部活動、委員会、趣味などやりたいことは色々あるだろうが、学生の本分は勉強だ。それをおろそかにしてはならない。
「やばい、教科書忘れた」
・・・このように教科書を忘れるなど、本来はもってのほかである。
「ごめん、教科書忘れたから見せてくれたりしない・・・?」
「ああ、これでいいか?」
「ありがとー!助かった!」
まあどれだけ反省しようと、忘れた教科書が飛んでくるわけではない。すぐに切り替え、隣の席の麻宮に見せてもらう。
「━━━えー、であるからして、秒速50メートルで走るAさんがBさんに追い付く時間は・・・」
「・・・あの、なんで怪我したの?言いたくないかもしれないけど、どうしても気になって・・・」
授業が始まって間もなく、教師の講義を無視して麻宮に質問する。バレたら確実に怒られるが、彼はそんなことで止まらないだろう。良い子はマネしないように。
「・・・そうだな。部活で少しトラブルがあったんだ」
授業中なので答えるのもどうかと思ったが、無視するのも悪いと思い答える。麻宮は悪くない。全ての責任は赤城にある。
「そっか。でもあれだけ足が速いってことは一年から活躍してたんだろうなぁ?すごいよなぁ・・・」
「・・・赤城はサッカー部に所属しているんだな」
羨望の眼差しを向けていると、今度は麻宮の方から質問してきた。しかもサッカーの話ときた。彼が反応しないはずがない。
「おおっ!もしかして興味が出てきた!?」
「赤城!!うるさいぞ!!」
「す、すいません!」
バカみたいにデカい声を発したことで、案の定怒られる。ちなみに麻宮はセーフだった。これは恐らく日頃の行いの差だろう。
「・・・それで、何か聞きたいことはあったりする?サッカーの事ならなんでも聞いてくれ」
そして怒られてなお、懲りることなく話を続ける。こんな事だから彼だけ怒られたのだ。
これは贔屓ではない。当然の報いである。
「そうだな・・・聞き流してくれても構わないが、もし自分のせいで試合に負けてしまったとしたらどうする?」
ルールや魅力などではなく、いきなり暗い質問をしてきた。自分のせいでということは、もしかすると麻宮はチームで行う部活に入っていたのだろうか?
その辺りのことはよくわからないが、何はともあれ質問に答える。
「うーん・・・次はそうならないように特訓するかな?」
実際にそうなった経験がないためなんともいえないが、多分そうするんじゃないだろうか?自分のせいで負けてしまうなど考えたくもないが、万が一そうなったらこうする他ない。
「なら、その特訓で怪我をしてしまって、以前のように動けなくなったとしよう。それでも諦めないで続けられるか?」
「今度は怪我かぁ・・・」
負けた相手に勝とうとして練習をし、その最中に怪我をしてしまったとしたら、当然しばらくの間は練習できなくなる。
自分が怪我で練習できない間にも、相手はさらに強くなり、さらに差ができる。
必死にリハビリをして復帰したとしても、その頃には埋めようのない差ができてしまっているだろう。
いや、それならまだマシだ。以前のようにプレーできるかどうかも怪しいのだ。普通の人間なら、復帰を諦め別の道を探し始めるかもしれない。
「・・・わからないけど、俺は続けると思う」
まだ自分は怪我をしたことがないので、実際にそうなったらどうなるかわからない。それでも多分続けるのではないかと答えた。
「なぜ、そう言いきれる?」
「・・・実はさ、俺って頭悪いんだ」
それは知ってる。今までの行動を見て、少なくとも賢い子ではないという事は把握している。それはこのクラス全員が周知している事実だろう。
「頭悪いからなのか考えるの苦手でさ、楽しいからって理由でやってみることにしてるんだ。どうせ前に進むことしか知らないし、楽しいならやり続けるかな?」
バカが故に思考が単純でいられる。難しいことを考えずに、ただひたすら前を向いて突き進むことしか知らない。
それが時に、人を幸せに導くことがある。
「・・・そう、か。すまない。変なことを聞いて・・・」
・・・なぜだろうか。一瞬だけだったが、悲しげに見えた。やはり過去に何かあったのだろうか?
「えっと・・・何かあったら誰でもいいから相談した方がいいよ?自分だけじゃどうしようもないことでも、力を合わせれば意外とどうにかなるもんだし」
バカな赤城でも、彼女が明らかに何か抱え込んでいるのはわかる。・・・どうにも心配になる。
自分には何もできないが、何かあれば誰でもいいから相談した方がいいとアドバイスしてみる。自分はやったことないし、似たような状況になったらできるかわからないが。
・・・なんとも無責任なことである。
「よーし、赤城。次にこの問題当てるから考えておけよ」
「はい!わかりました!」
今度は話しているのがバレていなかったのか、教師は特に叱ることもなく赤城を指名した。ほっと息を吐きながら、教科書の問題を確認する。
「・・・ん?」
・・・明らかに困惑している。しばらくアゴに手を当て、ため息を吐いたかと思うと麻宮の方に向き直る。
「なあ、これってどうしたらいいのかな?」
問題を確認するやいなや、無理だと判断したのか麻宮に頼る。この間僅か九秒。恐るべきスピードである。
「少しは自分で考えてみたらどうだ?」
あまりにも早すぎる諦めに、もはや呆れている。
「・・・自分だけじゃどうしようもないことでも力を合わせりゃなんとかなる。それを証明するために俺はあえてわからないフリをしてるんだけだ!・・・決して問題が解けないわけじゃないぞ・・・?」
・・・こんなにもわかりやすい嘘を見ることはめったにない。確実にテストの日に泣く事になるだろうが、質問に答えてくれたお礼として、今回はちゃんと教えてあげるのだった。
「・・・実際になったらどうなるんだろうなぁ」
もし本当にそんな自体に直面したらどうなるのか?赤城はバカゆえまったく想像できず、まあサッカーは楽しいしやってるかなぁ・・・ぐらいにしか思っていなかった。
「よーし、ワイの鉄壁守備を見せたるわ!」
「うんうん、最初に比べたら随分とよくなったなぁ。その調子で頑張るんやで!」
「佐原先輩、調子はどうですか?」
「ふむ、ボールを上手くコントロールできるようになってきたよ。これならもう少しスピードを上げてドリブルしてもいいかもしれない」
練習を始めてかれこれ1週間。まだ見違えるとまではいかないものの、最初に比べると技術は格段に上達している。
「だいぶ反応できるようになってきたから、そろそろ必殺技の練習もやってみるんヨ」
「ひ、必殺技!?めちゃくちゃカッコいいじゃん!!それってどうやったらできるんだ?」
「えっとね、まずは・・・」
「おおっ!ワイもやりたいで!支倉先輩、ワイにも教えてくれ!」
というわけだ、この日からは必殺技の練習もさせてみることにした。初心者はその言葉の響きに感動したのか、すぐにやりたいと申し出る。
「はははっ、やっぱ必殺技はいいよな・・・ん?あれは・・・」
「・・・・・・」
テンションの上がった数人を見て、自分も昔はそうだったなと笑っていると、どこかで見たことある少女がいることに気がついた。
「なあ、たしか前にも会ったよな?どうかしたのか?」
近づいてみて、ようやく思い出した。前に勧誘活動をしていた時に出会った少女だ。どうにも興味がなかったらしく、その時は話を聞いてくれることもなくすぐに立ち去ってしまった。
「ヘタですね」
「・・・えっ?」
・・・聞き間違いだろうか?口を開くなりバカにされた気がする。自分の聞き間違いだろうかと困惑する赤城を差し置いて少女は話を続ける。
「何人かは良い動きをしてますけど、フットボールフロンティアの本選に出場するなんて無謀じゃないですか?正直このレベルで優勝を目指すなんて、はっきり言ってバカバカしい」
「ちょっ!?そんな言い方ないだろ!?」
たしかにヘタなことを指摘されても仕方のないレベルではある。まだまだ身体ができておらず、ルールも完全に把握しているわけではない。実際周りからは無理だろうと言われたことは何回もあったし、赤城自身も本当に優勝できると思っているかと言われれば答えに詰まる。
かといって、面と向かってバカにされてはこちらも黙っているわけにはいかない。すぐにでも言い返そうとしたのだが・・・それよりも早く、少女が口を開いた。
「・・・それなのに、なぜ諦めないんですか?」
先程のようにバカにしている様子はなく、今度はただ知りたいという純粋な思いが伝わってくる。ちょっと引っかかりはしたものの、その質問に答える。
「・・・まあ、サッカーをしてるのは楽しいからだけど・・・どうせやるなら優勝を目指したいよ。明らかに無謀だろうけど、着いてきてくれる仲間もいるし、簡単には諦められない」
どれだけ遠かったとしても、明らかに無謀だったとしても、ようやくここまで辿り着いた。着いてきてくれるという仲間がいてくれるのだ。
ならばとにかくやる、無理かもしれなくてもやる。どうせそうすることしかできないのだ。想像力がある人間なら無理だと諦めるだろうが、彼にはそれがない。そのため実際にやってみるしかないのだ。
「・・・いいですね。それ」
ずっと冷たい無表情を崩していなかった少女だが、赤城の話を聞いた途端、ほんの少しだけ笑みを浮かべたように見えた。
「届かないものに手を伸ばす。憧れるだけのものを奪い取る・・・それって、夢があると思うんですよね」
唖然とする赤城を差し置き、青空を見上げ、まるで歌うように言葉を紡いでいく。
「最初から優秀な選手を集め、充実した環境を用意し、練習してきたチーム
かたや素人ばかりで、環境も整っていない状態で練習してきたチーム
どちらが優勝に近いかと問えば、間違いなく前者を選ぶでしょうが━━━━
━━━━
自身の真上に手を伸ばし、何かを掴み取るかのようにギュッと手を握る。そして、赤城の方に顔を向き直した。
「ひねくれ者でもいいのであれば、私もその無謀な夢に挑戦させてもらえると嬉しい」
最初は話についていけずポカンとしていたが、やがて彼の顔からは笑みがこぼれた。
「・・・断るわけがない!一緒に優勝を掴み取ろう!」
「ありがとうございます。私は星見煌、よろしく頼みますよ?」
サッカー部のなかった中学校が、フットボールフロンティア優勝という無謀な夢を追いかける。それに挑戦する者がまた一人増えたのだった。
あと二、三話で全員揃うかな?というかそれぐらいで揃えないといい加減話が進まないということに気がついた。なんとかして揃えよう。
とりあえずこの作品の更新はこれが年内ラストです。次話は来年になりますので、挨拶だけ済ませておきます。
それでは皆さんよいお年を!クリスマス?そっちは滅びろ(過激派)