この物語は、とある海域を守護する複数ある鎮守府の内の一つ。その鎮守府を預かる一人の指揮官とその部下である『KAN-SEN』達が織りなす楽しくも騒がしい、波乱万丈な日々を描いたものである。
某日某所。
ある一つの鎮守府を任されている指揮官は、自身の執務室で『司令部』に提出する報告書を作成していた。その量は膨大という程のものではないが少ないという訳でもなく。かれこれ一時間以上執務室に籠っていた。
「……む? もうこんな時間か」
休む事なく報告書を作成し続けていた彼だが、少々疲れを感じたところで動きを止めて壁掛け時計を見てからそう零す。
「これならもうすぐで終わるし少し休憩をするか」
腕を上に伸ばしながら身体を解しつつ、何か飲むものはあったかと考えていると。
――コンコン。
「指揮官、ラフィーだよ」
ノックの音がしてすぐ、秘書艦である『ラフィー』の声が扉越しに聞こえてきた。
指揮官は一瞬だけ机の上の書類に視線を向け、
「入れ」
入室を促す。
「うん……入る」
指揮官の声を受け入室した『ラフィー』は眠たげな表情で彼に敬礼をし、指揮官も敬礼を返す。
『ラフィー』。ユニオン所属のベンソン級駆逐艦七番艦。かつての大戦時、第三次ソロモン海戦における戦功から『ソロモンの戦神』とも称されしユニオン駆逐艦の武勲艦である。彼が指揮官としてこの鎮守府に配属される際、『司令部』より初期艦として宛がわれた『KAN-SEN』。
敬礼を終えた彼女はトコトコと指揮官の机に近付き、手に持っていた書類を指揮官に渡す。
「……これは?」
「『司令部』から。ついさっき……『司令部』所属の配送員来たみたい」
「ふむ…………休憩中にわざわざすまなかったラフィー。私が対応できていればよかったのだが」
「指揮官が謝る必要はない。これも秘書艦の仕事……眠いけど……」
「……そうか。ありがとう」
戦闘中以外の相変わらずのラフィーの言葉に苦笑を漏らし、指揮官はお礼の言葉と共に『ラフィー』の頭を優しく撫でる。
「別に、褒めてほしいわけじゃ……」
『ラフィー』は口ではそう言うが、擽ったそうに、どこか嬉しそうに撫でられている。それから指揮官と『ラフィー』は二言三言言葉を交わし、『ラフィー』は退出していった。
残された指揮官は『ラフィー』から受け取った書類を眺め、
「期間限定で新しい『KAN-SEN』の建造か。人数は…………ふむ、三人か。取り敢えず、これは特殊艦を回せばいいのか……?いやでも、期間限定を回した方がいいのか……愛宕さんでるっぽいし」
暫く書類と睨みあう。しかし、その睨みあいも長くはかからず。
「悩んでいても仕方ないか。報告書の残りを仕上げて工廠へ行くとしよう」
そう零して仕事を再開する指揮官だった。
――――工廠
あれから一時間かかるかかからないかぐらいの時間で報告書の作成を終わらせた指揮官。時刻は昼を過ぎていた為に軽食を作って食べた彼は、『KAN-SEN』の建造に必須である『メンタルキューブ』と『ラフィー』から受け取った書類を持って工廠へとやってきた。
「にゃ、指揮官? 何の用だにゃ?」
指揮官の来訪に気付いたのはこの工廠で『KAN-SEN』の建造や、装備の製造・修理。傷付いた『KAN-SEN』達を修復する二人の工作艦の内の一人『明石』。この工廠での仕事以外にも、購買部で『不知火』と共に鎮守府に必要となるであろう物を販売している彼女は指揮官の突然の来訪に疑問の言葉をかける。
「明石か。なに、建造をしにな」
指揮官は手に持っている書類を見せながら答える。それで察した『明石』は頷く。『KAN-SEN』の建造や装備の製造・修理。『KAN-SEN』の修復に携わる工作艦である『明石』ともう一人の『KAN-SEN』は、その特殊な役割故に『司令部』との独自のネットワークを持っており、新たな『KAN-SEN』や装備が発見されるとその情報を素早く入手できるのだ。
「なら、そこに『メンタルキューブ』を置いて建造するといいにゃ。それとこれを」
工廠の奥にある『KAN-SEN』建造装置を指差し、それから耳栓を指揮官に渡す『明石』。
指揮官は耳栓を受け取って分かったと返し、『明石』が何の作業をしているのか気になるところではあるが『KAN-SEN』建造装置に近付いていく。装置に近付いた指揮官は軍服のポケットから『メンタルキューブ』を取り出すと、それを装置の窪みに嵌める。それから四種類あるスイッチ――小型建造・大型建造・特型建造・期間限定建造のスイッチだ――の内一つを押してから装置の横にあるレバーを下げた。
すると装置は激しく振動して凄まじい音を発しながら稼動しだし、装置のモニターに時間が表示された。予め『明石』から渡されていた耳栓を外した指揮官はモニターに映った時間数を見て、
「うお!? なんか四時間以上のやつきたぞ!? これもしかして愛宕さんきたんじゃねぇのこれぇ!?」
期待の笑みを浮かべてそんな声を上げる。その声に何かの作業をしていた『明石』は顔を上げて指揮官の方を見て、
「指揮官、四時間以上待つのかにゃ?」
「む、そうだな……『司令部』に提出する報告書は既に仕上げているがどうするか……」
『明石』の疑問に顎に手をやって考える指揮官。だが答えは決まっていたのだろう。数分とかからずに『明石』に視線を向け、
「今回はこれを使う事にするよ」
建造装置の後ろにストックしてある、『高速建造材』を指差す。『明石』はそれに頷き、再び何かの作業に戻る。
それを見て指揮官は『高速建造材』を一つ掴み、『メンタルキューブ』を嵌める窪みの下にある挿入口へと入れる。『高速建造材』を入れられた装置は再び激しく揺れ出し、その揺れが収まると同時に眩い光を放つ。指揮官は腕でその光から眼を守り、光が収まるのを待つ。やがて光は収まり、装置から現れたのは――
「ヨークタウン型二番艦『エンタープライズ』、着任した。敵には同情も手加減せず、いつでも全力で迎え撃つつもりだ。これこそ私の流儀だ」
かつての大戦で名を馳せた武勲艦。ユニオンが誇りし、世界に名を轟かせている航空母艦。開戦から終戦まで生き残った、ユニオン陣営のたった三隻の内の一隻。
「ビッグE」、「ラッキーE」、「グレイゴースト」等の異名を持つ『KAN-SEN』――『エンタープライズ』だった。
「指示をくれ指揮官。貴方の敵はこの私が粉砕してみせよう」
「………………」
「……?」
指揮官に挨拶をする『エンタープライズ』だが、指揮官からの返事はない。疑問に思った彼女が指揮官の顔を見ると、指揮官は何とも言えぬ描写しにくい表情で建造装置と『エンタープライズ』を見比べている。それから顎が外れるのではないかと思うぐらいに大きく口を開けてやってしまった感を出す。どうやら押そうとしていたスイッチを間違えてしまったらしい。
「? どうしたんだ指揮官。この私が着任したんだ。喜ぶところだぞ?」
「!? あ、あぁ。すまん。我が鎮守府へようこそ、エンタープライズ。お前の着任を歓迎するよ」
怪訝な表情で自身を見つめてくる『エンタープライズ』にハッとし、姿勢を正して『エンタープライズ』に向き直る指揮官。指揮官は軽く咳払いをしてから歓迎の言葉をかけ、『エンタープライズ』に手を差し出す。
その手に一瞬キョトンとする『エンタープライズ』だがすぐに笑みを浮かべ、
「ふふ。これから宜しく頼む、指揮官」
彼の手を取る。
こうして、彼の鎮守府に『エンタープライズ』が着任した。
その後指揮官は改めて建造を行い、無事に『愛宕』を迎え入れられたというのは余談である。