生命の樹が神の街に根付くのは間違っているだろうか   作:ねをんゆう

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4.似ている2人

翌日、テントの中で一夜を過ごしたアイズとリヴェリアは、熱は引いたものの未だに目を覚まさない少女を横目に朝食を取っていた。

しかしアイズは朝食を取らながら少女の方へと何度も視線を向かわせている為、全く食べることに集中できていないらしい。

 

「そんなに気になるか?アイズ」

「……うん」

 

それ以上言う余裕はないとばかりの相槌に、なんとも言えない顔になるリヴェリア。

嬉しいような、寂しいような。

それでも戦うこと以外に興味がない彼女が一人の少女を気にかけているという事実はやはり嬉しさを勝らせた。

それはきっと子の成長を喜ぶ母の姿、と言えばリヴェリアは確実に怒るのだろうが。

 

 

さて、そんなアイズの思いが届いたのか、眠り続けていた少女がここに来て初めて身動ぎをし始めた。

もちろんその動きに最も早く気が付き行動を起こしたのはアイズであり、レベル5の身体能力を最大限に活かして少女の元へと飛び付く。

椅子は吹き飛んでいった。

リヴェリアはまた頭を抱えた。

成長したとは言え、やはりアイズはアイズのままだった。

 

「…………?」

 

「……気が付いた?」

 

「……?……っ!?っ!?」

 

「???どうかした?」

 

薄っすらと目を開いた少女は、やはりというべきかその容姿はとても整ったものだった。

真っ白な髪にアイズやエルフ族よりも透き通るように薄い色素の素肌、

そしてそれ等の静かな雰囲気を全て破壊する様な強烈な存在感を放つ真っ赤な瞳。

瞳孔の奥まで真っ赤に染まり、縁が異様に白く取られたその瞳は、あまりにも血液の流れをイメージさせ過ぎて、人によっては恐怖を感じさせるほどのものだ。

 

だがもちろん、そんなことを気にするアイズではなく、むしろ目を開けた瞬間から何やらパニック状態になっている彼女の様子の方にオロオロとしている。

事態は深刻だ。

 

「っ!?……!?!?」

 

少女は目の前のアイズの顔を信じられないように見つめ、ふるふると弱々しく右手を上げてアイズの頰へとその手を添える。

アイズもまたそんな少女の行動を特に嫌がる様子もなく受け入れ、ふにふにと触れられる頰も気にすることもなく首を傾げる。

なんとも微笑ましい光景がそこにあった。

 

「……みえ、る……?」

 

「……?なんの話?」

 

「!!……きこ、える……!?」

 

「えっと、大丈夫……?」

 

「っ!?ぁ、ぁう……」

 

「!?」

 

何やら訳のわからないことを言いながら涙目になってふるふると震えだす少女を見て、どう対処したらいいか分からないアイズ。

とりあえずとばかりに昔リヴェリアにされたように頭を撫でてみると、少女はその白い肌を真っ赤に染め上げ、より震えを強くして涙を流し始めた。

 

「あ、あわわわ……えいっ……!」

 

「はぅぁっ!?」

 

少女を泣かしてしまったことにパニックに陥ってしまったアイズは、何を思ったのかそのまま彼女を抱き締めてしまう。

そして抱き締められた少女はと言うと、奇妙な悲鳴を上げてそのまま硬直してしまった。

『何をしているんだ』と内心思うリヴェリアであったが、面白そうなのでこのままにしておこうという気持ちが勝ち上がった。

ニヤニヤと笑みを浮かべて二人の様子を静観する。

 

「大丈夫、大丈夫……落ち着いて……?」

 

「ぁ、ぁ……ぅあぁぁぁ……」

 

「!?お、落ち着いて……お、おち、おち……リヴェリア……!?」

 

「頑張れ」

 

「ひどいっ……!」

 

助けを出すつもりなどこれっぽっちもなく、リヴェリアはアイズの願いを笑顔で跳ね返す。

腕の中で益々激しく嗚咽を始める少女をアイズは必死になって宥めた。

 

時にはぎゅーっと抱き締め、時には頭を抱えるように撫で、『大丈夫、大丈夫』と背中を軽く叩きながら。

とにかくこれまで生きてきた中で記憶にあったこと全てをアイズは試した。

 

そうして暫く時間が経った頃、アイズの頑張りが実を成したのか、ようやく少女は落ち着き始める。

しかし少女は腕の中でアイズにピッタリと張り付き、その胸に顔を埋めていた。未だにその震えは治まっていない。

 

リヴェリアは不思議に思った。

一体なにが彼女をそこまで取り乱せさせたのか。

最初はアイズを見て泣き始めたように見えたため、アイズを知っていて昔仲の良かった関係、の様なことも考えたが、少女の放った『みえる』『きこえる』という単語がどうしても頭に引っかかった。

 

……もちろん、なぜか異様に優しい表情をして少女を抱き抱えているアイズの方も気になると言えば気になるのだが。

それはまた後で考えることとする。

 

「ね、名前は?」

 

「……あまぎり、えるぜ。おねえさん、は……?」

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。よろしくね?」

 

「えっと……よろしく、おねがい、します」

 

「はい、ぎゅー」

 

「ふぇぁあっ!?」

 

どこか硬い挨拶をする少女の緊張をほぐすためなのか、それともただそうしたくなっただけなのか、何の脈絡もなく抱き着いたアイズ。

頰を擦り合わせるようにグリグリと押し付ける。

少女は相変わらずそういったスキンシップに慣れていないのか、慣れていないにしては過剰過ぎる様な、それくらい大袈裟に恥ずかしがる。

それでもどこか嬉しそうな様子を隠せていないからか、アイズも止めることなくむしろスキンシップは増していくのだが……

 

「……おねえさんは、がいこくの、ひとですか?」

 

「外国?私はオラリオにずっといるけど……」

 

「おら、りお?」

 

「???知らないの?」

 

「……ごめんなさい」

 

「はい、ぎゅー」

 

「ぴゃぁぁっ!?」

 

とりあえず抱き着いておけばいいというのはどうなのだろう。

ダンジョンの中に居ながらオラリオのことを知らないという少女の言葉の異常性に目を向けつつも、リヴェリアは内心でそう呟く。

見ている分には悪くない。

 

「あの……ここは、どこですか?」

 

「ダンジョンの18階、ここの上にオラリオの街がある。」

 

「だ、だんじょん???18かい??」

 

「後で教えてあげる。それよりも、お父さんとお母さんがどこにいるかは分かる?」

 

「……わかりま、せん。もう、ずっとまえにすてられてしまったので」

 

「……そう、なんだ」

 

両親に捨てられた、その言葉に少女を抱きしめるアイズの腕に力が入る。

放った言葉の悲惨さに似合わない自嘲するような悲しい笑顔をこんな少女がするということ自体が、少女の背負うこれまでの異常性を物語っている。

 

少女が何らかの事情を持っているのは確かだ。だがその事情は間違いなく良くないものであって、気軽に尋ねるべきことではない。

加えてオラリオという街の名前すら知らない無力な少女が、たった一人でこの18階層に存在していたことも大きな問題だ。

 

普通に考えれば誘拐や売買された上で、何かしらの目的のためにここまで連れてこられたという線が思い付く。しかしそれが事実ならば、どこかしらのファミリアが人身売買や女子誘拐に携わっていることに他ならない。

被害者は彼女一人だけではないだろうし、ギルドやガネーシャ・ファミリアも含めて一斉調査が必要になるだろう。

 

今後、ロキ・ファミリアとしてはどう動いていくべきか。

そんなことに思考を向けていたリヴェリアは、ふとアイズがこちらへと熱い視線を送っているのに気が付いた。普段は見せないようなあまりにも熱心なその瞳に、リヴェリアは一瞬だがたじろいでしまう。

 

「な、なんだアイズ」

 

「……リヴェリア」

 

 

 

『この子、私が育ててもいい……?』

 

 

 

「「!?」」

 

予想はできていたけれど、思いがけない一言。

きっとそれはこういうことなのだろうな、とリヴェリアは諦めのため息を吐きながらも笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.その世界には、こちらの世界の最先端であるオラリオにさえ無い技術で溢れている。

 

2.その世界には、魔法どころかヒューマン以外の種族が存在しない。

 

3.その世界には、伝説や神話に名前はあれど、神が降りてきたという事実は無い。

 

4.その世界では、魔法を使うことなく深海から空の彼方まで行き来することができる。

 

5.その世界では、大魔法に匹敵するほどの威力の破壊兵器が大量に存在している。

 

 

 

「……これが、あの少女から聞いた『元の世界』とやらの情報だ。どう思う?フィン」

 

アイズとエルゼのいるテントから少し離れた木陰の隅で、フィンはリヴェリアから重大な報告とやらを聞いていた。

それはあのエルゼという少女が語った"世界の常識"。

この世界で誰もが知っているオラリオという名を知らない少女が語った、あまりにも現実離れした世界の様相。

妄想にしては詳細過ぎて、作り話というには理論だっていて、夢だというには現状と符合し過ぎている。

アイズはもちろん、リヴェリアにすら判断に至れないような内容に、報告されたフィンすらも頭を抱えていた。

 

「……これは、僕等だけで判断できる内容ではないだろうね。ロキに報告するのは勿論として、他の神々には知らせるべきでない案件だ。彼女に予定や目的はないのかい?」

 

「あ、ああ。彼女の話では、元々向こうの世界では病に蝕まれて動くことすらもままならなかったらしい。それが今では視力も聴力も回復し、身体の異常も無くなっていると喜んでいた。普通に生きられるだけで幸せ、と言っていたよ」

 

「……それはまた、なんとも言い難い話だね」

 

「……恐らくは白変種の類だろうが、彼女はその中でもかなり深刻な部類だ。今は問題なく外に出られているが、本来ならばどれだけ手を尽くしても合併症で生まれて3年も保たないだろう」

 

「加えて白変種の子供はどの種族でも迫害の対象にされやすいからね。生まれた瞬間に殺されることも少なくない。……彼女があそこまで成長できているという事実が、彼女の話の裏付けになる訳か。頭が痛くなるね、本当に」

 

どこから考えても彼女の話を否定する要素にはなり得ない。

むしろ夢物語のような世界の話がどんどんと色を帯びていく。

触れたくない、触れてはいけない。

得るものは確かにあるだろうが、知れば知るほど得体の知れないリスクが襲い掛かってくるだろうという、理由の無い直感が二人には働いていた。

 

「今後の彼女の行き先は決まっているのかい?」

 

「それについては問題ない、アイズが引き取りたいと申し出た。彼女の方も最初は遠慮していたが、つい先程押しに負けたのでな。何の相談も無しにすまないが、こちらで囲む算段は既にできている」

 

「うん、それは良い判断だよリヴェリア。あのアイズがそこまで言ったというのは素直に驚いたけれど、彼女を他の神に任せるのは余りにも不安だからね。今は迂闊に出歩かせるべきじゃないし、他者と接触させるべきでもない」

 

ちなみに現在そのアイズはというと、

太陽を浴びても大丈夫だと分かり感情を表に出した少女に付き添って、二人で手を繋ぎながら気ままに散策をしていた。

花や草木、水や虫など、どんな小さな物にでも興味深げに立ち止まる少女を微笑ましげに見つめ、アイズ自身もまたそんな当たり前を改めて考え直す機会を得られていた。

その様子はまるで仲の良い姉妹のようで、見ているだけで口元が弧を描くようだ。

 

「……ねえリヴェリア。今度の遠征の計画なんだけど、少しばかり変更を加えてもいいかな?」

 

「む?私は別に構わないが……一体、何をどうするつもりだ?」

 

突然のフィンの提案に戸惑うリヴェリア。

そして次の瞬間放たれたその提案は、身構えていた筈の彼女でさえも驚愕に値するものだった。

 

「……次の遠征、アイズの参加を取り消したいと思う」

 

「なっ!?」

 

アマザキ・エルゼと名乗る少女の出現は、ロキ・ファミリアの今後を大きく左右していくこととなる。

 

 

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