LET JUSTICE BE DONE, THOUGH THE HEAVENS FALL.   作:うんちーまん

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久々


02 宇宙、彼方より凶意 ─ Into the Light Side ─(2)

 新芦原国際宇宙港は多種多様な人種が入り混じる場所だ。

 白種(コーカソイド)黒種(ネグロイド)黄種(モンゴロイド)。別の区切りを設けるなら地球(ブルー)火星人(マーシャン)外惑星労働者(ビルダー)──。

 ライエはその雑多な人種の入り混じる人垣を分けながらキャリーケースを引きずり、空港内を突っ切ろうと悪戦苦闘していた。すぐ横を、多くの荷物を抱えたビルダーが抜けていったかと思えば、地球人のビジネスマンと思しき人に追突し、悪態を吐かれている。そのもう少し先では複数人のビルダーと税関職員が睨み合い、今まさに拘束せんとしている。更に巡回中と思しき武装警備員が自動小銃を手に、周囲の雑踏を煩わしげにしていた。

 見れば奇怪な存在は至る所にいた。ある者は、長旅に疲れて地面に座り込んだかと思えばその場で自炊を始め、ある者は他人の食料を盗もうとして袋叩きにされている。

 ライエは疲れのこもった溜息をついた。

 長旅のせいもあるが、特に彼女に負荷をかけているのは地球の重力だった。いくらドラム状のコロニーで訓練を受け、高重力ドラッグで骨密度を上げて体を慣らそうと試みても、地球の1G環境下で常時過ごすのはややきついものがある。ましてや生まれてこの方地球で過ごしたことのないビルダーなら尚更だった。

 これなら地球人《ブルー》がこの星から離れようとしないのも肯ける。この星が、その重力が離してくれないのだから。

「ライエ」

 遠くから彼女を呼ぶ声がした。

 見れば入り混じる人波の中、くたびれた服装をした中肉中背の男が、こちらだと言うように彼女に手を振っていた。傍らには父の同志と思しき男が、同伴者として佇んでいる。どちらも一見全体的に柔和な雰囲気を漂わせているが、眼光の鋭さは隠し切れていない。軍人特有の体重移動もだ。

「父さん!」

思わず胸が熱くなり、ライエは父の元に駆け寄った。

「元気にしてたか?」

「うん!」

 ライエは久々に父に会えたことに歓喜していた。数年前に、長期任務に入ると言って自分と母を置いて地球へと降下した父。そんな彼がいない数年間はライエにとって寂寥を掻き立てるものであった。年相応に親に甘えたい時期にその対象がいないのはなんとも酷なことだが、その期間を耐え抜いたおかげで今ここに立つことを許されたのもまた、事実だ。

 もっとも、母が死に、独り身となったことも影響しているのだろうが、それは今となってはどうでもいいことだ。

「彼は俺の同志のエイムズだ。主に情報収集を担当してくれている」

父は横で従者のようにたたずむ男を指差した。

「よろしく、お嬢さん。お父さんから色々聞いているよ。なんでも、とても男勝りだとか」

「ええ、男にだって負けやしない。地球人なら特にね」

ライエは男の差し出してきた手を握り返しながら不敵な笑みを浮かべる。その向こう気の強さにエイムズも笑った。

「よし、じゃあ後は車内で話すとしよう」

 父はライエの肩に手を置くと歩き出した。

 

 車内。午後の日差しが差し込む車窓の窓の外の風景が目まぐるしく後ろに去っていく。地球、新芦原市の楼閣風景だ。故郷のチャンドラ・ステーションでも似たような風景は存在してたので、さして驚きはしなかったが、それでも夢にまで見た地球の風景となれば見方も変わってくる。

 一同は高速道路を移動していた。

「母さんのことは聞いている」

 車輌を自動運転に切り替え、両手を頭の後ろで組みながら父は言う。

「お前には色々と負担をかけさせたな」

「うん、でも大丈夫」

 地球工作員の訓練を受ける傍らで、ステーション内で漏れ出した有毒ガスを吸引したことによって体が不自由になった母の介護も決して楽ではなかったが、ライエは頷いた。

「しっかり訓練は受けてきたし、いつでも任務はできるよ。なんならブルーと撃ち合いしろって言われたって構わない」

「別に市街地でドンパチするわけじゃないさ。特にここは地球軍(UFE)の哨戒も多い。」

そこで空を指差すと、

()から降りてくる姫様が殺されたら国際問題どころじゃない、戦争だ。だから危険人物やテロリスト連中は特に厳しく取り締まられる。せいぜいできることと言ったら、息を潜めることくらいだ」

「だけどそれももう終わる」

「そうだ」

父は首肯した。

「この数年間、作戦を決行するための準備を進めてきた。お前の言うドンパチだって、やれと依頼されればやって見せるさ」

 そうだね、とライエはつぶやく。

「にしても、父さんの()()()()()()って誰なの?少なくともここまで用意周到に準備できるなんて中々の大物だと思うけど?」

「お前は知らない方がいい。知らないことが強みになることだってあるんだ」

にべもなく父は言った。

でもさ、ライエも含みを持って返す。

()()()()()()()()だなんて中々物騒な依頼だと思うけど?国際問題どころじゃない、戦争だ」

 ましてやそれを父が受けるのも理解し難い。普段の父ならありえない。こんな大事になるようなことは、よほどの対価を提示されなければ合意しないだろう。

 父は家を出る前、大物からの依頼が来た、と言った。同時にとてつもない好機であるとも。

 当然依頼内容を知ったライエも驚愕したのは否定しようがない。

 火星の情報規制で中々情報が出てこない中、数年前から火星のプリンセスが地球に降下することを察知しているだけでも只者ではない。恐らく側近か、配下の火星騎士の一人が、当時開拓者解放戦線(BLF)で活動していた父に依頼したのだと、ライエは考えていた。

 だが、皇室に絶対服従を誓っている火星騎士が、弓引くようなことをするとも考えられない。

 ライエは鎌をかけるつもりでその旨を父に伝えた。

 聞いた父はしばらく逡巡していたが、エイムズから、話してもいいんじゃないですか、と先を促されたことにより意を決したらしく、

「わかった。そうだ、お前の言う通り火星騎士の誰かだろう。だがどこの家門かは不明だ。恐らく戦争によって地球侵攻を為し、領地を獲得したいのだろうが、そううまくいくかどうか……。百年以上の平定を保っているUFEに対抗できる勢力などこの世界のどこにもないからな。だからこそ俺は依頼を完遂させた見返りに、火星の領地を一つ貰い受ける約束を取り付けた。そこでお前と悠々自適に暮らせればそれで問題ないさ」

 父の言葉に揺るぎはなかった。同時に自分に事の詳細を教えてくれることが、自分を一人前の戦士と認めてくれた証だと、ライエは喜んですらいた。

「わかった」

 ライエは車窓の外、これから焦土と化すであろう地球の街並みを、皮肉げな目で眺めた。

 その瞳に、そこに生きる人々に対する同情の色はない。

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