「NPCに毎日愛してるって言うと強くなるらしい」   作:Momochoco

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→『性悪人狼』

「そうですね……それじゃあ――ルプスレギナにします」

 

「へぇー、なんで?デザインが好みとか?」

 

「あ、それはないです。……うーん、なんでって聞かれても……別に理由はないですけど、まあ強いて言うならルプスレギナのクラスってクレリックですよね?それならもしステータスに反映されずに強くなった場合でも回復魔法の回復量とかで変化がわかりやすくなるんじゃないのかなーって」

 

「うゎ、面白みの欠片もない理由。男ならもっと顔で選ぶとか、体で選ぶとかそういうのはないのかよ!」

 

「何で怒られてるんですか俺……」

 

 とりあえず二人は今日の作業を実験のために急いで終わらせる。

 後輩としては正直あまり今回の実験に気乗りはしない。レア素材に釣られてしまったのは確かであるが、よく考えれば毎日実験をするのはそれなりに苦痛なのではと。まあ、引き受けてしまった以上はやるだけであるが。

 

「そういえばこの実験のこと誰かに報告したりしますか?だったら、俺すごい恥ずかしいんですけど」

 

「それなら黙っててやるよ!あ、でも一応モモンガさんには一言言っておくか」

 

「そうですね。モモンガ先輩になら別に恥ずかしくないです」

 

 雑務を終わらせた二人は早速、ルプスレギナの所へと向かう。居場所はたぶん第九階層であろう。とりあえず円卓に行くとプレアデス達は6人セットで居た。ついでにメッセージを使ってモモンガさんも呼びつける。

 呼んだらすぐ来てくれるモモンガさん。

 

 転移のエフェクトが発生し、そこからギルド長モモンガが出て来る。

 

「ナザリックの存亡に関わる重大なことって何ですか!一応スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも持ち出してきました!」

 

「……ぺロロン先輩何て言って呼び出したんですか」

 

「てへペロ」

 

 その後実験の内容とそこまで重大ではないことをモモンガに説明する二人。

 案の定ペロロンチーノは怒られていた。

 実験の内容に関してモモンガはかなり懐疑的である。まあ内容が内容だけに信じてもらえないのも仕方がないと言える。

 

「話は分かりました。ただし、正直胡散臭い感じがしますね。後輩君は本当に毎日愛してるなんて言うつもりですか?」

 

「……いや、まあ、そうあらためて言われると何かやりにくいんですけど」

 

「モモンガさん……ユグドラシルの醍醐味は何ですか?未知を楽しむことでしょ!俺たちがもしこの実験を成功させたなら本当の意味でユグドラシルを楽しめたと胸を張って言えるんじゃないのかよ!せっかくなら楽しんで行こうぜ!」

 

「!?……その通りですぺロロンさん!俺楽しむことを忘れてました!実験を応援します!」

 

「じゃあ、モモンガさんもパンドラに出来るだけ愛してるって言ってください。俺もシャルティアに出来るだけ言うんで」

 

「!?」

 

 モモンガに衝撃走る。他人がやる分には良かったが自分がやるとなるとそれなりに苦痛であった。だが応援すると言ってしまった手前引き下がる訳にもいかない。仕方なくこの実験に参加することになったのだった。

 

「それじゃあ愛してる同盟発足ということでいいですか?」

 

「……はい」

 

 露骨にテンションが下がるモモンガ。

 

「仕方ないですね。ただし三人だけの秘密ですからね」

 

 ここにユグドラシルの謎に挑戦することを決めた三人が集まった。

 そして第一回の愛してる発言に移る。

 ぺロロンチーノもシャルティアの元へ、モモンガもパンドラの方へ行ってしまった。後輩的には一人の方がマジみたいで嫌だった。

 

「さ、言うか」

 

 さっさと終わらせようとルプスレギナの前へ立つ。

 あらためて見てみると可愛いらしいデザインをしているなと思う。赤い三つ編みの髪形に褐色の肌と快活そうな見た目をしている。そして何より金色の目が彼女の種族である狼人を主張していて可愛らしいと思った。

 後輩は胸の中で獣王メコン川に謝罪しながらそっと一言呟こうとする。

 

「あ……あい……あいし……ああああああ!きっつ!」

 

 この場面を誰かに見られてるのではという不安が突如後輩を襲う。

 ゲームなので顔色は変わらないが、現実の世界の後輩の体には変な汗が流れていた。そもそも誰も見てないとは言ったものの、他のプレアデス達は横にいたりするのでそれも気に障った。

 

「ちょっとあっち行ってて……」

 

 コマンドを使い他のプレアデスを反対側の壁際に移動させる。

 こんなことで焦ってたらこの先どうなるんだと安請け合いした自分に腹が立つ。

 愛してるなど親にも言ったことなどなかった。さっさと言ってしまおう。

 

「……愛してる」

 

 そう一言呟く。

 口から出してしまえば楽なものであった。

 肩の荷が下りたのか円卓の自分の椅子に座りながらルプスレギナを見る。

 NPCなので顔色は変わらない。後輩はそんなものだよなと机に突っ伏す。

 

 

 

 そして同じ頃。

 

「シャルティア愛してるぞおおお!」

 

「はぁ……パンドラ……愛してるぞー……」

 

 後々にこの愛してる発言を偶然聞いてしまった他のギルドメンバーが引いてしまったという話はまた別の話であった。

 

 

 

 

 

 

「あー、そんなこともありましたね」

 

「ありましたねって……モモンガ先輩!俺は今でも検証してるんですよ!」

 

「まだやってたんですか……俺はパンドラ相手だったんで正直結構嫌だったんですよね。まあ後輩君が来た時だけは形式上だけは言ってましたけど」

 

「まあ、それは仕方ないですね」

 

 二人は円卓の間で隣り合う席に座りながら過去の思い出を振り返っていた。

 愛してる同盟発足から数年、今日はついにユグドラシルの最終日になってしまった。あれから毎日欠かさず愛してる発言を繰り返していた後輩。

 

「何と言うか一回習慣化してしまうと、言わないと落ち着かなくなってしまったんですよね。寝る前に歯を磨くみたいな感じで」

 

「その例えはどうなんですかね……それで総評として効果はあったと言えますか?」

 

「……あったと言えばありました。心の問題ですけど少なくとも俺がこうして最終日まで続けられたのも、モモンガ先輩とこの実験があったからだと思います。ぺロロン先輩もさっきまで来てくれてましたし」

 

「それは……そうですね。効果があったと言えると思います」

 

 ほとんどのギルドメンバーが辞めてしまった。それは仕方のないことだし、どうしようもない事だとモモンガも後輩も分かっている。ただ今日は最終日ということもあり、何人かのメンバーは顔を出してくれた。

 タブラはアルベドの最後の設定を変えに、ヘロヘロは愚痴をこぼしに来たりした。その中の一人にぺロロンチーノもいたのである。

 

「さて、後少しで終わりますけどどうしますか?」

 

 後輩はモモンガに尋ねる。

 モモンガは明るい声で答える。

 

「最後ぐらい玉座の間に行きましょう……それとせっかくなら出来るだけNPCも集めて盛大に終わりますか」

 

「あの、NPC集めて防衛とかは大丈夫なんですか?」

 

「ここまで来たらもう侵入者もいないでしょう。それにぺロロン風に言うならば、せっかくなら楽しんで行こうぜ!ってやつですよ」

 

 後輩は何も言わずOKサインを出す。

 

 玉座に出来るだけ沢山のNPCを集めた二人。全部のNPCは入りきらなかったがそれでもかなりの数が集まっていた。一体一体に思い出がある。だから集めてくることだけでも十分に楽しかった。

 百鬼夜行のNPCを眺めながらモモンガが話す。

 

「大体集めましたね……」

 

「そうですね……何か感動しそうです」

 

「今日は――」

 

「?」

 

「今日はしないんですか?実験は」

 

 

 モモンガは意地の悪そうな声でそう問いかける。

 後輩はその問いに思わず笑ってしまった。

 

 

「あはは!NPC集めた後にそれ言うんですか?言いますよ!最後ですもんここまで来たら言います!」

 

 もう何年も続けてることだった。

 だから慣れた……とは言えないけども違和感なく言える。

 

 ルプスレギナを自分の前に立たせて今日の実験を始める。

 

 

「愛してる」

 

 

 モモンガの前だったが恥ずかしさはない。

 それはこれが最後であるとモモンガも後輩も分かっていたからかもしれない。

 ルプスレギナの顔は変わらない。これを続けて良かったと思う後輩。

 

 一瞬の沈黙の後にモモンガが後輩にある提案をする。

 

「最後ぐらい何か褒美でもあげたらどうですか?」

 

「……そう言われてもクレリック用の装備は何も……ああ、これで良いか」

 

 それはぺロロンチーノから貰った素材で作った指輪だった。

 余った素材で作ったために性能はあれだが、記念品としていつもアイテムボックスを埋めていた。最後ぐらい出番をやるかとルプスレギナに装備させてやる。

 

「……最後だからな」

 

 そして後輩はモモンガの座っている玉座の横に立つ。

 あと少しで彼らは消える。

 

「モモンガ先輩、もうほとんど時間ないですけど言っておくことはありますか?」

 

「……あー、そうですね……楽しかったです」

 

「俺もです」

 

 最後は笑って終われたことに感謝しながらその時は来た。

 

 

 

――0:00:00……

 

――0:00:01,2,3,4……

 

 

 

「「ん?」」

 

 後輩とモモンガは一瞬、何が起こったのか分からなくなる。これはユグドラシルの続編が出たということか?いや、それにしては事前情報がなさすぎる。延期?それともロスタイムか?

 分からないが続いていることだけは確かである。

 

「あの!」

 

 後ろから誰かに呼ばれた後輩はふと振り返る。

 そこにいるのはこれまでずっと愛していると言って来たルプスレギナだけだ。

 だから一瞬信じられなかった。

 

「え?なに?」

 

「あの!……この指輪は……その、結婚してくださるということ……ですか?」

 

「ちょっと待って…………今モモンガさんと話すから」

 

 顔を赤らめながらほんの少しだけ頷くルプスレギナ。

 後輩はモモンガの元へ行きこそこそ話を始める。

 

「あの、聞いてました?今の話?」

 

「あ、はい。結婚のことですよね?したらいいんじゃないですか?」

 

「いや、そうじゃなくて今の状況ですよ!何でまだ続いてるんですか!?」

 

「ふふ、それならもう考えがまとまってますよ!たぶん俺らがずっと愛してるって言って来たことを運営が察知してサプライズを仕掛けてるんですよ!せっかくだからこのイベントを楽しんだらどうですか?」

 

「それは流石に無理があるんじゃ……いや、俺もそれくらいしか浮かばないですけど……だとしたらモモンガさんもパンドラと……何でもないです。じゃあ、ちょっと行ってきます」

 

 再びルプスレギナの前に立った後輩。

 

「じゃあ、します。結婚」

 

「ほんとっすか!?ほんとにほんとっすか!!」

 

「うん、いいよ。俺独身だし」

  

 ルプスレギナは泣きながら抱き着いてくる。

 その瞬間、玉座にいた全てのNPCが一斉に歓声を上げる。

 モモンガも凝った演出だなと思いながら席を立ち歓声に参加した。

 

 二人が転移したことに気付くまで残り3分を切った。

 

 

 

 

 

 

「父上……私も……」

 

「え?」

 




とりあえずルプスレギナにしました。長かったので分割 次はルプスレギナ視点
『メガネのデュラハン』も一回書いたんですけど暗くて病んでたのでやめました

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