LET JUSTICE BE DONE, THOUGH THE HEAVENS FALL.   作:うんちーまん

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すみません、完全に更新忘れてました。


03 永遠の日常 ─ Needless Endless ─(1)

 揚陸城──。

 全長2キロ、2万人の人口を有する火星騎士の城。その火星金属製の分厚い装甲は理論上核爆発にも耐え、更にその上からアルドノア光による仮想フレームを展開することにより宇宙塵(デブリ)から城を守り、今日まで宇宙における長距離航行を可能にしてきた。

 半世紀前に火星で発掘され、以後も多数出土しているため、かつての古代文明が残した超テクノロジーの一端と考えられているが、詳しいことは未だ判明していない。しかし、半世紀の時を経て、断片的に朧げながらもメカニズムが解明され始めた今、人類の手によって新たな揚陸城の生成も可能なっている。

 ()()()()()火星のヴァース帝国、その皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースは、火星に利する働きをした家臣にこれを与え、名誉の証である勲章の代わりとした。

 さて、そんな名誉ある家臣の家門の一つ、クルーテオ家の揚陸城は他とは違う剛健さが滲み出ている。他のものが自己顕示欲に駆られて城に過度な虚飾を施す中、彼だけは実用のみを求めて追求してきた。その頑強な装甲は13万枚の火星金属(オリハルコン)を重ね、いかなる外部からの攻撃にも耐えうる堅牢堅固なものになっていた。もし、この城が地球に降下する際には、大地が焦土と化し、衝撃で全てが吹き飛ばされるだろう。

 だが、そんな無骨な揚陸城といえど例外は存在する。クルーテオ城の一角、火星の姫君のおわす簡易宮城だ。ここだけは他とは一線を画す豪奢な空間になっている。調度品の類は宮廷の宮大工が設計したものだし、床に敷かれた透過素材の重畳は地球の風景を投影し、姫を楽しませるのだ。

 一方、ぼくの部屋はと言えば、金属の配管剥き出しの、物置同然の場所だった。スプリングのへたった簡易ベッドに紙製のロシア文学の本が一つ、ポツンと置かれている。

 ここで目を覚ます度に、ぼくは目の前にうず高く積まれた船体破損補修キットに挨拶してから一日を始めることにしている。彼、もしくは彼女もぼくと同じく、どんな些細なことであれ役割を与えられているこの揚陸城において、数少ない、邪魔っけに扱われている存在だった。そもそも不沈伝説を誇る揚陸城はデブリや戦闘ごときで穴が空いたりなどしないのだから、そんなキットが必要とされる場面──巨大隕石がぶつかって来るとか──はもはや極々わずかだ。

 それはぼくも同じ。この火星人の中でも選りすぐりの面々を集めた揚陸城で、子どもであり、ましてや地球人などという下劣な人種が歩き回っている図は、彼らにとって好ましいものではない。

 ほら、ちょうど今だって。

 

 クルーテオ伯爵の部屋を出て通路を右に折れた途端、独特な声が耳に飛び込んだ。こんな不快な耳障りの声を発することができるのも、この揚陸城広しと言えどただ一人しかいない。

 火星騎士クルーテオの食客、トリルランだ。キノコ頭(マッシュルームヘアー)に鼠の様な神経質な目つき、そして彼の声帯が奏でるがなり声はもはや彼の象徴(シンボル)になっている。その人柄は残忍そのもので、火星人以外の人種──そもそも居住する星が違うだけで実際には火星人か否かを生物学的に隔てるものなどありはしないのだが──をおおよそ人間とは認めず、いくら殺してしまっても火星はは一向に構わない、と公言するような性格だ。更に陰湿で抜け目なく、舌先三寸でこの権謀術数渦巻く火星社会を渡り歩いて来た。そのルーツは不明だが、かなり低い階級の出だというのが揚陸城構成員達の一致する見解だった。その劣等感(コンプレックス)の裏返しなのかは不明だが、ぼくの様な地球人やビルダーに対する当たりは人一倍強く、中には目を合わせたという理由だけで暴力を振るわれた者もいる。顔を合わせれば嫌みを言いい、仕事を邪魔し、それで失態を犯せば、悪し様に罵しった。

 とある会食の席では、地球人の触れたモノなど汚らわしいと、ぼくのの給仕を拒み、同席の貴族らにも同意を求めたために、ぼくは手袋を義務づけられた。

 彼の陰湿さを表すエピソードがある。ある時、彼を下層階級と嘲笑った同期の火星騎士がいた。その報復としてトリルランはその人物の私物を全てエアロックから外の宇宙へと放り出し、更に粘着質にその人物の黒い噂を流布し評判を著しく貶め、精神を病むまで追い詰めたという。彼の病的な執着心と異常な強さの報復心が理解できたと思う。

 さて、地球人嫌いの火星人の中でも五本指に入るくらい地球人を憎んでいる人物が角を曲がった先にいると分かれば、どういう行動をとるべきだろうか。答えはもちろん一つだ。回れ右して鉢合わせしないように待避する他ない。

 そう思ってぼくが踵を返した時、目の前に薄緑色の火星の制服が目に飛び込んできた。しまった。どうやらぼくは火星騎士の一人にぶつかってしまったらしい。火星人の中でもとりわけ良心のある者なら厳重注意で済まされるが、よっぽどぼくのことを嫌っていて触るのすらごめんだ、という人なら鉄拳の一発や二発は覚悟せねばならない。

「おっと」

 どうやらぼくは賭けに勝ったらしい。その野太い美声はぼくの敬愛するブラド卿のものだった。

 武人肌のブラド卿はトリルランとは違い、曲がったことは好まないゆえに地球人のぼくにも一定の距離感で接してくれている、数少ない内の一人だった。階級的にはトリルランと同格だが年代的にはひと回り上で、二代家門のザーツバルム卿や、ぼくの仕えるクルーテオ卿あたりと同期だそうだった。

 廊下に響き渡る声とぼくの神妙な顔で全てを察したのか、ブラド卿はぼくの襟首を掴み上げると、来い、とすぐ近くにある彼の自室の扉へ放り込んだ。

 なんにせよ、トリルランと鉢合わせせずに済んで助かった。ブラド卿に感謝だ。

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