セいしゅんらぶこメさぷりめント   作:負け狐

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正直前回ので終わらせて次のエピソードでも良かった感。

そんな超蛇足回。


その3

「では、皆さんのプレゼントを装備したフルアーマー雪乃ちゃん、かもーん」

 

 何かを諦めたような、死んだ目をした雪乃が陽乃に押されて前に出る。そのまま暫し突っ立っていたが、やがて小さく溜息を吐くとその表情を元に戻した。

 ありがとう、とそこにいる皆に向かって微笑む。自身の格好を確認しながら、どことなく満足そうに頷いた。

 

「ただ、比企谷くんのこれは」

「何でここで装備する前提なんだよ」

 

 ちゃき、と己の目に装備されているそれを指で上げる。八幡セレクトのブルーライトカットの眼鏡である。他の面々のそれと比べると、ここで装備するにはほんの少しだけ浮いている気がしないでもない。

 

「んー。でもファッショングラスはありじゃない?」

 

 結衣が雪乃の顔を見ながらそう述べる。どうかな、と他の面々の顔を見ると、まあ確かに、と同意している者もちゃんといた。

 

「というかむしろあたしのそれの方が浮いてるくない?」

 

 それ、と雪乃の手に装備されているそれを指差す。なんともファンシーな猫柄の手袋であった。

 

「え? いいじゃない、猫」

「マジ顔だし……」

 

 何一つ迷うことなくそう言い切った。そんな雪乃を見て結衣が若干引く。まあ気に入っているならいいか、ととりあえず思い直すことにした。ちなみに靴下と猫ミトンもセットなのだが、今この状態だと見えないのと装備限界の関係でノーカウントらしい。

 そんな彼女の足元は、優美子と姫菜がタッグでチョイスしたブーツが。どちらかというと実用性を重視したようなそれは、二人の好みとは少し離れていた。そしてだからこそ、きちんと相手のことを考えて選んでくれたのだということを感じ取り嬉しくなる。雪乃はそれをやはり気に入っているようであった。

 

「雪ノ下先輩、わたし達のはどうなんですか?」

「勿論素敵よ。……というか、これは予算に収まったの?」

 

 かおりといろはタッグのプレゼントはダッフルコートである。そこそこのお値段がしそうだが、と二人を見たが、多分ブーツとそこまで変わらないと笑った。ちらりと陽乃を見たが、笑顔を返されたのでルール違反もしていないのだろう。

 

「むしろ静ちゃんのそれの方が」

「何を言う。私はちゃんと予算内に収めたぞ」

 

 税抜で、という言葉は聞かなかったことにした。大体タッグとか卑怯だろ、と子供じみた反論している平塚教諭から、四人はさっと目を逸らした。

 ちなみに静チョイスはマフラーである。彼女の言う通り、税込みだと予算オーバーなのでレギュレーション違反である。

 

「だ、大体比企谷のそれはどうなんだ!? 意外とするだろうメガネ」

「いや、まあ、そりゃしますけど……一応予算内のやつ選びましたよ」

「何でルール守っているんだお前は!」

「理不尽!?」

 

 謎のクレームを受けた八幡はさておき、と陽乃は視線を上に向ける。足元から胴、そして首元。再度顔まで上がってきた視線を、もう一段回上げる。

 

「で、隼人のがこれ、と」

 

 雪乃の頭に乗っているキャスケットを眺め、彼女はふうんと口角を上げる。視線を送った当人へ向けると、何だよと言わんばかりの表情をしているのが目に入った。

 別にいいんじゃない? そんなことを言いながら陽乃は雪乃に感想を求める。頭のそれを外し、くるりと回すと再度被った。

 

「そうね。まあ、いいんじゃないかしら」

「……そりゃどうも」

 

 肩を竦めた隼人を見て、雪ノ下姉妹は笑みを浮かべる。そうして一通りプレゼントの評価を述べた辺りで、では、と陽乃が皆を見渡す。

 

「今日はみんなありがとー。かいさーん」

『待て』

 

 その場にいる全員の声がハモったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

「え? 何かおかしなこと言った?」

「言ったよ。大いに言った。勝負だったんだろう?」

 

 ずずい、と静が陽乃に迫る。が、別にどっちにしろ反則で負けてるのだから関係ないでしょうという彼女の言葉を聞いて撃沈した。

 

「まあ平塚センセは置いといて。私達としてもちょっとそれは」

「あーしらの努力返せって感じ?」

 

 第二陣は姫菜と優美子。勝つために色々と考えていた二人にとって、正確には優美子にとって、ここでなあなあにされるというのは納得がいかない。

 が、それを聞いて口元を三日月に歪めた陽乃を見て、思わず怯んだ。それはつまり、勝負でなければ選んでいないということなんだ。そう言って、ちらりと雪乃を見た。

 

「あーあ、可哀想な雪乃ちゃん。本当は誰も雪乃ちゃんのことを考えてくれてなかったんだ」

 

 それは違う、と口にしようとして動きが止まる。先程の言葉を否定するためだけの、言い訳じみた一言に聞こえてしまうことを恐れて、優美子はそれを躊躇った。嘘になってしまいそうで、口を噤んだ。

 

「違います」

「お」

 

 そこに割り込んだのは結衣だ。考えてないなんてことはない、と真っ直ぐに陽乃の目を見て言い切った。

 

「優美子も姫菜も、ゆきのんのこと大好きだから。勝負とかそういうの関係なしに、友達のためにって考えてたと思います」

「思う、か。……それは、第三者が言っていいの?」

「別にいいんじゃないですか?」

 

 横合いから声。死んだ目をジロリと陽乃に向けて、呆れたように、面倒くさそうに。どうせこんなやり取り茶番だろ、と言わんばかりの顔で。

 

「意外だね。比企谷くんがそっち側だなんて」

「別にどっちがどうとかじゃないでしょう。俺はただ」

「ただ?」

「そういうのいいんでとっとと続きやってくださいとしか思ってないんで」

「最低だー!」

「あたしちょっとヒッキーに感動してたのに!?」

 

 八幡を指差してゲラゲラとかおりが笑う。結衣も結衣でどことなく赤らめた顔を即座に冷めたものへと変化させた。まあそうだよね、ヒッキーだもんね。そんなことを言いながら溜息を吐く。

 

「ただただ私が恥ずかしいだけに終わったわね今のやり取り……」

「そうだな」

「嬉しそうね、隼人くん」

「気のせいだろう?」

 

 いい笑顔の隼人の喉仏の辺りにチョップを叩き込んだ雪乃は、結衣よりも大きな溜息を吐きながら、八幡と同じようにいいから続けろと陽乃へ述べる。その反撃比企谷達に似てきたぞと喉を押さえている隼人の言葉は聞かなかったことにした。

 

「続き?」

「そういうのはいいから」

「ん? でもさ、人からの贈り物に優劣つけるとか。酷い話でしょ?」

「やり始めたの陽乃さんじゃないか……」

「あ、隼人まで敵に回るの?」

 

 ショックだな、と全然堪えていないような言葉を発しながら、しかし陽乃は口元を三日月に歪めたまま。でも、本当のことでしょう、と皆を見ながらそう続けた。

 

「いえ全然」

「お、比企谷くんが言うかと思ったら意外なところが来たね」

 

 視線をいろはに固定させる。陽乃の悪魔的笑みを受けても平然としている彼女は、ふふんと自慢気に鼻を鳴らしながら言葉を紡いだ。別に酷くなんかない、と言い切った。

 

「むしろこういうので勝つと物凄く優越感得られません?」

「最低だー!」

 

 かおりが再び大爆笑する。何だこいつ、という目でいろはを見ていた優美子も、まあそれくらい開き直ったほうがいいかと思い直し笑みを浮かべた。

 

「む。じゃあ折本先輩はどうなんです?」

「こういうので勝ったらめっちゃ楽しい」

「最低だこいつら……」

 

 八幡が思わず零した。それをしっかり聞いていた二人は、お前が言うなと食って掛かる。そんなことはない、と反論した八幡は、続けてそもそもこういう機会が訪れたことがないと言い放った。

 

「あ、はい。ごめんなさい、先輩……」

「じゃあ比企谷、今度あたしの誕生日盛大に祝って」

「一色はともかくお前は死ね」

 

 というか俺はどうでもいいだろう。かおりに中指を立てた後、八幡はそう言って視線を陽乃へと戻す。その目はまだ茶番続けるのかと言わんばかりで。先程もぶつけていたその視線は、より鋭くなって彼女へと向けられていた。

 

「はいはい。まったく、みんな真面目なんだから」

 

 ふう、と息を吐き肩を竦めた陽乃は、ついと雪乃を見る。自主的に手を引いたとはいえ、勝利出来なかった姉を見た彼女はどこか満足げであった。素直に諦めるがいいこのバカ姉とその表情が物語っていた。

 

「嬉しそうだね、雪乃ちゃん」

「ええ。姉さんが自分のペースを乱されているのがとても愉快」

「……ふーん」

 

 にぃ、と陽乃が笑った。それを見て怪訝な表情を浮かべた雪乃は、何かまだあるのかと身構える。そんな彼女を見て、陽乃はぽんと肩を叩き。

 

「じゃあ雪乃ちゃん。最終判定、しようか」

「え?」

「勝敗決めるんでしょう? わたしはあくまで第三者だし、本人の意見が一番重要じゃない」

「……」

 

 ぱちくりと目を瞬かせた雪乃は、目の前の姉が浮かべている笑顔を見て覚った。そういうことかと気付いた。どうやら自分は新年で随分と油断していたのだと悔やんだ。

 こいつ、最初からそのつもりだったな。

 

「さ、雪乃ちゃん。誰のプレゼントが一番だった? 友達の贈り物に、優劣を、つけてあげて」

 

 そう言って笑う陽乃の笑みは禍々しかったと葉山隼人は語る。こんなことやっても関係に影響はないと確信してやっているから余計にたちが悪い。溜息混じりにそんなことを思いながら、まあとりあえず自分には関係ないと。

 

「……隼人くんで」

「は!?」

 

 他人事であったそれは、彼女の一言であっという間に当事者へと早変わりした。

 

 

 

 

 

 

 不満げに陽乃は雪乃を見やる。ふん、と鼻を鳴らした彼女は、それでどうするのと姉に問い掛けた。

 参加者の顔を見る。大体意図を察したのか、一部の面々も勝てなかったと口では言いつつ、それほど気にしている様子は見られない。隼人も、最初こそ驚いたがああそういうことかと思い至り今は通常営業だ。

 八幡に至ってはすでに撤収の準備を終えていた。どうやら彼は勝負が終われば何でもよかったらしい。

 

「だったらあの時点で終わりでもよかったんじゃないの?」

 

 陽乃は八幡にそう問い掛ける。めんどくさいと視線を彼女に向けた彼は、それだと終わらないでしょうにと吐き捨てた。

 

「大体、みんながシンデレラとか全員一位とか、そんなものは表面上だけで。内心では結局自分のシンデレラが一番だとか、一位の中でもトップだとか、決まらない蹴落とし合いが続くだけですし」

「表面上でもみんな仲良し、は間違っている?」

「個人の感想です」

 

 そこで日和るか、と陽乃は笑う。楽しそうに笑いながら、そういうことなら仕方ないなと彼の背中を叩いた。くるりと皆に向き直ると、今日は付き合ってくれてありがとうと微笑む。そう言い終えると、雪乃ちゃんは幸せものだねと妹の頬をつついた。

 

「はいはい。ところでこれは、いい加減脱いでもいいのかしら?」

「気に入らない?」

「一つ一つ、きちんと自分に合うように着るのよ」

 

 とりあえず全装備のフルアーマー状態なので、きちんと合わせてからがいいらしい。まあそりゃそうだと別段反対することなく許可を出し、そうしながらぞろぞろと解散していく面々の背中に声を掛ける。

 ついでだから、家の誕生日祝いも来る? と。

 

「は? 姉さ――」

「いいからいいから。どう?」

 

 陽乃の言葉に足を止めていた一行は、しかし皆一様に示し合わせたように首を横に振った。せっかくの誘いだけれど遠慮させてもらう、と述べた。

 

「だってそれ、家族のお祝いっしょ?」

「そうだね。そこに割り込むのは違うかな」

 

 そう言いつつ、優美子と姫菜は笑みを浮かべる。ねえ、といろはとかおりに声を掛けると、そうそうと同じように笑みを浮かべた。

 

「まあ、そういうわけなので」

「あたしたちはあたしたちで別の日にお祝いやろーってことで」

 

 ほれ続き、と言わんばかりに結衣と八幡へパスを出す。後言いたいことは分かるな、そんな視線を受けて、結衣はあははと頬を掻いた。八幡は知らんとばかりに視線を逸らしている。

 

「てわけで、えーっと、明日! うん、明日誕生日パーティやろ!」

「急過ぎるだろ……」

 

 はぁ、と溜息を吐きつつ反対はしない。会場の準備お願いしますよと視線だけで静へ訴えた。苦笑しながら分かった分かったとスマホで調べ出す辺り、彼女も相当のお人好しであろう。そうでなければ陽乃の友人などやってられない。

 

「……」

 

 だってさ、と陽乃は雪乃を見る。普段の彼女らしからぬ赤い顔で、うるさいと蚊の鳴くような声で。そっぽを向いている妹を見て、彼女は実に楽しそうな笑みを浮かべた。

 よしじゃあ行こうか。そう言って彼女は雪乃の手を取る。そしてもう片方の空いた手で隼人の肩をガシリと掴んだ。

 

「……俺も行かなきゃ駄目?」

「子供みたいなこと言ってないの。それじゃあまたねー、みんな」

 

 え、と思わず振り向いた優美子といろはを他所に、陽乃は二人を引きずって去っていく。まあそうだろうな、と予想していた八幡と静と姫菜の三人は、この後の展開を読んでこっそりと溜息を吐いた。

 

「ま、待った! 隼人、置いてけ!」

「葉山先輩はこっちに残してくださいよ~!」

「あ、ちょ、優美子、いろはちゃん!?」

 

 ほらこうなった。慌てて追いかける二人とそれを追いかける結衣を見ながら、置いて帰るわけにもいかず暫く待つかと足を止めた。追い掛けはしない。

 

「あっははははっ! ウケる!」

 

 ついでに残りの一名のように笑うこともしなかった。

 




終始ゆきのんがいじられた。
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