生命の樹が神の街に根付くのは間違っているだろうか 作:ねをんゆう
「ウォラァァァッ!!」
ドーッンと吹き飛び、次々と壁に減り込んで行くモンスター達。
今日のベート・ローガは普段と違い、気合いとやる気に満ち溢れていた。
言ってしまうが、ベート・ローガというツンデレ狼人はアイズ・ヴァレンシュタインという少女に対し、周囲の人間にバレてしまう程度にはあからさまに惚れていた。
常に強さを求め続け、どんな難関にさえも立ち向かう鋼のような彼女に好意を抱いていた。だが勿論、彼もまた男であり、内面だけで異性を好きになるわけではない。彼女がとびっきりの美少女であったことも要因の1つであることに間違いはないのだ。
さて、そんな彼女にである。
これまで見たこともない様な優しさを帯びた柔らかな笑顔で、『帰りは任せるね』と言われれば一体彼はどうなるだろうか?
きっとそれがベートでなくとも、大抵の男ならば必ずこうなるはずである。
『やってやろうじゃねぇかァァ!!!』
本来ならば何時間もかかるはずの18階層からの帰還も、その日は恐ろしいほどスムーズに行うことができた。
……というか、途中からはモンスターの方が彼のことを避けていた。
どれだけ遠くに居ようとも、目と目があった瞬間に瞬間移動でもしたかの様な恐ろしい速度で八つ裂きにしてくる凶狼。
ある程度の集団でさえも一瞬で殲滅するその様は、偶然近くを通りかかった冒険者でさえもチビりそうになるほどのものだった。
「……アイズ、一体お前はベートに何を言ったんだ」
「???帰りは任せるね、って言っただけだけど……」
「わたしも、ききました」
「……それにしては気合が入っているな」
最早当然のようにアイズにおぶられているエルゼ。
この二日間で少しではあるが心を開いてきたらしい。
ベートやフィンに対すると流石にアイズの後ろに隠れてしまうが、リヴェリアに対してもある程度は普通に会話が出来るようになっていた。
大きな進歩である。
……ちなみにアイズに対してはなんというか、こちらから甘えなくとも甘やかしてきたり、何をするにしてもついて来ようとするので、今や離れている時間の方が少なくなっていたりする。
それでも、向こうから求めてくるからかエルゼも求めやすく、素直に甘えることができる唯一の存在にまでなっていた。
色々な噛み合いは、彼女に救いを与えていた。
「ふふ、頑張ってくれる分には僕は構わないよ。ほら、もう入り口が見えて来た。エルゼにとっては初めての外の世界だ」
「……まだ18階層を出て3時間ほどしか経っていないのだがな、いつもこれくらい頑張って貰っても……困るか」
異常な速度で到達した地上に対し、眩しそうな仕草をしながらも外へと出る一行。
これまで自身の天敵でしか無かった太陽の光を浴び、反射的にアイズの背中に隠れ込んでしまうエルゼ。
しかし暫くしても何の痛みも異変も起こらないことに気付き、ポンポンとアイズに頭を撫でられ、彼女はその視線をゆっくりと上げた。
「……すごい……!」
一面に広がる絢爛な街並み。
様々な種族の人々が行き交い、テレビの画面でしか見たことのなかった活気溢れる市場の姿があまりにも鮮明にそこには存在している。
「すごい、すごい!すごい!!わ、わたし、わたし!こんなの、こんなのはじめてみて……!それで……!それでね……!」
「はい、ぎゅー」
「ひぁぁっ!?」
あまりにもハイテンションになってはしゃぎだすエルゼが可愛すぎて、アイズは背負った彼女を前に回してそのまま抱き締める。
この二日間ですっかり見慣れた光景である。
そんな二人の光景をフィンとリヴェリアを含めたメンバー達は微笑ましく見つめ、ベートでさえも無表情ではありながらしっかりと見ていた。
アイズ似の可愛い少女の姿を瞳に焼き付けているのかもしれない(風評被害
「さあ、まずは僕達のホームに案内しよう。街の見学はそれからだ」
エルゼの驚きはまだまだ続く。
「……ここが、ほーむ、ですか……?」
「うん、そう。エルゼも今日からここに住む。」
「……ゆめ、でしょうか……?」
「むぎゅぎゅー」
「へひゃぁぁ〜……!」
どうだ、夢じゃないだろう。アイズがそう言いたかったのかは知らないが、頰を揉みくちゃにされるエルゼ。
彼女が信じられないのも当然だろう。
エルゼが見上げているのはロキ・ファミリアの本拠地:黄昏の館。
オラリオ随一の探索系ファミリアの本拠地だけあってその外見は正に城であり、『今日からここに住んでもらいます』などと言われた日には自然と自分の頬をつねってしまうのも当然の反応だ。
フィンやリヴェリアに連れられて中へ入ってみても受けた衝撃は変わることなく、あまりにも豪華な内装にエルゼは驚くばかりであった。
「あー!アイズやっと帰ってきたー!」
「団長〜っ!!」
「アイズさーん!!」
目的地のロキの部屋に辿り着く寸前、仕事は終わったとばかりに自分の部屋へ戻っていったベートはさておき、彼等の元へと色々な方向性で騒がしい少女達が我先にとドタバタと走り込んで来る。
ティオナ、ティオネ、レフィーヤの3人である。
真っ先にフィンの元へと走り寄ったティオネはさておき、アイズの元へと詰め寄る様にやってきたティオナとレフィーヤは、手を繋いで隣にいたエルゼにとっては恐怖以外の何者でもない。
ぴゃっ!とアイズの後ろに隠れた彼女は、そのままぎゅっと腰に縋り付く。
そんなエルゼの様子にアイズは頭を撫でながらムッと2人に対して頰を膨らませた。
「エルゼを怖がらせないで」
「ふえっ!?あ、アイズさんに怒られた……」
「んー?アイズー、その子誰ー?」
「あら、確かに見かけない子ね。アイズの服を着てるみたいだけど……」
『……わたしの子』
「「「「「「!?」」」」」」
「ほらリヴェリア、早くロキのところに行こ?」
「あ、ああ……あー、事情はまた後で話す。あまり余計なことを言いふらすなよお前達、分かったな」
あまりの衝撃発言に反応する暇もなくアイズに連れられて一行はロキの部屋へと引き摺られていく。
その一方で固まって動くことのできない3人の女性陣。
そして最も強くダメージを受けたのは、やはり例のエルフの少女であった。
「ア、アイズの娘……!?そ、そう言われてみれば確かに似てたけど……!」
「で、でもティオネ!まだアイズ16だよ!?あの子多分7か8歳くらいだったと思うんだけど!?」
「馬鹿!アマゾネスにもそういう子は居たでしょうが!問題は相手よ!いつのまにアイズに彼氏なんて……!まさかアイズに先を越されるとは……!!」
「あわ、あわ、あわわわ……!ああああああいずさんにむすめむすめむすめむすめかれしかれしかれしかれしぃぃぃ!?!?!?」
「ちょ、レフィーヤ落ち着いて!!」
「レ、レフィーヤ!?泡吹いて倒れちゃった!!だれかー!だれか担架持ってきてー!」
リヴェリアの願いとは裏腹に、騒ぎは大きくなっていくばかりであった。