生命の樹が神の街に根付くのは間違っているだろうか   作:ねをんゆう

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11.首脳陣の異変

 

「エルゼ……!!」

 

日も落ち街も静まった頃、フィンに背負われ意識を失ったままのエルゼを迎えたのは当然ながらアイズであった。

 

エルゼが部屋を飛び出していった後、急いで修練場へ向かうも既にエルゼは出発した後であり、それを追おうにもガレスやリヴェリアに引き止められ、結局こうして門の前で彼女の無事を祈り続けることしかできなかったのだ。

 

フィンから奪い取るように彼女を引き離すと、どうやら気絶しているだけで大きな損傷は見受けられない。マインドダウンに似たような症状であり、アイズの見た限りでは命に別状はなかった。

 

そんな彼女をもう離さないとばかりにしっかりと胸に抱き、アイズはキッとフィンを睨み付ける。

 

そもそもダンジョンへ連れて行くということにすら了承していないのだ、ここまでになるまで戦わせるなど完全にアイズの許容範囲を超えている。

アイズの中でこれまで築き上げてきたフィンへの信頼は地の底にまで落ちていた。

 

「一体、何をしてきたの……!?」

 

「……18階層まで行ってきた」

 

「ッ!!」

 

パシンッと乾いた音が寒空に響く。

アイズの後ろで様子を伺っていた門番達も目の前で起きた惨事に呆然としていた。

怒りの表情を浮かべるアイズに罪悪感など微塵も無い。一方でフィンの方はと言えば、やはりこちらも罪悪感など少しも感じてはいなかった。

……彼の顔には何かを決心したかのような表情だけ、殴られたことなど全くと言っていいほどに気にも留めない。

 

「……アイズ。次の遠征だけれど、エルゼも連れて行くことにした」

 

「なっ……!?」

 

怒りを驚愕が塗り潰すほどの衝撃だった。

 

遠征に連れて行く?

エルゼを?

ダンジョンに今日入ったばかりの彼女を?

 

一瞬呆けていたアイズだったが、我を取り戻し、伝えられた言葉を飲み込んだ瞬間、塗り潰された怒りの炎は再燃する。

 

「もちろん、君にも付いてきてもらう。待機して欲しいという話は無しだ」

 

「フィン、いい加減にして……!エルゼは道具じゃない、これ以上負担をかけないで!」

 

「悪いけどこれは決定事項だ。どうしても心配だというのなら、君が彼女のことをしっかり守ってあげるといい。君の希望通り、遠征中も離れることなく居られることだしね」

 

「そんなことを言いたい訳じゃ……!」

 

ここまで来てもアイズの言葉はフィンには届かない。

ほんの少しだって彼女の言葉を聞き入れてはくれない。

2人の溝はどんどんと大きくなっていく。

 

……たった1人の少女が原因となって。

 

「ああ、それとアイズ。次の遠征、ゴライアスを倒す必要は無いよ」

 

「フィン!話を聞いて……!」

 

「エルゼが倒してくれたから」

 

「……え……?」

 

「それじゃあ、彼女のことは頼むよ。おやすみ」

 

最後の最後に特大の爆弾を落としていったフィン。

アイズは部屋へと帰る彼の背中と、自身の腕の中で眠る彼女の姿を交互に見つめ、見かねた門番に声を掛けられるまでただただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

 

「……既にそこまでの力が」

 

「うん、想定内ではあるけれど、事実であって欲しくは無かったレベルだ。遠征に連れて行くことは確定だろうね」

 

「……ロキ、いつまで落ち込んでおるんじゃ。お主がシャキッとせんと下の者が困るんじゃぞ」

 

「……約束の1つも守れん神になんの価値があるんや。なんもかんも全部ウチのせいなんやから落ち込みくらいするやろ」

 

「……いや、今回の件は僕達の力不足が原因でもある。ある程度力がついて、最近は少しばかり気が緩んでいたのかもしれない」

 

「耳が痛いのぅ」

 

「……私も、ここまで自己嫌悪に苛まれたのは久し振りだ。そもそも我々があの子を信用できていたら話は終わっていたのだ、それなのに私は……」

 

その部屋に集まっていた4人の顔色はあまりにも酷いものであった。

それこそロキとリヴェリアに関しては今直ぐ倒れてしまってもおかしくない程に青白い。

 

ことの始まりはフィンからの報告であった。

 

鍛錬中のあまりにも人外じみたその成長速度に恐怖を抱いたフィンは、その日に3人を集めて事の真相を追求した。

そうしてロキとリヴェリアから伝えられた衝撃の事実、そしてロキから伝えられた超能力と呼ばれる力の存在。

 

元々、今回の遠征においては4人はアイズをメンバーから外し、エルゼと共に居て貰うつもりであった。

それこそがエルゼにとっても、アイズにとっても良い結果を招くと信じていたからだ。

 

しかし話が変わったのはその直前、ロキが感じたとてつもない嫌な予感。アイズを欠かしたこのままの状態で遠征を行えば、確実に甚大な被害が出るだろうという直感。

神の勘ほど恐ろしいものはなく、それが嫌な予感ほど当たるというのは通説だ。

 

加えて日々疼きを増して行くフィンの親指のこともあり、次の遠征で何かが起きるだろうということは彼らの中では確定した。

 

……さて、それではアイズを置いて行くという案は当然消える。

良い機会ではあったものの、彼女はこのファミリアでも重要な戦力。

絶対に欠かすわけにはいかない。

今回は他の者にエルゼとの留守番を頼もう。

 

そう結論付けられなかったからこそ、彼等はこのような暴走に近い行いをすることになってしまった。

 

「力の暴走……?[

 

超能力というものは非常に暴走しやすいものである、それがロキの最初の言葉だった。

使用者が激情にかられれば超能力は感情に乗って自動的に発動され、その力が強ければ強いほど周囲に甚大な被害を与える。

 

アマギリ・エルゼという少女は、言うまでもなくあまりにも不安定な心を持っていた。

そして"生命の樹"と名付けられる程の強力な力を有していた。

ロキやフィンとの対談の時もそうだが、彼女は時折自身の過去を振り返り、感情を高ぶらせる。

過去の辛い思い出がフラッシュバックし、夜眠っている際に飛び起きてしまうこともあるとアイズから聞いていた。

 

もしそんな彼女を今最も心を許しているアイズから引き離せばどうなってしまうか。

 

彼女が暴走を引き起こさないと信用することは、彼等にはどうしてもできなかった。

……悲しいことに、それはロキもまた同様だった。

 

 

苦肉の策として提案されたのが、彼女も遠征に連れて行くという案。

もちろん、ロキはこれに反対した。

 

しかし代案となるものもなく、仮に遠征を中止したとなればファミリアの名は地に落ち、既に受けているクエストのキャンセルや諸々の賠償金、信頼の悪化によって、もう二度と安全な遠征を行うことができなくなる可能性もある。

最悪の場合、ファミリアの破産ということだって有り得るだろう。

 

よって譲歩として提示されたのが、実際にエルゼをダンジョンへ連れて行き、自分の身を守れる程度の実力と慣れを持たせてから行かせるというものだ。

 

エルゼのステータスを迂闊に外へと広めることはできないためファミリア内でも事情を話すことはできないが、例えこれが原因となってメンバーからの信頼が弱くなったとしても、無理矢理にでもこれを行ってエルゼの生存率を高めることが最適だと考えた。

 

……きっと、考えればもっと良い案はあるだろう。

それこそ、アイズの代わりに他のファミリアから実力者を引っ張ってくるなんてことも案の1つではあったはずだ。

遠征数日前という急な話では難しいかもしれないが、可能性はあるだろう。

フレイヤの所からはともかく、ヘファイストスならば事情を話せば喜んで協力してくれる筈だ。

 

ただそれでも、この場にいる誰しもが現状で冷静さを欠かしており、唯一冷静であったガレスですら周囲3人の異常な様子に押されてしまって意見を述べるのが難しい状態にあることが失敗の原因だ。

それらの全てが全て、偶然にも悪い方向へと転がってしまったことでこの惨状が完成してしまった。

 

もはやこの悪循環を止めることは難しい。

ロキとリヴェリアに関しては時間が経つにつれて焦燥しており、フィンに関しては17階層で見たあの光景が一向に頭から離れずまともな思考を妨げられる始末。

ファミリア始まって以来の限界状態が、彼等をあらゆる方面から苦しめる。

ファミリア内からの信頼すら揺らぐほどまでに深刻に物事は進んでおり、このまま遠征になど行けば彼等自身の判断ミスにより死者を出してしまうのは誰の目にも明らかだ。

そして、きっとそれは決定的な始まりとなるだろう。

ファミリアの崩壊の第一歩に。

 

「……ムゥ」

 

……ただし、出る目、出る目が全て悪い方向へと転がっているこの現状の中で唯一救いがあるとすれば、幹部の中で1人、精神状態がまともな人間がまだ残っていたことだろうか。

 

ガレス・ランドロック

 

初めてアイズとエルゼが出会った際にも、エルゼがロキ・ファミリアへとやってきた際にも、フィンがエルゼの異常性を見出した際にも、偶然にも全くの別件でその場に居合わせることのなかった人物である。

 

この中で彼だけがエルゼとの関わりを持たず、起こった事実を言葉だけでしか知らず、つまり今回の件をそこまで深刻に受け止められてはおらず、客観的に見ることのできる人物であったのだ。

 

……そして今回の件。

彼がその位置にいたが故に悪い方向へと働いてしまった原因と、彼がその位置にいたが故に良い方面へと働くであろう要因は全く同じものであった。

 

それは単純、"彼がドワーフである"という一点に尽きる。

 

彼は自分達ドワーフのことをよく知っている。

そして同時に、他の種族と自分の種族の違いをよく理解している。

ドワーフという種族が騙し合いや読み合いに不向きであり、そういったことは他の種族に任せることが最適であるということをよく知っている。

自分達ドワーフがそういった場に過剰に出しゃばることは、組織の不利益に働く招くだけであることを身を以て知っている。

 

故に彼は自分だけでは決断をしない。

選択をしない。

必要に迫られるまでは、助言や確認といった作業に従事する。

 

自分が間違っていると思った意見が、自分では考え付かなかった点で功をもたらした事を何度も経験しているが故に、口は出しても決定的な反対はしない。否定はしない。

 

自分の様な者よりも、フィンやリヴェリアほどの賢者が言うことの方が必ず良い成果を出すに決まっている。

それまでの経験故にそんな思考が彼の中にはあった。

そしてその考えは間違っていない、事実としてこれまではそれで上手くいってきた。

諦めや逃げとも取れるそれは、しかし彼の中では自己主張の激しい自分の気性を押さえつけ、なんとか成立させた努力の産物なのである。

 

……そして言うまでもないが、今回の件が止まる事なく悪い方向へと進んでいった原因の1つがこれだ。

 

彼の中で"自分以外の者達が間違った意見を出すはずがない"という前提で作られたその思い込みは、当然"自分以外の者達が間違っていた"場合には完全に破綻する。

彼がドワーフであり、自分の身の程を知った賢明な者であったことこそが、悲しいことにこれを助長してしまったのだ。

 

しかし、もちろん彼が悪いという訳ではない。

偶然今回は噛み合わせが悪かっただけである。

確かにそういった場合を想定しておくべきではあったかもしれないが、そういう話は今回の様に生じる失敗から学んで修正していくべきことであり、そもそも前提の通り彼以外の者達が判断ミスをすること自体がそれこそ有り得ないというレベルの話なのだ。

この件でガレスを責めることは、間違っていると言ってもいい。

 

 

 

……むしろ、である。

先にも言った様に、今回彼がこの席にいたことが悪い方向へと働いてしまったのも事実であるが、良い方向へと働く要因もまたそこなのだ。

 

ガレス・ランドロックはドワーフである。

 

情に厚く、

短気で、

熱血漢で、

直情的で、

頑固者で、

自信家で、

 

そして、何よりも仲間を大切にする。

 

彼はそんな典型的なドワーフであった。

 

 

彼が例えリヴェリアやフィン、ロキに対しても譲ることが出来ないのは、正しくその点であった。

 

彼等のどんな意見に対しても明確な拒否をしようとしない彼であるが、それでもその一点においてはそれこそ頑固に譲ることはない。

その点だけは引き剥がせない。

 

そして、それだからこそ彼は信用され、重宝される。

 

探索で前衛の壁役として働く彼は、ファミリア内ではある意味では後衛の、最後の砦でもあるのだ。

 

ファミリアが道を外すことが無いように、間違った道を進もうとする彼等を引き止める、最後の壁。

 

彼等が自身の仲間を蔑ろにしようとした時、彼は立ちはだかる。

それこそが彼に求められた真の役割でもあり、それこそが彼が心に決めている自分の在り方でもあった。

 

 

故にガレスは口を開く。

現状の彼等が行動がそれに値すると判断したから。

……彼等が本当に、自分という壁にまで押し寄せられていると気付いたから。

 

彼等が、信頼するべきはずの家族達を裏切る様な真似をしていると思ってしまったから。

 

 

 

「お主等、いい加減にせんか……!」

 

ゴォッと彼を中心に殺気と威圧が吹き荒れる。

レベル6の冒険者の中でも肉弾戦闘に特化した彼が放つ本気の怒り。

 

我を失った仲間の眼を覚ますため、頭に血が上った戦友達を冷ますため、彼はゆったりと立ち上がり、立ちはだかる。

 

「ガレス……?」

 

「フィン、言うまでもなくワシには主等が悩んでおることが半分も分かっとらん。お前が何をそんなに恐れておるのか、リヴェリアやロキが何をそこまで悩んでおるのか。本当のところではまだワシは理解できておらん。そこに言い訳をするつもりはない」

 

「一体何を……」

 

困惑する3人に対し、ガレスは更に一歩前へと踏み込んでいく。

彼等の心にも踏み込む様に、意識を前にして覗き込む。

そうしなければ伝わらないから。

伝えたいから。

余計な気持ちなど必要ない。

ただ彼らしく、ひたすら実直に想いの丈を叩きつける。

彼はそれしか知らないし、そうしてこれまで生きてきた。

彼のその貫き続けた生き方が最も説得力を持っているということであると、彼自身が一番よく知っている。

 

「じゃが、お主等が家族を蔑ろにしておることだけは分かる!r

 

「まだファミリアに入って数日の子供を信用できんのは仕方なかろう」

 

「しかしなぜベート坊やアイズのことまで信用してやれん!」

 

「確かに聞いとる限りではエルゼとやらのことを外に漏らすのは得策ではなかろう」

 

「しかし、それは彼奴らに対してさえも隠すべきことなのか……!?この4人の中でしか共有できんほどのことなのか!?ワシにはそれが分からん!」

 

感情が昂り、叩きつけた拳によって机が粉々に破壊される。

しかしそんなことを気に止めるものなどここには1人たりとも居ない。

それ程にガレスの威圧感は、存在感は凄まじかった。

その体躯でありながら日頃は1つ後ろの位置で彼等を見守る彼がここまで表立って感情を表に出すことはそうもなかった。

 

だからこそ、言葉の重みが増す。

 

だからこそ、彼等の内へとその言葉は響く。

 

「ワシには主等が彼奴等のことを信用していない様に思えてならん!

彼奴等が情報を漏らす前提で動いておるのが気に障ってならん!!

今日の様に一切何も伝えぬまま強行することは間違っているようにしか思えん!

 

フィン、腹を割って言え!

ワシの言っとることは間違っておるか!?

またワシの至らない所に貴様の考えはあるのか!?

答えろ!」

 

ダンジョンから戻って以来、色も光も無くなっていたフィンの眼の奥をガレスは睨み付ける。

馴染みの戦友のそんな無様な姿を叩き潰すように己の全てを気迫と共に打つける。

 

そんなガレスの全身全霊をその身に受けたフィンは、頭を打ち付けられた様な衝撃と共に思い返す。

これまでの行動と、それを行った自身の内心を。

 

しばらくの間、返答することが出来ず固まっていたフィンであったが、次第に彼の目には光が戻り始めていた。

そしてそれと共に、彼の表情は自分を嘲笑するような、しかし戒める様なものへと変わっていく。

 

「……いや、ガレス。今回ばかりは僕にそこまでの考えはない。

ああ、そうだ、君の言っていることが全面的に正しい。

僕は、いや僕達は、君が言った通りアイズ達から情報が漏れる事を恐れていた。そんなつもりはなくとも、信用していなかったんだ。向けられる顔もない」

 

「心配するな、ワシにも責任はある。お前1人に負わす様な真似をするつもりはない。

……そうだろう!?リヴェリア!ロキ!」

 

そう叫ばれると同時にビクリとその背を伸ばすリヴェリアとロキ。

顔を青ざめ、如何にも弱っている2人であるが、そんなことに容赦する今のガレスではない。

言っていいこと、悪いこと。

今の彼にそんなことを気にするつもりなど毛頭無い。

例えそれが致命的なものであろうが、彼は容赦なく全てを叩き込む。

 

「貴様等、まさかエルゼとやらを苦しめた責任を、自分達の信頼を落とすことで取ろうとしておるわけではあるまいな!」

 

「な、なにを突然……」

 

「あの小娘に重荷を負わせた責任を、小娘の重荷を知りながら避け続けた責任を、自分達が恨まれることで有耶無耶にしようとしとるのではないかと聞いておるのだこの愚か者どもがァ!」

 

それはこの日最大の怒りだった。

あまりの気性にホームの中で数人が飛び起きてしまうほどの圧力。

常人と同じ程度の強度しかないロキはまるで重力が何倍にもなったようにも感じていた。

 

……しかしそれ以上に、心が悲鳴を上げていた。

 

「そんなことはない!私はただ……!」

 

「ならば貴様等は貴様等自身が恨まれる度に、むしろ心を痛めるのがあの小娘だということを承知の上で行なっていたということでいいのだな!?」

 

「……っ!!」

 

誰もが考えれば分かるような当然の話。

エルゼの身になって考えてみれば直ぐにでも思い至るような当たり前の話。

しかし、ロキとリヴェリアにはなぜかそれが至らなかった。

普段とても賢明である彼等が、それに至ることはなかった。

 

それはなぜか。

 

触れてはならないその部分に、ガレスは容赦なく叩き込む。

例えそれが彼等を再び弱らせることになったとしても、彼は容赦なく向き合わせる。

 

「貴様等は所詮、あの娘っ子のことなど本気で考えてはおらんかったのだ……!」

 

「それは違う!!」

 

「約束とやらを破ったこと、無視して避け続けたこと、それ等の罪を補うことばかりを考え、彼奴自身のことなど、これっぽっちも考えとらんかったのだ!!」

 

「違う!」

 

「ならばなぜこんな当然のことにも気付かんかった!ならばなぜあの娘っ子こそがあの瞬間に追い詰められておったことに気付かんかった!あの後にレフィーヤが言っておったぞ!話を聞いている間、エルゼとやらはずっと拳を握り締めておったと!!」

 

「っ!?」

 

実はあの直後、フィンがダンジョンへ行き、リヴェリアがそそくさと自室へ戻っていくのを見送ったガレスは、彼等を探しにきたレフィーヤによってそのことを伝えられていた。

 

エルゼが一番傷付いていると。

 

なぜそんなことをするのかと。

 

他人のことでありながら涙ながらにそう訴える彼女に、ガレスは何一つ答えることができなかった。

 

 

ガレスの言葉によって何も言い返すことのできなかったリヴェリアは両手で顔を覆う。ロキは依然として俯いたままである。

 

実際にはガレスの言葉は4割正解というのが正しいだろう。

 

彼等2人は確かにエルゼのことを考えていたし、彼女を遠征に連れていくことが彼女にとっても最善だと思っていた。

 

しかしその結果ばかりに目が行ってしまい、彼の言う通り罪滅ぼしの意識が先行して過程に目を向ける余裕が無くなってしまい、結果的に見落としてしまっていたのだ。

 

それでもこうして結果として出てしまった以上、彼等2人に言い訳をすることはできない。

 

エルゼのための言いながらも結局自身の保身に走っていたと思い込んでしまった2人は強烈な自己嫌悪に襲われる。

自分がそれほどまでに汚い人間(エルフ)(神)であったのかと、消えて無くなってしまいたいほどの衝動に襲われる。

しかし勿論そんなことはできない。

それは逃げることと変わらないからだ。

彼等はただその苦しみを受け止めるしかない。

そうしながら心に刻みつけて行く。

 

滅多に感情を表に出すことのないリヴェリアが、密かに涙を流し始める。

これにはガレスも驚いたが、触れることはなかった。

 

これと同時に、ガレスもまた自身の心に自分への侮蔑を抱いていたからだ。

自分も共犯者であった癖に、今更何を偉そうに言っているのかと。

必要に駆られていたことだったとはいえ、まるで知らぬ存ぜぬといったように、いけしゃあしゃあとそんなことを言える自分が本当に気持ち悪く感じた。これまで長く行きてきた中でも経験したことのないような自己嫌悪に、彼は危うく押し潰されそうになる。

 

必死に錯乱しそうになる自分の感情を押さえつけるリヴェリアの姿が目の前になければ、抵抗することはできなかっただろう。

 

なんだかんだと言っても、目の前のエルフが強い心を持っていると言うことをガレスは改めて知った。

 

「……ガレス、リヴェリア、ロキ。今回の件を少なくともアイズとレフィーヤ、ティオネとティオナ、それとベートには早急に話しておきたいと思うのだけど、どうだろうか」

 

「ワシはそれで問題ない」

 

「……私も、だ」

 

「…………」

 

「ロキ?」

 

「……問題、あらへん」

 

「……そうか」

 

ずっと俯いたまま一言も喋ろうとしないロキを不審に思ったフィンであったが、絞り出したように小さな声を聞き、それを受け止める。

 

結局、この日はこれで解散となった。

 

4人の心に大きな傷跡は残ったが、それでもガレスの言葉によって突破口は開かれた。

 

 

悪目が悪目を呼んだ、そんな最悪の偶然によって生まれた最悪の事態はこれにて一度収束することとなるだろう。

 

……しかし、本来ならばそんなミスを犯すことのないはずのロキやリヴェリアが過剰に冷静さを失い、常に目的以外のものに興味を持たないフィンが目を取られ、ガレスの奮起がなければ危うくロキ・ファミリアが崩壊していたほどの危機に陥ったこの出来事は、本当に偶然で済ませてもよいのだろうか。

 

そう考えればそもそものアイズのある行動にも疑問が深まる要素はあるが……その話はまたいずれ。

 

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