横須賀鎮守府訓練施設。本来なら砲声が響く筈のこの場所に、今は刃と刃が弾かれ合う音がする。その一方は女性。龍の角のような頭部の装備に、短い黒髪。目は黄色いが、片方は眼帯をしている。着ているのは黒いスーツのような服であり、柔軟な動きにも対応している。もう一方は男性。全く手入れされていない伸びきったボサボサの白髪で、切れ長の目からは鋭い殺気が感じられる。着ているのはボロボロの着物だが、少なくともこの斬り合いで破損した訳ではなさそうだ。
「これでっ!どうだ!」
「腕の力が足りない。踏み込みが甘い。動きが単純」
女性・・・天龍が全力で戦っている相手は、先日その獣の如き剣技で艦娘達を救った
「・・・」
午前9時。この頃までは楼牙は事務仕事をしていた筈だ。30枚程書類を捌き、ペンギン達に運ばせ、またペンギン達に書類を持って来させ・・・という単調な作業だが、楼牙の脳はフル回転していた。いかんせん、楼牙は100年も眠っていたのだから、使う文字は間違えるわ、全くもって知らない言葉がホイホイ出てくるわでパニックに陥っていたのだ。実際、書類の殆どが正しく処理されていないだろう。ほぼ当てずっぽうで判子を押しているのだから。
「ハァ・・・」
やがて、執務室に溜まっていた書類を全て捌ききると、楼牙は大きく背伸びをして欠伸をする。何せ早朝(最早深夜帯だが)0時からこの作業を延々と繰り返していれば、それはもう疲労も限界になる。そして、今まさに用意された布団にダイブしようとしたその時であった。
「提督‼︎」
乱暴に執務室の扉が開かれ、天龍が入ってきたのだった。
「zzz・・・」
「いや寝るなよ!」
正直、楼牙はこの時殆どの感覚が停止し、夢の世界へ旅立っていた。凡そ9時間もの間集中力を切らさずにいるのは至難の業であり、それを成し遂げた彼には、まず休息が必要だった。
「・・・」
それでもなんとか意識を保ち、重い腕でペンギンの一羽にハンドサインで指示をする。すると、それまでイワシを貪り食っていたペンギン達が一斉に動き出し、天龍を持ち上げる。
「うお!?な、なんだ!?」
そして、天龍を綺麗な放物線を描いて執務室の外まで放り投げた。更に一部のペンギン達がタワーのように積み重なり、扉を閉めた。芸が細かいペンギン達である。この時、既に楼牙の意識は遠い所にあった。しかしペンギン達は動きを止めず、楼牙の枕元に置いてある目覚まし時計のタイマーを40分後にセットすると、その辺のコピー用紙とペンを使い、『睡眠中 40分後ニ起キ〼。 楼牙』と書くと、執務室の扉に貼った。本当に、芸が細かいペンギン達である。
それから40分後。目覚ましが鳴るより先に時計は破壊されていた。30分程寝て満足したのか、起きた楼牙が寝ぼけて握りつぶしてしまったのだ。当の本人は唖然としていたが、ペンギン達はすかさず箒と塵取りを持ってくると、速やかに時計だったものの処理し、手(羽?)の余ったペンギン達が先程と同じ要領でコピー用紙とペンを使い、『天龍型1番艦 天龍ガ来訪シマシタ』と書いた紙を楼牙に見せる。
「・・・そうか。ご苦労」
楼牙はそう言うと、ペンギン達に追加でイワシを与える。それからもう一度背伸びをして欠伸をすると、天龍を探しに行った。ペンギンの器用さの秘訣は、楼牙の与えるイワシにある。
これを書き終わった時には雨の勢いは収まってましたが、皆さんも台風には気をつけて。