混血の艦隊   作:corin7121

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トラック襲撃計画

演習を終え、執務室に戻った赤座の下に無線が入った。相手はどうやらシュウさんみたいだ。必要な情報は集め終わったそうだから今晩にでも報告をしたいとのこと。

 

「流石に手が早いな。もう少しかかると思っていたんだが」

 

「私も同席しましょうか?」

 

演習でМVPをもぎ取った霞はまだ余裕がありそうだ。これなら次回からはもっと厳しくしても大丈夫だろう。

 

「やめて。私は大丈夫だろうけれど、周りがついてこれないから」

 

実際演習が終了した時点で海上に立っていたのは赤組白組合わせて霞だけ。それ以外の面子は立つのがやっと。中には気絶していた者も数名いた。

 

「そうか。まあ今回は霞ベースにしたつもりだったんだが、皆にはまだ早かったか」

 

「そのうち死人が出るわよ?」

 

「その前に止めるさ」

 

この人は嘘は言わない。だから死人が出そうな時は割って入ってでも止めるだろう。

その時だけは。

 

一時的に凌げたならそれで良し。目が覚めればまた地獄がこんにちは、だ。

 

「ドS」

 

「わかった。演習の続きをやるか。体力はまだ余っているみたいだし、俺が直でしごいてやる」

 

ごめんなさい言い過ぎたのは謝るからその腰の真剣だけは抜かないでください」

 

 

 

この時執務室の隅っこで大人しくしていた清霜は二人のドタバタを温かい目で見守り続けていたそうな。

 

 

 

 

 

 

時計の針が天辺を過ぎた頃にシュウさんの部屋には四つの影があった。一人はこの部屋の主のシュウさん。一人はこの泊地の監督である赤座。一人はパラオの総指揮艦の霞。そして最後の一人はというと。

 

「なんであいつの艤装からこんな物騒なもんが出てくるんだよ」

 

「知らないよ。修理していたら出てきたんだもん」

 

工廠の総責任者のココアだった。

 

赤座からの依頼で清霜の艤装の修理を請け負っていた彼女だが、その整備中にあってはならないものが見つかったらしく、シュウさんの報告を聞くついでにココアからも話を聞こうという流れになった。

 

「ちなみにそれが設置されていた個所は?」

 

「背中の艤装の中。海水に浸かったせいで不発になったみたいだけれど」

 

ココアはこれが不発になって安堵したそうだ。なにせ見つかったというのがダイナマイト。下手に被弾すれば一瞬で艤装ごと粉々に吹き飛ぶ代物だ。

 

「なるほど。捨て艦か」

 

「みたいだね。裏付けも取れているよ」

 

シュウさんが寄こした資料にはここ数ヶ月の出撃リザルトが載っていたが数隻の艦娘が行方不明、または轟沈扱いにされている。轟沈者リストには清霜の名前が入っているのも確認できた。

 

「よっぽどトラックの提督さんは戦果が欲しいみたいだね。大本営には偽装した報告書を提出していたみたいだし」

 

データに目を走らせてみるといくつか不審なところが目に付く。例えば装甲空母鬼を撃沈したと報告されているが、これは嘘だとわかる。

 

何故ならその装甲空母鬼は知り合いだから。最近は戦闘よりも旅行にはまったらしく、ウチのアンと一緒に先週から欧州に遊びに行っている。この間もパリの喫茶店で優雅にコーヒーを飲んでいるところの写真を送ってきたばかり。

 

装甲空母鬼はそこそこな数がいるそうだが、トラックの近辺を縄張りにしているのはこいつぐらい。それを週に一体の割合で撃破しているなどどう考えてもおかしいのだ。

 

「間違いなくクロだな。清霜の返還は無し。根回しが完了次第トラックに襲撃をかける」

 

「・・・・・・」

 

「?どうした霞。浮かない顔をしているが」

 

腕を組みどこか納得のいかない表情を霞はしていた。

 

「いえ、清霜があの時言ったことが気になってね」

 

「あの時?」

 

「清霜が目を覚ました後、あの娘はトラックに直ぐに戻りたいと言っていたわ。もしかしたら誰か助けたい人がいるのかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

「みんな無事かな・・・」

 

ベッドに横たわりながら清霜は窓の外に映る満天の星空を眺めていた。トラックに居るはずの仲間たちも同じ空を見上げているのだろうか。

 

「早く還らないと・・・うっ!」

 

ケガをした足がまた痛み出した。

 

高速修理材である程度は治せたが完治には至らなかった。こうなったらもう最後の手段だ。

 

「やめておけ」

 

「え?」

 

声がした方を見ると布団で簀巻きにされたまま天井から吊るされた磯風と目が合った。

 

演習で力を使い果たし気を失っている間に照月と天津風が腹いせにこの状態で放置したのだ。ちなみに霞から許可は取っているので心置きなく処刑した。

 

「お前の事だ。足を引きずってでもトラックに帰ろうとでもしていたのだろう?」

 

「う・・・」

 

図星だった。艤装がなくとも船を強奪してトラックに帰還するつもりでいたが、磯風にバレてしまった。

 

「艤装の修理はまだまだ時間がかかる。それに漁船を奪うようなことをすれば、私たちは一切の躊躇なくお前を沈めるぞ。だからやめておけ」

 

海賊の取り締まりもパラオでの業務の一つ。民間船を襲うようなことをすれば即討伐対象だ。

 

「それにここいらの漁船は小型ボートだ。とてもじゃないがパラオに辿り着く前にガス欠して漂流・遭難するのが関の山だ」

 

「それでも!私は・・・私は!」

 

「仲間のためか?それとも提督のためか?」

 

「・・・・・・」

 

仲間のため。そして提督のためでもある。私はトラックの皆に恩がある。それを返したいだけなのに言葉が出てこない。

 

しばらくの間沈黙が続いたが、答えに時間がかかると判断した磯風は口を開いた。

 

「ところで話は変わるが、一つ質問をしていいか?」

 

「え、は・・・はい。どうぞ」

 

「これは総旗艦から聞いた話なのだが、なぜあそこにいた?」

 

「!」

 

「トラックからの進路を考えると目指していた場所はココか、それより西方のタウイ・ブルネイ泊地。あるいはその手前のフィリピンのどこかだと予想しているのだが」

 

「・・・・・・」

 

「無理に話せとは言わない。轟沈寸前の味方を無視していたところを考慮すれば余程の極秘任務だったのだろう」

 

極秘。そう。極秘なのだ。トラックに所属している皆を護るためにトラックの指揮官さえ騙して出撃した。誰かが戦闘不能に陥ろうと止まることは許されず、ただただ前進するしかない。

 

全てはトラックの闇を暴くため。

 

「磯風さん。これはまだ誰にも話していないことです。ナイショにしてくれませんか?」

 

「話す内容にもよるが安心はしてくれ。これでも私は特殊部隊にいたこともある。そうそう暴露したりはしない」

 

「そうですか。じゃあちょっと長くなりますけど聞いてくれますか?」

 

「いいだろう。その前に一つ頼みがある」

 

「何ですか?」

 

「ちょっと下ろしてくれないか?この体勢がそろそろきつくなってきた」

 

「ま、待ってください!直ぐ下ろしますから!」

 

よく見れば磯風の顔が青白くなってきていた。これから大事な話をするのに宙ぶらりんの相手に気遣いながら話をすることは、さすがの清霜も躊躇ったのか、痛む足に悪戦苦闘しながら磯風を救助した。

 

その後、アサヒが差し込むまで清霜はトラックで起きたことの全てを磯風に告白した。

 

 

 

 

 

「さて、突然だが明日から出張に行ってくる」

 

翌朝。赤座は朝食の席にて出張の旨を伝えた。行き先は勿論トラックだ。

 

「随伴として霞を連れて行く。留守の間はココアに一任するが異議はないか?」

 

「「「異議なし!」」」

 

「ところで磯風の姿が見えないが、どうした?」

 

食堂を見回した時に磯風がいないことに気づいた。まだ昨日の演習の疲れが残っているのだろうか。諸々の事情から磯風だけは徹底的に追い詰めたから。

 

「昨日の演習が原因なんじゃない?まだ私も少し体が痛いし」

 

「そういえば昨日布団でグルグル巻きにしたから起きたくても起きれないんじゃない?」

 

「・・・」

 

清霜はずっと黙っていた。磯風をナイショに下ろしたことも。そして早朝に一人でパラオから出て行ったことも。

 

「わたし、ちょっと部屋を覗いてきますね?」

 

「あ、それなら野分も同伴します」

 

春雨と野分が食堂を出て行った。もうそこには磯風はいないのだが。

 

「帰ってくるのは二三日後といったところか。それまでは哨戒を中心に「ああああああああああ!」なんだ一体」

 

業務連絡を伝えようとしていたら春雨の悲鳴が聞こえてきた。野分がいるから問題はないと思うのだが、まさか。

 

「磯風さんが逃げました!!!」

 

血相を変えた春雨が食堂に転がり込んだ。野分はいないようだが、彼女は工廠に艤装を確認しに行くと言って別れたそうだ。

 

「やっぱり。昨日厳しくやり過ぎたんじゃない?」

 

「二度目の毒カレー事件に比べれば軽いメニューにしたんだが」

 

あの時は確か三日間フルでやり続けたから半日で終わった今回は大分とマシであろう。霞たちも一緒だったし。

 

「それにあいつのことだ。何かしらの情報を持っていてもおかしくはないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、あれが件のトラックか・・・」

 

双眼鏡を片手に磯風は一人、トラックの沖合でじっと息を潜めていた。

 

清霜を、皆を騙しての単独行動だ。今帰れば昨日よりも恐ろしい地獄が待っていることは想像に難くない。

 

「今度はメキシカンは覚悟しないとな」

 

パラオに着任した初日。祝いの席にと手料理をふるまったのだが、何が悪かったのか全員が意識不明の重体に陥った。翌日には無事意識を取り戻したのだが、その時に磯風がくらった制裁が総旗艦殿によるバックドロップからのジャーマンスープレックス、トドメにジャイアントスイングで吹き飛ばされるといったどこかの覆面レスラーの連続コンボだった。

 

思い出しただけでも恐怖で鳥肌が立つ。今度はさらにバロスペシャルあたりも覚悟した方がいいかもしれない。特殊訓練を受けている磯風は耐久には自信があるがあのデスコンボだけはもう二度とゴメン被りたい。

 

『磯風。応答しろ。こちら赤座。どうぞ』

 

縁起でもないことを思い返していると無線から連絡が来た。念のために工廠に走り書きを置いておいて正解だったようだ。

 

「こちら磯風。今トラックを視認できる位置にいる。周囲に敵影も何もない」

 

『だと思ったよ。今霞とそっちに向かっているところだ』

 

「そうか。総旗艦と・・・・・・・・・え?」

 

『何?私がいちゃ悪い?』

 

「そんなことはありません!」

 

磯風は必死に謝罪した。恥なんてこの際二の次。旗艦の怒りが自分に向かないように必死に説得を試みた。

 

『清霜から話は聞いたわ。同情はしている』

 

「霞・・・」

 

『でも許すとは言ってない』

 

「・・・・・・・・」

 

『わかっていると思うけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから逃げるな?

 

逃げられるわけがない。遠くにトラックを望みながら磯風は遺書を書いておけばよかったと後悔した。




次回はトラックにカチコミ!

ではなく磯風の過去になる予定です。

というか見切り発車で書き始めたせいで肝心のトラック編が完成していません。

次回の投稿後は更新ペースがガクッと落ちるかと思います。
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