天気は雲一つない晴天。夏の暑い日差しが容赦なく照りつける。観客は手で扇いだり、ハンドファンを使ったりと様々な方法で暑さを凌いでいる。
対してグラウンドの選手達は暑さに負けず最後の調整を入念に行っている。特に城翔中学の選手達はいつも以上に気合いが入っていた。
「いよいよだな・・・」
「リベンジの時、というわけだね」
ここまで順風満帆というわけではなかった。特に今日の相手、双輝中学との初めての試合では圧倒的強さで現実というものを思い知らされた。数日で集めたメンバーと数ヵ月の練習。それだけで勝てるほど今の中学サッカー界は甘くない。
本当の強さに圧倒された。だが、誰一人諦めずに努力し続けた。壁にぶつかり、悩み、苦悩した。それらを乗り越え、遂に準決勝という高みへたどり着き、リベンジする時が来たのだ。
「・・・今回は勝ちます」
「あったりまえよ!!今回は勝つわ!!」
準決勝ともなると盛り上がりが違う。これまで応援する人は少数だったが、今回は多くの人が駆けつけてくれている。応援してくれる人のためにも負けられない戦いだ。
「おっ、久しぶり!府大会以来だな!」
と、そこへ双輝中学のメンバーが試合前の挨拶にやってくる。顔ぶれに変わりはない。打ち負かされた時と全く変わっていなかった。
「おおっと、府大会の俺達だと思ってんじゃねぇぞ!」
「いや誰?前いなかったよな?」
「・・・僕らは強くなりました。以前のようにはいきません」
「当然だ。準決勝に相応しい試合をするぞ」
「まっ、せいぜい俺達を楽しませて・・・そこのマダネキ!!これから戦う相手とバグすんな!!そっちも受け入れるな!!」
「お嬢さん、次は俺とハグしませんか?」
「コラァ!!そこの東条!!」
「ヒデブッ!?」
相変わらずというか、準決勝前の雰囲気ではない。そこが彼らのいいところなのかもしれないが。
「えっと・・・お互い、頑張りましょう」
「あ、ああ・・・よし、今日の試合楽しみにしてるからな!!」
これだけ仲良くしていても、試合が始まれば強大な敵となる。気持ちを切り替えて戦う覚悟を決める。今ある力を全てぶつけ、勝利をもぎ取るのは━━━━━
「臆したらダメだぞ!大丈夫!みんなならできら!勝って決勝に行こう!!」
「試合に勝利して荒央にリベンジだ!!全国まで突っ走るぞ!!」
両チームに負けられない試合。それぞれのキャプテンがチームを奮い立たせ、気合いを充電し、フォーメーションについた。
城翔中学フォーメーション
━━━三日月━━━星見━━━
━獅子神━━━━━━━佐原━
━━━赤城━━━━華咲━━━
━淀屋━━━━━━━━柳生━
━━━支倉━━━━黒鉄━━━
━━━━━━東条━━━━━━
双輝中学フォーメーション
━都丸真━━千刃━━飛野━━
━━━鏡原━━━━天城━━━
━━━━━━菠羽━━━━━━
━近藤━━━━━━━━桜葉━
━━━リオン━━まのん━━━
━━━━━━黒桐━━━━━━
「キャプテン、ホンマにこいつ出してええんか?」
城翔中学は前半から新入りの柳生を入れている。現状チームの一番の不安要素ではあるため入れることに不満が出るのは仕方がない。とはいえ決勝戦、先の全国のことを考えると今出さないというわけにもいかない。
何せここから先は総力戦になる。少し経験を積ませておかないと後々泣きを見るかもしれない。そうならないためにもここで出すしかなかった。幸いにも本人は特に緊張していない。
「・・・大丈夫。最低限の動きはできるし、もしそれでもダメなら早い段階で交代しよう」
「それにシュートされても俺が止めてやるよ!関心って!」
東条の心強い発言を受け、双輝中学のボールで試合開始。合図と共に相手は不敵な笑みを浮かべ、すぐに仕掛けてくる。
「イーグルグライド!!」
「ちょっといきなり!?」
開幕直後の一発、周りの反応が遅れる。が、距離が距離、さすがにDFは対応できる。しかし今回はあえてブロックせずに通した。
「おもしれぇ!キラーブレード!」
誰にも頼らず真正面から来たボールを切り裂く。シュートブロックすらせずに止めてみせる。
「はぁー、さすがにナメすぎやで。まっ、タダでボール貰えたし儲けたわ!」
「そうこないとな」
まずは挨拶代わりの一発を止め、城翔中学の攻撃が始まる。
「支倉先輩!」
「あいよ、お次は一華ちゃん!」
「ああ、では私はキャプテンに任せようか」
相手が来ないうちに小刻みパスを繋ぎ、赤城がボールを持つ。後は守りを突破し、シュートを打ちにいくだけだ。
「ふーん、キーパーだけってわけじゃないんだね」
「そうだね~。ちゃんと努力したのが目に見えるよ、みんなえらい!」
「敵を褒めてどうするの・・・まあいいや。ワックスフロア!」
前回の試合では対策のしようがなかった技。技の発動、飛翔スピード、着時の隙などヒートウィングの弱点を突かれ相手のペースに呑まれてしまった。
だが今回は違う。あれから努力し、初動から終わりまで隙のない技を覚えた。たとえどんな技であろうと、使われる前に抜き去ってしまえば怖くなどない。
「ブレイズファルコン!!!」
空から飛来した燃える隼を自身に憑依させると、自身の背から炎を纏った翼が生える。翼を広げ、低空飛行で空を駆け抜け、地面を滑りやすくされる前に抜き去る。
「なに!?」
「よし、これならいける!!」
以前はまったく歯が立たなかったため不安も残っていたが、今の自分は双輝中学相手でも通用する。そして仲間の成長にも着いていける。
「ムムッ!リオちゃんが突破された!これはお姉ちゃんが頑張るとき!!」
その様子を見ていた椈月まのんが今度は相手となる。だが、彼女が個人で使える技はリオンと同じワックスフロアしかない。
「ワックス━━━━」
「まだまだ!ブレイズファルコン!!!」
すぐにモップを取り出すが、赤城の技の方が出が早い。着地点に仕掛けている時間はない。先程同様これなら突破できる。
しかし、抜けているところもあるとはいえ彼女も強豪校でレギュラーとして抜擢されている。こういう時にただやられるだけの選手ではない。
「とぉーう!!」
モップがけするのは無理だと直感で理解した彼女は咄嗟にモップの持ち方を変え、バットを振るかのようにスイングしてきた。
「えっ!?」
かなり危険なプレーだ。もし身体に当たりでもしたら怪我しかねない。とはいえそこは強豪校、急な策でもボールだけを正確に狙い、見事に打ち返した。
さらに持ち前のパワーも相まって良い感じにライナー性の辺りが飛んでいく。もはや種目は違うが、それでも完璧なカウンターになったのは事実である。
「ナイスバッティング!」
「えへへ~、せんぱ~いナイスゥ~!」
この特大ホームランでチャンスから一転、一気に追い込まれる。
「今の打球・・・京阪タイガースに欲しい逸材や!!」
「いーや、うちのバファローズに来てもらう!!」
「・・・そんなこと言ってる場合じゃないと思うぞ」
荒業のカウンターが見事に繋がり、ボールを持った千刃が菠羽とのワンツーパスで守りを突破、そのまま一対一に持ち込む。
「ヴァイススラッシュ!!」
前回何度もゴールを決められた技。守っても無駄、ただ決められるだけ。言い方を悪くするとサンドバッグのようだった。
「クロスブレーダー!!」
だがもう過去の話。相手の方が強く、その時よりも成長していようが関係ない。自分達がそれ以上に成長すればいいだけの話だ。
「へへっ、勝つのは・・・俺達だ!!」
勝って決勝、その先へと羽ばたくのは自分達。ここまでの努力と思いを乗せてボールを蹴り出した。
まだ試合が始まって数分ではあるものの、ギリギリの攻防戦に序盤ながら会場は盛り上がる。そんな中、千刃と天城は城翔中学の成長具合を身をもって感じていた。
「なるほど、かなり鍛えてきたようだな」
「そうだな!でも、それは俺達も同じだろ?じゃあ負けるなんてないよな?」
「当たり前だ。負けるつもりは毛頭ない」
ボールをすぐに奪い返し、今度は天城が仕掛ける。弓を引くように足を後ろに下げ、力を溜めた後に狙い済ませた場所に勢いよくシュートを打つ。
「スティングアロー!!」
この技は溜めればある程度パワーは上がるが、溜めてる間は隙だらけのためフルパワーでは使いにくい。実際今回もフルパワーではない。
しかし、一人で勝ちにいく必要はないことを双輝中学はわかっている。
「さっすがキャプテン!わかってんねぇ!イェニチェリバスター!!」
前回の試合でも使ってきた技だが、威力は前よりも上がっている。加えて今回もシュートチェイン、見事な連携で仕掛ける。
「・・・ザ・ウォール!!」
「まだまだや!メガトンヘッド!!」
「うちもいくで!コールドカッター!!」
対して城翔中学、相手にシュートチェインされたのなら、それ以上にシュートブロックすればいいと言わんばかりに仲間と協力し、威力を下げてシュートを止める。
「よーし、みんなナイスブロックやで!」
「おいおい、俺にも仕事くれよ!」
「キーパーの仕事はない方がええんやで!」
東条の軽口に返し、ボールを確保した支倉が前にパスを出す。
「甘いですよ!シャイニングカット!」
「ありゃ!?」
そこへ鏡原が割り込む。光の壁を作りだし、強引にパスを遮断。そのままボールを自分のものにした。
「ワイらが守ったボールがぁ!!おいコラ返さんかい!!」
「それも無駄です!」
淀屋がスライディングで強襲すると同時に空高くに鏡が出現。それに向かってボールと共に飛び上がり、淀屋をかわしつつその勢いで鏡を突き破る。そしてボールを挟み込み、捻るようにして打ち出す。
「フラグメントスピアー!!」
ボールは回転し、その勢いで散らばった鏡の破片が集まりきらびやかな槍となる。このチャンスを逃すまいと一気シュートまで持っていった。
「っと、言ってるそばから仕事が来たな!クロスブレーダー!!!」
過去の東条なら止められなかっただろう。それでも今は違う。光輝く槍を両腕の鉈で切り裂き相殺する。
「おっしゃあ!!今度こそこっちの番だ!!決めてこいよぉ!!」
助走をつけて今度はボールをぶん投げる。これなら万が一相手に取られても猶予がある。
「まったく、普段からああだったらモテるだろうに」
「おいおいよそ見厳禁だぜ!!」
「そんなことわかってるよ。ムーンサルトアロー!!」
ムーンサルトで相手の守りを避けつつ、最高点に達したところでそのままスターアローに派生する。しかし高さはスターアローを打つよりも低く、体勢も悪いため本来の威力は出ない。
「ブラックチェーン!!」
黒い鎖がボールに絡みつき、ボールの勢いを止めた。それでも以前戦った際に受けた相手のシュートよりも威力が高いように感じる。
「なるほど、たしかに前よりも強い・・・」
こちらの守りを突破し、奇策で翻弄し、技の精度も上がっている。以前よりも格段に動きが良くなっている。あまりうかうかしてはいられないだろう。
「これがサッカーの試合・・・スゲェな!!心が滾ってきやがった!!俺も活躍してぇな・・・!!」
一方柳生は初めての全力の試合に熱くなっていた。まだまだ素人。知識も力もなく、本人は野球派。それでも試合の熱さに魅力されていた。
「・・・っ!そこっ!」
なかなか隙を見せない双輝中学の守り。奇策やカウンターで揺すってもなかなか動かず、一見綻びは存在しないようにも思える。
しかしどんな相手にも隙はある。冷静に見極め、チャンスを逃さずパスを通す。
「よーし!任せるんヨ!」
ゴール前までたどり着いた三日月。数少ない攻撃のチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「バウンドフレイム!!」
「来たか・・・」
彼女が打ってくることは予想していた。以前の試合、唯一の失点はこのシュートに一手間加えた技。それだけ応用がしやすい技なのだ。今回もこの技を機転に何かしてくるのではないかと予想していた。
そんな黒桐の予想通り、ボールは前に進まず後ろに戻る。そう、三日月はシュートする際に逆回転をかけたことにより、進行方向が逆転したのだ。
「マッハウィンド!!」
後ろに進んだことで背後にいた佐原が技を繋げ、シュートタイミングをずらす。たしかに厄介だが、このやり方では威力はかない落ちる。
具体的にどういう行動を取ってくるのかはわからなかったが、予め何かをしてくるということだけでも把握しておけばある程度は対応はできる。
「・・・フッ!」
不発になる技を途中で止め、素早くパンチングに切り替える。強烈な一撃で上手くボールを弾くことに成功した。
「ふむ、いい作戦だと思ったのだけどね」
実際悪い作戦ではなかった。これまでの相手なら上手く決まっていただろう。
「悪くはないけど、あと一歩届かなかった━━━━」
「俺の力ぁ!!見せてやるよ!!」
「なっ!?」
「ええっ!?」
会話に割り込む形で上がってきていた柳生が弾かれたボールを奪い取る。味方も想定していなかったのか、驚きの声をあげている。
「くらえっ!!俺の必殺技!!バイソンホーン!!」
ボールを高く打ち上げ、腕を角に見立てて暴れる牛のごとく爆走する柳生。落ちてきたボールに頭突きする瞬間に腕を避け、勢いの乗ったヘディングを決める。
「お前いつ覚えたんや!?」
そう、まだ城翔中学の攻撃は終わっていなかったのだ。ディフェンスラインから上がってきた柳生がさらに追撃、奇襲に奇襲をかけた策で強引に突破しにかかる。もっともこれは奇襲というより柳生独断の行動ではあるが。
「チッ!!」
さすがにこれには対応できず、なんとか両手で抑え込もうとするも止めきれない。DFである柳生のシュートが最初にゴールネットを揺らした。
『ゴォォォル!!!因縁の対決となった準決勝、先制点を決めたのは城翔中学だぁぁぁぁぁ!!!』
会場が歓声に包まれる。かつて手も足も出ず、辛うじて一点を取るのが精一杯だった城翔中学。そんなチームが、先に得点を決めたのだ。
「おっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なんやねん!やるやないか!」
勝手な行動だが、結果がすべて。決めてきた以上これには淀屋も認めざるを得ない。最もそれはそれもひて無断で走っていったのは後で反省させなければいかんな、と支倉は冷静に見ていたが。
「一点・・・って、うちのとこが?」
「おい、見たか。先に決めやがったぞ・・・?」
「記念がてらで来たけど、こりゃもしかするかもしれないぞ!?」
「いいぞ城翔!そのまま勝っちまえ!!」
得点を決めた柳生が雄叫びをあげ、それに呼応するように応援も盛り上がる。スコアボードには待望の1の文字が刻まれる。
前の試合では試合終了直前でなんとか決めた一点。それに対し、今回は先制という形になった。同じ一点といっても得られたものが違った。
その一方で、一人だけ表情が曇っていた。
「(一点は入った・・・入ったけど・・・)」
赤城は一点が入ったことに安堵したものの、同時に自分の技が通用しなかったことにショックを受けていた。
みんなの役に立ちたいと思っているのに、また足を引っ張ってしまった。それもチームのキャプテンなのに、だ。
「キャプテン見たか!俺の勇姿をよぉ!!」
「!あ、ああ・・・もちろん・・・さすが柳生だな」
「だろ?俺よぉ、FWの方が向いてんじゃねぇかな?前に立ってバンバン点を取りたいって気持ちがあんだよ」
「そう、だな・・・試合が終わったらまた考えようか・・・」
「おうよ!任せときな!!まあこんなに走ったことないから疲れちまったけどよ!!」
柳生が声をかけてきたことで現実に戻り、強引に気持ちを切り替える。そう、今日の深夜に反省したばかり。こういうところがいけないのだ。
「・・・この試合、勝つぞ!!」
まだ試合は始まったばかり。自分が暗くなることで、みんなを不安にさせてはいけない。まずは自分がしっかりしなければならない。
「・・・何を今さら、そんなの当たり前だ」
「今の勢いで頑張るんヨ!」
「よし!みんな、気合い入れていくぞ!!」
その言葉は誰でもない自分に向けた言葉。自分を落ち着けるために、大きな声で自分自身を鼓舞し、試合が再開する。
準決勝は三話予定だから上手くいけば年内でキリよく準決勝終えて、年明けから決勝準備いけるが・・・どうなるかな?