深海棲艦本拠地。日本の何処にあるとも知れないその場所で、数々の深海棲艦が電子機器を眺めて苦悩していた。そこに映し出されていたのは、白いボサボサの髪にボロボロの着物を纏った大男・・・楼牙が血に塗れて目についた同胞を全て斬り伏せていく姿だった。
「・・・コノヨウニ、特殊個体『楼牙』ハ化物ノ如キ強サヲ持ッテイル。見ツケタラ確実二殺サレルt」
『GRrrrRrrrrRRRRaAaAaAaaAaAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
「・・・確実二殺サレルト思エ」
映像と同時に流れた楼牙の咆哮に戦慄する深海棲艦達。その中でも、昨日の横須賀鎮守府殲滅作戦で唯一生き残った潜水棲姫は震えが止まらなくなっていた。無理もない。現在考えられる最強の深海棲艦であるレ級が画面に映し出された化物に2秒ともたず殺されたのだから。そして彼女は恐怖に耐え切れず、気絶した。
「潜水棲姫!?」
「スグ二ドックへ運べ!」
「モウダメダァオシマイダァ!」
一瞬にして恐慌状態となった本拠地。統率力や士気を大幅に失ったこの場所を見たら、レ級はどう思うだろうか。かつて彼女と共に戦っていた空母ヲ級はそう考えたが、すぐにその考えも喧騒に消えていった。
同時刻。横須賀鎮守府近郊の森にて、楼牙は刀の代わりに網を携え、疾走していた。
「何処だ・・・スズメバチめ」
そう。現在彼はスズメバチの駆除作業に追われていた。というのも、鎮守府内にスズメバチが2、3匹出没したためだ。いくら艦娘達が艦装などで強化されていたとしても、身体は普通の人間と変わりない。そもそも艦娘とは弾薬や鋼鉄、ボーキサイトなどの無機物を使って艦の魂を人として蘇らせたものであり、本質的には人と大差ないのだ。だからこそスズメバチに刺されたら死とまではいかないものの、相当苦しむことになる。というわけで、現在なんのダメージも負っていない楼牙への実験も兼ねて学者の一人がスズメバチの駆除を依頼したのだった。そして数十分探し回り、漸く巣を見つけた。そこにはブンブンと不快な音を立てて無数の黄色く、不気味な姿をしたスズメバチが飛び回っており、楼牙を見つけるや否や、一斉に飛びかかって刺そうとしてきた・・・が、パキンという音がしたかと思うと、毒針は全て折れていた。
「GRRAAa!!」
いつもより小さく、短い咆哮をあげた楼牙。彼がもう一度息を吸う頃には、スズメバチは全滅していた。
数分後、鎮守府に帰還した楼牙の手には住人のいなくなったスズメバチの巣が握られており、駆逐艦達に大喜びされたという。
注:この小説はフィクションです。実際の横須賀鎮守府の近郊に山があるかはわかりませんし、スズメバチがいるかどうかもわかりません。もしあったりいたりしたらそれは紛れもなく偶然です。