カツ。カツ。カツ・・・・軽やかで規則的な軍靴の音が、暗い洞窟の中に響き渡る。そこは日本に深海棲艦・・・人類の敵が現れてから、自衛隊がかの存在と交戦した時に偶然発見された洞窟であり、そこに奇跡的にほぼ無傷の状態で遺されていた文献にはこうあった。
『その男。大海原を歩き、現れし魑魅魍魎を斬りにけり。その男。獣の如き咆哮で海を鎮めん。その男。幾度の刀を受けて不死。その男。魍魎の血に酔いて此処に封印せり。その男の名は楼牙(ろうが)。決して起こすことなかれ』
およそ大正時代の地層から発見された文章にしては古めかしい文法であり、不自然なタイミングで出現するなど、怪しい部分はいくつもあるが、もしこの文献が本当であるならば、艦娘・・・深海棲艦と戦う者達と同等、若しくはそれ以上の戦果をあげるだろう。少なくとも、高嶺(たかみね) 幸彦(ゆきひこ)はそう考えていた。
「調子はどうだ?」
幸彦は部下の工作員に話しかける。
「ハッ!あと30秒ほどで発掘が終わるかと!」
「よろしい」
幸彦は笑みを浮かべる。どんな怪物が現れるのかと期待して。既に岩壁の大部分はドリルで掘削され、文献に示されている箇所に到達している。
「少佐!発掘、完了致しm・・・」
工作員は何かを言おうとし、固まる。
「・・・すばらしい。すばらしい発見だ!」
幸彦は驚嘆する。目の前の化け物を目にして。
「・・・な゛ンだ。おまエ゛ら」
化け物は伸びきった白髪を揺らし、獣の声帯で無理矢理人の言葉を話しているかのような声で、今抱いた率直な疑問を発する。
「ああ。初めまして。楼牙君。君は今から・・・そうだな・・・」
幸彦はその常人には理解できない思考で、目覚めたばかりの化け物に何の階級を与えようか考え始める。もし文献に書いてあることが事実なら大隊を率いることの出来る大尉クラスだろうが、生憎彼は正常な判断が出来ない。何故なら彼もまた、敵を殺すことに酔った殺人鬼であるからだ。
「どうしようか・・・そうだ!君、紙とペンはあるか?」
「は、はぁ。ありますが」
「貸してくれ」
「はい」
何かを思いついた幸彦は、部下の一人に紙とペンを渡されると、そこに何かを書き、化け物に見せる。盲目かもしれないだなんて発想は勿論ない。
「さぁ!君に似合いそうな階級を書いた!好きなものを選ぶがいい!」
「「「はあ!?」」」
発掘道具を片付けていた部下達が一斉に声をあげる。目覚めたばかりの、人間かどうかもわからない存在にそんなことをするとは、いくらなんでも思っていなかったためだ。
「少佐!いくらなんでm」
「黙れ!これは彼が自らの運命を決める歴史的瞬間だ!誰であろうと邪魔は許さん!」
最早、狂人である。部下達はそう考えていた。場合によっては射殺も国から許されているが、こんな気色悪い男を殺したとしても、また生き返りそうで怖い。そう部下達は考えていた。
「・・・」
そんな中、かの化け物・・・楼牙は紙に書かれた字を見つめ、読んでいく。
「たイイ。ショうさ。ちゅうイ・・・」
やがて、彼は一つの字に目を惹きつけられる。
「てイとク」
「ん?提督?」
「・・・こレゞだ。ていトク」
そう言って楼牙は指を指す。
「いいだろう!ではよろしく頼むぞ!楼牙提督!」
「あァ〝」
かくして、殺人鬼は提督になったとさ。
少佐が何故狂ってるかって?ホラ。HEL●SINGとかでもちょっとアレな少佐いるじゃないですか(偏見)