生命の樹が神の街に根付くのは間違っているだろうか   作:ねをんゆう

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8.ロキの失敗

 

エルゼから引き剥がされたアイズが部屋でリヴェリアに説教をされている頃、エルゼは再びロキの部屋へと訪れていた。

もちろん要件は浴場で伝えられた恩恵の返事。

 

ノックへの返事を合図に恐る恐ると部屋へ入り込んだエルゼは、直後に扉の裏に隠れていたロキによって捕縛された。

 

「ぴゃぁぁっ!?」

 

「うへへへ、可愛いのう!可愛いのう!エルゼたぁぁん♪」

 

「みゃぁぁっ!?」

 

両手をワキワキとしながらエルゼの身体を弄るロキ、まごうことなきセクハラである。

普段は非力なはずのロキも、この時ばかりは凄まじい力を発揮する。

5分ほどセクハラは続き、エルゼの息が乱れ始めた頃にようやくロキは満足を得たのか、疲れ切った彼女をソファに降ろして対面へ座りこんだ。肌の潤いは今日一番である。

 

「ほんで、話は聞いとると思うけど、恩恵の件、どないするんや?エルゼたん」

 

「え?あ、えっと……」

 

「ああ、せやな。そもそも恩恵の説明せんとあかんかったんやっけ。ウチとしたことがうっかりしとったわ」

 

ピシャッと自分の頭を叩くロキ。

そう言って恩恵の説明がなされる。

元のや魔法とは無縁の世界にいた身としては理解できたとしても実感できない話ばかりであったものの、エルゼはなんとか話について行った。

そんなエルゼの反応もロキにとっては新鮮なもので話し甲斐があったらしいが。

 

「……あの、ほんとにわたしなんかが、もらって、いいんですか……?」

 

「私なんか、なんていうもんやないでエルゼたん。ウチはエルゼたんに貰って欲しいから言うとるんや。むしろウチなんかの恩恵で欲しいのかって聞きたいくらいやな、神なんて他にもたくさんおるんやし。」

 

「そ、そんなことないです。わたしも、できるなら、その……」

 

言葉尻をすぼめて俯くエルゼが何を言いたいのか、それはロキにも分からないが、それまでの言葉に一切の嘘がないというのも確か。

彼女の生い立ちを聞いてはいるものの、それが全てではないということをロキは知っている。彼女にしか分からない世界というものもある、だからこそロキに出来ることはただ背中を押すだけで。

 

「なあエルゼたん。この恩恵を持っとるもんの集まりをな、ウチらはファミリアって呼ぶんや」

 

「ふぁみり、あ……」

 

「せや。つまり、家族ってことや。この恩恵を持っとる奴はみんなウチの家族やし、みーんなウチの子供や。それはアイズやレフィーヤ、リヴェリアやフィンだって変わらへん。これは強くなる印やない、ウチ等の家族の証なんや。誰にでも見境なくあげるもんやない」

 

「……かぞく……」

 

ぎゅっと膝の上で握られたエルゼの両手は少しだけ震えていた。

家族、という言葉はそれほどに彼女の心に響く。

なぜなら、それは彼女が心のどこかで常に求め続けていたものだったのだから。

 

「ウチはこれをエルゼたんに貰って欲しいと思っとる。エルゼたんはどうや?」

 

「……わたし、ほしいです。かぞくのあかし。わたし、なりたいです。ろきさまの、みんなの、かぞくに……!」

 

言葉を紡ぐに連れて震えを帯び出し、涙が溢れ始める。これまで一度だって表に出したことのない彼女の本音が口から溢れ始める。

 

「かぞく、ほしいです……!もう、ひとりはいやです……!みなさんと、いっしょに、いたいです……!!」

 

相手が神様だと分かったからなのか、ここに来るまでに許容量を超えるほどのたくさんの愛情を受けたからなのか。アマギリ エルザという少女は生まれて初めてこれほどまでに強く感情を発露させていた。

 

「おねがい、します……!わたしを、わたしをみなさんの、かぞくに、して、くだ、さい……!」

 

涙をボロボロと流し、嗚咽を漏らしながらもなんとか最後まで言いたいことを言い切った。慣れない激情に駆られ、感情を抑え切ることができずに泣き続けるエルゼ。

その様子が余りにも痛々しくて……

 

こんな子供が生まれてしまう世界の残酷性、

そんな子を救わない人々の無情さ、

それでも受け入れ生き続けた子供の強さ、

 

そういった諸々を感じ取りながら、ロキは少女の震える両手を握り締めた。

 

「せやったらエルゼたん、ウチも約束したる。

エルゼたんがその証を持っとる限り、どんなことがあってもウチ等が守ったる。どんなことが起きても、エルゼたんと一緒に居ったる。せやから……家族になってくれるか?アマギリ エルゼちゃん。」

 

「……はいっ……!」

 

その時の彼女の笑顔を、ロキは当分の間忘れられそうになかった。

 

 

 

 

 

「入るぞ、ロキ」

 

「ん?おお、リヴェリアか、丁度いいところに来たなぁ」

 

「ああ、アイズへの説教が丁度終わったのでな。エルゼを向かえに来たのだが……む、眠ってしまったのか」

 

「ま、今日は色々あったみたいやしな。それによぉけ泣いたし、疲れてまうのも無理は無いわ」

 

「……泣いていたのか」

 

「家族ができるっちゅうことを喜んどったで。……ほんま、この世界は不平等やな。なんでもかんでも知っとった気でおった昔の自分が恥ずかしくてしゃあないわ」

 

「それは私とて同じだ。こうして森の外へ出なければ分からなかったことも多かった」

 

「生涯勉強やなんて、上手い言葉を作ったもんやで、子供等は」

 

恩恵を授かっている途中で眠ってしまったエルゼを見つめながら2人は話し込む。

それでも何処かで難しそうな顔をしているロキが何かを抱えているのはあまりにも明らかで、ロキほどの者が隠す事ができないほどの事があったということだ。

 

「何があった、ロキ」

 

リヴェリアは聞かざるを得なかった。

 

「……後悔しとるわけやない。口にした言葉に嘘も付いていないつもりや、何かあってもこの子を守ったるってのも本心からの言葉や」

 

「だったらどうした、嘘でないのなら何の問題がある」

 

「……家族になるのに印なんて必要やったんやろうかって、思っとったんや」

 

「なに……?」

 

 

 

 

 

「リヴェリア、うちな……もしかしたらこの子にまた余計な重荷を背負わせてまったかもしれへん」

 

 

 

「っ!!」

 

言葉と共に取り出した一枚の紙に反射的に目を通してしまったリヴェリアは、その場に固定された様に動けなくなった。

それは所謂ステータスの書かれた用紙。

本来ならば他人のステータスを本人の許可なく見ることはマナー違反であるのだが、そのマナーを破ったとしてもロキはこの事実をリヴェリアには共有しておきたかったのだ。

……なぜなら、彼女の種族こそがこの案件に最も精通しているのは間違いないのだから。

 

 

アマギリ・エルゼ / 天霧 絵流是

 Lv.1

 力:i0

 耐久:i0

 器用:i0

 敏捷:i0

 魔力:i0

所属:ロキファミリア

発展アビリティ :

 《魔法》

 【生命の樹/セフィロト】

 

 《スキル》

【超越覚者(psykicker)】

・■■■の使用が可能

 

【全命全母(Ain Soup Aur)】

・魅了の完全無効化

・魅了の効果

 

【生命種子(Sephirothic seed)】

・長寿の効果

・知識補正の効果

・成長する程に効果上昇

 

 

 

「生命の、樹(セフィロト)……!?」

 

それは天界の中央に聳え立つとされる伝説の樹の名前。

一度その実を食せば神に匹敵する力を持ち、世界の始まりに関連するともされている神でさえも正体を知る者が少ない無限の光。

そして、自然と共に生き、自然と共に在るエルフ達にとって、最重要とされる至高の存在。

 

 

「……この子を救った男の力は、多分今全部エルゼたんの中にある」

 

 

 

 

「恐らくやけど、元々は生命の樹を象っただけの精度の高い贋作だったはずや」

 

 

 

 

「いくらセフィロト言うても贋作や、人間の力だけで作ったような奴では本物の足元にも及ばん。せやけどな……」

 

 

 

 

「エルゼたんの中にある生命の樹は……」

 

 

 

 

「うちの神の力が混ざったことで……」

 

 

 

 

「限りなく本物に近いものになってもうとるんや」

 

 

 

 

主神ロキは、それまで見せたことのないほどの苦い顔をしてそう言い放った。

そしてリヴェリアは、普段見せないほどに感情を表にだし、それを隠すことすらできないでいた。

 

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