LET JUSTICE BE DONE, THOUGH THE HEAVENS FALL.   作:うんちーまん

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始まるぞ〜


prologue

 暗い漆黒の宇宙。此の世のありとあらゆる光を全て飲み込むその場所に、二筋の光が尾を引いた。

 アルドノア・ドライブ特有の重低音を内部に宿しながら、二つの光は不規則にぶつかり合っていた。その衝突の度に双方赤い火花を散らし、お互いのどこかしらが削られていっているのだった。

 そう、二筋の光──人類の発明の叡智の結晶、人型兵器カタフラクトは今まさに戦闘中なのだった。

 白と橙。二つの機体はそれぞれ一人ずつ、少年をその裡に宿し、戦い続ける。互いが互いを誰よりも理解しながら、それでも埋められない隔たりが、彼らの和解を拒んでいた。

 

 その双方の機体のうちの一つ。橙色のカタフラクト スレイプニールのコクピットの中に僕──界塚伊奈帆(かいづか いなほ)はいた。

 

 操縦桿を握る手はとても汗ばんでいて、敵の斬撃を受け流すために動かすたびに、不快な感触を寄越してくる。モニターの大半が破損して、敵の姿は既に朧だ。左眼はとっくの昔に使い物にならなくなっていて、じくじくと痛みが走る。耳や鼻、口といったところから血がぞくぞくと流れ出てきて嘔気がこみ上げてきた。

 これも自分の生き方を闘いのみだと規定した弊害なのだろうか、とぼんやり思う。闘争にばかり身を置いて、大切な人と過ごす時間を放棄し、挙げ句の果てに大切なもの全てが手から零れ落ちていった、僕への罰。

 だけど、それでも、闘いをやめるわけにはいかない。ユキ姉、鞠戸大尉、その他大勢の人が死んでしまっても、もう僕は立ち止まることはできないのだ。

 僕は脳裡に一人の少女の顔を見ていた。僕がいなくなっても待ち続けてくれた大切な人。みんな死んでしまったけれど、彼女だけはまだ生きている。だから僕はここでは死ねない。彼女の元へ帰るために生きなければならない。

 

 雑音と共にヘルメット内部に通信が割り込んできた。

『やるな、界塚。だが月のアルドノアはもう起動済みだ。もう、地球が助かる方法はない』

 その声は──。

 僕の脳裡に白皙の相貌が浮かぶ。銀白の髪、仄白い膚、身に纏った真っ白な外套(コート)、そしてどこか物憂げな諦観を滲ませたつり目が印象的だった。まるで神に寵愛された存在の様である白。しかしその実()は何よりもこの世界に抗おうとする叛逆者に他ならなかった。

 地球、火星間の戦争を始めた火星騎士 ザーツバルムの意志を継ぎ、火星の女帝 アセイラム・ヴァース・アリューシアを妻として地球侵攻の大義を掲げた僕の敵。

 そう、だから()()()()()()()()()()

 眼前の敵、スレイン・トロイヤードを。

 

「そんなことは知らない。僕の目的は世界を救うことでも、火星人を殺すことでもない」

僕はゆっくり口を開いた。

「僕の目的は、お前を殺して、この戦争を終わらせて彼女の元へ帰る。それだけだ」

『そうか、なら僕を殺すしかないな。“為しうる者が為すべきを成す”。僕を殺せるのは君だけだ。ならば君は僕を()()()()()()()()()()

 僕たちは誰よりも互いを理解できたはずだった。なのに、僕たちは互いのことを理解できなくなっている。

 だけど一つだけ言える。ここに至ったのは運命でも宿命でもない。僕がたどり着こうとした、必然なのだ。僕の選んだ選択なのだ。

「僕は界塚伊奈帆。お前を、殺す」

 僕は宣言する。自らを見失うことの無いように。

 僕は宣言する。必ず君の元に帰って来るために。

『ずっと目障りだったんだ。その色が』

 操縦桿を握る手が動いた。フットペダルを一気に踏み込み、加速する。全ての景色は後方に。僕のカタフラクト スレイプニールは敵《スレイン》へと突き進む。左眼が、痛い、痛いとありったけの痛みを訴えてきたけど全て無視する。僕の瞳は完全に敵を捉えていた。

 スレインも加速する。自らのカタフラクト タルシスを駆って。

 二つの距離はあっという間に縮まり、今や衝突を待つばかりになっていた。

 そして──。

 地球軌道上。眼下に青い星が広がるその場所で、二つのカタフラクトが激突した。

 

 

 

 

 2114年──火星のヴァース帝国は地球に宣戦布告。それは、長きに渡る戦乱の幕開けと、異星文明との邂逅の前触れ。

 これは、そんな世界に生きた僕の、僕たちの物語だ。

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