LET JUSTICE BE DONE, THOUGH THE HEAVENS FALL.   作:うんちーまん

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一人称にしたの失敗だったかな。


03 永遠の日常 ─ Needless Endless ─(2)

 ブラド卿の部屋はクルーテオ伯爵の部屋とは違って、無骨で飾りっ気のない装いだった。しかし決して下品というわけではなく、並ぶ書架や壁に掛けられた家族写真などが、この部屋にゆとりと生活感を(もたら)していた。

 

「── ケイシーが言っていた。“一人の魂は、大きな魂の一部なんだと。その魂は、万人のものだ”

 

だからおれは、暗闇の中にもいるってことさ。母さんが目を向ければね。

 

飢えた人が騒ぐ時もそこにいる。

 

警官がおれの仲間を殴っている時も。

 

仲間が怒りで叫ぶ時も。

 

腹をすかせた子どもが食事を見て喜ぶ時も。

 

人が自分で育てた作物を食い、自分で建てた家に住む時も、おれはそこにいる……」

 

 ぼくは二世紀近く前の、しかも紙製の文庫本片手に部屋の中を行き来しながら朗読していた。ブラド卿は目を瞑り、耳をそば立たせて聞き入っているようであった。

 あの後ぼくは、せっかく部屋に来たのだから朗読でもしていけ、というブラド卿の誘いに従って、書架から適当にピックアップした書籍を朗読することになった。元よりここから数時間特に予定があるわけでもなく、一人狭い部屋で本を読むくらいならば、二人で朗読している方が楽しみもあると思って今に至る。

 一般に揚陸城というものはそれぞれ使用する言語が異なる。ロシア語で話すと思えば別の揚陸城では広東語を話していたりする。そのため、他の言語を解さない者には未知の言語である場合が多い。だからそれらに通じているぼくが通訳的な役割で朗読を行うのだ。特にブラド卿はそれに対して熱心で、しばしばぼくを誘って手当たり次第に本を朗読させていた。

 剣術や体術、銃器の取り扱いなどをブラド卿に師事しているため、当然ぼくの朗読にも熱が入る。いつもよりも頬が熱くなるのを感じた。

 朗読にもだいぶ熱がこもってきた頃、もういい、とブラド卿が手を上げて制止した。ぼくは朗読をやめた。

 ブラド卿は嘆息すると、

「お前には才能がある」

「あ、ありがとうございます」

 よくわからないが褒めてもらっているらしい。仕事ではいつもやらかしてばかりのぼくだが、彼は何故かぼくを高く買ってくれているらしかった。

 ブラド卿はぼくから本を受け取ると背の高い書架に戻し、何も返せずに固まっているぼくの肩を叩いて見せた。大きな、しっかりとした手だった。

 そして椅子に腰掛けると、対面に位置する椅子を指し示し、座れと促した。

「俺はこの通り、勉学よりも武道の方が肌に合っている人間だ。本来は三つは必須とされる言語も二つが限界だ。だから階級も騎士止まり、ここから上は望めそうにもない」

 ブラド卿は椅子の肘掛けに腕を置き、指を絡ませながら言う。

「だがお前はそうじゃない。標準ドイツ語、フランス語、北京語、米国英語、英国英語、低地ドイツ語、ポルトガル語、イタリア語、ヘブライ語、ロシア語、日本語。お前の才能は他にはない、特別なものだ」

 ぼくは小さく身動ぎした。こうまで褒められると嬉しいという気持ちより恐縮という感じが相応しい。

「いいかスレイン、これはお前の本分だ。お前は人の上に立つことができる。俺にも成し遂げられないことができるんだ。だがそれを妬んでお前を蔑んだり、貶めたりする奴も出てくるだろう。分かるか?」

 はい、と頷いた。そういった輩を思い浮かべるのに、取り立てて努力を払う必要はなかった。

「それでもお前はそんな奴の言うことを真に受ける必要なんかない。お前の方がよっぽど力がある。だから決して折れるな」

 いいな?という問いにぼくは頷けただろうか。よく覚えていない。

 この時ぼくは、彼がぼくを激励してくれたものとばかり思っていた。だけど、それにはもっと深い意味があったことを、ぼくはもっと後になって知る。悔恨、あるいは希望と共にこの時を思い出す。

 ただ覚えているのは彼の大きな手がぼくの肩を叩いたことだけだ。

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