セいしゅんらぶこメさぷりめント   作:負け狐

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シリアス「んー、出番ってほどでもないかなー」


その3

 紆余曲折あったものの、その後は酷い目に遭うこともなく。極々普通にディスティニーランドを楽しんでいた一行であったが、日も傾きかけてきた頃には流石に疲労も溜まっていた。テンションの上がっている間はいいが、一旦落ち着くと感じていなかったそれが一気に押し寄せてくる。そろそろパレードかな、と歩みを止めたのが運の尽きであった。

 

「どーする? パレード前にも一個くらい何かいっとく?」

「そうだねぇ……」

 

 優美子の提案に、姫菜は少し考える素振りを見せながら周りを見た。別段それに反対意見はないようなので、じゃあ行こうかと歩みを進めていく。その集団の中で、一人遅れ気味の少女がいた。

 

「……」

「雪ノ下。限界なら素直に言え。お前の体力クソ雑魚なの皆知ってるから」

「嘗めてもらっては困るわね……。私はパンさんを外部供給バッテリーとして機能させることが可能なのよ……」

 

 言うが早いか近くにいたパンさんへと突撃していく雪乃。それについていった結衣が、彼女とパンさんのツーショット写真を撮影していた。言うだけのことはあるらしく、そのまま暫しパンさんを堪能した雪乃は先程より幾分か顔色がいい。

 

「やっぱ雪ノ下さんって頭おかしいな」

「隣の親友が友人を物凄い罵倒している」

 

 そうは言うものの、ぶっちゃけてしまえば姫菜も優美子と同意見である。そして、それを踏まえて彼女と友人をやっているのだ。つまるところただの軽口であり、周知の事実を口にしたに過ぎない。だから雪乃もそれについて彼女らに何か文句を言うことはない。

 ただ覚えていなさい比企谷くんと一人の少年を睨むのみだ。

 

「俺関係ねぇだろ……」

「あら、じゃあ。あなたは私のことをどう思っているの?」

「悪魔の代名詞」

「ほら見なさい」

「何でドヤ顔なんだよ。ここだろ本来文句言う場所」

 

 隣の結衣は二人のやり取りがおかしくて堪らないのか笑い続けている。再度テンションが上がったのか、そうしているうちに一行の歩みも調子が戻っていった。

 

「あ」

 

 そんな中、ふといろはが声を上げる。隣の隼人の手を掴むと、そのままてててと少しだけ駆けた。

 二人がそこを通り抜けるのと同時、ガシャリと音を立てその道へとロープが張られた。どうやらパレードで使うので封鎖するらしい。だから急いだのか、といろはの行動に納得はした。したが、しかし。

 

「一色! 見えてたんならあーしらにも言えし!」

「あー、ごめんなさい。咄嗟だったもので」

 

 優美子の声に、道の向こうのいろはが苦笑する。言っていることは本当なのだろう。だが、彼女のその態度を見る限り、どうやらそれだけでもないようで。

 はぁ、と優美子は溜息を吐いた。彼女は彼女で察したのだろう。踵を返すと、集まる場所決めとけと告げるとそのまま二人とは別方向へと歩いていく。

 

「ねえ、優美子」

「ん? どしたんユイ」

「いいの?」

「いいもなにも。この状況だとそれ以外」

 

 言葉を止めた。が、じっと見詰めている結衣から視線は外さない。苦笑し、こつんと彼女の頭を軽く小突くと、最初に言っていただろうにと言葉を変える。

 

「今回は特別。あいつが隼人にフラれる舞台を作ってやるって感じ」

「もう一色さんはいないわよ」

 

 今度は雪乃。ふん、と鼻を鳴らした優美子の言葉に覆いかぶせるようなそれを述べると、少しだけ意地悪そうに口角を上げた。まあ確かにそれは本心なんでしょうけれど、と言葉を続けた。

 

「何が言いたいし」

「そうね……とりあえず移動しながらにしましょうか」

 

 怒涛の展開についていけない八幡と翔をおまけにして、一行はとりあえずパレード前に乗る予定であったアトラクションへと進んでいく。そうしながら、雪乃がここにいない彼についてを語り始めた。

 

「隼人くんはきっと一色さんの告白を受けるわ」

「……だろうね」

「知っているのに、送り出したの?」

「あー、海老名の思ってるのとは違うし。なんつーんだろ、多分――」

「あの馬鹿はどっちも魅力的だから選べないとか言い出すわよ」

「え? クズじゃん」

「ヒキタニくん言い方ぁ!」

 

 思わず口に出してしまった八幡のそれを翔が突っ込む。が、八幡は八幡で視線を隣に向けるとじゃあ逆に聞くがと彼に問うた。

 

「戸部。お前は今の話を聞いてどう思った?」

「……ないわー、って……あ、いや、でもほら、やっぱ可愛い女子二人に告られるとかあったら俺も同じようになるんじゃねーかなって」

「え? とべっちそういう人?」

「いや俺海老名さん一筋ですけどぉ!」

 

 当然ながら翔は何も考えていない。だから自分が何を言ったのかも自覚はしていない。だからこそ姫菜にクリーンヒットし、ふひっ、と彼女らしからぬ奇声を発して思わず後ずさった。どうどうと結衣が彼女を宥め、余計なこと言うからとジト目で八幡を見やる。

 いやそれは流石に理不尽だろう。そうは思ったが、余計なことを言ったのは確かなので渋々ではあるが彼は折れた。本当に渋々である。結衣でなくとも分かるほどあからさまに渋々であった。

 

「……ま、まあ実際そういうシチュエーションだとそうなるのも無理ないかもね」

 

 コホン、と冷静を取り戻した姫菜がそう述べる。恐らく平常運転になった彼女の脳内の三人が誰なのか、おおよそ想像はついたが誰もがそれを口にはしない。ある意味先程の教訓を活かしているとも言えた。

 

「例えば――ヒキタニくん、どう?」

「何がどうなのかさっぱり」

「勿論とべっちと隼人く――」

「そうね……比企谷くん、こういうのはどう? 私と由比ヶ浜さんが同時にあなたに告白したとする」

「やめろ鳥肌が立つ」

 

 腐海に沈む質問をフォローしようとしたのか、雪乃が再度言葉を被せるように問い掛ける。が、当の八幡は本気で嫌がる素振りを見せたので、彼女は少しだけ目を細めた。ずい、と彼に近付くと、こう見えてそこそこ容姿には自信があったのだけれどと彼の頬に手を添えた。

 全力でその手を払い、猛烈な勢いで八幡が後ずさったことで、流石の雪乃もほんの少しだけ傷付いた表情を見せた。

 

「ヒッキー」

「お前はむしろ引き剥がす方だろ! 彼氏誘惑されてんだから止めろよ!」

「止める暇なんかなかったじゃん」

 

 ごもっともである。う、と呻いた八幡は、視線を雪乃へと戻すと即座に逸らし、しかし蚊の鳴くような声であったが悪かったと謝罪した。ここで意地を張っても何の得にもならないからだ。とりあえずそういうことにした。

 

「まあ、それだけ気安いということにしておきましょう」

「いやまあ、確かにそれもあるといえばあるが、お前見た目だけはとんでもない美少女なんだから至近距離に来られると困るというか」

「あら」

 

 へぇ、と雪乃の表情が変わる。口元が三日月のように歪み、面白いことを聞いたとばかりに形作られ。

 これ以上脱線してもしょうがないな、と軽く頬を叩いて元通りにした。

 

 

 

 

 

 

 まあつまりは。移動しつつ話を戻しつつ。とりあえず今現在二人きりになっていて、なおかつその後告白まで至ったとしても。

 そこで即座に勝負が決まるということはない、優美子はそう判断したのだ。そしてそれを、雪乃も同意したのだ。

 

「モテない男子を敵に回す行動だな」

「あら比企谷くん、あなたは人のことを言えないのでは?」

 

 クスクスと笑いながら雪乃が述べる。話題の変化に伴い、それぞれの立ち位置が微妙に変化をしていたのだが、当然というべきか妥当というべきか。ぼやいた八幡の隣に当たり前のようにいるのは結衣だ。何が言いたい、と言葉にしかけて、その後の返答に予想がついた彼はそれを飲み込んだ。

 

「まあ、でも。真面目な話に戻すならば」

 

 くすりと笑った雪乃が、少しだけ表情を変える。だが、それは真剣というよりも、どこか優しいといえるもので。

 

「そういう判断をするようになった、というだけでも、結構な進歩だと思うわ」

 

 今ここにいない彼女の幼馴染は。葉山隼人は恋をしない。否、既に終わっていたので出来ない、と言った方が正しいか。そういう状態であった。

 それを、今ここにいる友人達が、そして彼を想う少女達が。彼を変えた、変えていった。

 それが雪乃には、少しだけ嬉しく、誇らしかった。

 

「姉さんに振られて、彼はずっと足踏みしていた。そんなあの馬鹿を引っ張って前に進めさせたのは間違いなくあなた達のおかげよ。ありがとう」

「何でお前がお礼言ってんだよ」

「何だかんだで付き合い長いもの。そういう立場なのよ」

 

 八幡の呆れたような言葉に、雪乃はそう言って微笑む。ああそうですかい、と流した彼は、別に関係ないとばかりに話題に参加するのをやめようとした。これ以上話すと別の意味でやぶ蛇になりかねない。

 が、それはそれとして。少しだけ気になっていたこともある。

 

「そういや隼人くん昔告った相手のこと言ってなかったなぁ。雪ノ下さんのお姉さんだったんだ」

 

 翔が呟く。それだ、と八幡も表情に出さないが彼の言葉に同意した。そうしつつも、あれに告白とか精神に異常をきたしていないかとこっそり引いた。

 

「ええ。無駄に何でも出来て、自分が楽しいことを最優先して、人を引っ張り回して。だからこそ魅力的に映ったのか、好かれて、可愛がられて、期待されて」

 

 あんな性格なのに、と雪乃が溜息を吐く。お前も大概だからな、と八幡は心の中で全力のツッコミを入れたが、幸いにして表情には出さなかったおかげでバレてはいない。

 

「その後ろでお人形のように振る舞って。おとなしい、手の掛からない――愛想がない、可愛げがないなんて言われた私とは大違い」

「はぁ!?」

「……比企谷くん、何か文句が?」

「いや、記憶の改竄が起きている気がしてな」

 

 ちらりと周囲を見る。うんうんと頷いている者が数名いたので少し自信を持った。

 それを雪乃も確認したのだろう。はぁ、と溜息を吐いて頭を振ると、それは今の自分しか知らないからだと口にする。これは、自分を改革したからだ、と言い放つ。

 

「葉山が出会った頃には既にこうだったみたいなこと言ってなかったか?」

「無駄に記憶力のある男は嫌われるわよ」

 

 やれやれ、と呆れたような物言いをされて、八幡はこれは自分が悪いのだろうかと一瞬丸め込まれかける。即座に我に返った彼は、ジロリと雪乃を睨むと真面目な話ならボケを挟むなと吐き捨てた。

 対する雪乃、それは心外だと彼に返す。別に嘘を言った覚えはないと言葉を続けた。

 

「隼人くんと出会ったのはその後だもの」

「完全に詭弁じゃねぇかよ……」

 

 彼女が語ったその時期は極々短い、というわけである。色々と誤解させるよう話を組み立てていただけで、言っていることは間違いではない。そう言われたから何だというのだ。八幡は溜息混じりにもう一度述べた、真面目な話ならふざけるな、と。

 

「ふふっ、ごめんなさい。じゃあ話を戻しましょう」

 

 アトラクションには辿り着いている。列に沿って進み、ライドに乗るまでまだ少し時間はある。これが終わり、パレードを見るための集合場所に向かうまでも、まだ余裕がある。

 だから、この話を続けていても問題はない。くだらない余計なことを挟んでも、まだ大丈夫なのだ。

 

「私は後天的だった。でも、姉さんは先天的だった。きっと、隼人くんにはその違いが大きかったんでしょうね。同じ時期に出会って、同じだけ彼を滅茶苦茶に巻き込んだのに。彼が惹かれたのは、姉さんだった」

「……ゆきのんは、隼人くんのこと」

「そうね。昔は結構好きだったかもしれないわ。私と姉さんに何だかんだでついてきてくれる貴重な人だったから」

 

 結衣の言葉にそう返し、他の男子は大半がすぐに逃げたと少しだけ遠い目をする。そりゃそうだろ、と八幡と優美子と姫菜は思ったが、やはり口にはしなかった。

 くるりと向き直る。ここにいる面々を見ながら、彼女はどこか楽しそうに微笑んだ。

 

「でも、今は違うわ。私には、こんなにいる。一緒にいてくれる友人が、沢山」

 

 だから、あれは恋ではなかった。そう雪乃は断言した。今も彼に抱いている『好き』は、友人であることについてだ。ここにいる皆に感じているものと同じだ。

 優美子に、姫菜に、翔に。いろはに、八幡に、そして結衣に。もっと言えば、ここにはいない沙希や彩加、かおりや小町など。彼女を取り巻く友人と同じ、親愛だ。

 

「隼人くんもそう。私には友人としての好きで。……でも、姉さんには、異性としての好きを抱いた」

「でも、向こうはそうじゃなかった」

「ええ。姉さんにとって隼人くんは弟分。異性としての好意は――多分、なかったんでしょう」

 

 中学二年の頃の話だ。当時既に高校生であった陽乃に、彼なりに全力で舞台を整え、そして思いの丈をぶつけ。

 その告白を、断られた。

 

「それでも姉さんは隼人くんと距離を取らなかったし、態度も変わらなかった。はっきりとその好意を拒絶すること以外は」

 

 だからでしょうね、と雪乃は呟く。葉山隼人が、恋愛に臆病になったのはそれが原因だ。そう彼女は続ける。

 断って、尚そのままでい続ける。そのことがどれだけ難しいのか、なまじ聡いからこそそれを感じ取ってしまった彼は、関係の変化を恐れるようになった。相手に出来て、自分に出来ない。あるいはその逆。そうなってしまわないように。

 

「でも今は、隼人はそんなんじゃないし」

「そう。彼は変わったわ。変わっても変わらないあなた達のおかげで、彼も変わらないまま変わっていった」

「意味分かんねぇよ。早口言葉か」

 

 八幡の軽口を受け、雪乃は笑う。そんなところよ、と再び前を向く。そろそろライドに乗り込む位置だ。この話の続きは、アトラクションを楽しんでからでもいいだろう。そんなことを思いながら、足を進めた。

 

「てか。あーしたちに言うのはいいけど、一色は言わなくていいわけ?」

 

 優美子がそんなことを問う。それを聞いて、雪乃は再度振り向いた。彼女を見て、くすりと笑った。

 後で言うわ。そう前置きをすると、彼女はだって、と指を立てた。

 

「勝負は、フェアにいくべきでしょう?」

 

 




話題の中心だったけれどセリフが一つもないメイン男子葉山隼人

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