LET JUSTICE BE DONE, THOUGH THE HEAVENS FALL. 作:うんちーまん
2114年、ニューオーリンズに揚陸城が降下した。
全長2000キロ、質量2000万トンの巨大な鉄の蕾は、その表面を大気摩擦で赤熱させながら都市に、その死の影を落とした。
当時、都市の内部に位置する橋には、数千人の住民が避難を実施しているところだった。
そして巨大質量は空に赤い尾をたなびかせるとニューオーリンズ付近の湖に落着した。刹那、白い閃光が周囲を貫いた。この時爆心地にいた者は影だけを残してこの世から消えた。その100万分の1秒後、変換された落下のエネルギーによって超高熱の火球が発生。熱線として放たれたエネルギーは付近に位置する橋のワイヤーを溶かし、鉄骨を歪ませ、石材の表面を焼いてごく小さな粒状のガラス質を無数に生じさせた。
この時点で爆心地から2キロ圏内には生きとし生けるけるものはその灼熱地獄に身体を焼かれ、組織の奥までも炭化した。彼らは自らの身に何が起こったのか理解する間もなく死んだのである。
しかし彼らの死は、この日死んでいった多くの人々の中ではまだ、幸せな方だった。
この後起きた出来事はおおよそ戦争とは程遠く、無抵抗の人々を殺し尽くしたという点では虐殺と相違なかったのである。
熱線の後を追う様に生み出された荒れ狂う爆風は、環状にその波動を周囲に広げていった。落下とともに生じたエネルギーは凄まじく、針山の如く立ち並ぶ摩天楼を倒壊させた。繰り返し激動が地面を突き上げ飛び上がらせた。何十万トンもの質量が叩きつけられたのだ。周囲には種々雑多な破片が、風に煽られた雪片のように乱舞した。かの火星の宇宙要塞の質量を持ってすればそれらは児戯に等しい。火星の技術の粋を集めた揚陸城は、地球侵攻に最も適した形で
後に残ったのは厖大な瓦礫の堆積とだった。もしその光景を目にした者がいれば、その光景のあまりの非現実性に驚きを隠せないだろう。
そうして破壊の饗宴は終わった。
だが悪夢はまだ終わらない。都市の住民にとって、長い夜が幕を開けたのである。
UFEの救護部隊は負傷者を救助するため、爆心地に向けて前進していた。その時彼らが目にしたのはおおよそ現実のものとは思えない地獄絵図だった。炎を背景に、手を前に突き出し亡者の足取りで彼らの方へ向かって来るのは、全身の皮膚が焼け爛れた市民だった。彼らは一様に皮膚が裂け、全身が血塗れだった。皮膚の露出箇所が隈なく焼かれ、重度の火傷を負っていたのである。
負傷者全員を収容することは到底不可能だった。夥しい数の負傷者は完全に彼らの手に余った。彼らにできることは呆然と立ち尽くしていることだけだった。
その後彼らは夜の廃墟に響く凶弾の音を聞いた。それらは統率のとれた集団によるものだった。赤いランプの様な双眸を光らせ、炎の向こうから現れたのは、火星の機動装甲甲冑部隊だった。
彼らは爆心地周辺に残存している生き残りを駆り出すために動員された兵士たちだった。遠く離れた地球への憎悪を沸々と煮えたぎらせた悪鬼なのだ。
彼らは救護部隊を発見すると躊躇いなく銃口を向けた。銃口が毒々しい青紫色の火を吹いた。銃身が脈動し、怒りに満ちた熱い弾道を走らせた。
救護部隊はものの10秒で全員が命を絶たれた。後には射殺された死体が夥しく散乱した。大量殺戮である。
目も眩む陽炎が、炎熱の瓦礫に波打っている。その表面には黒煙を上げて狂いまわった痕跡が歴然としていた。早くも死者達の作り出す影が、黒々とわだかまり、動かない。
22世紀初頭は狂気の時代だった。いずれ訪れる「救い」への困苦に満ちた、暗い道のりである。その狂気を、彼らは身をもって体感し、死んでいったのである。