楼牙は発掘されて真っ先に救急車に乗せられ、身体に無数の管を刺された。血を抜かれ、栄養剤を入れられ、その他訳の分からない物質を入れられたりしたが、本人には痛覚がないので何ら痛がる様子はない。
「オい。おまエ゛」
「は、はい?」
「なんダこれ?」
「こ、これは栄養剤です。貴方は長い間土に埋もれていましたから、その分栄養を摂って頂くということです」
「埋もレた?どのグライ?」
段々と朦朧としていた意識が冴えていくにつれ、楼牙は自身の知らない物に対して質問し続ける。もっとも、それに答える者達は無駄に抵抗しないだけ助かるからそれで良いのだが。
「さぁ。私は専門家じゃないからわかりませんが、おそらく今から100年前ですかね」
「百?百年オレはねム゛っていたのか?」
「そうなりますね」
「そウか・・・百年。百年か」
楼牙は感慨深くそう呟くと、窓の外を見る。見たことも聞いたこともないような物で街は彩られているその景色は、とても彼には想像もつかないようなものだった。
数十分車に揺られ、見覚えのある建物に連れていかれた楼牙。それは西洋風の造りであり、付近は海に面している。
「此処は・・・鎮守府カ?」
「ああそうだとも!ここが今日から君の職場だ!励みたまえ!」
幸彦は車から降りてそれだけ言うと、四角い板を取り出して耳に押し当て、何かを喋りながら去っていった。
「あの四角い板は一体何だ?」
「あれは四角い板じゃなくてスマホですね。貴方の時代で言う電話と電報があれ一つで手軽に出来るんですよ」
「便利ダナ。おマエも持ってるのか?」
「えぇ、まあ」
「それは軍で支給サレタ物カ」
「いえ、殆ど個人が所有してますよ」
「買うのか」
「ええ」
半分人で半分獣のような声も次第に聞き取りやすいものに変わっていく楼牙。低音だが透き通った声が露になっていく。そして、鎮守府の扉が開き、その中から少女が歩いてきた。腰まである紺色のロングストレートに薄紫色の瞳。白と紺色のセーラー服を着ていることもあり、事情を知らない楼牙にとって、どう見ても只の子供だった。
「・・・ナァお前。あのチンチクリンが艦娘か?」
「チンチクリンて・・・まあ、彼女“達”がそうですね。でも艦娘全員があの子のような小柄というわけではありませんよ。あと私は佐江島(さえじま) 裕翔(ゆうと)といいます。改めてよろしく」
「アぁ。宜しく頼む」
楼牙が親切に会話してくれている人物・・・裕翔に軽く礼をしていると、子供のような艦娘がこっちに近付いてくる。何故か若干膨れっ面で。
「・・・腹でも痛いのか?あの子供」
「さぁ」
二人が顔を見合わせていると、子供のような艦娘は楼牙に体当たりを食らわす。子供といえど目覚めたばかりの彼にとっては鉄球がぶつかってきたも同然である。
「グオぉ・・・重い・・・」
「レディーに向かって重いって何よ!あとさっきから私のこと子供って言ったでしょ!」
「言ったが、問題でモあったか」
因みに言っておくと、楼牙は今完全に無表情で子供のような艦娘に馬乗りにされながら会話しているというかなりシュールな絵面になっている。
「全く!一人前のレディーのこの暁(あかつき)に子供扱いだなんて失礼しちゃうわ!」
子供のような艦娘・・・暁は腕を組みながらそう言う。
「それハ失礼した。では一人前のレディーに頼もう。どいてくれないか」
「う〜ん・・・一人前のレディーとして頼まれたからには・・・いいわよ!でも次から子供扱いはしないことね!」
「わかっタ」
漸く暁から降りてもらい、立ち上がる楼牙。既に腰がギシギシという悲鳴をあげていたため、あと少し乗られていたら危険だっただろう。
「裕翔」
「はい?」
「レ・・・アレだ。レン・・・」
「レン?」
「レント・・・あぁ思い出した。レントゲン。あれってこの鎮守府にもあるのか?」
「わかりませんが、何故?」
「さっき馬乗りにサれたせいで骨から妙な音がする」
その言葉は、その辺にいた一人前のレディーの怒りに触れるものだった。
「私が重かったとでも言いたいのか〜!」
「別二余り重くはナかったがオレの骨が弱過ぎたんだよレディー」
「ならいいわ」
早くも暁の扱いを覚えた楼牙。彼の要領がいいのか、暁があまりにもちょろいのかは現時点ではわからない。
「妙な音ですか・・・まぁ気になったら近くに病院がありますし、そこで見てもらいましょう」
「ソウだな。あと喉も違和感ガある」
そんな話をしながら、彼らは鎮守府から5分程歩き、病院へ向かった。
「それで、どうでしたか?」
「骨は何本か弱ってる部分がどうたらこうたらと言っていた。喉は変な霧・・・スプレーだったか。あれをかけられたら治った。変な場所に入ってむせたがな」
病院での治療が終わり、帰ってきた楼牙と裕翔。ひとまず鎮守府へ入り、その一室で会話していた。
「それで、この部屋がオレの執務室か?」
「そうですね。基本的には提督として此処にいる艦娘達に指示を出し、我々の敵である深海棲艦を倒して頂くと言った具合ですかね」
「深海棲艦・・・確か、少し前に出現して以来、我々の領海を度々侵略してくる謎の集団、だったか」
「当たりです」
その言葉を皮切りに、会話が重要性を帯びてくる。
「さて・・・実は貴方のことを少し調べましたが、なんでも海上を歩行し、化け物を次々と斬り倒していったそうじゃないですか」
「・・・あまりはっきりとは覚えていないが、どうやって戦うかなどの情報は覚えている。おそらく、化け物用の戦い方だ」
「そうですか。では、その化け物はどんな形だったか覚えていますか?」
「形容は上手くできない・・・だが、龍の頭部のみが動いているようなものや、オレ達と同じような人型のものまで、本当に様々な種類がいた。あとは・・・殆ど白黒だった」
「成る程。深海棲艦と似通った特徴がいくつかあるようですね」
それから議論すること2時間。気付けばとっくに日が暮れていた。
「おっと。もうこんな時間ですか。では私は帰りますね」
「オレは?」
「あ。貴方の家は今日から此処なので、お忘れないように」
「そうか。またな」
かくして、殺人鬼は艦娘と出会ったとさ。
さぁ。学校だ(絶望)