セいしゅんらぶこメさぷりめント   作:負け狐

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原作と変わり過ぎててナンジャコリャ状態


とっくにそうだった


その2

 一色いろは陣営、とは。結局彼女が雪乃達の説得と言っていいのか怪しいそれに対して首を縦に振らなければ終わるだけの、早い話がいてもいなくても問題のない陣営である。つまり八幡は向こうの味方をしない、というただそれだけのために引き込まれたのである。

 

「まあ、逆に考えれば何もしなくていいから、楽ではある」

 

 ぼやく。作戦会議なのか悪巧みなのか分からないそれをしているであろう奉仕部の面々を思い浮かべながら、彼は彼でとりあえず自由時間を持て余していた。最近何もない時は二人だったので、一人になると予定が狂う。そのことにふと思い立ち、本来の俺は一人が好きだろうにと自分で自分にツッコミを入れてみたりもした。

 ともあれ、そんな自由時間を満喫でもしようかと八幡はぶらり街をゆく。色々なしがらみを投げ捨て、何も考えずに無心に過ごすのだ。現実逃避とも言う。

 そんなわけで少し小腹でも満たそうとドーナツ屋へと向かった八幡は、その選択肢をすぐさま後悔するはめになった。

 

「あ、比企谷くん、ひゃっはろー」

「げ」

 

 雪ノ下雪乃に出会わないので安堵していたら、亜種、あるいは歴戦個体に遭遇してしまったのである。挨拶をされたのでとりあえず言葉を返し、八幡はそのまま彼女から離れた席に座る。

 当然のように移動してきた。

 

「何で来るんですか」

「暇だから」

「帰れよ」

「だから、暇なの。これから友達とご飯食べに行くんだけど、それまで暇なのよねー」

「本でも読んでてください」

 

 はいはい、と雪ノ下雪乃歴戦個体――雪ノ下陽乃は持っていた本をペラリと捲る。その横顔を暫し眺め、こちらに干渉してくる気配がないのを確認すると息を吐き八幡もドーナツを食べ始めた。

 一個目を食べ終わり、頼んだカフェオレをお代わりした辺り。隣の陽乃はふと思い出したように彼に声を掛けた。

 

「で、比企谷くんはどうするの?」

「何の話ですか?」

「分かってるくせに」

 

 チシャ猫のように笑った彼女は、そこでうりうりと肘で八幡を突く。盛大に溜息を吐いた彼は、それを鬱陶しそうに退けながらそっちこそ分かっているでしょうにと返した。

 

「ん?」

「俺は一色の方についてるんですから、特にやることなんかありませんよ」

「……だろうね。彼女が頷かなければ、それで終わり。雪乃ちゃんの負けってわけだ」

 

 そんなことを言いつつも、陽乃はどこか楽しそうに口角を上げる。妹が負けることを喜んでいるようにも見えるそれは、しかしそうではないことを八幡は何となくであるが察した。これは、そう、その笑みの対象は雪乃ではなく。

 

「どう? 一色ちゃんはきちんと雪乃ちゃんの甘言を跳ね除けそう?」

「さあ? まあ絶対に負けないとか言ってたんで大丈夫じゃないですか?」

 

 何が言いたいんだ。そんなことを思いつつ、八幡は陽乃から視線を外した。何を言おうが自分が動くことはない。働きたくないでござるの精神だ。そんな決意を込めながら、彼はぬるくなったカフェオレに口を付ける。個人的には甘さが足りない。

 

「じゃあ質問。雪乃ちゃんは負けたら、どういう手で一色ちゃんを会長にさせないようにすると思う?」

「さあ? それこそ俺の知ったこっちゃない」

「うんうん。そうだよね」

 

 八幡の回答に満足したのか、陽乃は楽しそうに頷くとそこで会話を打ち切った。再び本に目を向け、何事もなかったかのように読書を続ける。

 八幡はそんな彼女を警戒していたが、追撃が来ないことを確認し意識を外した。結局意味のない会話だったのかと息を吐いた。

 

「……」

 

 いや違う。ぐるぐると彼の中で何かが警鐘を鳴らしている。今の会話に何かがある、と訴え続けている。では一体何だ。

 会話の内容は、いろはを会長にするか否かの勝負の話。そして雪乃が負けた場合にどうするかの話。雪乃は確かあの時何と言っていた。いろはの出した条件に、何と答えた。

 

――ええ、それで構わないわ。元々そのつもりだったし

 

「っ!?」

「ん? どうしたの? 比企谷くん」

 

 弾かれたような八幡の動きを見て、陽乃が笑みを浮かべながらそう問い掛ける。視線を、既に返す言葉を用意してあるかのような表情の彼女へと向けた。先日の奉仕部でのやり取りで出た手段は主に二つ。応援演説でやらかして不信任にするか、別の立候補者を出して負けさせるか。

 

「予想で構わないんですけど」

「何?」

「雪ノ下は負けたらどうやって一色を会長にさせないつもりだと思いますか?」

「さっきわたしが比企谷くんに聞いた質問そのままじゃない」

 

 そう言ってクスクスと笑った陽乃は、しょうがないなとばかりに本を閉じた。そろそろ友達も来るだろうからと席を立った。

 

「当然、雪乃ちゃんが会長になるでしょうね」

「……マジかよ」

「楽しみだなぁ。比企谷くんも、そう思わない?」

 

 じゃあね、と彼女は店を出る。手をひらひらとさせながら去っていく陽乃を見ながら、八幡はなんとしてもいろはを負けさせなければならないと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 考えるよりも先に、まず拒否反応が出た。雪ノ下雪乃を生徒会長にするのは、認められない。比企谷八幡の出した答えは、これだけだ。

 だから彼は、一色いろは陣営とかいうものに入れられているにも拘わらず、彼女を負けさせる方向に動くことにした。雪乃達の説得に頷くようにするか、あるいは自分で説得するか。

 だが現状そのどちらもいろはは受け付けまい。少なくとも八幡の言葉に耳を貸すことはないだろう。やっぱりやった方が良いぞ、などと突如手の平返しをされて納得する人間はそれほど多くない。

 

「さて、どうするか……」

「どったの?」

「こっちの話だ」

 

 ふーん、と八幡の席に来ていた結衣が呟く。目の前のこいつに覚られるとそこから雪崩のように奉仕部へと伝わり、そして待っているのは八幡の死である。実際に死ぬわけではないが、物理的でないだけなので案外比喩表現でない可能性がある。

 ともあれ、兎にも角にもこの問題は自分一人でどうにかしなければならない。少なくとも今の八幡はそう思っていた。

 

「ガハマ」

「ん?」

「暫く俺、一人で飯食うわ」

「うん。いいけど、何かあった?」

「今の俺は一色陣営だからな」

「……ふーん」

 

 ちらりと八幡の顔を見る。発した言葉が完全なる正解ではないことを結衣は見抜いたが、それは当の本人も織り込み済みなのだろう。バレバレだし、と内心笑いながら、となると何かやらかす準備をしようとしているのだろうと続けて考える。そしてそれは、恐らくいろはにも伝えない形で。

 

「ま、いいや。好きにやっちゃってよ、ヒッキー」

「……おう」

 

 なんだか想定していないところまで抜かれた気がする。そうは思ったが、この様子では先程予想した雪崩式八幡死亡フラグへ向かうことはないと見ていいだろう。そう結論付けそちらの可能性を一旦追いやる。これからの行動にそれは邪魔なのだ。

 とはいえ、午前中の授業を全て使っても碌なアイデアは出ず。一縷の望みを懸け昼休みに図書館で資料を探したものの、勿論何の成果も得られない。

 

「これは、本格的に詰んだか……?」

 

 ギシリと図書館の椅子に体を預ける。元々雪乃が勝てば何の問題もない話だ。わざと負けることもないであろうし、自分は横で見ていて盾になるのを拒否すればそれで事足りる。そう逃げる思考が沸いてくるが、そこには彼女に対する信頼と信用がなければ成り立たない。

 八幡は雪乃を信用してはいるが、決して信頼はしていない。だから彼女の行動が望む通りになると楽観的になどなれるはずがないのだ。

 

「ん? どうしたのだ八幡、珍しい場所にいるな」

「お? 何だ材木座か」

 

 ぼけっと窓の向こうを眺めていた八幡の横合いから声。視線を動かすと、制服に謎のコートという出で立ちの材木座義輝がカチャリとメガネを指で上げるところであった。今日は一人なのかという彼の質問にまあそうだなと返し、そして目の前のこいつにもそういう認識なのかと八幡は内心溜息を吐く。

 

「して、リア充の貴様が何故こんな陰キャラ御用達の空間に立ち寄った?」

「偏見やめてやれ。後別に俺はリア充でもない」

「はっ」

「鼻で笑いやがった……」

 

 この野郎と八幡が睨む横で、義輝は彼の隣の椅子に座る。まあ最近サシで話す機会もなくなっていたから丁度いいなどと笑いながら、再度同じような質問をした。今度はきちんと、何かあったのか、という程度のニュアンスでだ。

 

「多分お前には欠片も関係ないぞ」

「気にするな。我と貴様は魂の同士だろう?」

「なった覚えはねぇよ」

「なら、あれだ。……友人の困っていた時くらいは、手助けさせろ」

「こっ恥ずかしいこと言ってんじゃねぇよ。後別にそこまでシリアスな悩みじゃないからな」

「ならば丁度いい。我も重い話苦手」

 

 かかか、と笑う義輝を見て息を吐いた八幡は、少しだけ力を抜くとなら遠慮なくとばかりに話し始めた。いろはが生徒会長に立候補させられたこと、やりたくないからと奉仕部に相談に行った結果雪乃といろはが謎の勝負をすることになったこと。そして雪乃がいろはに負けた場合、高確率で彼女自身が生徒会長になることなどをだ。

 

「ふむ。それで何が問題だ?」

「雪ノ下が生徒会長になったらどう思う?」

「ふうむ。我に優しくない世界になりそう。と思ったりもするが、実際はそうでもないであろうし、何より高校の生徒会が学校をどうこうする力など持ってはおらんだろう。だから別にいい、くらいか」

「材木座のくせに冷静に判断しやがって」

「何で貶された!?」

 

 まあいいや、と八幡はそれを流す。流しながら、しかし材木座と彼を見た。お前は本当に、そう思うのかと問い掛けた。

 雪ノ下雪乃が生徒会長になった場合、本当に学校をどうこう出来ないと思うのか。そう、尋ねた。

 

「そう言われてもな。我は貴様と違ってそこまで彼女と接点はないぞ」

「そうか? 雪ノ下のフレンドリストにお前入ってないの?」

「ふ、我は孤高の存在ぞ。かような聖なる陽の光を存分に浴び輝ける者と相容れるはずもなし」

「聖なる光とか浴びたらあいつ浄化されて灰になるんじゃねぇの……?」

 

 どうやら義輝のイメージはまだ一般的な『雪ノ下雪乃』であるらしい。体育祭とか文化祭とか見てなかったんだろうかと思うが、表に出てきたのはあれくらいなので、基本裏から糸を引く彼女の正体を知るにはもっと近付かねばならないのだろう。

 しかしそうなると。顎に手を当てながら八幡は暫し考え込む。自分の危機感が伝わらないのであれば、相談をしても肩透かしになる可能性がある。乗りかかった船なので一応聞きはするが、ロックはせずに一括売却の候補にでも入れておこうと結論付けた。

 

「それで材木座。俺はそれを阻止したい」

「む? 雪ノ下女史の生徒会長化をか?」

「ああ、そうだ。何か案はあるか?」

「……普通に件の彼女を説得すればいいのでは?」

「それが上手く行かなさそうだから困ってんだよ」

 

 やっぱ使えないなと思い切り口に出した。そうは言ってもと義輝は義輝で眉を顰める。話を聞く限り、とりあえずこちらで取れる手段はそれしかない。向こうが勝つのを祈るか、あるいは予め負けておくか。その二択だ。どちらにせよいろはの説得が必至となる。

 

「ふむ。では八幡よ、具体的にはどう説得するつもりだったのだ?」

「は?」

「いや、上手く行かなさそうなのだろう? ならばまずそのアイデアを話してみろ」

「……あー。それは、その、あれだ。誠意製作中というやつでな」

「……我にどうにか言える立場か?」

「誤解のないように言っとくがな、纏まっていない候補はある。ただそれをやるには」

 

 ぽつりぽつりと八幡はそれを述べる。ふむふむと聞いていた義輝は、納得がいったように頷いた。

 

「成程、確かにそれを行うには今の貴様の立場では支障があるな」

「ああ、そうだ。一色陣営とかいうわけわからん所属じゃなければまだしも」

「現状、獅子身中の虫だからな」

 

 盛大な溜息。そうしながら、何故こんなに悩まなければいけないのかと八幡は世の中の理不尽を嘆いた。知らなければ幸せだった。そんな言葉が頭をよぎり、何も考えずに生きられることの幸福を羨む。ミントかワルナスビ辺りにでも転生しないかな、とほんの少しだけ真面目に考え、ぼやいた。

 

「平と巨、両極端だな」

「何の話だ何の。俺は植物の話をしているんだが」

「ふむ、そうか、ではそういうことにしておこう」

 

 若干脱線した辺りで予冷が鳴る。結局役に立たなかった、と立ち上がった八幡に、それは悪かったなと義輝が笑う。そうしながら、放課後はどうすると彼に問うた。

 

「あ? いやもうお前の協力はいらんぞ」

「そこは頼ってくれよはちえもーん」

「寄るな鬱陶しい。大体今から放課後で何かアイデア出るのかお前は」

「ふむ。そうだな。…………何か思い付いたら連絡しよう」

「あいよ」

 

 ではさらばだ、と去っていく義輝の背中を見ながら、八幡もゆっくりと図書館を出る。一人では駄目だ。二人でも上手く行かなかった。ならば三人四人と数を増やすか。否、それは八幡自身が許さない。そこまで繋がりのある相手を多数用意するなど、彼の中では選択肢にも表れない。

 多人数では駄目だ。聞くならば、マンツーマンで。挑戦する家庭教師のように。

 仕方ない、と八幡は息を吐く。そうなった場合選ぶ相手は、彼の中でほぼ決まっているようなものだ。ついこの間までは、妹の小町。今はそれに加えて。

 

「……はぁ」

 

 教室に戻ると、優美子達と話している結衣の姿が目に入った。やほ、と手を上げる彼女に同じように小さく手を上げることで返した彼は、自身の席に着くとスマホを取り出す。

 会話アプリを起動させると、目当ての相手へとメッセージを送った。ん、と一人の少女がスマホを眺め、そしてちらりと八幡を見る。彼はそれに目を合わせなかった。その行動を返答と受け取ったのか、彼女はそのままスマホでメッセージを入力し始める。

 

「優美子、今日どうする?」

「ん? ああ、奉仕部? あーしは今日は駅前行くからパス」

「……じゃあ、私も買い物に行こうかな」

 

 優美子の言葉を受け、姫菜もそんな言葉をこぼした。その顔は笑顔、だから遠慮するなと言わんばかりの表情で。

 何か誤解されているような気がしないでもないが、しかし恐らくそのものは間違っていないのだからまあいいや。結衣はそう結論付けると、二人に分かったと述べた。ならあたしも自由行動するよと続けた。

 

「ヒキオとどっか行くん?」

「放課後デートかぁ」

「そんなんじゃないし。あ、いや、そうかも」

 

 流れからして間違いなく何かしら今回のことについての相談なのだろうが、二人で放課後寄り道してそういうことをするのならば、広義的に言えばデートでも問題あるまい。

 スマホがメッセージを受信した。なんぞやと結衣が画面に目を向けると、八幡からの抗議の文面が。

 

「そだね。ヒッキーとデートに行くよ」

 

 スマホでそのメッセージに返信しながら、結衣が笑顔でそう言った。向こうにいる彼氏の顔は、見なかった。

 

 




ダブルデートはどっかで話にする予定(未定)
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