーっとしているとそれこそ骨にされる。いや、ウチの連中の実力なら骨が残るかも怪しい。
「さすがに手加減はするでしょ?」
「わたしまだ死にたくありませーん!!」
その後日没まで行われた特別演習で最後まで海の上に立ち続けていたは赤組旗艦の霞だけだった。白組も併せて。