LET JUSTICE BE DONE, THOUGH THE HEAVENS FALL. 作:うんちーまん
窓から見える宇宙は暗く、無数の星々が瞬いたとしても、その漆黒の虚無を覆い尽くす事は不可能に思えた。宇宙が創生してから幾星霜、それでも世界は星々が視界を真っ白に染め上げるほどには膨張していないらしく、まだまだ小さい事を示していた。
ふと、そんな柄にも無い事が頭に浮かび、ライエ・アリアーシュは小さく笑った。
本来ならばその様な考えは、ばかばかしいと振り払われるのが常だったが、長旅で退屈した頭には、その程度の些細な事でも楽しいらしかった。
どうやら自分は思った以上に暇していたらしいと、ライエは思った。
故郷──小惑星をくり抜いて造られたドラム状の宇宙居住地──「チャンドラ・ステーション」を発って早数ヶ月。途中各地のステーションで休憩を取ったものの、いつまでも鉄の棺桶の様な機内に拘束されているのは中々にこたえた。娯楽の少ないステーションから持ち出した私物は必要最低限の物しか無く、退屈を紛らわせる術をライエは持っていなかった。だから手持ち無沙汰なライエがすることといえば、もっぱら途切れることのない真空の空虚を窓から眺め続けることだけだった。
だが、それももう終わる。
視界を上に移せば機内の天井に配置された
その横に、ambrosia社の、地球とティコ・ステーションを繋ぐ宇宙航行便であることを示す図が記載されていた。
ライエは自分の鼓動が大きくなっているのを感じた。今まで資料でしか知ることの無かった惑星の威容は想像を遥かに超える雄大さで、ライエの故郷とは比較にならない凄まじさというものあった。
これも、住むべき星を持たない者特有の感覚なのだろうか。ライエは自嘲気味に頬を歪める。そこにあるのは先程の笑みとは違い、紫色の瞳には嫌悪の色が混じっていた。
辺りを見回せば、ろくに塗装も施されておらず、金属本来の色が露出したままの狭い船内に、等間隔に配置された座席に座った疲れ切った乗客が見える。いずれも薄汚れた服装に垢に塗れ、照明を反射して光る顔を晒していた。彼らには水も手に入れる余裕がないのだった。
彼ら外惑星連合の民はわざわざ出稼ぎの為に遠くから遥々やって来て、ある程度稼ぎを得たら帰っていく。
100年前、
そんな“貧しい宇宙人”は、生きる為に長い旅を経た後に、人権を度外視した過酷な労働に身を置き、その代価として安い賃金を手に宇宙へと帰って行く。それか海賊になって地球の船を襲い、哨戒艇に蜂の巣にされて死ぬか、テロリストになって地球にテロを仕掛け地球重力による拷問──低下した骨密度によって1Gの重力に耐えられない者にとって、地球重力は地獄に等しい──を受けた末に死亡するか。
どっちにしろろくな人生じゃない。ライエは知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。
その時、機内アナウンスが、間も無く地球の大気圏に突入する旨を報じて来た。
ライエは拳を解くと、今まで生まれてこの方地球に憎悪を燃やしたことなどないといった体を繕って、何食わぬ顔でシートの拘束具で体を固定していく。
一応固定はするものの、地球と外惑星を何度も往復しているこの船が、いつ何時沈むか分かったものではない。初の大気圏突入に、ライエは緊張を禁じ得なかった。