この場合なのは
それは自己過信から生じた事故だった。自分は大丈夫、これが終わったら休暇を取ろう、それでもまだ大丈夫。私にしかできないこの仕事。それが人生を狂わせる最初で最後の一大事になろうとは本人ですら思いもしない事だった。
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
薄暗い病室に横たわるまだあどけなさを残した少女。彼女の全身には痛々しいまでに包帯が巻かれており、人工呼吸器や生命維持装置が取り付けられており予断を許さない状態に陥っていた。彼女は任務中に未確認物体により腹部を突き通され、緊急手術により一命は取り留めたもののどうなるかわからない状態になっていた。
彼女が目を覚ましたのはそれから事故から数週間後のことだった。彼女が目を覚ますのを今か今かと待ちぼうけていた関係者らは喜びにあふれ涙を流す。しかし、その時までに彼女を取り巻いていた環境は変化を遂げ、何も知らない彼女はその場にいない彼がどこにいるかを無邪気に問う。
「あれ、ユーノ君は・・・?」
「「「・・・・・・」」」
その問いに返って来た反応は無言だった。一瞬その場の雰囲気が凍りついたように思えたかもしれない。それは彼女には気づかれなかったみたいだが・・・。
「ん?どうしたの、お父さん」
「あぁ、いやなんでもないんだ。ユーノ君はここにはまだ来ていないようだな。確か無限・・・なんと言ったか、そこでの仕事があるらしくてな。まだここにはいないよ」
「そっか、ユーノ君忙しいんだ・・・。残念なの」
父親の返答に周囲の彼らも同意し、彼女の気をユーノから逸らすことに成功したようだった。
「ほ、ほらなのははまだ目が覚めたばかりだから今はゆっくり休まないと、ね」
「うん、フェイトちゃん・・・」
親友がそばにいることに安心感を覚えてそのまま眠りに入る彼女を見て、周囲の関係者らはホッと息を漏らす。と、同時にこの場にいないなのはの
「(あの馬鹿っ。なのはが目覚めたのにホントに来ないつもりか?)」
「(ユーノ、どうしちゃったの?あの時のなのはのお父さんの気持ちもわかるけれど、あれはどうしていいかわからないただの八つ当たりに過ぎないのに・・・)」
クロノと、フェイトはいつだって力や支えになってくれた親友を思い、憂いた。しかしそれも一度本人の意思を確認した後はなのはにかかりっきりになって、そのまま忘れかける段階までたどり着くのだった。
なのはside
最初に目が覚めたとき、なのはのことを心配そうに見つめる家族とクロノ君、フェイトちゃん、はやてちゃんたちがいたことに驚いた。けれどもそこに一番いて欲しいユーノ君がいなかったことにとても驚き、残念に思ったのも事実だ。その事を尋ねると言葉を濁されたように思えた。うん、今は寝ておこう。そして少しずつ元気になったらユーノ君も来てくれる・・・よね?
しばらくの間は体力を取り戻すために高カロリーの病院食を食べ、そして休息を取ることを繰り返していたので『なのは太ったかも・・・』などと友人たちに軽口をたたけるまでに回復した。それでも入院している病室に一度もユーノ君が来たことはなかった。
だからフェイトちゃんが見舞いに来た時に自分が思っていることをぶつけてみた。
「ねぇ、フェイトちゃん?」
「うん、何なのは?」
「ここに入院してから一度もユーノ君来てくれてないよね?そのことについてみんなに聞いてもすぐに話題を変えたりして・・・。来てくれないこともショックだけど、その答えを話してくれない皆にもショックを受けているんだよ。ねぇ、フェイトちゃん。そんなに無限書庫の仕事って忙しいの?もしかしたら誰かがここに来ないように伝えたの?」
「なのは・・・」
「答えて!!」
なのはの目から輝きが消え、とても濁った目になり表情もどことなく危うい表情に化す。その様子を間近で見てしまったフェイトは数歩後ずさりをした。
「ごめん、なのは。私も詳しいことは分からない。私もユーノになのはのお見舞いに来ないのか聞いてみたんだけど、その時は緊急性の高い資料を探さなきゃならないからって言ってたよ。それからはどうしているか分からないよ。クロノに聞いたら分かるかもしれないけど・・・」
「ふぅん、そっか。フェイトちゃんが嘘言うわけないもんね・・・」
無表情だったが少しだけ笑顔らしき表情になりフェイトもホッと一息つくことができた。クロノが知っているかもしれないと少しだけ話をずらした感は否めないが・・・。執務官を目指して励んでいるのだから、うまく立ち回らないと将来エリートにはなれないと心の中では思いつつも今はこれで満足していた。
「あっ・・・と。なのはごめんね。私もう行かなきゃならないんだ。今日はこれから仕事が一件入っていてそれの集合時間が迫っているんだ。また来るね・・・?」
「そっか、フェイトちゃん忙しいのに来てくれたんだ。ありがとう」
ニッコリ笑いかけて、忙しい中来てくれた親友をねぎらう。知らず知らずのうちに握り締めていた手が冷たくなっていたがその力を抜いたので、やっと温かみを増す。
「ううん、じゃっまたね!!」
小走りになりつつ、フェイトが病室を後にした。親友の言葉を信じたいけれども、体や魔力行使に支障がなかったらサーチをかけてフェイトの言葉の真偽を確かめるところだった。ハッと気づいたときには、いつも手にし相棒的存在なレイジング・ハートが無いことに気づきながらも魔法を使おうとしていた事に驚きつつ苦笑した。
一人の存在がこの場にいないだけでなのはと言う存在はここまで荒んでいた事に周囲の人々は気づきつつそれを後回しにしていた。今回はどうにかなったかもしれないが、張り裂けそうになっていたなのはの気持ちに歪みが生じた場合、どうなっていたのだろうか・・・。
そしてフェイトは廊下でクロノと出会い、偶然ユーノとの通信を聞いていたがその場になのはがいたら、また結果は違っていたのかもしれない。だが、それは『もしも・・・』の事でありこの場合は何も動くことなくユーノはユーノで壊れたまま突き進むしかなかった。
それからしばらく経ってのことだった。病室で寝ていたなのははいつものようにユーノの夢を見ていた。頬が緩みっぱなしなところを見るととても幸せそうな夢を見ていることは確実だった。なのははユーノと出会い、魔法に触れ一緒に冒険をしているところを何度も見ていた。
誰もいないはずの病室に小柄な人物の影が現れる。なのはが想い慕っている
これから彼が行なうのは自己満足であり、なのはがそれを聞いていたら絶対に了承しないであろう魔法の行使だった。
「ユーノ君・・・。だ・・・・・・きだよぅ」
「っ・・・・・・」
幸せな夢の中で自分が何を呟いたか気にしていなかったし、その寝言を半分だけ誰かに聞かれていたかなんてのも気にすることなく現状は無常にも進んでいた。夢は夢でしかないが幸せな夢を見ていてその終わりが突如として望むとしてもそれは普通なら不思議でも何でもないかもしれなかった。だがその時のなのはの夢の終わりは違っていた。
パキリと音を立てて夢が終わったのだ。そして今まで見ていた夢の内容を思い出そうとしても、思い出すことなど出来ずそして自分の中で何かが欠けているように思えてもそれを思い出すことが叶わない・・・そんな状況に陥り、夜中目が覚めて涙が零れてきていた。
なのはが涙することなかったら寝ている布団の上に、もしかしたらひと雫の染みがあることに気づいたかもしれない。誰かがいたのか?だがその事にも思いが行かず、ボロボロと大粒の涙を流し続け朝起こしに来た看護師によって、気を失うまで泣き続け両目が赤くなっているなのはを発見した。驚かれる結果になった。
「なのはさんどうかしましたか?そんなに涙を流して・・・。怖い夢でも見ましたか?」
「・・・分からない分からない。けど、心の中から何か大切なものが無くなってポッカリ穴を開けたような・・・そんな感じがします」
「そう・・・。今日は面会謝絶にして一日休んだらいいわ。なのはさんも疲れているでしょう?」
「お願いしますなの・・・」
その日一日はなのはの要望通り面会謝絶になり、栄養剤が点滴という形で投与され経過を見守ることになった。だがどうしてこうなったのか・・・それは医者にも周囲の人たちにも誰にもわからないことだった。しかし次の日から容態は好調へと進展し、誰もが辛いリハビリと魔法を使うことができなくなるかもしれないとまで言われたがその結論にはならないと言う最終判断に至った。
「ふぅむ・・・。珍しいこともあるもんだ。と言うかここまで容態が安定して言ったら私ら医者の出る幕は無いよ。(誰かが魔法を使った?いやいやそれにしたってここまで順調になるはずがない。それこそとてつもない副作用が術者を襲う。そんなことを考えると高町さんにここまで尽くす人など見たことがない。・・・これは保留にしておこう、そうだそうしよう)」
良い意味で医者が匙を投げ、他に妙な点が無いことからすぐに基本的動作を含めたリハビリへと移行するのだった。そして順調だったリハビリがひと段落してから数週間後に地球にいる友達からおかしなことを聞かれた。
「ねぇなのは?」
「うん、何アリサちゃん」
「「・・・・・・」」
何かを言いたそうに病室に入ってきたアリサ・バニングスと月村すずかだったが言いたそうにしながら、言わない・・・を繰り返していた。
「アリサちゃんにすずかちゃんも今日はおかしいよ?何かあったの?」
「最近ううん、ここ一ヶ月ぐらいのことだけど自分の感情の中でおかしなこと無い?」
「えっ!?どういう事?」
「ここに来る前にアリサちゃんとも話したんだけど・・・はっきりとしたことは分からない。けど、誰かの事を忘れている・・・いいえ存在すら知らない?分からない?自分で言っていて腹が立つほど整理出来てないんだけどモヤモヤしている感情があるの。なのはちゃんはこんな感情ある?」
「・・・・・・」
すずかが何とか言葉にして纏めようとしているが、それすら叶わない状況に陥っているのか。もどかしさだけがその場を包んでいた。
「なのははどう?・・・もしかしてなのはもそうなんじゃないかなって思って見舞いがてら聞きに来たんだけれども。フェイトの様子もおかしいし・・・。これって魔法関係してるんじゃない?」
「えっ?そうかもしれないしそうじゃないかもしれないし。なのはもモヤモヤしているの。だからクロノ君に頼んで魔法を誰かが使って、記憶を消したりしていないかどうか確かめてもらっているから。もう少ししたら結果出ると思うの」
「そっか・・・」
アリサが何となくホッとした表情を浮かべているが場の雰囲気は暗いままだった。そして三人が雑談している中、クロノが結論を伝えに病室に来た。
「結論から言うと魔法を使った形跡はどこにも見当たらなかった。簡易的なものではあるが、それでも正式に管理局内で使用されているサーチ魔法での結果だ。・・・結論を先延ばししているようで申し訳ないが、これが今の限界だ。もっと詳しく調べることもできるがそれも時間と労力がかかるので判断まで半年以上はかかるだろう。すまない」
「ううん、クロノ君はよくしてくれたの」
「うん、そうね」
なのはとアリサがそれに返事を返す。すずかも納得していない表情を浮かべていたが、それがどうしてなのかを聞くことは無かった。
そしてなのはが局員に復帰し、止まっていた物語が再び始まりを見せつつあるのは、八神はやてが部隊を造るきっかけとなるとある事故から始まる。
出会った事のないはずなのに、どこかで出会っているかもしれないとデジャヴを感じずにはいられない存在が
「あの・・・」
「僕に何か用?」
問いかけた彼女に、どことなく怯えたような表情を浮かべるのはやはり見覚えのない青年。それでも心の内奥が『違う』と言いたげに震えている。それは現場が火災で燃えているのが原因ではないはずだ。そう思いたくて彼女は問う。
「どこかで会ったことはありませんか?」
医者、看護士などはここだけのモブ的存在です。女言葉?と言うかなのはやフェイトの口調が難しいです。
この次からは原作と違うStSに移りたいと思います