セいしゅんらぶこメさぷりめント   作:負け狐

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ガハマさん家(大晦日)→初詣(元旦)→今回(二日)

八幡休めてない……。


誕生贈呈パパパーリィ
その1


「第一回、雪乃ちゃんへプレゼント大会ー!」

「ひゅーひゅー、どんどんぱふぱふー」

 

 何だこれ。とりあえず八幡が真っ先に思ったことはこれであった。目の前では何やら司会進行をしているらしい大悪魔、もとい雪ノ下陽乃とノリと勢いで合いの手をうっている折本かおりの姿が見える。タイトルにもなった彼女の妹は今回は一緒に騒いでいないようであった。

 ちらりと視線を横に向ける。最近自分より目が死んでいる気がすると思うほどの表情で突っ立っている葉山隼人が視界に映った。恐らく全てを諦めたのだろう。クリスマス以来なので大体一週間ほどのスパンだろうか。二週間経っていないというのが絶妙に涙を誘う。勿論八幡は見なかったことにした。

 

「えー、ここでまず参加出来なかった方々からお祝いのメッセージを頂いております」

「いやぁ、残念残念」

「なんだこいつら」

 

 陽乃とかおりを見て八幡は率直な感想を述べた。やっている事自体は説明出来るし理解も出来る。が、納得は出来ない。ついでにいうと理解出来るのはあくまでどういう行動をしているかという理屈だけで、そこに込められた理由や感情はさっぱりだ。いつぞやに人のことを考えた方がいいと言われたことはあるが、これでそのダメ出しをされたら間違いなく抗議をする。そんなことすら思うほどで。

 

「小町ちゃんと、川崎ちゃん、後は戸塚くんに、材木座くん」

「受験生はしょうがないですよね」

「何でお前が小町についての感想述べるんだよ」

「比企谷は残りの面々の説明するっていう役目があるじゃん」

「いや知らねぇよ。何をどう説明しろってんだ。アポ無し突撃だぞこの状況」

「あ、沙希からはあたしにもライン来てた。流石に忙しいからって」

「マジかよ」

 

 結衣の言葉にげんなりしながら、ひょっとしてとスマホを取り出す。会話アプリに未読通知が二件。片方は雪乃の誕生日祝いに出られない旨を伝える彩加からのもの。先程の陽乃の発言からしても、彼のことだから恐らく自分以外にも多数に連絡しているのだろう。返事が遅れたお詫びと、大丈夫だから気にすることはないというフォローを手早く送った。

 そしてもう一つは何だかよく分からないが何故呼ばれるのかとガクブルしている義輝からだ。送信時間から考えて、今陽乃がほざいていた来られなかった面々からのお祝いメッセージとやらを送ってから我に返ったものなのだろう。とりあえず参加者の前で読み上げられてるぞと返信しておいた。

 

「後は戸部くんも来ていません」

「おー、それはたいへんだ」

「よく分かってないなら喋んな」

 

 若干棒読みのかおりにそうツッコミを入れてから、八幡は成程そういうことかと一人頷く。隼人があの状態な理由の一つは、裏切り者がいたからなのだろうと結論付けた。

 

「さて、そういうわけで残った精鋭には雪乃ちゃんのプレゼントを選んでもらうという重要任務が課せられています」

「いえーい、がんばれー」

「お前もやれよ」

「うん、やるやる。当たり前じゃん、何言ってんの比企谷」

「こっちのセリフだよクソ野郎」

 

 ノリで生き過ぎだろ。そうは思ったが、彼の知る限り折本かおりという少女がそうでなかった記憶が欠片もないため流した。諦めたら終わりなのでそこは足掻く。

 そういうわけで、と陽乃に言われた面々であるが、八幡の視界に映る人数は司会者と賑やかしを除けば五人だ。結衣と姫菜、優美子といろは、そして隼人。いつもの連中とも言えるその顔ぶれを見て。

 

「……ん?」

 

 視界に六人目がいる。全く見覚えない顔だ、と言えればまだマシであったと思わず判断してしまいかけたその人物は、皆から離れた場所で紫煙を燻らせながら少しだけ呆れたように陽乃を見ていた。

 

「平塚先生」

「ん? どうした比企谷」

「何でいるんですか」

「そりゃ、私も呼ばれたからな」

 

 タバコを灰皿に捨てながらそう言って笑う。巻き込まれることが多いために被害者枠だと誤解しがちだが、彼女は、平塚静は陽乃の『友人』だ。あれと上っ面ではない交友関係を続けるという時点で、まず間違いなく。

 

「楽しんでますか?」

「君達と違って教師は早めに仕事初めだからなぁ。こういう騒ぎくらいは参加してもバチは当たらないだろう」

「碌な死に方しませんよ」

「ははは。陽乃の勢いに騙されてるな比企谷」

 

 吐き捨てるように述べた八幡の呪詛を、静は笑って受け流す。その笑みの意味が分からず、彼はあからさまに顔を歪めた。それを見て更に笑みを強くした彼女は、考えてもみたまえなどと言いながら新しいタバコを一本取り出した。

 

「今回、君に被害はそこまでないだろう?」

「正月休みを潰されてますが」

「これがなくとも、どのみち引っ張り出されていたよ、君は」

 

 言葉に詰まる。そんなことはないと言えれば良かったが、小町が受験であるということも手伝って大晦日に続き追い出された可能性が高いのは重々承知。そうなるとはっきりきっぱり反論することは難しい。

 そう考えると、八幡の中で彼女の先程の言葉が意味を持ってくる。どのみち潰されるのならば、成程確かに被害が少ない襲撃の方がマシだ。

 

「一理ありますね」

「だろう? まあ、変に騒いでいるが結局は雪ノ下へプレゼントを送るだけだ。そう気張ることもないだろう」

「それはそれでゾッとしませんが」

「確かに」

 

 何を送ればいいんだろうな。そう言って煙で輪っかを作った静は、何やらルール説明染みたことを述べている陽乃を見ながらくつくつと笑った。

 

 

 

 

 

 

 そういうわけでプレゼント探し開始である。イベントの舞台は大型商業施設。服も食品もアクセサリーもとりあえず揃っているので、変にこだわらなければ探しものは見付かるはずだ。

 が、こだわらなければいいかと言われればそういうわけでもなく。

 

「やべぇ……何を選べばいいのか全然分からん」

 

 こういうことかと静の言葉を思い出しながら八幡は店を眺める。どこに入っても何も見付からないような気さえしてきて、やっぱり自分の被害甚大じゃないかと零した。

 

「ヒッキー、何かいいのあった?」

「嘗めんな。俺がそんなもの見付けられるはずないだろ」

「威張って言うことじゃない……」

 

 はぁ、と溜息を吐いた結衣は、じゃあ一緒に探そうと彼の隣に立つ。いい加減その距離も慣れてきたのか、八幡はそれについて何も言わず、それでいいのかと会話の続きを行った。

 

「あれ? ルール聞いてなかった?」

「そもそもルールが存在する時点でおかしいだろ」

「そかな? 結構しっかり考えられてたよ」

 

 あくまでイベントという体なので、各々使える予算は決まっており、ついでにその予算は経費で落ちるらしい。ペアがどうだのポイントがどうだのという結衣の説明を聞き流していた八幡が目ざとくキャッチしたのはその部分だ。

 

「成程な……確かに俺らに被害は最小限だ」

「何かちょっと申し訳ない気がするけど」

「無理矢理招集されたんだから、むしろそれくらいやってもらわないと困る」

 

 経費、という部分についてはスルーした。イベント費用とはなんぞやと考え始めると正気度がすり減るような気がしたからだ。それらを記憶から追い出すついでに、ここにはいない何者かを幻視し身震いした。絶対に雪ノ下姉妹の母親には会うまいと心に決めた。

 それはそれとして。八幡一人では何も出来ないが、結衣さえいれば何かしらすることが可能だ。丸投げとも言う。

 

「服とか、どうかな?」

「服、ねぇ……」

 

 ずらりと並んでいるそれらを見ても彼には何も判断出来ない。何が良いのか、雪乃に合うのはどれなのか。それらを全くといっていいほど答えられない。

 とりあえず結衣の選ぶものを参考にしながら後出しジャンケンをしよう。そう決めて、八幡は彼女の行動を。

 

「よ、っと」

「ぶふっぅ!」

 

 目の前で服を脱ぎ始めた。裾がするすると持ち上がり、彼女の猛烈に凸としている部分を経由していく。一瞬の拘束の後開放されるそれは、さながら指を弾く際に親指を使うことで勢いを増す行為と同じようで。

 それでも八幡は耐えた。一昨日のノーブラ山脈と比べれば弾けるおっぱいの揺れは微振動だ。

 誤解なきように言っておくが、彼女は当然服を全て脱いだわけではない。軽く試着をするためコートとニットを脱いだだけである。シャツが少しめくれ上がりへそが見えたが、肌を晒したわけではないのである。

 

「どしたの?」

「……何でもないから気にするな」

 

 新年を迎えてからまだ二日。それだけでもう一年分のラッキースケベイベントを済ませてしまったかのような疲労感がある。慣れたら色々終わってしまう気がしたが、顔を逸らさず見てしまった時点でもう駄目なのかもしれない。八幡は一人そんな反省をした。

 それはそれとして。結衣がそんなことをした理由は勿論雪乃のプレゼントとして選ぼうとした服にある。

 

「これ、どう?」

「どうと言われても……まあ、お前には、大丈夫なんじゃ、ねぇの?」

「えへへ。うん、ありがと。……いやそうじゃなくて」

 

 縦編のカーディガンを来た結衣を見て、八幡は頬を掻く。素直に似合っているとはっきり言わない辺りが彼らしく、それを分かっているから結衣もその言葉に素直なお礼を述べた。

 が、質問の答えは残念ながらそれではないのだ。

 

「これ、ゆきのんのプレゼントにはどうかなって話」

「へ? あ、ああ、そうか。そういう話だったな」

「そうそう。そういう話。……まあ、お年玉も入ったしこれはこれで買っとこうかな」

「無駄金使うなよ……別に今日の服装で十分可愛――」

 

 ば、と口を塞いだ。先程とは違いド直球で漏らしかけたその言葉を飲み込むように息を吸うと、わざとらしいくらいに咳払いをした。ちらりと目の前の結衣を見ると、先程よりも強力な笑顔を彼に向かって放っている。

 

「……話を戻すぞ」

「そだね」

「その顔やめろ」

「何が?」

 

 めちゃくちゃ笑顔である。その顔のまま首を傾げ、いいからいいからと受け流す。話を戻そうという言葉も、先程八幡自身が言ったので否定するわけにもいかない。

 これみよがしに舌打ちをしてから口を開いたが、当然というかなんというか結衣にはまるで通用しなかった。

 

「それ、サイズ合ってんのか?」

「……それは気付かなかった」

「馬鹿だろ」

「酷くない!?」

 

 むう、と自身の腹を撫でる。気にする場所そこじゃねぇよもっと上だよと思わず言いかけ、社会的死を感じ取った八幡は慌てて発言を溜息へと作り変えた。

 

「んー。こういうのなら学校でも着れるかと思ったんだけど」

「雪ノ下は着ないだろ。存在そのものが世界のルール破ってるような奴のくせに校則は守ってるからな」

「言い方」

 

 何で余計な一言を付けるのか。は既に彼女にとって疑問に思うほどでもないので気にしないが、それでも一応ツッコミは入れる。そうしつつ、まあ確かにそうかもと着ていたカーディガンを脱いで畳んだ。デコピンおっぱいリターンズ。最早八幡は溜息を吐くことしか出来なかった。

 

「んで、ヒッキーはどう? 何かいいアイデア出た?」

「嘗めんな。俺がそんなもの出せるはずないだろう」

「デジャブ!?」

 

 そう言われても、と八幡は頭を掻く。ニットを脱ぎカーディガンを着る結衣を見ていただけで何かいいアイデアが出るくらいなら、そもそも通路をただうろつくだけのゾンビに成り下がってなどいない。精々が服はサイズの関係上無理だな、と選択肢を一つ減らしたくらいだ。

 

「んー。あ、じゃあ小物はどう?」

 

 こっちこっち、と別の小物が並んでいる店へと向かう。そこに足を踏み入れると、何だか見覚えがある気がした。それが確信に変わったのは、棚にあるアイウェアコーナーを見た時だ。

 

「そういえば、ここって前に二人で来たっけ」

「お前が俺にメガネ押し付けたやつか」

「そうそう」

 

 結局ここでは何も買わず、別の場所で件のチャームを買ったのだが。そのことについては口にしない。チャリ、と結衣の首にあるそれを目にして、キンレンカのエピソードがフラッシュバックしたので何だか妙に気恥ずかしくなり頬を掻いた。その手首には、ついこの間お互いに贈りあったお揃いのブレスレットが。

 

「どしたの?」

「……何でもないから気にするな」

 

 さっきも聞いたぞそれ、と首を傾げる結衣を手で追い払い、八幡は棚に視線を向ける。以前は結衣へのプレゼントだったので却下されたが、相手が雪乃ならば。

 

「……あいつってこういうの付けるか?」

「んー。どうだろ。案外あれば付けるんじゃないかな」

 

 言い得て妙な気がして、彼は成程と頷いた。雪乃は別にファッションに無関心というわけでもない。これを入り口に色々と増やすという可能性もなきにしもあらずだ。

 が、それはそれとして。そうなるとやはり最初の一つはそれなりのセンスが問われるわけで。

 

「よし、やめるか」

「いやもうちょっと考えてからでもよくない?」

「そう言われてもな」

 

 適当に一つ手に取る。これが似合うか似合わないかは想像に任せるしかない。つまりは無理だ。比企谷計算式はそういう証明を終了させた。

 

「ん?」

「どしたの?」

「……ブルーライトカットか」

 

 持っていたメガネを戻し、たまたま視線を向けた先にあったそれを手に取る。デザインはシンプルなものだが、少々珍しいタイプのアンダーリムだ。漫画やアニメでよく使われてるやつだな、と八幡は畳まれていたそれのつるを開いた。

 

「いいんじゃない? それ」

「そうか?」

「うん。アンダーリムってマスカラとかアイメイクとかが映えるから結構女性人気あるんだよ」

「パソコン作業にも、ファッションにも使えるってことか……」

 

 逃げ道を用意しておけばその分被弾を減らせる。予算もイベントとやらの規定を超えていない。そうと決まれば後は早い。じゃあこれにするかと彼はそれをレジへと持っていった。

 そこで気付く。ところでその予算ってどこにあるの、と。

 

「はいこれ」

「お、おう?」

「ヒッキーの分。絶対聞いてないだろうと思ってたからあたしが持ってたんだ」

「……」

 

 見透かされてる。それが何だか悔しくて、しかしそれで強引に受け取るのも何だか違う気がして。

 拗ねたようにそれを受け取り支払いをする彼を、レジの店員は物凄く生暖かい笑顔で見送るのであった。新年の仕事が少し癒やされた、とか同僚に言っていたとかなんとか。

 

 




ゆきのんが被害者枠というレアシチュ。

……被害者?

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