「どうも、初めまして。僕らが君達の相手、鉢美中学校だ。よろしく頼むよ?」
「えっ?あっ、よ、よろしくお願いします」
今回の試合会場となる鉢美中学のフィールドに来て早々に待っていた鉢美中学の選手達が城翔中学の選手達に対して一礼。慌てて赤城達も礼を返す。
それが終わると、続けて試合の公平さを保ってくれる審判に一礼、最後に試合を見守る観客に向けて頭を下げる。
今回の試合は鉢美中学で行われているため観客も鉢美中学の選手が多いのだが、そちらの対応も丁寧だった。実際赤城達にしっかりと挨拶したり、サッカー場まで案内しようとしてくれた。
「お、おお・・・すっごい丁寧やな・・・」
「・・・ここまで丁寧な人はなかなかいないな」
マナーが徹底されているのだろうか。鉢美中学はすごく評判がいい中学校だと聞いてはいたが・・・想像以上に丁寧だった。評判が良いのも頷ける。
「驚いたかい?これがうちのチームのしきたりでね、毎回やるようにしているんだ。相手から呆れられることもあるんだがね」
驚いているところへ相手チームのキャプテン、成平がやってくる。たしかに挨拶は大事なことだが、ここまで徹底されているのは珍しい。
「でも試合じゃ一切の手加減しないから覚悟しておいてくれよ?」
「!もちろんです!俺達も手加減しませんよ!」
「ああ、いい試合にしようじゃないか」
成平が左手を差し出し、赤城もそれに応じてキャプテン同士で握手する。なぜか相手チームの選手がクスクス笑っていたが、何かあったのだろうか。
「あいつら・・・」
「ん?裁野先輩、どうかしましたか?」
「・・・いや、気にするな。考えすぎだろう」
裁野が何かに気づいたような素振りを見せたが、何もないと言って試合前の準備を始める。ちょっと気になるが、本人が気にするなというので気にしないでおくことにした。
牽制の握手を終え、成平はベンチに戻る。するとチームメイトの一人に話しかけられる。
「・・・今日も出してくんないの?暇なんだけど」
「キミのプレースタイルはうちの評判を下げかねないからね。あんまり出したくはないんだよ」
「あっそ、どうぞご自由に」
「そうさせてもらうよ。それじゃあ作戦の確認だけど・・・」
城翔中学フォーメーション
━━━三日月━━麻宮━━━━
━━佐原━━━━━━獅子神━
━━━━━━赤城━━━━━━
━━━━━━盤上━━━━━━
━淀屋━━━━━━━━千景━
━━━黒鉄━━━━支倉━━━
━━━━━━東条━━━━━━
鉢美中学フォーメーション
━━━━須藤━━小見━━━━
━羽賀━━━━━━━━出増━
━━━━成平━━箱庭━━━━
━浦木━━━━━━━━鉾理━
━━━━立伏━━信馬━━━━
━━━━━━━関━━━━━━
『前回の試合では終盤に激熱な試合を展開させた城翔中学!そしてこちらは華麗な逆転劇を見せてくれた鉢美中学!注目の二校がいよいよぶつかります!!』
実況の人が場を盛り上げ試合スタート。今回もボールは城翔中学から。まずは後ろにボールを送り、MF達が中心となって相手の守りを突破し、攻め上がっていく。
「対戦、お願いしますね!」
「ふふん!負けないわよ!」
獅子神は丁寧な挨拶に返事しつつ、相手ディフェンスを持ち前のスピードで抜き去る。さらに続く相手の守りも駆け抜けていく。
「帝瑠!」
「はーい!うちに任せるんヨ!!」
そして獅子神の鋭いパスを三日月が受け取り、そのままシュートを放つ。
「バウンドフレイム!!」
「なるほど。良いシュートですが僕には効きません!セキュリティプロテクト!!」
不規則に動くシュートを見切って止めるのは難しい。だが、ゴール全体を守ればいくら動き回ろうが意味がない。バウンドフレイムは威力が高い技とはいえないため威力の心配もない。
関の後ろに半透明の長い盾が現れる。それが数を増やして横に広がり、壁となってゴール全体を守る。先制点とはいかなかった。
「ワタシたちへの対策は済んでいるということかな。なら、これはどうだろうか?」
それでもタダではやられない。弾かれたボールを佐原が相手より先に確保。休む暇を与えさせない。
「マッハウインド!!」
先程の見た感じだとゴール全体に防護壁が張られるまでは少し時間がかかる。ギリギリではあるが、これなら決めることができるだろう。
「関!来てるぞ!」
「問題ありません!セキュリティポインター!!」
今度は相手のボールに素早く照準を合わせ、右腕に発生した電気を弾丸のように飛ばす。先程より範囲は大きく劣るが、代わりに発生が早い技で対応してきた。やはり対策は万全のようだ。
「さぁーてと、今度はこっちの番だよ」
今度は相手がボールをしっかりと確保。立伏はそのまま大きく蹴り出してMFの箱庭がボールを確保する。
「おっと!ここは通さないわ!」
「僕も負けませ・・・あ、ああっ!?」
「えっ、何よ!?」
持ち味のスピードですぐに攻撃から防御へと荷担する獅子神。しかし箱庭の声で動きを止める。かと思うと、箱庭は何もない方に向かって指を差す。
「あそこにUFO!?」
非常にバカらしいと思うだろう。演技力は大したものだが、ものがものだけに小学生だって騙されない。それは箱庭もわかっている。
「ええっ!?嘘!!どこ!どこにいるの!?」
だが、ちゃんと計算済みである。獅子神がそういうことに弱いというのはデータに出ている。まさかここまであっさり騙せるとは思わなかったが。
「ありゃカモだな。将来詐欺られんだろ」
小声で聞こえないように呟くと、今度はキャプテンの成平へとパスを繋ぐ。
「ワイらは獅子神みたいには騙されへんぞ!」
「・・・止めるっ!」
「まあまあそう気負わず、リラックスした方がいいよ?」
淀屋と黒鉄の二人がここは通さないと言わんばかりに迫るが、まだ動きが大雑把な淀屋には又抜き、動きが遅い黒鉄には素早いフェイントで対応。成す術もなく突破されてしまう。
「さあ須藤君、決めてくれよ?」
「はいはい、ちゃんとお仕事はしますよっと。パーフェクトコース!!」
相手のキーパー技、キラーブレードはエネルギーで形成した鉈を縦に振る。つまり横に揺さぶれば簡単に決められる。狙った場所に打てるパーフェクトコースであれば左右に振ることで簡単に決められるということだ。
「任せとけ!!キラーブレード!!」
だが、数度の試合と練習を繰り返してきた東条はちゃんと成長していた。手のひらが地面と平行になるようにし、チョップをするかのようにしてここを凌ぐ。
「へー、そういうのもあるのか」
「なかなか面白い使い方じゃないか。勉強になるね」
本来とは違う技の使い方を見て鉢美中学の面々は素直に褒める。こういう普通とは違う使い方は勉強になるため良い知識となる。
「そうだろー?まっ、この俺にかかれば容易いもんだけどな!」
「めっちゃ苦労しとったのにようあんなこと言えたなあいつ」
淀屋の言うとおり、本当はここまでくるのにかなり苦労していた。とはいえその苦労はしっかり実を結び、徒労には終わらず変わった体勢からでも素早く出せるようになった。
最も新技はまだ完成していないのだが、それは残念なことではない。これからも成長が見込めるということ。今後が楽しみだということになる。
『両チームがシュートを打ちましたがいまだに得点は入らず!実力は互角といったところか?両チーム一歩も引きません!!』
序盤から白熱した展開に試合会場は盛り上がる。強豪校が圧倒的な強さを見せる試合もそれはそれで魅力的だが、やはりスポーツは勝つか負けるかの緊迫した試合が盛り上がる。
「麻宮、任せてもいいかな?」
「はい、わかりました!」
中盤でのボールの奪い合い。城翔中学がなんとかボールを手に入れたものの、佐原の周りには相手選手が目を光らせている。無理はせず、まだ守りが薄い麻宮にパスを出す。
だが、それが相手の作戦。鉢美中学はこのタイミングをずっと待っていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・!」
成平が周りには気づかれないように軽くアイコンタクトを取る。箱庭は意図を察知して頷き、少しずつ距離を詰める。
「(・・・今かな?それじゃ頼んだよ)」
「(はいはい、了解ですよ・・・っと!)」
ターゲットを確認。他の選手も配置に付き、タイミングを見計らって成平の合図で動く。
「よし!いただき!!」
二回目は確実に怪しまれる。一度しかできないため失敗は許されない。素早く、なおかつ容赦のないスライディングを仕掛ける。
「・・・!させない!」
麻宮は遅れながらも気付き、ボールは取らせまいと避けようとする。だが、ボール目掛けてきたのはずのスライディングが足に当たる。
「ぐっ!?」
体勢を崩し、地面に叩きつけられその場に倒れる。様子を見ていた審判は笛を鳴らし、試合は一時中断。ファウルの判定だ。
その様子を見て城翔中学の選手、それに加えて鉢美中学の選手もすぐさま麻宮の元に駆け寄る。
「申し訳ない、うちの選手が・・・ほら、謝罪するんだ」
「すみません・・・つい、ヒートアップしてしまって・・・」
箱庭は丁寧に謝罪し、立伏は麻宮が立てるように手を貸す。
「ん・・・大丈夫だ。一人で立てる」
「そう、無理しないでね?怪我でもしたら大変だから」
「ええ、わかっています」
「それならいいよ。それなら・・・ね」
立てないというほどのダメージではない。軽く動かしてみるが、何か違和感があるということもない。とりあえずは問題なさそうだ。
「すまないね。少し熱が入ったようなんだ。もちろんこういう行為が許されないのはわかっているが・・・いや、何を言っても言い訳にしかならないね。チームメイトを傷つけて本当に申し訳ない」
「いえいえ!熱が入るとこういうことはありますし・・・あの、あんまり気にしすぎないようにしてくださいね?」
成平は麻宮に頭を下げ、続けてキャプテンの赤城にも謝罪。とはいえ試合をしていればこういうこともある。
むしろ相手のチームはすぐに駆け寄ってくれて、丁寧なまで謝罪してくれた上、手も貸してくれた。麻宮も何ともなさそうであり、責める理由などどこにもない。
そして赤城への謝罪を終えると成平は審判の人に対しても深く頭を下げる。
「試合の進行を止めてしまい申し訳ありません。今後はこのようなことが起こらないようにしっかりと注意します」
「いやいや、ヒートアップするとこういうこともある。故意じゃないしあんまり気に止めることはないよ?」
まったく気にしないのは問題だが、試合が盛り上がると周りが見えなくなって多少プレーが荒くなることはある。決して悪意はない。それにちゃんと謝るべき相手には謝ってる。わざわざ審判にまで謝罪することはない。
「いえ、熱が入ろうが試合を止めたという事実は変わりません。ご迷惑をおかけしました」
「そ、そうかい・・・あんまり気にしないでね?」
最後にもう一度深く頭を下げ、定位置へ帰っていく。審判はその様子を見届け、心の中で感心していた。
意外と自分がファウルをしたことに気づけないこともある。特に試合が盛り上がっていると尚更だ。それにより判定が不服だと恨み節を言われるケースも少ないながらある。それは子供だけでなく、大人でもあることだ。
しかし彼らは子供にも関わらず、自分の非を認めてなおかつ丁寧な謝罪までしてきた。あまり見ることのない紳士的で丁寧な対応だ。
「・・・で、どうだい?」
「しっかり当ててきた。問題ねえはず」
「それは何より、ご苦労様」
「まあこっちはいいけどよ、そっちの方はどうなんだ?」
「問題ないよ。ちゃんとくどくならない程度にやってきたさ」
まず二つ手を打った。これで試合の流れがこちらに傾くだろうと成平と箱庭はほくそ笑んだ。
「ダッシュアクセル!!」
「おっと、素早いですね」
中断していた試合が再開。ゴール近くだったこともあり、一人突破した後すぐにパスを繋いでゴール近くまで持ち込むことに成功する。
「麻宮ー!がんばれー!!」
もうそろそろ一点が欲しい。このままギリギリの状態で試合が続くのは心臓に悪い。早いところ決めて安心したい赤城は麻宮を応援する。
「ああ、次は決める!」
「あららー、すっごく早いねー」
ボールを受け取り、持ち前のスピードを活かして残りの相手をかわしていく。先程のようにはやられず、キーパーと一対一の勝負となる。
「いくぞ、フリーズ・・・ショット・・・ッ!?」
シュートを打とうとしたその時、足が痛む。なぜこのタイミングなのか?城翔でしばらくプレーしていたが、怪我したところが痛むということはなかった。今日も今まではなんともなかった。それなのに━━━━
「(まさか・・・?)」
━━━━先程の相手によるスライディングが原因だろうか?シュートを打つその瞬間、足が痛み上手く力が乗らない。そのせいで威力、スピード共に格段に落ちている。
相手キーパーの関は冷静に麻宮のシュートを分析する。動画で見た時よりも明らかにスピードが落ちたシュート、相手に気づかれないように笑った。
・・・これなら、簡単に止められる。
「セキュリティポインター!!」
先程同様狙いを定め、腕に溜めた電気の力を弾丸にして飛ばす。ボールは軽々と弾かれた。
「今のは結構危なかったですね。でも、なんとか止められたましたよ」
「よく止めた!あれが決まってたらヤバかったかもな!」
「いいよー、ナイスプレー」
声を掛け合い、まるで名勝負かのように演出する。しかし実際はそこまでの力は入れておらず、余裕で止めていた。それは当人にしかわからないことであり、事情を知らない観客からは歓声が上がった。
「・・・ドンマイドンマイ!切り替えていこうな!」
「・・・そうだな、切り替えよう」
「失敗しても気にするな!ワシらが守るからおもいきって攻めてこい!!」
「まだまだ時間はあるんヨ!頑張るんヨー!!」
赤城は気にするなと声をかけていく。本当はここで点取りたかったというのが本心だが、まだ点は取られていないし時間も充分にある。チームと自分を落ち着かせるために声を出していく。
対して麻宮は何かおかしいことに気づいた。だが、チームメイトに心配はかけまいと何事もないように振る舞っている。
「・・・いやー、そうなるだろうね。きっとそうなると思っていたよ」
責任感が強くストイックな選手、この事態になった際にどう行動するか?恐らくチームに迷惑になると判断して我慢することは予想できた。そうなればこちらが何もしなくてもいい。勝手に足を引っ張ってくれる。
・・・完璧だ。あの様子なら驚異になることはない。むしろこちらにとって優位に動く。
「それじゃあそろそろ・・・かな?」
後はゆっくりと調理していけばいい。プラン通りに事が運ぶとやはり気持ちがいいものだ。
「あっ、あそこに隕石が!!」
「嘘ぉ!?い、今すぐ逃げなきゃ!!」
「さすがにそろそろ気づこうな!?」
箱庭がまた獅子神を騙して突破し、再び成平がボールを確保。先程のように自身の知識を活かして相手を突破すると、今回は自らシュートを打つ。
「さあ、キミは止められるかい?」
「はっはっはっ!止められないって思ってるやつはここに立たないんじゃねぇか?」
それもそうだね、と成平は嘲笑うような笑みを一瞬だけ浮かべる。それとほぼ同時に足元を中心に円形の不思議な模様が広がっていく。
「ディレイドスティング!」
浮き上がったボールを突き刺すかのようにシュート。東条に向かってまっすぐ飛んでいった。
「勝負だ!!キラーブレード!!」
このシュートに威力はない。キラーブレードも強い技ではないが、それでもまともにぶつかり合えば簡単に止められるだろう。
だが、この技において期待するのは威力ではない。もうすでに東条は術中にハマっていた。
「・・・あら?」
東条は完璧なタイミングで技を発動したはずだった。ちゃんとシュートに対して完璧に力が加わるところで技を出し始めた。にも関わらず、明らかにタイミングがズレている。
「お、おぉぉぉぉぉ!?」
ギリギリ当たりはしたが、刃の根元の方に当たっている。微妙な位置では上手く力が伝わらない。止めきれず、そのまま決められてしまった。
「あれー?おかしいな・・・?」
「気にせんでええよ!一点ぐらいみんなが返してきてくれるで!うちらは守ることに集中しよ!」
「了解!よーし、次は止めてやる!」
すぐに切り替える東条。さすがのメンタルである。そして城翔中学の会話を聞いていた成平は自陣に戻りながら人を小バカするような笑みを浮かべていた。
「次は止める・・・か。どうするのか見物だね」
ディレイドスティング。この技を使う時、地面に模様が浮かぶ。この模様内ではボールのスピードを遅くすることができる。そして円の外に出ると本来のスピードに戻る。つまり本来の想定よりもボールが早く来る。
そうすることで少しタイミングをずらすことができる。些細なズレではあるが、必殺技で一秒二秒のズレというはものによって致命的になりえる。上手く使えば相手の技を空振りさせることができる。
そして・・・ここからがこの技の真骨頂だ。
取られたのなら取り返せばいいとはいうものの、簡単な話ではない。相手からすれば最悪この一点さえ守りきれば勝てるのだ。守りに集中されたら取り返すのはより困難となる。
「ヒートウィング!!」
赤城はいつもの技で突破。飛んで相手の上空を突破、空中にいる相手には何もできないし、後ろから追いかけてくる選手には火柱と一見隙がない。
しかし、飛翔の際のスピードは決して速くなく、長時間飛べるというわけではない。また使用時と着地時に隙があるというのは双輝戦を見ていればわかること、それさえわかっていれば何も怖くはない。
「トロいねー、ウェルカムバック」
「あっ!しまっ━━━」
立伏は足を大きく振り、空気を巻き込んでボールが自身の方に来るよう強烈なスピンをかける。ボールはスピンしながら立伏の足元へやってきた。
「箱庭くーん、よろしくー」
「はい!須藤さん!シュートを!」
「オッケー、それじゃあシュート・・・と見せかけてパス!」
そこから小刻みなパスで相手をかわし、一気にゴール前まで繋がる。再び成平にボールが渡ってしまった。
「さぁて、もう一点決めさせてもらおうかな?」
「いーや!今度こそ止める!!」
「威勢がいいね、それじゃあ遠慮なく・・・ディレイドスティング!!」
成平は先程と同じぐらいの距離から同じ技を繰り出す。しかしさっきとの違いが一つある。今度は模様の範囲がかなり縮小されていた。
「(えーっと、さっきので遅かったからなぁ。よし、ちょっと早くするか!)」
先程は対応が遅くなったため、気持ち早くした方がいいと考えた東条はタイミングを遅くして技を発動。そう、ここで早くすればちゃんと正面から・・・
「あ、あらー!?」
ところが東条の考えとは裏腹に今度は技を出すタイミングが早すぎる。刃先で受けてしまい、またしても力が上手く伝わらない。
「くそー!!どうなってんだよー!?」
それでもなんとかして対抗するが、青い鉈にヒビが入る。力を入れて踏ん張るも、限界が来て粉々に砕け散る。
「やっべ━━━━」
「思い通りにはさせたらへんぞ!!」
しかし、あわやゴールというところで淀屋が強引に割り込みヘディング、ギリギリでボールを逸らした。
「あ、あぶねー・・・サンキュ」
「かまへんかまへん!助け合いの精神ってやつや!」
チーム同士の協力によりなんとか得点されずにすんだ。とはいえ相手のシュートの謎が解けないとやられるばかりだ。
「しっかし今度は早かったのか?でもさっきは遅かったし・・・んん?」
「・・・いい感じに迷ってるね。その調子で思考を崩してくれよ?」
模様の範囲はある程度変えられる。それにより相手の遅い、早いの判断を狂わせることが可能。これにより相手を混乱させ、一気に崩す。力に頼らずとも頭を使えば簡単に勝利できる。実に彼らしい技だ。
「・・・このままだと・・・負ける・・・」
麻宮は今の流れが厳しいものだということを理解していた。このまま翻弄され続けると完全に相手のペースに持ち込まれる。一度そうなると流れをこちらのものにするのは非常に難しい。
それを阻止するにはここで点を取るしかない。だが、今の自分にその力はない。今日はいつもよりチームに迷惑をかけている。だからこそなんとかしたいのだが、手を伸ばしても勝利には届かない。
「策は・・・ある」
ただし、リスクを払うことを覚悟すれば話は別だ。非常に大きなリスク、成功しようが失敗しようがただでは済まないだろう。
「やるしかない・・・っ!!」
だが、その覚悟は・・・とっくにできている。
「皆!私にボールを渡してくれ!!」
クールな麻宮らしくない必死の訴えに周りは驚いたが、それも数秒のこと。すぐに了承し、その声に応える。
「わかった!みんな!麻宮にボールを回してくれ!」
「ふふん!そういうことなら任せない!!」
「・・・失敗しても俺達がいる。全力でぶつかってこい!!」
頼れる仲間達の声を受け、麻宮はさらにギアを上げる。その表情からは覚悟が伝わってくる。
「疾風ダッシュ!!」
「っ!速いな・・・!」
「ほーう、おかしいね・・・?」
怪我をさせたはずなのに動きが速い。まさかもう回復したのだろうか?たしかに今後のサッカー人生には影響しない程度には調整させたものの、まさかこんなに早く回復するだろうか・・・?
そんな相手の思考とは裏腹に、痛みを耐えながら走り続ける。チームのため、そして自分自身のために相手を抜き去っていく。
「決める・・・!」
指笛がスタジアムに鳴り響く。すると皇帝の名を冠するペンギンが地面から姿を現す。通常とは違う赤い体躯のペンギンは地面から飛び出すと、彼女の周囲を飛び回り続け、鋭い嘴を足に突き刺した。
「あ、あの技は・・・!?」
「ぐっ、うぅ・・・皇帝ペンギン・・・一号ッ!!!」
激痛に耐えて放たれたシュート。赤いペンギンがミサイルのように打ち出され、ボールと共にゴールへと突き進む。
「な、なんだこれは・・・セキュリティポインター!!」
謎の技に動揺しつつも切り替えて対応。だが、先程までと威力がまるで違う。電気を纏った弾丸は他愛もなく弾かれ、シュートが決まった。
「・・・驚いたね。まだ隠し玉があったのか」
まさかあんな技を持っているとは思わなかった。以前の試合でもそんな素振りはなかったし、過去の動画にもあんな技は使っていなかった。しかしあの威力。代償なしで打てるとは思えないが・・・
「やった!同点だ!」
そんな成平をよそに、赤城喜んでいた。試合でも練習でもあんな技は見たことないが、練習して密かに習得していたのだろうか?何はともあれ前半のうちに同点に持っていけたのは大きい。このまま勢いに乗って逆転し、この試合に勝利する。
「うぅ・・・ぐっ・・・」
「・・・えっ━━━━」
そんな赤城の短絡的な思考は止まる。声のした方を見ると、麻宮が足を抑えており、苦しそうに声をあげている。なぜこうなったのかわからず、その場で呆然と立ち尽くす。
「大丈夫!?しっかりするんヨ!!」
「大丈夫・・・だ。もう一点、すぐに・・・!」
そう言って立ち上がろうとするが、足に力が入っていないのか、すぐに膝をつき、苦悶の表情を浮かべている。誰がどう見ても、大丈夫ではないのは明白だった。
「いや無茶やろ!?そない無理したらアカン!」
「支倉の言うとおりだよ。誰が見ても大丈夫ではないのは明らか・・・さっきのシュートが原因かな?とにかく今は休息した方が良いと思うよ」
「しかし・・・私は・・・!!」
休めと言われてもなかなか引き下がらず、無理やり立ち上がろうとする麻宮。そこへ今までの様子をベンチから見ていた斧街が話しかけにやってくる。
「・・・キツいことを言うようで悪いけど、そんな状態じゃ出たところで足を引っ張るだけなんじゃないかい?」
「っ、それは・・・」
厳しい言い方ではあるが、斧街の言うとおりである。こんな状態で試合に出続けても、相手からすれば格好のエサにしかならない。
仮にこのまま出場し続けて勝てたとしても、今度は麻宮の身体が持たない可能性がある。今後のことも考えると無理をさせるわけにはいかない。
「なぁに、心配することはないよ。あんたはもう充分にやった、というより頑張りすぎ。後は仲間を信じてゆっくりと休憩しな」
「・・・はい」
渋々ではあるが、ベンチに下がることを了承する。そしてベンチに向かう際に仲間に問へいかける。
「みんな・・・私は、役に立てただろうか・・・?」
本当にチームから必要とされているのか?そんな不安から出てしまった言葉。普段なら絶対に言わないであろうことを口にしてしまう。
「何を心配しとんねん!充分やっとる、だから今は休むんや!」
「私達に任せときなさい!すぐに勝ち越して来るわ!」
「・・・この一点、大事にしていこう」
「そうやな、涼華ちゃんが取ってきてくれたこの一点。無駄にはできんで!!」
そんな麻宮を励ますべく、仲間が奮起。仕事を果たした彼女のためにも、この試合に絶対勝つと気合いを入れ直した。
「・・・・・・」
「キャプテン、キャプテーン?」
決意を新たにした城翔中学だったが、麻宮がベンチに下がるためまずは誰を出すのかを決めなければならない。太智が赤城に誰と交代するのかを問いかける。
「・・・・・・」
「?おーい、赤城ー、聞いてるのかよー?」
「えっ?ああ・・・どうかしたか・・・?」
しかし、さっきから赤城はまったくの上の空。このように話しかけてもすぐには返してくれないような状態だった。
「いや、麻宮がベンチに行くから誰か出さないといけないぜ?で、誰を出すんだ?」
「うん・・・そう、だな。じゃあ星見を入れようか。FWだし・・・」
やはり変だ。試合前まではいつも通りだったし、試合中も特に変わりはなかったのに突然こうなってしまった。
「なんかおかしいわねー?もしかしてキャプテンも怪我してんじゃないの?悪いけど天才の私でも人体の怪我を治すのは専門外だからね?」
「・・・いや、なんでもない・・・なんでもないんだ・・・」
「ならいいけど、今は試合に集中だぜ?あの麻宮って子のためにも頑張るんだろ?考え事はあとにしようぜ!」
「・・・そうだよな、ごめん」
どうにも切り替えられていないように見える。だが相手を待たせるわけにもいかない。指示通り麻宮をベンチに下げ、代わりに星見が入り試合再開。
前半も残り僅かのため両チームが得点に餓えている。勝ったまま後半を迎えるのと、同点のまま後半を迎えるのでは意味が大きく変わってくる。なんとしても一点が欲しい。
「さあ、もう一点取るよ!」
「協力してこうぜー!」
しかし相手の守りが固い。こちらの動きが読まれているのか、すぐにボールを取られてしまう。なおかつ攻撃では細かいパス回しや丁寧なドリブルでボールをキープしながら突破してくる。
相手によってどう行動するかを見極め、確実に突破してきている。せっかく同点になったというのに相手のペースを崩せずにいた。
「へへっ、俺達がもう一点取って前半終了だ!」
「ぬおぉぉぉぉ!!パワーチャージ!!」
「おぉっと!?」
危うくパスを出されるところだったが、後ろに下がっていた盤上が強引に止め、窮地を脱した。やはり力によるゴリ押しはいつの時代も強い。
「なら奪えばいいだけっしょ!!」
すぐさま控えていた羽賀がボールを奪おうと仕掛けてくるが、それでも盤上は落ち着いている。
「ガハハ!!そうはいかんぞぉ!!ヒートタックルじゃあ!!」
「おっと、新技かよ!」
炎を纏いながらドリブルし、相手を寄せ付けない。たしか前の試合では使っていなかったはず。単に使う機会がなかったか、この試合までに会得したということだろう。
「・・・盤上先輩!」
「おう!任せたぞぉ!」
盤上とは逆に前に上がっていた黒鉄がボールを確保。現状相手キーパーを破れる手段は乏しいが、黒鉄には作戦がある。上手くいくかは五分五分だが、やってみる価値は充分ある。
「オイオイ、そんなに攻め込んでいいのかー?守りはどうお考えで?」
「たしかあなたは足は速くないですよね?あんまり前に出すぎると戻れないですよ?」
だが、まずここを突破しないといけない。相手は二人がかり、そして彼らの言うとおり黒鉄は守備の要でありつつ、足は速くなくドリブルが上手いわけでもない。
ここで取られてしまうと相手に大きなチャンスを与えることになる。
「・・・問題ない、ヒートタックル!!」
「なっ!こいつもか!?」
だが無策で突っ込んだわけではない。盤上と練習し、同じ技を会得していた黒鉄。違う人物による二連ヒートタックルは予想できなかったようで、二人まとめて抜くことに成功した。
「・・・さあ、誰にパスするのかな?」
それでもまだ鉢美中学の選手は焦ることなく観察している。現在黒鉄はそのまま上がってきており、黒鉄自身がシュートする可能性がある。たしかに彼はパワー系のためこちらのキーパーの弱点ではある。それに気づいて賭けてきた可能性もゼロではない。
だがしかし、恐れるに足らずだ。黒鉄はシュート技を持っていない。いくら不意を突いてかつ弱点のパワー型とはいえ、普通のシュートなら技を使えば楽に止められる。
もちろんヒートタックルのように新たに習得したという可能性もないことはないが、必殺技というのはそう易々と会得できるものではない。この短期間で新しい技を二つも修得した、という可能性は少ないだろう。
「(そのまま上がってやがるな・・・何を考えてやがる?)」
ゴール付近にいる相手のFWは二人。片方は星見、こちらのシュートはまだ映像でしか見たことはないが、恐らく止められるだろう。とはいえ念のためにマークはしている。
つまり現在FWでフリーなのは三日月だけだが、三日月のシュートは先程完璧に止めている。このままシュートを打たれても特に問題はない。
「(さあ、どう来る・・・?)」
選択肢は現状三択、このまま意表を突いて黒鉄がシュートする。可能性に賭けて無理やりでも星見に繋ぐ。そして手堅く三日月がもう一度打つ。
正直どれにせよ問題はないが・・・パスを出さずにそのまま突破してくる。
「・・・三日月!」
と、思わせて寸前で三日月にパス、やはりマークしている方に無理してまでボールは回さない。そのままバウンドフレイムの体勢に移行している。
キーパーはちゃんとボールを見据えている。問題はない、後はここで止めて前半終了。理想は勝っていることだが、同点なら及第点だろう。
「よし、今なんヨ!!」
「・・・ああ!」
しかし、何か様子がおかしい。パスをした黒鉄がそのままゴール前まで上がってきた
「ザ・ウォール!!!」
かと思えば、何を血迷ったのかこの場だザ・ウォールを発動。地面が盛り上がり、ちょうどその位置にいた味方の三日月は真上に吹き飛んだ。
「クククッ、なんだぁ?自棄でもおこしたのかよ」
相手の滅茶苦茶な行動に箱庭は思わず笑いが出る。味方に向かって技を打つとは相当メンタルがやられたのだろう。
「・・・これって」
だが、星見をマークし、近くで見ていた立伏はいち早くそれに気づいた。普通なら体勢を崩してしまうような状況だが、三日月は持ち前の身体能力で上手くバランスを取り、空中でも良い体勢をキープしている。
「・・・まさか、そういうことか!!」
そして成平もその意図に気づいた。ザ・ウォールを使ったのは三日月を上空に飛ばすため。三日月の体感ならあの状態でもバランスを崩すことはない。
ではなぜ空中に飛ばす必要があったのか?
飛ばされる前、三日月は地上でバウンドフレイムの体勢に移行していた。ボールは摩擦で炎を纏っており、少しずつ浮き上がっている。しかし三日月自身は空中にいる。これでは三日月は打てない。
だが、地上にはもう一人いる。
バウンドフレイムは本来上空にいる必要はない。地上で打つ技だ。しかし、ボールは高所から落とした方がより高く跳ねる。準備されて燃えているボール、上空にいる三日月、地上にいるもう一人の選手。
実に簡単なことだが・・・前とは違う組み合わせだったため、それに気づけなかった。
「ハイバウンドフレイム!!!」
双輝中学戦で唯一点を奪った高所からのバウンドフレイムが炸裂する。
「自棄じゃなかったのかよ・・・セーフティプロテクト!!」
キーパーは必死に対抗したものの、威力、暴れ具合共に上昇したシュートを止めることはできない。強固な壁は破られ、ボールがゴールネットに突き刺さる。
「やったぁぁぁぁぁぁ!!!」
「・・・よし、決まったか」
一点を追加しここで前半戦が終了。点差は二対一となんとかリードしている。しかし東条は相手の技に翻弄されており、DFも研究されているためか突破されることが多い。油断すればすぐにでもひっくり返されるだろう。
「さて、後半はどうする?」
油断ができない戦況。誰を交代し、誰を残すかは試合に大きく関わってくる。
「得点した黒鉄と三日月は残した方がいいんじゃないかねぇ?相手にプレッシャーかけられるだろうし」
「うーん、スピードと範囲技の対策されとるし・・・雨海ちゃんが適任やない?」
「では下がりますよ。私は相性良くなさそうですし」
「ああ、それじゃあ代わりにあたいが出ようか。まあ無理しない程度に頑張るよ」
星見の代わりに斧街が入り、盤上と華咲、千景と裁野が交代。後半戦はこのメンバーで戦うことになった。
「そーいやキャプテン、大丈夫かい?」
「は、はい・・・大丈夫です・・・」
「あんまり気負ってちゃ最後までもたないよ。もっと楽にいきな」
気負ってはないです、と赤城は返すがやはり余裕はなさそうだった。
活動報告にあるフリー枠の主人公枠はあと2ヶ月程度で締め切る予定です(一応準決勝が始まるまでなら入れれないこともない)。ただ締め切りまでは2ヶ月あるものの入れる場合はそこからストーリーをある程度考えないといけないので、確率は低いけど一応狙ってみるという方はなるべくお早めに。外れた場合でも練習試合で使う可能性があります。その辺りはご理解を
なお主人公チームではなく練習試合狙いの方はまだまだ先なので急ぐ必要はございません。また単にキャラ作りの練習がしたいという方には締め切りが存在しないのでご自由にどうぞ
次回はいつもの通り一ヶ月後の予定。