元殺人鬼は提督になったとさ   作:ツメナシカワウソ

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ほっぽちゃんを見ていて少しばかり心が痛んだので、ちょっとした救済を。


第7話『鹵獲』

午前2時。横須賀鎮守府入渠施設。一人の艦娘が施設から出てくるのを異様な目つきで待つ楼牙と、その隣に座る響の姿があった。

 

「・・・提督。流石に心配し過ぎなんじゃないのかい?我々艦娘にとって中破や小破というのはよくあるものだよ」

 

「だが死に直結する」

 

そう言うと楼牙は一層身体に力が入る。あまりの圧力にベンチが悲鳴をあげるが、全く気にしない。彼の周りで物が壊れるのは最早日常茶飯事になっていた。そして流れる沈黙。

 

「ねぇ、提督」

 

「何だ?」

 

楼牙が見ると、寂しげな顔をした響が、そこにはいた。

 

「もし・・・もしもだよ?私が轟沈したら・・・提督はどう思う?」

 

その重い質問は、楼牙の耳に何度も反響する。だが、彼はそれを振り切って応えた。

 

「オレは悲しい」

 

「へぇ・・・どうして?貴方以外の提督は我々の事を兵器としてしか見ない人もいるのに」

 

「お前達は、オレにとっては同じ存在だからだ。同じように笑い、同じように苦しみ、同じように泣く。例え人間にはない力を持っていたとしても、それはオレも同じだ」

 

楼牙はそこまで言うと、一度自らの拳を見る。

 

「だから・・・オレはお前達が沈む(死ぬ)のは悲しい」

 

「提督・・・」

 

響は一瞬何かを言おうとしたが、黙り込む。再び訪れた沈黙。両者の距離は近過ぎず、かといって遠すぎない。しかしそれがかえってもどかしさを募らせるのだった。そして、漸く場に流れる静寂を搔き消す騒音が現れる。しかしそれは、不吉な物だった。

 

「・・・grr」

 

「っ!?提督、どうしたんだい!?」

 

突然楼牙が敵を察知した時に発する、他の者を戦慄させる唸り声を発し始めたのである。

 

「イる。ここ二、敵ガ。いつでモ戦闘が出来るように準備ヲしてオけ。海じゃナいから狙いもつけやすいダろう」

 

「深海棲艦が鎮守府に侵入したっていうのかい!?もしそうだとしたら大変なことになる!私以外にも動ける艦娘を集めた方がいいかな?」

 

「いヤ、すぐにオレが捕らえてクル。お前ハ万が一に備えておケ」

 

その時の響にとって彼は、まるで深海棲艦と人間、或いはそれよりも恐ろしいものが重なって見えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処だ。どこにイル。姿を現せ。八つ裂キにしてやる」

 

危険極まりない言葉をうわ言のように繰り返しながら、楼牙は深夜の鎮守府を疾走する。水上でなくてもその速さは音速を超え、彼の通った後には風圧が遅れてやってくる。しかし彼は止まることなく、ひたすらに自らの獲物を気配を頼りに探し続ける。己の持つ闘争心の赴くままに。やがて、通気口の入り口にたどり着いた楼牙は、おもむろに腕を伸ばすと、何かを掴む。

 

「ヒッ・・・!?」

 

通気口の先で小さくあがる幼い子供のような悲鳴。それを聞いた楼牙は、歯を剥き出しにして笑った。

 

「ツカマエタ」

 

地獄の底から這い出てきたような、何者よりもおぞましい声で笑う楼牙。そして、何かを掴んだ腕を引っ張ると・・・傷だらけの、弱々しい少女がいた。しかしその肌は亡霊のように白く、頭の左右に黒い角、白いワンピースにミトン状の手袋をしており、両足首のリングらしきものはかなり長い時間逃げていたのかすり減っている。そして身体のあちこちに痛々しい傷がついているのを見た楼牙は、思わずその手を離してしまった。

 

「ウゥ、ウ・・・コナイデ・・・痛クシナイデ・・・」

 

自分でも何をしているのかわかっていない楼牙の目に、涙を浮かべて後ずさりする少女が映る。その背後にいる、かつて自らが倒していた者達の影と同時に。

 

「・・・」

 

彼女は深海棲艦だ。それ故に、殺さなければならない。それは頭ではわかっている。しかし、今の楼牙の心は、それを全力で否定していた。それと同時に、彼に激しい頭痛をもたらした。

 

「グッ!?grrr・・・ggrrrrrrrrrraa・・・」

 

突然の頭の痛みに襲われた楼牙は、敵である筈の深海棲艦を前にして、倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと楼牙は、見慣れた天井が目に入った。やけに電灯の明かりが眩しいが、ここは執務室のベッドの筈だ。

 

「オレは一体何を・・・」

 

ゆっくりと動きだす思考能力。段々と頭が冴えていくに連れて、彼は気絶する前に見た深海棲艦を思い出した。

 

「あいつ・・・まだいるなら・・・」

 

それだけ言うと、楼牙はベッドから起きようとし・・・何者かに抑えつけられる。その者は龍の角のようなものを頭に付けているので、天龍だということは意識がまだ朦朧としている楼牙にもわかった。問題は、何故此処にいるかだ。しかし、彼女は楼牙の疑問には(口に出してはいないが)答えることなく、機嫌の悪そうな顔をこちらに向ける。

 

「やっと起きたか提督!一体何日寝てりゃ気が済むんだ!」

 

「何日・・・そこまで寝ていた記憶はないが・・・」

 

「バカ言ってんじゃねえ!お前深海棲艦に工廠まで運ばれてたんだからな!?」

 

それを聞き、楼牙の胸の内に闘争心が煮え滾ってくるのを感じた。その衝動は、楼牙をまた獣のような唸り声をあげさせる引き金となった。こうなってしまえば楼牙はもう、誰にも止められない。

 

「grrrr・・・天龍。そいつは今ドこにいる」

 

「あ?今は響達と訓練施設にいるはずだg」

 

天龍の言葉を最後まで聞かないうちに、楼牙は弾丸の如き速度で飛び出し・・・盛大に転んだ。

 

「・・・??」

 

困惑する楼牙を、天龍が起こしてベッドに運ぶ。

 

「ああもう無茶すんなよ!それにあいつはもう敵じゃねえよ!」

 

それを聞いた楼牙は、更に困惑する。

 

「敵じゃない?・・・どういうことだ?」

 

「あーっとな・・・オレにもよくわからねえんだが、お前が追ってた深海棲艦、通称『北方棲姫』はどうやら戦闘能力が皆無らしい。だから危険性は無いし、お前を助けたってことで此処に保護することになったんだと」

 

「・・・そうか」

 

それを聞いた楼牙は、何故か強い安堵感を憶えた。

 

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