東京都国会議事堂。深海棲艦の大艦隊を壊滅させた功績が認められた楼牙と裕翔は、総理大臣から直々にここへ招かれていた。豪華絢爛な装飾が施された室内とは正反対の当の楼牙達は一切着飾ることなく、ボロボロの着物を着ていたり、軍服を着ていたりする。
「全く・・・こんな時に襲撃が来たらどうするつもりだって言う話なんですけどね」
既に裕翔の顔には不機嫌そうなシワが寄せられており、楼牙に至っては鬼のような形相をしていた。しかし、総理から指定された部屋の扉の前まで来た時点でそれは消え失せた。そして、裕翔が扉を軽くノックする。
「横須賀鎮守府所属、佐江島裕翔、楼牙、到着いたしました」
「入れ」
「失礼します」
その言葉と共に足を踏み入れた先に目に映ったのは、小太りの中年の姿だった。そこら中にニキビがあり、髪は既に失われている。彼が日本の総理大臣、八幡(やはた)邦和(くにかず)である。
「やあ。よく来てくれた。君達の活躍はかねがね伺っているよ」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「ああ、そう緊張せず、自然体でいてくれ。今回の話はそうでないと進まないからな」
そう言うと邦和は悪人のような笑みを浮かべ、二人を見た。楼牙はそこに何かを感じ取り、途端に敵意を剥き出しにする。
「で、オレ達に何の用だ?」
「おお怖い。いやなに、君達の鎮守府は大打撃を喰らったろう?もっと良い場所に配属してもらおうと思っただけさ。適材適所というやつだよ」
「断る」
即答だった。一切考えるまでもなく、楼牙は自分の数少ない守れたものに留まることに決めていたのだ。しかし邦和はそれを面白がるように身体を軽く震わせ、さらに不気味な笑みを浮かべた。
「深海棲艦は君がほぼ全滅まで追い込んだのだろう?なら襲撃の心配はないと言ってもいい。だから君は、もっと君を必要としてくれている場所へ向かうんだ。それが皆のためというものだ」
かつての幸彦を思わせるような口調に苛立ちつつも、今度は裕翔が話を挟む。
「待ってください。現在横須賀鎮守府は入渠ドッグが全壊して甚大な被害が出ているんですよ?いくらほぼ全滅したとは言え、完全に駆逐されたわけではない。それにあそこは過去に2度も普通ではあり得ない量の深海棲艦が観測されています。それを考慮するともしかすると、深海棲艦は無限に出てくる可能性もある。だから今、それを調べるためにも尚更離れるわけにはいきません」
その言葉を聞いた邦和は溜息をつくと、片手を上げた。すると、何処からともなく黒いスーツを纏った屈強な男が二人、楼牙達の頭に銃口を突きつけた。
「貴様・・・ふざけているのか?」
「ふざけてなどないさ。意見の食い違いなど誰にでもあるだろ?ただ今回は、都合が悪かったね」
「と、言いますと?」
邦和はニヤリと笑い、高らかに自らの計画を吐露し始めた。
「深海棲艦の脅威が小さくなった今、艦娘の研究が追いつかずに弱体化した諸外国を攻める絶好のチャンスは今しかない!それに艦娘の武装は強力だからなぁ・・・これからも兵器として、この国の為に働いてもらうことにする予定だったんだよ。まず手始めに横須賀鎮守府の艦娘を兵器として運用しようと思ったんだが、君達はどうにも邪魔でね。だから、消えてもらうよ。さようなら」
その言葉が放たれた瞬間、二つの銃声が同時に鳴り響いた。そして・・・屈強な男達が撃ち抜かれていた。
「やれやれ・・・ふざけんのも大概にしろよ?」
「grrrrrrrrrrrrr..........」
「バカな!?何故生きている!?」
先程までの勝ち誇ったような顔が、一瞬にして恐怖へと変わる。
「取り敢えず・・・僕らを怒らせたことを、地獄で後悔してるがいいですよ。クソ野郎」
「Grrrrrrrrooooooooooooooooaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」
かくして、艦娘達は兵器として運用されるのを免れ、裕翔はまた、横須賀鎮守府に戻った。だが、楼牙は違った。
「裕翔」
「なんです?」
平然と答える裕翔に、楼牙は一振りの刀を渡す。
「これは・・・大包平夜叉式?」
「餞別だ。受け取れ」
「餞別って・・・今度は何処に行く気なんです?」
「今回の件で、深海棲艦以外にも
「・・・ええ」
そう言うと裕翔と楼牙は、互いに敬礼し、別々の方向に去っていった。そして今日も、深海棲艦を殲滅していく音と、愚か者を粛清する音が何処かで共鳴するのだった。