混血の艦隊   作:corin7121

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というわけで磯風の過去語りです。といっても時系列的には本編第一話の半年ほど前なのですが。

今回はいつもに比べてマジメな話。のつもりです、ハイ。


昔話 磯風編

これはまだ、私がパラオに厄介になる少し前の話になる。

 

私には一人の姉がいた。私にとっては好敵手であり、目標だった。

 

姉さんは身長が私よりも頭一つ分は小さかったからよく私が姉だと間違われていた。その度に姉は頬を膨らませて怒っていた。

 

「なんでいっつも磯風がお姉ちゃんなんですか!」

 

「仕方がないだろう。姉さんは小さいんだから」

 

「背は小さくても心は磯風よりも大きいです!」

 

「そうだな。姉さんには敵わないな」

 

「ですよね!」

 

いまだに夜中にトイレへ一人で行けないほど心が大きいからな。

 

「磯風。今、変なこと考えましたか?」

 

「何も考えていないが・・・」

 

「ウソです!磯風はウソをつく時眉間にしわが寄ります!さあ何を思っていたかお姉ちゃんに教えるのです!」

 

「・・・姉さんちょっと背が縮んd「コロス」ああああああああああああ!!」

 

・・・。あの時のコブラツイストは背骨が逝きかけたな。

 

 

 

「佐世保へ異動ですか?」

 

「そうだ」

 

当時は大本営直属の特殊部隊に配置されていた私たちは上官からの命で佐世保に出向となった。なんでもそこにいる開発部所属の博士の実験に付き合ってもらいたいとのことだ。

 

単独で威力偵察を行ったり、時には侵攻作戦も行ってきた私たち。個人の戦闘力ならそこいらの艦娘と比べ物にならないほど高いからデータを取るのに最適な人材だったらしい。

 

そしてこの異動が私と姉さんの運命を大きく狂わせることになると誰が予想できたであろうか。

 

 

 

 

 

佐世保に着いて早々に私たちは工廠に呼ばれていた。

 

 

松戸 竜一

 

 

佐世保鎮守府の主任工作員。腕は確かだが、艦娘は兵器と考える一派に属している危険人物だ。

 

「君たちが話に聞いていた最強との呼び声も高い姉妹か。私が主任の松戸だ。早速で悪いが実験に協力してもらおう」

 

私は忘れもしない。この時の奴の顔が醜い笑みを浮かべていたことを。

 

 

 

 

 

あれから毎日、私か姉さん、時には二人で実験に協力させられた。

 

実験の度に私たちは大ケガを負った。足元で魚雷が勝手に爆発した時は死んだと思ったぐらいだ。特殊部隊にいたからといっても艤装が壊れれば沈むし、頭を打ち抜かれれば容易に死ぬ。

 

不死身を売りにしていたからか奴が寄こす兵器は危険極まりないものばかりだった。

 

「姉さん大丈夫ですか?最近ちゃんと休めていないんじゃ・・・」

 

「そんなことありません。お姉ちゃんはまだピンピンしています!」

 

嘘だ。

 

昨日も夜遅くまで実験に付き合わされてボロボロの姿で部屋に帰ってきたじゃないか。

綺麗だった栗色の髪もぼさぼさになっているし、体中に包帯を巻いて。

 

昔見た無邪気な笑顔は今じゃ仮面のように見える有り様だった。

 

私が・・・。

 

私がもっと強かったら・・・。

 

「ダメです」

 

「え?」

 

「磯風は妹なんです。お姉ちゃんより強くならなくてもお姉ちゃんが絶対守ってみせます。だから・・・大丈夫。無理に強くなろうなんてしないで、もっとお姉ちゃんを信じてください」

 

言葉が出なかった。

 

姉さんは私よりも小さいのにこの時は。この時だけは今まで会った誰よりも大きく見えた。誰よりも強い人だと改めて思い知らされた。

 

だから―――

 

「それじゃあ今日も頑張りましょう、磯風」

 

 

だから――――――

 

 

 

「いってきます」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――逝かないで、姉さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出た私たちは今日は珍しく別行動になった。姉さんは相変わらず工廠でサンプルのテスト。私は輸送任務に欠員が出たので久々の輸送作戦に従事することになった。

 

「帰りは夕方になりそうだな。それまでは気を引き締めていくぞ」

 

旗艦である天龍さんの合図で私たちは鎮守府を発った。

 

「・・・磯風。姉ちゃんが心配か?」

 

出発してから一時間が経った頃、おもむろに天龍さんが声をかけてきた。

 

「え?そ、そんなことはありません!たしかに毎日酷い格好で帰ってきますが」

 

「俺は提督の事は信頼しているが、あの松戸には気を付けろ。俺たちの事を人と思っちゃいない。深海棲艦を倒す兵器ぐらいにしか考えていない連中だ」

 

それはよく知っている。姉さん程じゃないが私も被害者だ。あいつの鬼畜ぶりには心底腹が立っている。

 

「最近じゃ表に出せない研究をしているんじゃないかって噂だ」

 

表に出せない研究?それは初耳だった。深海棲艦を倒すための強化・改良を施した主砲や魚雷のテストは何度もやって来たが公にできない研究ではないはずだ。

 

「出所はわからないんだが、深海棲艦を人工的に生み出すとかなんとか。そう簡単に深海棲艦が生まれるとは思えないけどな」

 

一般に深海棲艦は遥か昔、この海で散った兵士の怨念が具現化したものと考えられている。

 

現に日本と米国が激戦を繰り広げた南太平洋や英国と独逸が争った地中海・北大西洋には深海棲艦はいくつも拠点を築いているが、それほど戦闘が発生しなかったアフリカや南米の近海には深海棲艦の被害報告はあまり聞かれない。

 

「仮定の話だがよ。もし俺が深海棲艦なんかになったら遠慮せずに魚雷を撃ち込め」

 

「そんな・・・」

 

「心配しなくても妹の私がちゃんとトドメをさしてあげるから天龍ちゃんは安心していいのよ~」

 

後方から龍田さんが話に割り込んできた。確かにこの人なら一切ためらうことなく轟沈せしめるだろう。

 

「でもどうかしら。実際そんなことが起きて自分の手で姉妹を手に掛けなくちゃいけなくなったら冷静でいられるかしら」

 

「俺は・・・無理だな。斬りたくてもきっと刃先がブレるだろうし、龍を斬るぐらいなら見逃しちまうかもしれねえ」

 

「あら~天龍ちゃんはやっぱり優しいわねー」

 

「うるせっ!」

 

龍田さんにからかわれて天龍さんはぷいっと顔をそむけてしまった。照れ隠ししているのがかわいく見えて思わず笑ってしまった。

 

「笑うな磯風!龍も変なこと言うな!」

 

「ね?優しいでしょ?」

 

「そ、そうですね。はははっ」

 

「だあああああ!さっさと終わらせて帰るぞお前ら!!」

 

これ以上いじられたくなかった天龍さんは船速を上げた。私たちは微笑みながら先を行く天龍さんに遅れないようギアを上げた。

 

結果予定時刻よりも早く鎮守府に帰投することができた。奇しくもそれが最悪の場面に直面するとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

佐世保に帰投した直後だった。ドッグで艤装の点検を行っていた時に大きな爆発が聞こえた。頑丈に作ってあるはずの建物が震えたほどの衝撃に私は嫌な予感がした。

 

爆発が起きた場所は第一演習場。

 

姉さんが艤装のテストをしていた場所だった。

 

「天龍ちゃん!今の爆発は何!?敵襲!?」

 

「わからねぇ!俺は提督に報告に行くからお前らはここで待機して、って待て磯風!」

 

天龍さんに止められたが忠告を無視して私は海へ出た。演習場へは急げば五分もかからずに着ける。

 

「頼む姉さん。私の杞憂であってくれ・・・」

 

最大船速で演習場に辿り着いた私の目に映ったものは、最早人の形すら失っていた姉さんの変わり果てた姿だった。

 

「ちっ。また失敗か。おい。こいつは私の研究室に運んでおいてくれ。例の実験のサンプルに使う」

 

遠くからそんな会話が聞こえた。

 

姉さんは危険な実験で命を落とした。挙句その亡骸まで実験をするというのか。

 

 

知っているか?

 

本当に絶望の淵に叩き込まれると人は感情が抜けるんじゃない。

 

 

何も感じなくなるんだ。

 

 

血の味も。

 

 

 

飛び散る赤も。

 

 

 

 

鉄さびた臭いも。

 

 

 

 

泣き叫ぶ悲鳴も。

 

 

 

 

 

骨が砕けた痛みすら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして私は地下の営倉に監禁された。だが姉の無念を晴らすまで死ぬわけにはいかなかった」

 

「それで脱獄してパラオに?」

 

「そうだ。大本営にいたころに三笠中将から話を聞いたことがあってな」

 

「祖母ちゃんから?」

 

艦娘でありながら一線を退いていた赤座の祖母は現在は大本営にて作戦司令や人事に携わっている。しかしパラオは本来存在してはいけない軍隊だ。機密も機密。口が堅い特殊部隊の人物だからといっておいそれと言っていいもんじゃない。

 

「それからしばらく自分なりにあいつの行方を追っていた。佐世保での一件で消息を絶たれて難儀していたのだが、まさかトラックに逃げていたとはな」

 

清霜からの情報によると半年ほど前に漂流していた小型船舶を発見。乗組員は二人だけ。一人は研究者のような風貌の男で、もう一人は全身を包帯で覆われた小柄な女性だったそうだ。

 

どうやらトラックに向かう途中で燃料切れに遭い海を漂っていたところを救助されたそうだ。

 

その後しばらくはトラックの工廠で艤装のメンテナンスなどをしてくれていたのだが、それと同時に轟沈艦や行方不明になる艦娘が急増した。

 

提督に意見の具申をしたが彼を信用している提督は聞き入れてくれず、味方の損害は日に日に増えていく一方で。

 

「ここに居ちゃいずれ皆死ぬ。生き残りたい人はあたしと共に脱出しよう」

 

なんとかして本土に辿り着ければ。或いは友軍がいる泊地に合流できれば。この地獄から抜け出せる。

 

トラックから脱走を謀ったのは私を含めて12人。部隊を二つに分けて一つは大本営へ。もう一つは南方のラバウルを目指した。

 

途中深海棲艦の追撃にあって私は救助されたあの場所で気を失った。手遅れだった私を置いていったのは悲しいけれど。

 

私はまだ生きている。

 

トラックに戻ってあいつらを追い出さないと。私たちを信じて送り出してくれた皆を助けないと!

 

「そういうことね。わかったわ」

 

「そうか。わかってくれたか。ならそろそろこの卍固めを解除し「えい♪」えああああああああ!?」

 

「霞、その辺にしておけ」

 

このままじゃ磯風が折れると判断した赤座は霞を止めに入った。本当ならもっと最初から止めてほしかったところだが、その話をすると帰った後にまたあの演習を組まれそうだったので磯風は黙っていた。

 

「帰ったら皆とタイマン演習24時をしないといけないんだから、ここで大破にはしたくないんだ」

 

結局演習だ。それも丸一日。

 

「仕方ないわね。それで?磯風はどうするの?」

 

「・・・?何の話だ?」

 

てっきりこのままパラオに強制送還してから演習に突入するものだと思っていた磯風は霞に尋ねた。

 

「これからトラック泊地を潰すのよ」

 

「提督と工廠主任。あと駐在している憲兵を消す必要があるんでな」

 

主犯は工廠主任。提督は事実隠ぺいの共犯。憲兵も本土への報告もしていないところから見てグルと判断した。

 

「大本営への移送も検討されていたそうだが、あいつらのバックには大物がいる。証拠が揃っていようともみ消されるのがオチなら、最早手は一つ」

 

―――――闇に葬る。

 

「そんなことが許されるのか?そんなことをすれば提督は」

 

犯罪者になる。尊敬している提督がそんなものに堕ちてしまうことに憂いていた磯風だったが、赤座は軽く笑うと磯風の頭をなでながら言った。

 

「心配するな磯風。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に俺は罪人だ」




次回はいよいよトラック泊地と戦争!



じゃなくてパラオの居残り組の話になります。



ちなみにパラオの駆逐艦の配役は初めてのドロップ艦(霞)と初めてのイベントでドロップしたレア駆逐で構成しています。本当ならここに速吸とかユーちゃんもいれたかったのですが、プロット書いてて没になりました。

まあ速吸とユーちゃんはトラック編が終わった後ぐらいに登場させるつもりではいます。
速吸嫁提督さんとユーちゃんローちゃん嫁提督さんは気長にお待ちください。
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