セいしゅんらぶこメさぷりめント   作:負け狐

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葉山がモテる話(予定)


誰得だよ。


遊園地クアドラプル
その1


「葉山先輩」

 

 そう言って目の前の少女は己の名前を呼ぶ。その瞳は真っ直ぐにこちらを見詰め、その唇から紡ぎ出される言葉がふざけたものではないことを予感させた。

 周囲はテーマパークのパレードで騒がしい。すぐ傍にいても声が聞こえないことだって十分にあり得る。だというのに、彼女の声はやけに響いた。彼の耳へと入り込んだ。

 花火が上がる。パレードと混ざり合い、さらなる喧騒を生み出したそれは、しかし目の前の少女の言葉を遮るには至らない。真っ直ぐに彼を見詰めたまま、彼女は、一色いろはは言葉を紡ぐ。目の前の彼に、葉山隼人に言葉を紡ぐ。

 

「わたしは――」

 

 花火が上がる。頭上に巨大な大輪の花が咲く。明るい光のシャワーが降り注ぐ。

 それも全て、彼女のための演出に変わるようで。

 

「――あなたが、好きです」

 

 

 

 

 

 

「おや、一人多いな」

 

 そう言いながら奉仕部の部室へと入ってきたのは顧問の平塚静。結衣の隣にいる八幡を見てにんまりと笑みを浮かべながら、いい加減入部すればいいのにと肩を叩いた。

 

「嫌ですよ。何が悲しくて奉仕活動とかしなくちゃいけないんですか」

「ははは。面白い冗談だな比企谷。君が毎回やっているのは紛れもない奉仕活動だぞ」

「俺はただ巻き込まれているだけです。うわ、何でこんなラノベ主人公みたいなセリフ言わなきゃいけないんだよ……」

 

 そう言って項垂れる八幡を面白そうに眺めた静は、そのまま机の一角を使い仕事の用意を始めた。ノートパソコンを広げ、何やらカタカタと入力している。ここでやってていいんですか、という姫菜の言葉に、見られて問題のある仕事ではないからと口角を上げた。

 

「この程度の仕事はどこでもやれる。だから、こうして紅茶を飲みながら肩肘張らずにいられる場所でやる。合理的だろう?」

「それには同意します」

 

 どうぞ、と紅茶のカップをそこに置きながら雪乃が述べる。そうだろうそうだろうと言いながら、もらった紅茶に口をつけた。そうしながら、彼女はところでと周囲を見る。

 

「生徒会の手伝いは順調かな?」

「今んとこあーしらの出番はないって感じですかね」

 

 てい、とスマホをスワイプしながら優美子が答えた。流石に始まってすぐさま協力要請の来るような事件はないだろう。そんなことを皆考えていたこともあり、彼女の言葉に異を唱える者もいない。

 ふむ、と静が何かを考える仕草を取る。が、それも一瞬でまあいいかと姿勢を戻すと、それならば丁度いいとばかりに鞄から小さな紙のようなものを取り出した。

 

「ならば、日頃頑張っている君たちに特別ボーナスをプレゼントだ!」

 

 じゃーん、と自分で効果音を付けながら取り出したそれは四枚のチケット。そこに書かれている絵柄を見る限り、彼ら彼女らが知らないはずもない有名所であるようで。

 

「うわぁ、ディスティニーランドのチケット! どうしたんですかこれ? 四枚も」

「ふっ……。結婚式のな、二次会で当たってな……ペアチケット。それも二回」

 

 目が死に始めたのを見て、結衣は軌道修正を行おうと慌てだす。そうして空気を柔らかくさせた後、本当にもらってもいいんですかという言葉を聞いて、静は我に返り勿論だと言い放った。

 

「どのみち忙しくて私は四回も行けないからな。君達もクリスマスは色々あったりするだろう? だからその前に、というのも中々粋じゃないか?」

「まあ確かに。クリスマスは既に予定があるであろう人がここに一組いますし」

「こっち見んな雪ノ下。まだ何もねぇよ」

 

 鬱陶しそうに雪乃を睨んだ八幡は、まあ確かに完全にクリスマスシーズンだと混みまくって楽しむどころじゃなさそうだしなと頬杖をつく。今までの彼であれば、例えそうだとしても面倒だと適当な理由をでっちあげて参加を断ったはずだ。にも拘わらずそんな言葉を述べたのを聞き、思わず言い出した静がマジマジと八幡を見詰めていた。

 

「どうした比企谷、何か悪いものでも食べたのかね?」

「先生の中の俺ってどういう存在ですか。……別に人なんざきっかけさえあればコロコロ変わるもんでしょうに」

 

 そういう八幡はどこか自嘲気味で、しかし何だか満足そうで。かつての自分であったのならば鼻で笑い、そして持論を持って否定したであろうその事柄を言い放った後、しかし何だか気恥ずかしくなって視線を逸らした。その視線の先には丁度彼の彼女がいて。

 

「えっへへ」

「気持ち悪い笑いしてるな」

「酷くない!?」

 

 日常風景なのか誰も何も言うことなく、そのまま会話は続けられた。そういうわけだから遠慮なく受け取れ。机の上にそれを置くと、静は再度パソコンに向かう。四枚のチケットを置いたまま、仕事の続きを。

 

「あのー、先生?」

「ん? どうした海老名」

「奉仕部四人用、ってことです、よね?」

「そうだな。奉仕部の部員は丁度四名。足りてよかったよかった」

 

 何だかわざとらしいが、彼女は姫菜の言いたいことを察している。優美子も指でその場にいる面々を数え、まあ数えるまでもないと結論付けていた。この場にいるのは雪乃と結衣、姫菜と優美子。そして八幡だ。

 五人いる。

 

「え、っと……?」

「先生、海老名さんと三浦さんが困惑しているので説明をしてあげてください」

「いや自分で言えばいいだろう? 年間パスポートを持っているからチケットは不要だと」

 

 陽乃と奇妙な友人関係を持っている静は、当然のようにそういう事情を知っている。彼女達三人は、ことこの事柄だけは雪乃に引っ張られる形で年間パスポートを所持しているのだと。これについてだけは、普段の姉も茶化さないのだと。

 なおそれ以外のアトラクションはその反動で茶化しまくるらしい。幼い頃から常に巻き込まれている少年は八幡もかくやというほどの死んだ目でそう述べる。

 

「あー、そゆこと。んじゃヒキオの分もあるわけだ」

「よかったね、ユイ――って何かリアクション薄い。あ、さては知ってたな」

「……きおくにございません」

 

 こんにゃろ、と優美子と姫菜に結衣が引っ張られていくのを眺めながら、八幡は小さく溜息を吐いた。まあそんなことだろうと思った、と目を細めた。恥ずかしい発言をしたせいで気付いていなかったのを誤魔化すように咳払いをした。

 そのタイミングで扉がノックされる。どうぞ、という雪乃の言葉で開かれたそこに立っていたのは、ある意味この会話の発端となった理由の人物。

 

「ちょっと聞いてくださいよ~。これ当たっちゃったんですけど、どうにかして葉山先輩とデートに行くように出来ませんか?」

 

 一色いろはがそう言って掲げたのは先程見たチケット。部屋の空気を察したのか、彼女は首を傾げながら皆へと近付き、そして机の上のものを見てああと声を上げた。

 

「ひょっとして、皆さんも行く予定だったんですか?」

「らしいな」

「何で他人事なんですか先輩。ぶっちゃけこの中で一番そういうのに縁のある人でしょう。結衣先輩がかわいそうとか思わないんですか? 思わないですよね、まあ先輩はそういう人だって分かってるでしょうし、結衣先輩のことだからそんなヒッキーも好きだよとか言い出すんですよね何ですかもう甘々空間とか作り出しちゃって先輩のくせに」

「作ってねぇよ、勝手に想像して勝手に文句を言うな」

 

 はぁ、と溜息を吐いた八幡を気にすることなく、いろはは机のチケットを眺めると何かを考え込むように顎に手を当てた。ちらりと優美子を見て、そして雪乃に視線を向ける。

 よし、と一人頷くと、自身の持っていたそれを机の上に置いてあったチケットに重ねた。

 

「……これで、隼人くんをこちらで誘うことにして手間を省く気ね」

「流石は雪ノ下先輩、話が早い」

 

 二人きりのデートを用意して誘いをかけた場合、断られる可能性が多分に存在する。それを潰しデートに持っていこうとすれば多大な労力が掛かる。だからこそいろはは奉仕部に相談に来たのだ。そして目の前にはその労力を省く手段が転がっている。

 

「いいのか? 葉山とデートしたいんだろ?」

「全然知らない人達ならともかく、先輩方なら別にって感じですかね。いい感じに葉山先輩も素で行けるでしょうし」

「それなら別にいいが……」

 

 八幡はちらりと優美子を見る。これ本当に大丈夫か、と思いながら見た先には、意外なことに別段反応をしていない彼女の姿が。

 その隣の結衣を見た。視線で彼の疑問を理解したのか、彼女は小さく笑いヒラヒラと手を振る。大丈夫だ、と言いたいらしい。

 

「一色」

「何ですか? 三浦先輩」

「結構開いたんじゃない?」

「そっちが修学旅行っていうイベントだったから、こっちもそれ相応の舞台が必要じゃないですか。そういうことです」

「そ。……今回は特別だから」

「ありがとうございます。きちんと葉山先輩ゲットしますね」

「あぁ? フラれろって意味だし。大体あーしの方がリードしてっから」

「まあ精々そうやって夢見ていてください。勝つのはわたしです」

「あーしに決まってるし」

 

 きしゃー、とお互いにらみ合う二人を見て、八幡は本当に大丈夫なんだろうなと結衣を見た。

 頬を掻きながら目を逸らされた。

 

 

 

 

 

 

 雪乃の力によりスムーズに隼人を誘拐することに成功した奉仕部一行は、そのまま当日を迎えた。年間パス持ちが二人いたので余ったチケットの使いみちをどうするかが若干困ったものの、結局もう一人用意することで事なきを得た。

 

「駅の音を聞くだけでも何か来たーって感じになるよね」

「あー、まあな」

 

 集合場所である駅へと辿り着いた二人、八幡と結衣はそんなことを言いながら改札を出た。電車の窓から見えたランドの一角や、そういう仕様になっている駅の節々を見ているだけでも何となくテンションが上ってくる。八幡ですらそんな状態なのだ、隣の結衣はもう既にワクワクが止まらない様子であった。

 

「別に来るのが初めてじゃないだろ」

「いや、そうなんだけど。あー、でも、初めてかも」

「は?」

「……か、彼氏と、来るのが」

「お、おう。……そうか」

 

 どことなく気恥ずかしくなってお互い顔を逸らした。恐らく顔は真っ赤であろう。結衣は間違いなく、八幡は五分五分か。ともあれ、隣にいる相手が見られなくなった二人は、そのまま若干ギクシャクしながら駅を出て。

 

「最初からクライマックスね」

「何タロスだお前は」

 

 実に楽しそうに二人を眺める雪乃を見付けて八幡は即げんなりした。彼女は彼の言っていることがよく分からなかったらしく、一瞬首を傾げるとまあいいと二人を案内する。どうやら寒いので皆が集まるまで近くのカフェに避難するらしい。

 店内に入るとそこには既に一人の少年が。八幡達を見付けると、やあと何とも爽やかな態度で挨拶を述べた。

 

「何でお前一人なんだ? 一色はどうした」

 

 てっきりいろはと共に来るのだろうと思っていた人物がそこにいたことで、八幡は思わずそんなことを尋ねる。尋ねられた方は予想通りだったのか、はははと苦笑しながら目の前のコーヒーに口をつけた。

 

「なんでも勝負開始は集合してから、らしい」

「……それお前知っちゃってていいやつなのか?」

「雪乃ちゃんが悪い」

 

 真顔で言い切った。若干気圧されながらそれに頷いた八幡は、ならもういいやと彼の、隼人のいたテーブルの横の席に座る。対面に結衣が座り、メニューを広げてどうしようかと彼に問うた。

 

「んで、あとは三浦と一色と海老名さんか」

「とべっちも来るよ」

「……あー、そうだったな」

 

 余ったチケットの使いみちとして選ばれたのが翔である。何で、と姫菜が若干引きつっていたのが印象的だ。そうは言いつつ反対しなかったことについては誰も触れなかった。

 

「戸部くんは海老名さんと来るのかしら」

 

 結衣の隣に座った雪乃がそんなことを呟く。隣のテーブルにいる隼人だけが何だかあぶれている感を醸し出しているが、本人はむしろその方が平和だと言わんばかりの表情なので問題はない。流石にそこまではしないだろうとその位置から笑っていた。

 そのタイミングで入口が開く。視線を向けると、いたいたと笑う翔と、そして。

 

「姫菜、とべっちと来たの?」

「何か迎えに来た。ワケ解んない」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしている姫菜が。このやろー、と翔を一発引っ叩いた彼女は、ちらりと席を見て隼人の対面へと腰を下ろした。そうして残された翔は、どこに座ろうかと少しだけ迷い、止まる。これから来る面々のことを考えると、隼人の隣は間違いなく二人で埋まるだろう。そうなると残された場所は一つしかない。

 

「何でこっち!? 隼人くんの横でよくない?」

「いやだって優美子といろはすにぶっ殺されるべ」

「そこは真実の愛を貫こうよ。はやかけはやかけ!」

「いやそこに真実ねーから……」

 

 ちょっとだけだから、と申し訳無さそうに言われると、姫菜もそこまで強くは出られない。はぁ、と溜息を吐いてその話題は終わりにした。

 幸いというべきか、それから程なくしていろはと優美子が揃ってやってくる。ごめん遅れた、と彼女は言うが、集合時間にはまだ至っていない。結局皆が皆早く来てしまったのだ。理由は勿論、様々であろうが。

 

「さて、では行きましょうか」

 

 そのまま店内で少し冷えた体を温め、雪乃の言葉でカフェを出る。そのままランドの入り口へと向かい、いよいよ夢の国へと。

 

「おぉ……」

 

 八幡ですら思わずそんな声が出た。クリスマスにはまだ早いとはいえ、当然十二月なのでシーズンではある。ツリーやイルミネーションで普段とは違う装いを見せているそのメインストリートは、より一層幻想的な空間を生み出していた。

 きゅ、と手が掴まれる。視線を向けるまでもなく、結衣が手を握っているのが分かった。

 

「何か、ツリーの方で撮影してもらえるっぽいよ。行こ」

「あ、おい」

 

 ぐい、と引っ張られ撮影待機列へと突撃する。残りの面々も同じだったのか、それに続くように集まり並んだ。並んでいる他の客もやはり同じようで、はしゃぎながら自分の番を今か今かと待っている。

 そうして彼らの番が来た。まずは全員で、そしてそれぞれの組み合わせで。女性陣は嬉々として撮ったが、男性陣だけで撮るのは八幡が断った。他にも奉仕部で、だのサッカー部で、だの。複数人の組み合わせを行った後、ペアが来る。

 当たり前のように隼人と優美子、隼人といろは。何故なのか必然なのか、女性陣はそれぞれのペアを一通り。

 

「海老名さん、俺たちも撮らね?」

「……あー、はいはい」

 

 しょうがない、とばかりに翔の隣に並ぶ。滅茶苦茶に楽しそうな彼との対比が何とも言えず、見ていた残りの面々は思わず吹き出していた。

 そうして残る組み合わせは一つ。

 

「ね、ヒッキー」

「ん?」

「もうちょっと、くっついてもいいかな?」

「……寒いからな」

「うん、寒いしね」

 

 ぎゅ、と八幡の左腕に掴まる。お互いの吐息が掛かるほど顔は近付き、というよりも結衣は彼の肩に顔を乗せていた。いえい、と彼女がピースをしている横で、視線を若干右にずらしながら八幡は頭を掻いていた。

 寒いから、と言っていた割に。

 

「……熱いな」

「どしたの?」

「お前の動きが捕食するスライムみたいだって言ったんだよ」

「酷くない!? っていうか絶対さっきよりそれ長いし!」

 

 ぱしゃり、と撮られた写真は二枚。一つは腕を組んでピースをしている二人。

 そしてもう一枚は、背中からのしかかられて慌てている八幡と笑う結衣であった。

 

 




あれ? 葉山の影が薄い……
こ、こっからこっから
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