部室の方から賑やかな声が聞こえる。サッカー部は大抵外で練習しているため、部室は基本的に静か。加えて今の時間、いつもならまだ練習しているはずなのだが、この日は人の声がしていた。
「なぁ、こんなんでいいのか?」
「いや、もうちょいキャベツ切っといた方がええんちゃうか」
「ウチも同意見や。これやと生地が広がりすぎて上手く返されへん」
いよいよ明日は準決勝、双輝中学に勝つことができれば次は決勝戦。そうなれば息つく暇はない。加えて新しい仲間も加入した。
タイミングを考えても今しかないとの結論になり、、チームの結束を強めることと休息を兼ねて練習後に決起集会を行うことが二日前に決定した。
「そろそろ電源入れておけ。温かくなるまで少し時間がかかる」
「オッケーっす!スイッチオン!!」
そして今日、試合前日ということで練習は軽めの調整にとどめ、全員揃っていることを確認し、決起集会が始まった。最も中身はただのパーティーみたいなものなのだが、それでも問題ないだろう。
「これ、チーズとか入れたら美味しそうなんヨ!!」
「ワシはしっかり肉を食うぞ!良質な筋肉には肉がかかせん!」
「私は野菜多めで」
「たこ焼き器もあるからそっちも作りたいねー」
全員がまったく同じものを作るわけではない。自分の食べたいお好み焼きを作るべく生地の用意を進めていく。特に淀屋と支倉の手際がいいため、この二人が中心となりお好み焼きの準備を進める。
「んー、誰かタコ持ってる?」
「はい!今日買ってきたっす!ピッチピチのやつがあるっすよ!」
「おおっ、いいですね。でもタコでしたら私も持ってきました。新鮮さなら負けていないですよ」
「いいねー。たこ焼き食べたーい」
折角のパーティーで料理が一種類しかないのは味気ない。みんなで持ちよった材料を使い、お好み焼き以外の準備も進める。まだ始まったばかりだが、楽しくなってきたのか盛り上がっている。
「あれ?ソースってどこにあったっけ?」
「私は見てないねー」
「あー、やっぱりない?」
「・・・すみません」
探してみるが見当たらない。どうやら用意を忘れていたらしい。さすがにこのラインナップでソースがないのはあまりにも致命的。今から買ってくるしかない。
「じゃあ買ってくるか。あと他に足りないものってある?ついでに買ってくるけど」
「あっ、焼きそば作りたいんヨ。だから・・・」
「焼きそば!いいじゃねぇかよ!」
「・・・あの、すみません」
追加で焼きそばも作りたいという声があがる。たしかにみんなで食べることのできる焼きそばもあった方がいいかもしれない。
「わかった、じゃあ麺も買ってきたらいいのか。他にも欲しいものある?」
反応を見たが、他には特にないらしい。必要なものを確認した赤城は買い物に出掛けようと最低限のものだけ準備する。
「ふーん、買い物ならあたいも行くよ」
「ソースと麺を買うだけですし一人でいいですよ。斧街先輩はちゃんと皆の準備を手伝ってください」
「ちぇー、サボれると思ったのに」
「そんなことだと思いました・・・」
しっかり役割分担し、全員が何かしらの作業を進める。巧みな連携で平和に準備が進む。意外とこういった経験は試合でも役に立つかもしれないなと赤城は呑気なことを考えながら買い物に出掛けた。
それからおよそ三分後。
「なんで生きてるタコなのよ!?普通に市販のやつでいいでしょ!!そもそもどっから持ってきたのよこれ!?」
このわずか三分の間で何が起こったのか、獅子神の顔面にタコが貼りついていた。正直ギャグ漫画の光景にしか見えない。
「あー、それは私ですね。父が釣ってきたんですよ。折角なのでと思い持ってきたんですが・・・よく考えれば誰も捌けないですよね。これは失礼しました。後でちゃんと持ち帰ります」
「ちょっ!そんなこといいから!顔に来てるから!!誰かなんとかしてぇ!!」
冷静に解説する伊喜とパニックになっている獅子神。その様子を見ていた星見が呆れてため息をつく。
「獅子神、遊んでないで用意しなよ」
「遊んでないんだけど!?助けてよぉ!!」
「ちょっ、こっち来んな!」
「・・・なら、俺が引き剥がそう・・・」
「あー、助かる・・・いだだだだ!!もっと優しくして!!」
「・・・すまん」
パワー自慢の黒鉄がタコを強引に剥がそうとするが、思いの外しっかりくっついておりなかなか剥がれない。予想外の難敵にしばらく時間がかかりそうだった。
「ってそっちは何してるんヨ!?」
タコ騒動が起こるなか、盤上はどこから取り出したのかダンベルを持って腕を鍛えていた。まあ生きたタコよりは納得できるが。
「ん?ああ、最近こっちのトレーニングをできてなかったからのう!大方の準備が終わったから鍛えとるんじゃ!!」
「そ、そう・・・まあ準備ができてるならいいんじゃないかい・・・」
準備ができているならこちらから言うことはないのだが、どこから持ってきたのだろうか。学校にあるものだと信じたいが、校内であの形のダンベルを見たことがない。
・・・まさかわざわざ持ってきたのだろうか。
「・・・すみません、そろそろ気づいてください」
「わぁぁぁ!?」
一方誰にも気づいてもらえなかった千景がようやく補足された。一応最初の点呼時にはちゃんと確認した。しかし準備が始まった際には皆自分の作業に集中し、加えてこの騒動が起こったため、持ち前の存在感のなさとマッチして誰からも気づかれなくなっていた。
「ビックリした・・・そ、それでどうしたんヨ?」
「あの、ソースと麺を持ってきました」
「あっ・・・」
どうやら赤城の買い物は完全な無駄足となったらしい。もっと早く気づいていれば回避できただろう。とはいえこの人数でなおかつ運動部で練習終わり、足りなくなる可能性もあるので無駄ではないと思いたい。
「ふぃー、疲れたぁ。そうだ、誰かパソコン点けてくんねぇか?今日は青鉄ブルーズの試合なんだよ。ネット中継あるから繋いでくれ」
「はぁ?何言うとんねん。京坂トラーズの試合があるからそっち優先やろが」
「・・・キラーブレードって野菜切れんのかな?」
こっちはこっちで別の火種ができており、東条も何かやらかしそうだった。三日月はもう対応するのがめんどくさくなったので、考えるのをやめた。
「みんなーただいまー。ソースと麺買ってきた・・・ん?」
場所が遠いので少し時間がかかってしまった。こういう時に必殺技を使えば便利なのかもしれないと行と同じく呑気なことを考えながら帰ってきた赤城の目の前に広がっていた光景は・・・
「なんでもう一匹いるのかな!?」
「いえ一匹とは言ってませんし。ちなみにタコは死んでる場合は杯と数えるらしいですよ」
「そんなことどうでもいいからなんとかして!!こういう変な役回りは獅子神でしょうが!!」
「ちょっと煌!?」
「あのタコ、ようわかっとるなぁ。これはうちも参戦せなあかんか!」
やたら活きのいい二匹のタコに振り回される女子二人組とここぞとばかりに参戦しようとする支倉。
「アー、ハイ。スキニシテクダサイ」
「帝瑠、いいのか?あのままだと面倒なことになると思うんだが・・・」
「ウチ、モウカンガエタクナイ」
考えることを放棄し、もはや悟りを開きそうな勢いの三日月。
「トラーズは交流戦で無双しとったわ!!これからやろがい!!」
「初っぱなボッコボコにされてたじゃねぇか!!」
理由はわからないが、恐らく野球のことで喧嘩をしている淀屋と柳生。
「よし、次はベンチプレスじゃ!ぬぅおぉぉぉぉぉぉ!!」
「すげぇ!!これ結構硬いのも切れるぞ!!よっしゃア○キバーvsキラーブレードだ!!」
「・・・何があった!?」
そしてどこから持ち込まれたのか、そもそもどうやって部室内に入れたのかわからない謎のベンチプレス。技を使って無謀な勝負を挑もうとしている東条。変わり果てた部室内の光景に赤城は困惑するしかなかった。
「・・・よし、なんだか色々あったみたいだけど、気を取り直して始めよう」
「お、おー・・・」
あの惨状をなんとか解決し、疲れはてた状態でパーティーが始まる。まずはお好み焼きを作るためにボウルの中にある具材を混ぜ、生地を完成させる。
「これは・・・なるほど。どうやら焼けてきたようだね。いい香りがするよ」
「よっしゃ!できたやつからどんどん焼いてけ!」
「スペースはあるから遠慮したらアカンで!!」
生地を鉄板に乗せ、広がらないかつ小さくなりすぎないよう形を整えて待つ。いざ始まると疲れを忘れ、楽しく和やかに進んだ。
「・・・そろそろ見てみるか」
「おっ、もういけそうやな!」
合間合間に様子を見つつ、充分焼き上がったのを確認し、いよいよ裏返す時が来た。
「よーし、私もひっくり返すわよ!!」
少しミスをしてしまう人もいたが、順調に裏返す。そんな中で次は獅子神の番。なぜだかものすごく嫌な予感がした。
「・・・ねえ、お願いだからひっくり返すの失敗して惨事になるなんて古典的なことしないでよ?キミ結構不器用なんだから気をつけて━━━━」
「もー!私がそんなことするわけギャアァァァ!?」
「言わんこっちゃない・・・!って私のとこに乗っかったんだけど!?」
「あいつが一番不器用やな」
「・・・よし、お好み焼きは俺のキラーブレードで切るか」
「大事な試合前に余計なことしなくていいから!!」
星見のお好み焼きが二段重ねになる、東条が今度はお好み焼きを切ろうとするなどプチトラブルが発生したものの、この後無事に焼き上げて事なきを得て無事に調理は終了した。
「それじゃあいただきます!」
他にも料理はあるがまずはみんなでお好み焼きを食べる。ソースとマヨネーズ、青のりにかつおぶしをお好みでかけて食べ進める。
「おおっ、美味いじゃねぇか!」
「思ってたよりしっかりとできてるっす!」
中までしっかり焼けており、肉と野菜の旨味、そしてふんわりした生地が良い食感を生み出し箸が止まらない。
「華ちゃんすごい食べるね・・・」
「だって美味しいもーん」
「・・・こういうのも悪くない」
「おっ、たこ焼きも良い感じに仕上がってるな!」
「みんなお好み焼き食べ終わったら避けてや。焼きそばも作るから場所開けてー」
お好み焼き以外の料理もみんなで協力して作り、持ってきたものは全部調理して平らげた。非常に満足のいく決起集会となった。
「・・・楽しい時間だった。ありがとう」
「いやー、ええ休息やったな!ほな明日頼むで!」
「ああ、お疲れさま!それじゃあ明日、遅れないようにな!」
「二人とも、明日の試合は・・・」
「まっかせなさいって!」
「明日はワタシ達の力を見せることにしよう」
「あれは麻宮と獅子神・・・で、佐原先輩か。あの三人だと佐原先輩・・・いや、麻宮もほどほどにはあるな。獅子神は・・・ないな!」
しっかり後片付けも終え、いつものように雑談をしながら明日の試合に備えて帰宅する。準決勝というのに緊張感がないが、それがこのチームのいいところなのかもしれない。
深夜一時。街の明かりはもうほとんど点いていない。恐らくほとんどの人は寝ている頃だろう。城翔中学サッカー部員も明日の試合に向けてこの日はいつもより早く就寝していた。
「・・・双輝中学・・・かぁ」
そんな中、赤城だけはまだ寝ていなかった。いや、正確には眠れないというのが正しいだろう。
大阪府大会の一回戦で戦うことになった相手。あの時は経験も実力も不足しており、正直負けても仕方ないと思いながら戦っていた。
しかしそれは負けても次があったから。言ってしまえば逃げることができた。今回は負けたら本当におしまい。三年生は引退してしまう。何も言い訳はできない。
「負けてもいいって、そんなわけないよな・・・」
結果として負けた試合はあってもいいが、最初から負けて良い試合なんてないだろう。負けても仕方ないというのは現実から逃げるための言い訳に過ぎない。全力で挑み、勝つか負けるかだ。
チームメイトは優しい。たとえ負けたとしても責めることはしないだろう。それが余計に心苦しい。本来周りを励まさなくてはならない人間が一番怖がっており、チームメイトはそれを知らずに優しくしてくれている。
「・・・・・・」
こちらの実力は以前よりも遥かに高い。ブランクのある経験者と素人に毛が生えたレベルのメンバーばかり。それでも努力して比べ物にならないぐらい上達した。これなら勝てると自信がついた。
だが、ここにきて本当に差は埋められたのだろうと不安になってきた。相手だってこの期間のんびり過ごしていたわけではない。努力したのは相手も同じ。
本当に追いつけたのか、練習は足りていたのか、わからないことだらけ。だが、少なくとも自分はキャプテンとして未熟だということ。それは自分でもよくわかっているつもりだ。本当ならどうにかしたいところだが、どうすればいいのかもわからない。
「双輝中学・・・強かったよなぁ・・・」
改めて以前の試合内容を思い返す。思い返すと酷い内容だった。時間が経っていなかった、ということを考慮しても酷い。それでも意外となんとかなるのではないかと現実を甘く見ていた。
その結果半ばヤケクソで打ったハイバウンドフレイムの一点が唯一の得点。ヤケクソで偶然成功した技が唯一だった。加えて今回は対策をしているだろう。
ならばどうやって点を取ればいい?点を取らなければ勝つことはできない。残念ながら、頭の悪い自分では思いつかない。また皆に任せてしまう。皆に頼ってしまう。
「・・・頑張らないと」
それならプレーでカバーするしかない。たしかに以前は酷いものだったが、今は違う。自分も皆もあの時よりも遥かに成長した。成長したのだから、その力で戦えばきっと・・・
「・・・・・・」
これ以上考えても自分を追い込むだけだ。一度不安になると払拭できない、もっと早く気づければ良かった自分の悪いところ。いったん心を落ち着ける。
とにかくここまで来たからにはまずは地区大会優勝を狙う。そして全国大会に出場し、優勝を目指す。自分達の力を信じるしかない。
みんなと一緒ならきっとできる。頼れる仲間達と一緒なら、きっと・・・
「勝てる、よな」
ようやく眠りにつき身体を休める。不安な心は残ったままだが、身体は回復した。かつての敗北にけりをつける。準決勝の朝、双輝中学とのリベンジマッチの時が訪れた。
次回から準決勝、因縁の相手である双輝中学との試合です。一度は手も足も出ず敗北した相手にリベンジするイナイレ定番の展開。最低でも三話にはなるのでいつもより長めになりますがご了承ください
それではまた次回まで、さようなら~