横須賀鎮守府医療室。謎の体調不良を引き起こしていた楼牙が横たわるベッドの隣で、裕翔と学者の一人は講義していた。
「・・・で、現在の彼はどういう状態なんですか?」
「そうですね・・・彼自体レアケース中のレアケースなので断言は出来ませんが、もう人間ではないでしょう」
学者から放たれた一言は、裕翔の疑念を確信に変える。
「まぁ、そうでしょうね。僕の武器のように深海棲艦に対して効果のある特殊品というわけでもない刀で奴らを切り倒し、その上あの身体能力ですから。薄々勘付いてはいましたよ。しかし、人間でないとすれば一体何なのですか?」
「正確にはわかりません。ですが・・・」
そう言うと学者は懐からタブレットを取り出し、軽く操作してから裕翔に見せる。
「ッ!?」
そこには、深海棲鑑のデータと楼牙のデータが映し出されていた。それはあまりにも似通っている点が多く、彼が深海棲艦であることを示していた。
「まさか、そんなはずは・・・」
「いえ、おそらく彼は元々深海棲艦というわけではないでしょう」
「・・・はい?」
「これを見てください」
学者はもう一度タブレットを操作し、ある資料を展開する。それは、轟沈した艦娘がゆっくりと深海棲艦に変わって海に沈んでゆく映像だった。
「・・・考えたくない話ですが、彼は艦娘だったと?」
「それもない話でしょう。これはあくまで私の予想に過ぎませんが、彼は元々人間であっても深海棲艦を倒せる特異な存在でした。しかし、ある日何らかの理由で暴走して人間にまで矛先を向けたので当時の人々がこれを封印した。そこから・・・発見された地層が百年前のものですから、おそらく百年もの間眠っている最中に、今まで倒していた深海棲鑑の血や破片が体内に浸透した結果、今の楼牙さんがあると思われます」
「では、例の無害な深海棲鑑に接触して倒れたのは?」
「これも私の憶測ですが、浸透した深海棲鑑の血や破片が共鳴を起こしたのでしょう」
それだけ言うと学者は楼牙を見る。
「何れにせよ、艦娘以外にも深海棲艦に効果的なダメージを与えることのできる“何か”を持っているのは事実。これを解明すれば、人類の勝利はほぼ確定するでしょう。貴方の持っている拳銃と同じように、ね」
「これですか?」
そう言うと裕翔は、自らのホルスターから拳銃を抜き取り、手に置く。黒く光るそれは、まるで黒曜石のような色をしていた。
「ええ。おそらくこれも、製作の工程で深海棲艦の物質が素材に浸透したのでしょう。どこで造られたんですか?」
「いえ、何の前触れもなく少佐に渡されたものですから」
そう言っている内に、裕翔は自分の上司である幸彦を思い出す。誰がどう見ても異常な思考回路を持ったあの男に、深海棲艦に効果があるという訳の分からない物を渡されたことを。
「これもあまり考えたくない話ですが、あの少佐は深海棲艦と繋がっているのでは?」
「現時点ではわかりません。只、可能性は十分にありますね」
「そうだな」
「「ええ!?」」
突然起き上がり、しれっと会話に参加してきた楼牙。声は元に戻っており、顔色も健康そのものだった。それを見た二人は、思わず顔を見合わせる。
「えー、まぁ・・・峠は越えたようですね(?)」
「ああ」
驚くべき回復力を誇る楼牙に再び驚愕した裕翔なのであった。