イナズマイレブン 〜熱き太陽の導き〜   作:チェリブロ

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今回で鉢美中学戦決着です。裏話になりますが、前回よくわからないミスをしていてへこみました。まあ修正できる範囲だったので問題なかったんですがなんであんなミスをしたのか?疲れてたのかな・・・?

それはさておき全国大会、フリー枠はまだまだ募集中です。フリー枠の主人公チーム追加枠は次話で第一締切となっているので送りたいという場合はお早めに。残りはまだまだ期間があるのでゆっくりとお考えください

以下フリー枠

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=263284&uid=233843

以下全国大会

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=263283&uid=233843


vs鉢美中学 後編

後半戦開始前、鉢美中学のベンチはあまり良い空気ではなかった。それもそのはず、作戦は上手くいったのにも関わらず負けているのだから。

 

「あーあ、やられてんじゃねえか」

 

「まさかこんなことしてくるなんてねー」

 

意表を突くのはこちらの得意分野なのだが、まさか相手にしてやられるとは思わなかった。

 

「ああ、ちょっとまずいね・・・」

 

「どーすんのこれ?厄介なことになってんじゃん」

 

自チーム唯一の弱点であるパワー系のシュートを持つ斧街に一点取られ、自分達は相手を翻弄して二点。二対一で折り返すというのが理想的な想定。しかし斧街は出てきてすらいないというのに二点も取られている。

 

おまけにこちらの得点は一点と、予定と真逆になっている。少なくとも両者一点の同点というのが本来の予定だったのだが・・・まさか負けたまま後半を迎えるとは思わなかった。

 

「成長性も相当高かった、ってところかな」

 

こちらの予想以上に城翔中学は成長していた。前の試合より今の試合の動きの方が格段に良い。非宋戦の時よりも成長度合いが大幅に上がっている。ぜひ聞きたいところだが、今はそんな悠長なことをする余裕はない。

 

「・・・やれやれ、使いたくはなかったが・・・やむを得ない」

 

「ちょっとキャプテン、まさかアイツを使うんですか?」

 

浦木は怪訝そうな顔を隠そうともしない。それもそのはず、自分達はあくまでも品行方正を重視しているという体だ。実際鉢美中学に入学する生徒は良心的な生徒、また良心的な生徒を装っている者が入学する。

 

望む、望まないに関わらず普段から表面上は良い人を演じている。サッカーでもラフプレーはなるべく仕掛けない。やるとしても基本はわからないようにする。サッカー部に入部する生徒はそれを理解した上で入部、活動する。

 

ところがなぜかその狂暴性を隠さないまま鉢美に入学し、サッカー部に入部した生徒がいた。練習でもラフプレーを堂々と仕掛け、挙げ句試合でもそのスタンスを変える気はないと断言した。

 

当然ながら使えるはずがない。そんなことをすれば鉢美中学のイメージに大きく影響する。たった一人でもそういうことすれば、イメージに深刻なヒビが入る。

 

「仕方がない、こっちは秘策もないしね。強いて言うなら彼女が秘策ってところかな?まあ実際はそんなにだいそれたものでもないけど」

 

とはいえ実力はあった。他を圧倒するというほどではない。天才的な実力があったというわけではないが、確かな実力は持っていた。

 

チームメイトと監督で話し合った結果、ここぞという時、負けられないような試合などで彼女を使おうという結論に落ち着いた。

 

できれば使わない、使うならターニングポイントや勝つべきとき、負けたくないとき。それこそ決勝や準決勝辺りを予定していた。そこでなら本来のイメージが崩れたとしても、フットボールフロンティアで良い成績を残したという良いイメージで上塗りできるからだ。

 

が・・・使う前に負けたら話にならない。ならば今、使うしかない。

 

「審判、交代をお願いします」

 

交代と聞いて、その少女は獰猛な笑みを浮かべる。茶色の短髪に茶色の瞳、そして動く度に鈴がついた髪飾りが静かに鳴る。

 

「・・・やっと獲物を狩れるのかい?待ちくたびれたよ!」

 

甘水寧、凶悪なハンターが牙を向く。

 

 

 

 

「相手チームは交代か」

 

「なんか・・・ちょっと怖いんヨ・・・」

 

後半からフィールド入りした選手、甘水。その目は爛々と輝いており、優しい印象を感じさせる鉢美中学の選手とは真逆、獲物をみるような目でこちらをジッと見つめている。しかも鉢美中学の知的な部分は残しているようにも見える。

 

「さあ、やることはわかってるよね?」

 

「・・・ホント、仕方ねぇな」

 

「あーあ、面倒な仕事が増えたなぁ」

 

相手選手が何かコンタクトを取っているが、やるべきことは変わらない。いつも通り最後まで真剣に戦うだけだ。ただ、めんどくさそうにしているのは気になった。

 

『さあ、後半戦が始まります!両チーム選手を交代し、後半戦スタートです!』

 

後半戦開始を告げるホイッスル。ボールを持った甘水が一気に攻め込んでくる。さらに直後、相手が仕掛けてくる。

 

「「ザ・ミスト!!」」

 

原理はわからないが、相手選手二人が同時に霧を発生させ周囲の様子が確認できなくなる。心ここにあらずの状態だった赤城はまんまと技を受けてしまう。

 

しかし、赤城は技を受けた焦りよりも先に疑問が浮かんだ。

 

「ディフェンス技・・・だったよな、これ」

 

ザ・ミストという技は霧に紛れて相手のボールを奪うというのが本来の使い方。決してドリブル技ではない。ましてや一人技。二人で使う意味はない。

 

とはいえ別にディフェンス一辺倒でしか使えない技ではない。霧を発生させている間に突破するなどちょっとやり方を変えればドリブル技としてもなんら問題なく使える。それに二人で使えばちょっと霧が濃くなったり、範囲が広くなる・・・などの効果があるのかもしれない。

 

そのため赤城は最初こそ少し疑問を抱いたものの、すぐに目眩まし的なものなのだと考えを変えた・・・その時だった。

 

「ほぉらジャッジスルゥー!!」

 

「なあっ!?」

 

油断しきってノーガードだった腹に重たい一撃が放たれる。最初は何が起こったのかわからず、成す術もなく飛ばされた。

 

「ハッ!油断してんじゃないよ!」

 

『・・・おっと、赤城選手が倒れてますね?立ち上がりましたが・・・霧の中で接触したのでしょうか?まあ見えにくいですからね、気を付けたいところです』

 

怪我させないようにする配慮か、はたまた大事にならない程度で済ませるためか動けないことはない。とはいえ遠慮しているというわけでもない、強烈な一撃だった。

 

「・・・こうなるから使いたくなかったんだけどね」

 

ジャッジスルーは反則スレスレの技である。世間からもあまり好まれてはいないが、ただ技として一応認められているため程度をわきまえて使う分には問題ない。

 

とはいえあくまで品行方正がモットーの鉢美中学。迂闊にそういうことはできない。かといって彼女が程度をわきまえるとは思えない。

 

普段評判の良い人が少しでも悪いことをした時の反動はすさまじい。それゆえに少しの荒々しいプレーも避けたいところだ。ならば答えは一つしかない。

 

「どーするんだよ?あれをずっと隠蔽すんのキツいだろ」

 

「それでもやるしかないよ。放っておくわけにもいかないし」

 

「まっ、隠蔽なんてこの先いくらでもやることだし社会経験にゃなるっしょ」

 

バレなければどんな悪事もなかったことにできる。それゆえやることは一つ、ひたすら隠す、ただそれだけだ。隠蔽工作が大変だが、それでもやるしかない。学校の体裁を守り、試合にも勝つ。それが自分達のやるべきことだ。

 

幸い前半で審判に良いところを見せておいたおかげもいって、少し疑問には思っているもののまさかファウルプレーをしているとは思っていないようだ。このまま上手く隠し通して終わらせるしかない。

 

「ハハッ!!どうした?その程度なのか!!」

 

そんな彼らの気持ちなど微塵も考えず、甘水はどんどん前に出ていく。時折仕掛ける荒々しいプレーは周りの選手があの手この手で上手くごまかし、ゴール近くまで漕ぎ着けた。

 

「よっしゃ!ここはワイに任せぇ!」

 

「関西弁コンビの力を見せたるで!」

 

「無駄無駄ァ!!アクアバンデッドォ!!」

 

ボールを中心に激流が現れる。そして甘水はボールの上に乗り激流を乗り越えながら速度をつけて行き、二人を悠々と突破していく。

 

「さあ、喰らいなぁ!!」

 

「ちょっ、マジかよ!!」

 

限界まで上がりきったところで滑るようにボールを射出。ただのドリブル技ではなく、シュートにも応用できる技、それがアクアバンデットだ。

 

「クソ!間に合わねぇか!!」

 

なんとか技を使おうとするも間に合わない。せめてもの足掻きで拳で対抗するもののやはり止められず、同点に戻されてしまった。

 

「いてて・・・すんません!油断しちゃいました!」

 

「気にしたらアカンよ!次に切り替えていきや!」

 

不意を突かれてしまいあっさりと同点に持ち込まれる。かなり手痛い一発をもらってしまった。

 

とはいえ決められたもののまだ同点、なんとかしてもう一点を取れば勝てる。とはいえ相手の守りも固い、突破するのも一苦労だ。

 

 

 

 

 

 

「ハハッ!・・・次はどうする?もっと攻めて相手をボロボロにする?」

 

「それができれば苦労しないんだけどね」

 

鉢美は鉢美で次の一手が決まらない。というのも先ほど交代した星見、前半は途中からの出場でそこまで体力は消費していなかったはず。

 

「今はカウンターメインで、あんまり出すぎない方がいいかもねー」

 

「そうは言うけどよ、あの先輩は止まんねえだろ」

 

にも関わらず斧街に変えてきたということはこちらの弱点がバレた可能性がある。またバレていなくともまだ試していないパワー系のシュートを中心に攻めてくる可能性が高い。

 

となると守備はおろそかにできないが、甘水は言うことを聞くとは思えない・・・と、両チームが苦境に立たされていた。

 

 

 

 

 

「そーいやキャプテン大丈夫か?なんかうずくまってへんかったか?」

 

こちらは城翔中学。次の作戦について軽く話していたが、淀屋が先程のことについて聞いてくる。

 

「あ、ああ・・・ちょっと技をもらっちゃってさ」

 

「えっ?キャプテンも?私も結構強烈なのもらったんだけど」

 

試合に集中していると、勝ちたいという思いが先走り荒っぽいプレーになることもある。もちろんその意味もあるのだろうが、今回は声色といい顔といい楽しんでいるようにも見えた。

 

「・・・僕の方からはかなり強引な突破をしているように見えましたね」

 

つまり偶然ではなくわざとやっている可能性が高い。ベンチから試合の様子を見ていた千景も同意している。

 

「なんやて!?そんなんアカンやろ!!抗議や抗議!!」

 

「いや、でも俺の勘違いかもしれないし・・・」

 

「・・・仮にわざとだったとしても証拠がないよ。言ったところで何か解決するとも思えないね」

 

星見の言うとおりである。特に今回は霧のせいで見えていなかったり、選手が壁となっていたりと見にくかった。特に審判のところからは確認できないような位置取りだった。相手がやってないと言えばそれまでだろう。

 

それにジャッジスルー自体は技として認められている。これが本当に悪質でファウルかどうかの判断を下すのは審判の役目だ。

 

とはいえ観客もいる。もしわざとなら見ているところによっては相手の反則も見えそうなものだが・・・

 

「・・・そういうことか」

 

ここでずっと話を聞いていた裁野が口を開く。

 

「ずっときな臭いとは思っていたが・・・試合前、試合中の対応、あれは善意だとか親切心からの行動じゃない」

 

前半の試合の様子をベンチから見ていた裁野は何かを感じ取っていた。純粋な善意とは思えない、どこか裏のある感じがしていた。そして今回のことで確信した。

 

「何か自分達に不都合なことが起こった際に心象操作できるようにしている。恐らくそれは観客も同じ。この中学にはそういう考えのやつらが集まっているんだろうな」

 

「・・・あー、どういうことっすか?」

 

「心にも思ってないこと言ってご機嫌取りしたり、好印象な行動を取るのは全部審判を味方に付けるためってことさ」

 

もちろん審判がどちらかのチームを贔屓するのは禁じられている。私情を持ち込むのは厳禁、平等かつ厳正な判断しなければならない。

 

とはいえ審判も人間だ。ルールは制定されているものの人によって判断基準にはバラつきがあるし、判定が緩くなるということもある。

 

そして今までの丁寧な行動で無意識の内に鉢美中学はそういうことはしないだろうという先入観が生まれ、鉢美中学への判定がかなり緩くなっているのだ。

 

元より鉢美は評判のいい学校と言われている。それらの要素とこれまでのプレーが合わさり審判を味方にしている。そのせいで鉢美中学がある程度好きに動けるようになってしまった。厄介なことこの上ない。

 

「じゃ、じゃあどうすんだよ・・・ラフプレー食らうしかねぇってことか?」

 

サッカー部だけでなく観客も人を利用したりするような人がほとんど。こうなるとここにいるほとんどの人が敵ということになる。そうなると不正を暴くのは無理である。

 

「そうなるね。仕返しなんてしようものなら逆にファウルを取られるのがオチだろうしそれこそ相手の思うつぼ。こちらが不利になるだけだよ」

 

相手が殴ったから自分も殴った。そんな話が許されるわけもない。残念ながら対抗策はない。

 

「まっ、されたから仕返しなんて柄でもないしな。向こうがラフプレーサッカーならこっちは正面衝突サッカーで勝負してやるぜ!」

 

ならば正面衝突しかない。向こうが頭が使う悪知恵サッカーなら、こちらは正面衝突サッカーで対抗する。バカっぽいが、その声を否定する者はいなかった。

 

 

 

 

 

同点となり城翔中学からのボールで試合再開。すぐに甘水がボールに狙いを定めるが、まずはパスを繋いでかわしていく。

 

「星見!!」

 

斧街はマークされている。ここは無理せず星見にパスを出す。

 

「まあそうするよねー、でもたまには攻めたこともしないとパターン化されちゃうよ?」

 

だが、マークされている人にはパスを出さないと踏んでいた立伏がパスカット。さすがにやり方を変えないと厳しいかもしれない。

 

「はーい、後はよろしくねー」

 

「へいへい、でも点を取るのは俺の仕事じゃない・・・な!」

 

「綺麗にパスが繋がると気持ちがいいね。そして得点できると最高なんだが・・・ディレイドスティング!!」

 

再び相手のシュート、決められた場合勝ち越される。時間はまだあるが、みんなのためにもこれ以上点を取られるわけにはいかない。

 

「メガトンヘッドォ!!」

 

その思いは皆同じ。淀屋がシュート線上に割り込み、頭部に集めたエネルギーを拳の形に具現化させ、拳状のエネルギーをぶつけ、ボールを弾き飛ばした。

 

「へっ、この程度かいな。そんなもんでワイらからゴールを奪えると思とったら大間違いや!!」

 

「わりぃな淀屋!助かった!」

 

「気にせんでええ、それにさっきワイが止めとったらあの一点はなかったわけやしな!」

 

淀屋が弾いたボールを佐原と出増が取り合うが、フィジカルの弱い佐原は押し負け相手にボールを取られてしまう。

 

「へっ、大したことねぇ・・・おっと危ない」

 

パスを受け取りドリブルしていく箱庭、もう一点取るためになんとかFWへ・・・と、そこに裁野が立ちふさがる。しかし目の前に来ただけで特に動きがない。

 

「ん?どうかしました?」

 

「お前、実力は大したことないな」

 

不審に思い話しかけると、こちらを煽ってくる。さらにこれだけでは止まらない。

 

「技も騙す技ばかり、はっきり言って素の実力は皆無か」

 

「・・・なんだと?」

 

「どうした?違うというなら来い。正面からな」

 

わかりやすい挑発である。わざわざ受けてやる必要はない。誰かにパスを出すなりして避ければ済む話。とはいえ・・・

 

「挑発のつもりかよ・・・いいぜ、だったらお望み通りやってやるよ!!」

 

そのまま受け入れるというのも癪だった。煽り慣れていても煽られることには慣れていない。それもあって裁野挑戦を受けてしまった。

 

「それでいい・・・ヴォーパルスライド!!」

 

混じりっけのない正面衝突。裁野は地面を抉るほどの速度で繰り出したスライディングで箱庭からボールを奪う。

 

「く、クソッ!!」

 

「悪いが実力勝負なら負けはしない。・・・後は頼んだぞ」

 

「はーい、それじゃあ初御披露目だよ。フェアリーギフト!」

 

パスを受け取った華咲がボールを蹴り出すと、ボールに妖精のような羽が生える。まるで意志が宿ったのか、ボールは本来ありえないような軌道を描き、FWの元へと送り届けられた。

 

「さぁてと、そんじゃ再度勝ち越しといこうかねぇ」

 

このチームにとって一番厄介な相手にボールが渡ったが、まだ慌てるような状況ではない。まずゴール近くまで来ているのなら先に複数人でマークすればいい。そうすればパスの出しようはない。

 

また自分で持ち込んできた場合は数人がかりで奪えばいい。彼女はドリブル技を持っていない、だから警戒する必要はない・・・というのが事前に伝えた対策だ。

 

「いや・・・待て!下がってシュートブロックする作戦に切り替えるんだ!」

 

試合の動画を見るとこのチームはバカっぽく、無策で突っ込んでくるだけかと思っていた。しかし戦ってみるとそんなことはなかった。

 

前半のヒートタックルからのハイバウンドフレイムやキーパーの東条が苦戦していると判断しヘディングで得点を防いだ淀屋、相手を煽りボールを奪った裁野など、ちゃんと頭も使ったり、瞬時の判断で対応できるように鍛えられている。

 

「残念ながら忠告が少し遅かったねぇ!タイダルウェイブ!!」

 

「な!?」

 

「こ、こいつら短期間でどれだけ会得してんだよ!?」

 

ドリブルしながら腕を勢い良く横に振ると巨大な波が発生し、相手をまとめて飲み込んでいく。斧街はその隙に突破していった。

 

「さあ、一対一といこうか!!サブマリンショット!!」

 

「チィッ!!セキュリティプロテクト!!」

 

唯一苦手なパワー型、それでもここで点を取られたら勝利は一気に遠くなる。絶対に止めたい場面だったが・・・無情にも防護壁は砕け散った。

 

「よ、よし・・・勝ち越せた・・・」

 

「やったぁぁぁ!!もう一度勝ち越したんヨ!!」

 

「よくやった!!今のはナイスシュートじゃ!!」

 

「・・・やりましたね」

 

赤城はホッと一息吐き、ベンチで見守っていた皆も声をあげて喜ぶ。この一点を守りきれば勝てる。三回戦への階段が見えてきた。

 

一方で鉢美中学はすぐに集まり、新たに作戦を立てる。

 

「・・・相手は素人が多い。長々と試合をすればいずれはボロを出してくれるだろう。だから二点は必要ない、一点をなんとしても取るぞ」

 

残り時間は少ない、ここから逆転というのは難しいだろうが、相手は素人と多い。同点にすれば充分望みはある。とにかく一点、一点を取ることに今は集中する。

 

 

 

 

 

 

「ハハハッ!!サッカーは楽しいね!!もっともっと戦いたい!!だから・・・あんた達にはここで負けてもらうよ!!」

 

鉢美中学からのボールで再開し、甘水は即座に攻め上がる。ここで点を取らないと負けるため相手は必死だ。だがそれは城翔中学も同じこと。勝つためにも点を取られるわけにはいかない。

 

「クズちゃん!さっさと運びな!!」

 

「はいはい、イリュージョンボール!」

 

もう試合は終盤、これ以上守っていても仕方がないと判断した立伏は前に上がり攻めに加わる。

 

「そろそろいいですよね?戻しますよー」

 

「ああ!これだけ近づけば問題ない!!アクアバンデッドォォォ!!!」

 

この技はドリブル技として使いながらシュートまで持っていけるため、ドリブルとシュートを使い分けながら甘水は使う。その代わり欠威力はノーマルシュートより少し強いくらいという欠点がある。

 

つまり奇襲で初めて意味をなす技。二度目が上手くいくかと言われると答えはノー。だから次は組み合わせて使う。

 

「それじゃあお望み通り追加オーダーといこうか。ディレイドスティング!!」

 

キーパーに届くかという寸前で成平がシュートチェイン。若干威力を上げつつ、スピードを遅くしてタイミングをずらす。とにかく一点、一点さえ取れば望みがある。

 

「ぜってぇ負けねぇ!!!キラーブレードッ!!!」

 

東条は技を打ったものの、相手の技の仕組みを理解していないため今回も相手の思惑通りタイミングがずれる。刃先で受けるもやはり力が伝わらない。

 

「く、クソォォォォ!!また・・・ずれやがったぁぁぁぁ!!」

 

このままでは同点にされてしまう。チームメイトを信用していないわけではない。きっと皆なら延長戦になっても決めてきてくれると信じている。それだけ頼れる仲間だ。

 

だからといってあっさり諦めるわけにはいかない。ここまでの皆の努力を無駄にはできない。怪我してまで一点を取った麻宮、趣向を凝らして完成させた連携技で一点を取った三日月と黒鉄。そして相手の油断を誘って斧街が取ってきた一点。

 

点を取ってきてくれたみんなだけではない。相手の性質を理解しボールを奪った裁野、カウンターの立役者となった盤上、自分のミスを帳消しにしてくれた淀屋。

 

みんなの活躍を無駄にするわけにはいかない。

 

そして何より━━━━

 

 

 

 

 

「俺は・・・まだまだやれんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

━━━━このままやられるのは自分のプライドが許さなかった。

 

「これでどぉだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ヒビが割れ、砕けるという寸前でのこと。東条の左手から青いエネルギーが溢れ出る。そしてそのエネルギーは右手と同じように鉈状に変化。

 

「止まりやがれぇぇぇぇぇ!!!」

 

土壇場での左手版キラーブレードが完成、右の鉈が砕けたのと同時に左手で受け、ボールを完璧に切り裂いた。

 

「バカな!?」

 

「は、はは・・・!まさか止めるなんてね・・・!」

 

「見たかぁぁぁ!!!これが俺の実力だぁぁぁぁぁ!!!」

 

もう前半のように相手を褒める余裕はない。驚きを隠せない成平達を他所に、東条は残った力をフル活用しボールをぶん投げる。

 

「ふむ。下級生がしっかり止めたのに、上級生が決めないという選択肢はないね。マッハウィンド!!」

 

ここで決めないと負け、状況が状況だけにほとんどの選手が前に出ていたため鉢美中学の守備はがら空き。そこにボールを確保した佐原が一気に切り込みシュートを打つ。

 

しかしこのスピードならキーパーは対応できる。時間的にはここで決められようが止めようが負けは負け。だが、だからといって決めさせるわけにはいかない。

 

どれだけ汚い手を使おうが、自分はキーパーなのだ。もう負けが決まっているからといってシュートを止めないなどという行動はしない。

 

「・・・いいぜ!最後の勝負だ!!」

 

最初の丁寧な口調は消え、素の状態になる。相手のシュートを迎え撃つため力を溜める。

 

だが、相手の攻撃はまだ終わっていなかった。

 

「ダッシュアクセル!!」

 

獅子神が技を使って佐原のシュートに無理やり追い付いてきた。

 

「ま、まさか!?」

 

「ライオン・・・ハート!!」

 

そのまま強引にシュートチェイン。まさかドリブル技でシュートに追い付き、そのままチェインするなどという強引なやり方は想定していない。いや、できるわけがなかった。

 

「セーフティプロテクトッ!!!」

 

壁が連なり巨大な壁となって立ちはだかる。最後の意地か、かなり拮抗していたが・・・止めることは叶わなかった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最後の最後にもう一点が入り、試合終了を知らせるホイッスルが鳴り響く。結果は四対二、苦戦を強いられた場面もあったが、なんとか勝つことができた。

 

「・・・やれやれ、まさか負けるとはね」

 

データ上では勝てていた。もちろん毎回こちらの予想通りに事が運ぶということはない。だからいつも想定外の事が起こることも頭に入れておく。ある程度想定外のことが起こっても対応しきれるはずだった。

 

しかしデータでは図れないようなことを彼らはやってのけた。悪く言えば無茶苦茶、良いように言えば挑戦的と言ったところだろうか?そのせいでこちらの予定がことごとく潰された。残念ながら完敗だった。

 

「いやー、面白い試合だった。両手でのキラーブレード、ダッシュアクセルで追い付いてチェイン、ザ・ウォールを利用して上空へ、か。有意義な時間だったよ」

 

「おう、スゲーだろ!俺の両手キラーブレードは!!そっちもなかなか強かったけどな!」

 

思うところはあるが、試合が終われば敵も味方もない。純粋に相手のことを褒め合う。

 

「・・・あれだけやっといてよく言えるな」

 

最も全員が納得できるかは別となるが。

 

「あいにくこれがうちのやり方なんでね。それに怪我はさせたけど選手生命には関わらないようには配慮してるよ。まああの技は想定外だったけど」

 

そう言って成平はベンチを見やる。

 

「麻宮ちゃん、大丈夫?」

 

「ああ・・・痛みはあるが、動けるよ」

 

「・・・とりあえず大事にならなくて良かったです」

 

どうやら大事にはならなかったようである。そして成平は少し離れたところで麻宮の様子を見る赤城を見つけると、小走りで近づいていった。

 

「赤城君、少しいいかな?」

 

「えっと、あなたは・・・?」

 

「僕は鉢美中学キャプテンの成平。君がキャプテンの赤城太陽君で合っているよね?ぜひ話がしたいんだ。早速なんだが君はどうやって彼らの達の力を把握したのかな?次に限界、いやそれ以上の力をどうやって引き出したのか?そして彼らの判断力はどうやって培われたのか?ぜひチームのことを把握しているであろう君に聞いてみたいんだ。ああ後他にも聞きたいことがあってね、まずあれだけの才のあるメンバーをどうやって見抜いて、なおかつ入部させるまで漕ぎ着けたのか?そして短期間でどうやってここまで実力を伸ばしたのか?あとそれとだね━━━━━」

 

遠慮の欠片もなく矢継ぎ早に質問を浴びせかける成平。本来ならツッコミたいところなのだが、赤城は顔を曇らせ成平に質問する。

 

「あなたはチームのことを把握してるんですか・・・?」

 

「もちろん、体調管理や各々の性格、それらを把握した上での作戦。チームの事情を把握することはキャプテンとして当然のことさ」

 

それを聞いた赤城は顔を下に向けた。成平はそんなこと気にせず質問しようとするが、チームメイトに呼ばれた。

 

「おや?もう時間か。仕方ない、聞くのはまた次の機会としよう。それじゃあね」

 

そう言ってフィールドから出ていく。赤城は少しの間そこに立ち尽くし、しばらくしてからその場から逃げるように去った。




今回で鉢美中学の出番は一応終わりです。もしかしたら何かでまた出てくるかもしれませんが、とりあえず出番は終わりです。箱庭君、甘水ちゃん、立伏ちゃん、ご苦労様でした

次回はまた間に1~2話挟んで次の試合、次の相手は募集してないチームですね。ただ次回こそは遅れるかもしれない。諸々の事情で忙しくなるので。とはいえなるべく早く投稿できるようにがんばります。それではまた次回まで~

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