【未完終了】緋弾のアリア ━白き殺人鬼━   作:針鼠

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二話

「ったく、なんて厄日だ今日は」

 

 夕日を背に家路を一人歩くキンジはぼやいた。

 朝は爆弾魔に殺されかけ、教室へ行けば転入してきたアリアに再会して風穴をあけられかける。これが厄日でなくてなんなのか。

 

(やっぱりさっさと武偵なんて辞めてしまおう)

 

 今一度決意した彼は男子寮である立派なマンションへ入る。エレベーターで昇り、割り当てられた部屋の扉の鍵を開けた。靴を脱ぎ捨てリビングへ。

 本来最大四人まで住める部屋を、今は人数の関係上キンジ一人で使っている。――――そのはずなのに。

 

「あら、遅かったわね。キンジ」

 

 我が物顔でソファーで足を組んでふんぞり返るピンク色のツインテール少女は言った。

 

「おかえりなさい、キンジ」

 

 こちらは口調こそ丁寧なものの、勝手に他人のゲームを引っ張りだして、こちらに視線すら寄越さずおざなりな対応の白髪の少年。

 

 ドサッ、と音を立てたのはキンジが落とした鞄だった。

 

 リビングの入口で硬直するキンジ。それに少女の方は不思議そうな顔をする。その反応はおかしい。おかしいことがありすぎて列挙することも出来ない。

 だがしかし、これだけは言える。

 

「――――お前等! 他人の家でなにやってんだ!!」

 

 そうだ。ここは自分の部屋だ。

 

 

 

 

 

 

 ――――他人の家でなにをやっているんだ。

 

 キンジは自分が至極真っ当なことを言ったと自負している。否、確信しているし事実だ。間違いなく自分は正しいことを言った。

 だというのに返ってきた言葉というのが、

 

「キンジ、アンタわたしの奴隷になりなさい。あとコーヒー淹れて」

 

「このゲーム難しいですね。あ、またやられちゃいました」

 

「ふ、ざ、け、ん、な!!」

 

 まるで会話が成立していない。アリアに至っては注文までつけている。

 それになにより奴隷とはなんだ。一体なにがどうなればそんな話になるというのか。彼女との接点なんて今朝の一件だけだというのに。

 

「そもそもお前等どうやって部屋に入ったんだよ!?」

 

「あら、ピッキングくらい武偵として当然の嗜みよ」

 

 当然の嗜み、と言われて同じ武偵として否定出来ないのは悔しいところがある。それにしても仮にも武偵が住む建物なのだからもう少し防犯セキュリティをしっかりして欲しい。

 

 ふふん、と自慢気に鼻を鳴らして胸を張るアリア。

 張る胸も無いくせにとはさすがに口が裂けても、

 

「張る胸もないくせに」

 

 キンジは言った。この怒りを溜め込むべきではないと思った。

 

 ガンガン! と顔の横の壁に風穴があいた。

 

「あ、あああああるもん! あるんだから!」

 

「やめろ馬鹿! 人の家で銃をぶっ放すな!」

 

 瞬く間にレッグホルスターから抜いたガバメントを乱射するアリアを羽交い締めにして押さえる――――が、背負投で床に叩きつけられる。理不尽である。

 

「アイツはわたしより先に来てたけどね」

 

 腕を組んで、むくれた顔で視線を向けるアリア。

 床に倒れたままキンジもそちらを見る。

 先程から二人がこれほど騒いでいても意にも介さずゲームを続けている少年の背中。ゲームオーバーの画面に項垂れ、またリスタートしている。

 

 キンジにとってアリアも謎だが、彼についてはもっと謎だ。格好を見るに同じ武偵の生徒なのはわかる。しかしあれほど目立つ容姿をしているのに学園では見かけたどころか噂一つ聞かない。なにより、あの戦闘力だ。

 生身で機関銃を装備した遠隔兵器を蹂躙し、あのとき(・・・・)の自分を軽くあしらってみせた。

 アリアは凄腕の武偵だが、彼は違う。武偵云々ではなく人としての次元が違って思える。

 その感覚が正しいことは、アリアも又、先程の漫才の最中からずっと彼を意識していることからわかる。

 

 だが、しかしである。ここは自分の部屋だ。

 厄介事の種どころか、もしかしたら今朝の爆弾より危険かもしれない人間を、平穏無事に過ごしたい己の部屋に居座らせるわけにはいかない。

 

 意を決したキンジは床から立ち上がってその背中へ声をかけた。

 

「おい! …………ん?」呼び掛けて、思い出す「お前、そもそも名前はなんていうんだよ」

 

 呼び掛けて、気付いた。キンジ達は彼の名前を一切知らなかった。

 アリアについては今朝のアクシデントでフルネームを知り、アリアがキンジの名前を知っているのは偶然同じクラスになったからだ。今朝以外一切接点の無い少年については名前も学科もクラスも、誰もなにも知らない。

 

「あーあー、またやられてしまいました」

 

 操っていた操作キャラが爆発して画面が暗くなる。何度見たかわからないゲームオーバーの表記にがっくりする少年。というか、さっきから彼はイージーモードのシューティングで何度撃墜されているのか。

 

 白髪の少年はコントローラーを置いてこちらへ正対する。

 

「そういえば名乗っていませんでしたね」

 

 彼は穏やかに微笑む。きめ細かやか白髪がさらりと流れ、細められた瞼の向こうに、赤い瞳に映る自分が見えた。

 

「僕の名前は霧崎(きりさき) マリです。これからよろしくお願いします。キンジ、アリア」

 

 思い出してみれば、それが彼と初めてまともに会話した瞬間だった。今朝の荒々しい暴力を奮った人間とは思えないギャップに、思わず不審な視線を向けたのは今でも覚えている。

 

「ん? これから?」

 

 マリの言葉に疑問を抱いてキンジが訊き返す。マリは頷いた。

 

「はい。僕、しばらくここに泊まりますね」

 

「は?」

 

「あ、わたしもよ」

 

「はあああああ!?」

 

 キンジの叫びは無情に部屋に響く。

 

 

 

 

 

 

 日を跨いで翌日。

 

 科目別に振り分けられた教室に向かうキンジはこみ上げる解放感と共に深い深い息を吐き出す。

 結局、アリアとマリは昨日あのまま部屋に居座った。元々部屋は四人部屋。スペース的に困ることはないが、そういう問題ではない。そもあそこは男子寮で、アリアは女だ。すでに大問題である。

 今朝もずっとついて離れず、今は科目別に教室が分かれてようやく離れたのだ。

 

 昨日発覚したことだが、アリアの目的はキンジをチームに引き入れることだった。彼女はすでにキンジのことを色々と調べあげていたらしく、過去、彼が強襲科でアリアと同じSランクを取得していたことまで知っていた。

 そこから現在の探偵科でEランクになった経緯は知らないのか、それとも興味が無いのか、彼女は今すぐ強襲科に戻って自分とチームを組むよう命令してきた。お願いではない。命令、だ。

 どうやら『奴隷になれ』というのは冗談ではなく本気だったらしい。

 

 無論、キンジに強襲科に戻る気はない。そも武偵そのものを今日にでも辞めたがっているのだ。それに、彼女が欲している力は自分には無い。――――正しくは、今の(・・)自分には無い。

 

 《ヒステリア・サヴァン・シンドローム》。通称、ヒステリアモード。

 それは超能力というのとは少し違う、遠山家の体質による変化だ。あることをきっかけに発動し、発動時は通常の三十倍にまで思考速度、反射神経、判断力、その他諸々が強化され超人化する。それによって入学試験時、キンジは対抗馬である受験生達を全滅させ、さらには試験官であった教員五人までも打ち倒してSランクを取得した。

 さて、問題はここからだ。まず発動条件であるあることとは、βエンドルフィンが一定以上分泌したとき。端的に言えばキンジが性的に興奮したとき。

 さらに発動時は超人となるのと引き換えに、平静であれば悶絶するほど気障ったらしいセリフや行動を取ってしまう。あらゆる倫理観、法すら捨て去って女性を優先してしまう。

 過去、彼はそれをクラスの女子に知られてしまいいいようにこき使われた経験があるので、今はこの体質が嫌で嫌で仕方がない。

 アリアは今朝、偶然モードに入ってしまった自分を見てチームに引きいれようと思ったのだ。

 

 だが、とキンジは疑問を抱く。

 たしかに、ヒステリアモードのキンジならば強襲科に限らず、あらゆるチームから引く手数多だろう。キンジ自身が望むかどうかはさておいて。けれどアリアに必要あるのだろうか。そう思った。

 彼女が一流であることは、三流である通常の自分でもわかる。あれほどの銃捌き、身のこなし、判断力の早さ。ヒステリアモード時の自分と競り合うほど彼女は強い。

 そんな彼女にはたしてパートナーなど必要あるのか。

 異性の家に押しかけ、やる気の無い者を無理矢理引っ張らなければならない必要があるのか。どうして彼女はあれほど切羽詰まっていたのだろうか。

 

「気は進まないが調べてみるか」

 

 神崎・H・アリアという名の少女のことを。

 この行為そのものが彼女の思惑に嵌っているようで嫌だが。

 

 ポケットから取り出した携帯のアドレスを開く。腕は良いが頭がアッパラパーの友人に依頼の文面を打ち、その指がふと止まる。思い出したのだ。得体のしれない者はもう一人いる。

 霧崎 マリ。そう名乗った透明な少年。

 その名前に聞き覚えはなく、顔も知らない。知っているのはヒステリアモードのキンジを遥かに上回る身体能力。人間としての枠組みで考えていいのか疑問を禁じえない存在だということ。

 

 昨日、自分の要件を一方的にとはいえ告白したアリアとは違い、彼は一切その真意を明かさなかった。いや、尋ねたらこう答えはした。

 

 ――――楽しそうだから。

 

 それを素直に信じるほど馬鹿ではない。本当にそんな理由ならば底抜けにおかしな人間だ。是非強襲科におすすめするほどに。

 

「………………」

 

 キンジは二人分の名前を文章に入れて、送信のボタンを押した。程なくして、依頼受諾の返答と報酬内容、それと情報受け渡しの時刻と場所の指定のメールが返ってきた。

 

 ちなみに、今朝件の少年は登校の時間になっても起きる気配は一切無かったので置いてきた。遅刻しようが知ったことではない。

 

 

 

 

 

 

「んー、学校に来るのは随分久しぶりですねえ」

 

 校門から校舎を見上げてマリは独り言を口にした。学園至急のローファーを鳴らして学園の敷地に入っていく。

 

 雪のような白い髪。ルビーのような赤い瞳。ちょうど百八十センチと男子にしても立派な身長に、その割に全体的に細い体。瞳を除いて色彩を感じない透明な少年は、しかし現実離れした容姿はすれ違う下校中の生徒全員が思わず振り返る。それを気にもせず大通り、その真ん中を堂々と突き進む。

 下校中の生徒――――時刻はすでに放課後だった。

 

 キンジの部屋で昼過ぎまでたっぷり寝たマリは目覚ましではなく自然に意識を覚醒させた。顔を洗い、身支度を整え、冷蔵庫にあった水のペットボトルを飲み干して家を出た。その間、一度たりとも時計など見なかった。授業に出るつもりもなく、学園行きのバスを利用するつもりもない。ならば端から時間など関係なかった。結果着いたのがこの時刻だっただけ。

 

 授業に出るつもりはない。ならばマリは一体なにをしに学園にやってきたのか。最後に登校した日を思い出すことすら出来ないここへ、今日やってきた理由。

 それは遠山 キンジという少年。それと神崎・H・アリアという名の少女について知る為である。

 

 今更ながら、マリは彼等についての情報をまるで持っていなかった。名前はキンジの部屋を特定したとき知った。二人共それなりに有名人のようで、特徴を伝えればあっさり答えが得られた。しかしそれだけだ。

 どんな人間なのか。性格は明るいのか暗いのか。短気なのか穏やかなのか。今までどんなことをしてきたのか。

 別に、そんなものこれから自分で確かめていけばいい話だ。だからこれは単なる気紛れ。外へ出て、一日を潰す、別段やらなくてもいい遊び。

 

 下校時間の正常な人の流れに逆らって学園の敷地の奥へ向かうマリ。その間すれ違う人へキンジ達のことを尋ねることはしない。彼らがどういった人間か知りたいなら知っている人間に訊けばいい。それが誰かわからないなら片っ端から訊けばいい。なんだったら教務部(マスターズ)に行ったっていい。

 そんなことがわからないわけではない。

 ならば何故マリはそうしなかったのか。ならば何故、

 

「ちょっといいですか?」

 

 何故数いる人の中から彼女(・・)を選んで声をかけたのか。

 

 まるで初めから彼女を探していたかのように、マリは一人の少女の背に声をかけた。声をかけられた少女は振り返る。

 

「えー、理子のこと呼んだー? もしかしてもしかして! 理子のファンだったりして!!」

 

 キャー! と人目憚らず勝手にテンションを上げる理子と自称した少女は蜂蜜色のツインテールを振り乱して顔を赤らめた。一瞬、振り返った彼女の目が鋭く細められたように見えた。

 

 アリアと同じく、少女にしても小柄な体躯。しかしアリアより起伏がはっきりした体を隠す制服は、ふんだんにフリルをあしらった改造を施されている。短いスカートは彼女が体を揺らすに合わせてきわどい位置をキープして一緒に揺れる。

 

 男を惑わすような甘ったるい声と仕草にもマリは顔色一つ変えずに自身の本題を切り出した。

 

「初対面で不躾なんですが、少し訊きたいことがありまして。遠山 キンジという男子生徒、それと神崎・H・アリアという女子生徒を知っていますか?」

 

「キーくんとアリア? うん、知ってるよぉ」

 

「やっぱり二人共有名人なんですね。どういった人なのか、教えてもらってもいいですか?」

 

「ふーん……二人のこと、ね」

 

 マリの質問に、理子は口元を微笑に染める。手入れの行き届いた細長い人差し指で艶やかな唇を撫でる。異性ならば彼女への好意構わず心臓が高鳴る妖艶な仕草。

 じっとマリをねぶるように見つめた理子は唐突にマリの右腕に抱きついた。

 

「くふっ。いーよ」

 

 ぎゅっと胸を強調するように抱きしめて、彼女は上目で顔を突き合わせた。

 

「じゃあ人のいないところいこっか?」

 

 可愛らしく小首を傾げた理子の発言に下校時で少ないとはいえ周囲の人間がざわつく。誤解されても仕方のない、いやむしろそう仕向けたような言い回しだ。

 

「はい」

 

 はたして、それを平静で受け止めたマリのせいで周囲は騒ぎ立てるタイミングを失って、ただ二人を見送った。

 

 理子が連れてきた場所は学園敷地内の園芸ハウス。武偵という荒事を学ぶ場所であるからして、少しでも世間体を良くするため自然保護をアピールした――――ともっぱら言われている、普段どころかどんな時間も人気の少ない場所である。訪れる人間といえば木花の世話をするとある用務員ぐらいだ。

 

 クリアフロストの扉をくぐって二人が中に入る。理子は腕を解放して、ととっと小走りして跳んだ。ひざ上くらいの高さにある仕切りのブロックの上へ着地した。くるりと振り返る。丈の短いスカートは揺れるが、しかしまるで不可思議にも中は見えなかった。

 

「えーと、なんの話だっけ?」うーん、とわざとらしく考えこんだ仕草をしてから「ああそうそう! キーくんとアリアのこと知りたいんだっけ?」

 

 クスクスと彼女は笑う。明らかに覚えていることを、わざとらしく焦らしてみせる。女という武器を最大限活かしている彼女の常套手段だった。ちなみに、『キーくん』というのは彼女が名付けたキンジのニックネームである。

 

「ええ、お願いします。――――でもその前に一つだけいいですか?」

 

「なぁに? あ、でも人がいないからってえっちぃことはダメだかんねえ」

 

 コロコロ、クスクス。理子は笑う。

 

「僕と話すときはその猫っ被りはしなくていいですよ」

 

 そんな彼女の笑顔が消えた。




閲覧ありがとうございますー。

>どもどもお久しぶり……ってほどではあるようなそうでないような。兎に角こんばんわです。

>暇見つけて書いた二話投稿ー。しかし時間的にはまるで進んでいない。話的には進んでいないですが、原作(アニメ)物語のメイン戦闘がすっ飛ぶ予定なのでバランス良くなるかなぁ、とか考えております。

>理子登場!そして可愛いよね彼女!わたしは理子と白雪好きなのデス!……あれ、もしかしてわたしはヤンデレ属性好きだったのか?
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